ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)

投稿者: | 2018年3月21日

連載:博物館と社会を考える
第9回
ツールとしての持続可能な開発目標(SDGs)

PDFはこちらから

林 浩二(千葉県立中央博物館)

連載「博物館と社会を考える」
第1回 科学館は博物館ですか? (2015年5月)
第2回 博物館はいくつありますか? (2015年7月)
第3回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その1 (2015年9月)
第4回 博物館の展示は何かを伝えるのですか? その2 (2016年2月)
第5回 博物館の国際的動向2016 (2016年10月)
第6回 科学館・科学博物館の社会的役割宣言(2017年3月)
第7回  世界科学館・科学博物館の日(2017年8月)
第8回  第2回世界科学館サミットと東京プロトコル(2017年12月)

はじめに

 本連載の第5回(2016年10月)以来、4回に渡って、博物館界の世界的動向、科学館・科学博物館の社会的役割、特に持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けての取り組みについて、最新の動きを含めて紹介してきました。
 このうち、SDGsを巡っては、日本政府も推進本部を設置して正式に取り組み(注1)、経済界も素早く対応しているようです(注2)。しかし、博物館や科学博物館の具体的な活動の中でSDGsを強く意識しているという話はこれまでほとんど聞こえてきません。一方で博物館の個々の活動や学習プログラムをSDGsの17の目標に当てはめただけで「安心」して思考停止に陥ってしまう恐れもあり得ます。
 今回は、博物館の活動や学習プログラム、さらには市民活動等をふりかえるツールとしてSDGsの17の目標を使う具体的な試みのいくつかを紹介します。
 
1.持続可能な開発目標(SDGs)

 SDGsについては、本連載の第6回(2017年4月)で紹介しました。世界の貧困を撲滅するべく国連で策定された2000年〜2015年までのミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の後継として、2015年9月の国連持続可能な開発サミットで採択されたのが「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)」です。2016年〜2030年に世界で達成すべき17の目標と169のターゲットからなり、2030年アジェンダとも呼ばれます。

 MDGsの目標(8個)にもそれぞれアイコンがありましたが、SDGsの17の目標のカラフルなアイコンがずらりと並んだシート(図1)は印象的です。なお、このアイコンは2015年に発表・ダウンロード用に公開され、国際連合広報センター(東京都渋谷区)が日本語に翻訳して日本語版も用意されています。(注3)

 このうち、目標10のアイコンが2018年1月1日に変更されたことを、つい最近になって知りました。図1は変更後のものです。
 また地球と木の枝の国連ロゴを含む国連機関専用と、ロゴが含まれない国連機関以外の一般用があります。これらのロゴ、アイコンについては使用上のガイドラインが示されていますので、使う際には注意したいものです。(注4)

 この17の目標が並ぶシートのPDFファイルをA3判に印刷し、ラミネート加工して個々のアイコンを切り離すと、一辺が5.4cmの正方形という、ちょうど扱いやすい大きさのカードになります。(注5)
 SDGsの全体について、また個々の目標について簡単な説明として日本語で当初から用意・公開されたものとして、国連広報センターで公開されているSDGsの「ファクトシート」は、A4判で4ページ、すなわちA3判の両面に収まるので便利です。(注6)

2.SDGsのアイコンを使う「アイスブレイカー」

 「ワークショップ」では、その日(あるいは午前ないし午後)のプログラムの冒頭に、参加者を歓迎し、初めて顔を合わせる方同士をなごませ、能動的な参加モードに自然にはいってもらえるようなアクティビティを置くことがふつうに行われます。このような活動をアイスブレイカーと呼びます。(注7)

 アイスブレイカーの活動では一般に、初対面の参加者同士を自然に引き合わせ、プログラムの全体テーマについての自分なりのイメージを思い起こしたり、書いて文字にしてみたり、という全体テーマについて考察・議論するための準備を行うことになります。

 SDGsを中心的なテーマとするワークショップの際に、わたしがよく使うアイスブレイカーに「ランキング」の活動があります。元のアイデアは、わたしもメンバーであるNPO法人開発教育協会の会員メーリングリストに、上智大学の田中治彦さんが2016年7月2日にポストしたものです。わたしはそれを少しアレンジして使わせていただいています。

 手順は以下のようです。

 (1) 参加者を3〜5人ずつのグループに分かれてもらう。
 (2) 各グループに、SDGsのアイコンのカード17枚を配る。ファクトシートも配布することが望ましい。
 (3) グループ内で重複しないように1枚ずつカードを選んで、選んだ理由と共に自己紹介し合う。(長くても1人1分程度)
 (4) 各グループに「日本」、「開発途上国」など条件設定を割り振る。
 (5) 17の目標の優先順位について、グループ内でコンセンサス合意を作るべく話し合う。(注8)所要時間は5〜10分程度。その際、1位は1つ、同率2位は2つ、同率3位は3つ、同率4位は5つ、同率5位は3つ、同率6位は2つ、最下位は1つ選ぶようにする。これを平面に並べるとダイヤ型に並ぶ(図2)ので「ダイヤモンド・ランキング」とも呼ばれる。一直線に順位をつけるよりも、同率を認めるこの方が、短時間で合意が達成されやすい。
 (6) 途中で、進行役(ファシリテータと呼ばれる)から、個々の順位ではなく、まずは順位を決めるためのルール・原則について合意を試みるようにアドバイスしてもよい。
 (7) 時間になったら、合意が得られていないグループがあっても話し合いを打ち切り、各グループからどのように話し合い、どのような結果(または途中経過)なのかを説明してもらう(各1〜2分)。
 (8) 条件設定によって、話し合いとその結果がどう異なったか、それはなぜなのか、全体で話し合う。

 参加者は、自分の参加するグループで、条件設定を踏まえてそれぞれ意見を出し、納得してコンセンサスを目指します。自分が当然と思っていたことが、グループ内の他の参加者が異なる見解を持つこともしばしばで、納得した上で意見を変更することも経験できるでしょう。最終的にグループでコンセンサスができれば達成感を得られる一方、コンセンサスには至らなくても、目標に向けて粘り強く話し合うことを経験できます。

 条件設定として、田中治彦さんのオリジナルプランでは、「日本」と「開発途上国」を対比させました。他に考えられる対比として例えば、「都市域」と「農山漁村地域」、「グローバル志向」と「ローカル志向」等が考えられます。

 この活動を「アイスブレイカー」として行うことで、参加者の誰もが少なくとも何回かは発言する、また他の参加者の発言を聞き、受け止める状況を作れます。加えて、このケースでは、講義形式で目標の17項目を一つ一つ説明されるよりも遙かに短時間で、個別の目標について知ることはもちろん、目標同士の関係、それらへの自らの見解を理解することが期待できます。「アクティブ・ラーニング」が学習の速度を速めると見られているのはこのようなことによると考えます。こうして参加者は、次のステップでSDGsを、より発展的に考える準備が整った状態になれます。「アイスブレイカー」を参加者同士の交流だけで終わらせるのではなく、主題について考えるスタートとすることがとても重要だと考えます。

【続きは上記PDFはからお読みください】


この記事論文が気に入ったら100円のご寄付をお願いします




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA