区政の現場に「科学」はどのように関わってくるのでしょうか?

市民科学講座Bコース 第12回
池尻成二さん、区政の現場に「科学」はどのように関わってくるのでしょうか?

講師:池尻成二さん

◆この講座のねらい◆
例えば東京都においては、環境や保健・医療といった分野で多くの区民が解決を望む様々な問題を、どう区政に反映していけるのか、その場合に国と都と区の関係はどうなっているのか、現場の状況からどうデータをとり科学的なリスク評価につなげるのか、意見の相違や対立をどうのりこえて施策を決めていくのか......「科学」の使われ方・生かされ方を、池尻さんとじっくり論じ合ってみたいと思います。

◆池尻さんからの事前にいただいたメッセージ◆
政治と「科学」は、じつはとても近いところにあります。自然科学の知識や方法抜きには語れない環境問題などにとどまらず、施策の評価・検証のベースになる統計処理の方法などもそうです。行政が説明責任をきびしく問われる時代。だれもが、施策や主張のエビデンスを「科学」的な方法や評価に求める時代。そんな時代だからこそ、これって変、恣意的すぎる、といった議論もしばしば見受けられます。アスベストやダイオキシン問題から貧困対策、ニーズ調査まで、区政の現場で見てきた「科学」のありようを振り返ってみます。

◆池尻成二さんプロフィール◆
1955年、福岡市生まれ。九州大学医学部中退。1991年、無所属で練馬区議会議員選挙に挑戦。2003年、4回目の選挙で初当選。2014年、練馬区長選に立候補、当選ならず。2015年、区議会に復帰。市民活動とつながりながら、まちづくりから子育てまで、幅広いテーマに取り組む。

上田:それでは始めたいと思います。市民科学講座Bコースの第12回目ということで、今日は池尻さんに来ていただきました。池尻さんは練馬区の区議をなさっている方です。私とは一番最初は携帯電話の携帯基地局の電磁波問題が練馬区内で生じましたときに、そのことを通じてお知り合いになりました。そのあと、震災のときに、放射能汚染の問題で東京も大きく揺れた際に呼んでいただいて…あれは昼夜連続でしたよね…その講演会を企画していただいて、たくさんの人に来ていただいたこともありました。それ以後も池尻さんは2年前に区長選に出られまして、ぜひ私も応援したいと思いまして会場に駆けつけたこともあります。練馬区の方とは市民運動を通じて活動していらっしゃる、特に放射能のことも含めて活動していらっしゃるグループとずっと私お付き合いさせていただいて、そのたびに池尻さんのことをいろいろ話題にしたりもしてきました。じつはこの講座に先立って、今日集まっていただいた人数とあまり変わらないような人数なんですが、談話会という形で市民科学研究室の事務所を使って池尻さんにざっくばらんにいろんなことをぶつけてお話を伺ったんですね。今日はそのことを踏まえて、皆さんとのやり取りがスムーズにいくようにということで、こういう一応流れでお話を進めてみたいなと思っております。

【この講座での論点】
●区議という仕事:区民(市民)との関わりのなかでの政策立案・実施の姿
●医学部のサークル活動の経験から得たもの
●区政にたずさわる中で取り組んできたテーマと、それに「科学」がどう関わってきたか
 精神医療/ダイオキシン/がん検診/ワクチン/アスベスト/放射能/介護保険
●科学調査、政策評価、リスク評価といった面から見た 区・都・国の役割や関係性
●政策の現場で科学リテラシーを発揮できるようにしていくには

