健康行動理論に基づいたネゴバトの評価の研究

健康行動理論に基づいたネゴバトの評価の研究

江頭真宏
(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 東京大学科学技術インタープリター養成プログラム 11期生)

ネゴバトの評価とその軸となる健康行動理論

 市民参加型のイベントはさまざまな場所で開催されています。例えば医療従事者から患者まで、多様な立場の人が集まって健康について考えるカフェ型イベント、地域内の町おこしや健康に関するレクチャー、地域のお祭りや防災啓発ブースの出展など、その形態や目的は非常にバラエティに富んでいます。このようなイベントの構築を試みたような研究は数多く存在し、そのイベントデザインや手法に関しては様々な知見が得られています。一方で、このようなイベントの効果をどのように評価するのかという点についてはまだまだ改善の余地が多く、その基準や手法は未だに定まっていません。そこでこの研究は、市民科学研究室で開発した生活習慣病対策ゲーム「ネゴバト」の効果を、健康行動理論に基づいて評価することを目的としたものです。

 ネゴシエート・バトル(ネゴバト)とは、NPO法人市民科学研究室(市民研)が開発した生活習慣病に関するシリアスゲームです。シリアスゲームとはそのゲーム性のみを目的とせず、教育用途やリハビリ、体験、興味・関心を引くことなどといったゲーム外の目的を持つゲームです。ネゴバトの中では、参加者は健康を意識した行動と人間関係や仕事などを優先した不健康行動がジレンマとなる状況を想定し、対話を主としたロールプレイングを行います。例えば「付き合いで楽しい飲み会に行きたいけれども、最近飲み会続きで健康が気になる」といった状況について、「飲み会に行った方が楽しい、リラックスにもなるし人間関係も広がる」「たまには休むのも付き合いのうちではないか」という対話を行い、各々が自分の判断基準に照らしてどうするかを選択します。不健康な行動を行った方が幸せになるようにゲームは設計されていますが、一定以上の不健康ポイントが溜まるとペナルティがあります。このように、ネゴバトへの参加者はゲームを通じて、「健康と生活習慣がジレンマとなる状況を体験し、自身の生活習慣の問題点を見つけ、他の人との対話を通じて異なる視点や考え方を学び、自身の生活に照らして健康的な行動を考え、実行に移すことが出来る」ことが考えられます。
では、このようなネゴバトによる効果を、どのように評価したらよいでしょうか。人が何を感じ、何を考え、その結果としてどのように健康行動を実行に移すかという一連の流れを説明する理論を健康行動理論と呼びますが、その中でも最も有名であるのがエイゼンによって提唱された計画的行動理論です。この理論では、健康行動を実行しよう、という行動意思に影響を及ぼす要因として、行動への態度(Attitude toward the behavior)、主観的規範(Subjective Norm)、行動コントロール感(Behavioral control)の3つを上げています。第一には行動への態度であり、これは人がある行動を起こすことで自分の健康状態が向上すると思うこと、また結果として生じる健康状態の向上が自分にとって大切であると考えることを指します。第二に主観的規範であり、これは周囲の人が自分に健康行動を起こすよう期待していると感じること、またその気持ちに応えたいと思うことです。第三には行動コントロール感であり、自分は健康行動を起こすことが出来る、そのための時間や技術を持っていると思うことを指します。計画的行動理論とは、これらの3つの要素が相互に作用しあい、行動意思を決定するという理論です。この理論は幅広く医療現場において広く患者に対する健康行動の動機づけやその解析に用いられています。