 最初私の方から質問を投げかけながら池尻さんにお話をいただいて、特に最後の二つの項目ですね、これについては皆さんから池尻さんに提供していただいた話題をもとにいろいろ突っ込んでいただいて、今日の目標としましては、何か区政に関して皆さんなりのイメージを持たれるということもあると思うんですけれども、もう一方で私が思っているのは、今日はいろいろ政治と科学が絡んで起こっている様々な問題がありますけれども、それについて頭を整理して、こういうところをちょっと押さえていったら物事がうまくすむかもしれないなという、そういう感触をつかむための話し合いになればいいなと思っています。情報を得たりとか知識を得たりとかいうよりもむしろ、考え方とか取り組みの方向みたいなものが見えてくる、そういう話になればいいかなと思っております。それでは池尻さん、どうぞ。最初は自己紹介も兼ねて、今区議として活躍されているんですけれども、たぶん一般市民は区議さんと言ったときに普段どんな仕事をされているのかイメージが湧かない人もちょっと多いと思うので、そのあたりのことも踏まえてお話いただけますか。

区議という仕事

池尻:練馬区で区議会の議員をしております池尻と申します。よろしくお願いします。今日渋谷の駅の新しい姿にすっかり混乱しちゃったんですけど、今日の午前中に区議会の委員会がありまして、昨日もあったんですけれども、委員会を10時からやってそのあと午後のいろんなお客さんにもお目にかかって来ました。この時期、じつはこれから9月に入るんですけれども、来年度の区の予算編成の入り口にあたります。議会自体は9月に入ったらすぐに決算の議会が入りまして、ですから区政というのは決算をしながら同時に次の年の予算を組むという時期にあたるものですから、一番区民の方が議会に出入りする時期なんですね。ただし、区民といっても一般の区民は議会を知らないので、みえるのはいわゆる利害関係団体というか、ロビー活動に慣れていらっしゃる団体の方が多くて、かつ一番しょっちゅうお客さんが行くのは与党の方なんですね、大きな政党。練馬の区議会の一番大きな政党は自民党で二番目は公明党で、この二つの会派だけで3分の2まではいきませんけれども半分をはるかに超える数をとっているものですから、自民党と公明党の控室は昨日今日あたりはひっきりなしのお客さん。これは逆に会派の側が割り当てるんですね。いろいろ名刺交換した団体なんかにずっとアナウンスして、陳情にいらっしゃいませんかと言って声掛けて、時間を割り振りしてほとんど5分刻みで入れ替わり立ち替わり陳情をもらって、受け取った陳情を材料にして議会の表や裏でいろんなことを言って、そうやって政治を動かしていくという、典型的な地方政治のパターンなんですけども、そういう地方政治の姿がまざまざと議員控室で展開される時期です。私は二人で会派をつくってます。去年の選挙で初めて二人目の議員を通すことができて二人なんですけれども、それまでずっと一人でした。一人で14年間議員をやってきました。

 ちょっと逸れますけど、練馬の区議会というのは一応控え室は一人でももらえるんですが、一人当たりの面積が厳密に決まってまして、14平米くらい。一人だったらほんとに応接セットとデスク一つを置いたらおしまい。窓もないような。特に私が新人のときは一人で一人部屋に入ったらほんとに窓がなくて、独房はかくありなんという感じだったんですが、ドアの明かり窓もないという…暖房冷房が古い建物なので、なんというか集中配管なものですから5時きっかりに切れちゃう。そこから先は暑い、寒い。そんな控え室だったんですが、今は二人になりまして面積が倍になって、一応窓もある。少し縦長なんですけども空間的にも余裕があって、そこの控え室でもお客さんが来てくれます。お客さんといったら失礼ですけれども、どういう方が来るかというと、長年私たちの活動をみてくれて信頼してくれて、ここには必ず相談に来たいと思って来てくれる方がいらっしゃいます。今日みえた方は、一人は高次脳機能障害といって脳血管疾患が大きな原因としてあるんですが、それ以外にも交通事故とか、いろんな脳の障害をダメージを受けて高次脳機能、脳の高次の機能に障害が起きて様々な記憶障害とか識字障害とか空間認知の障害とか。最近よく知られて来たんですがその高次脳機能障害の家族の会の方が長くいつも来てくださるんですが、来てひとしきり、区の支援事業の至らなさを嘆いて帰られました。そのあと「9条の会」の方が何人か相談にみえて、それまた相談の中身は話せば長くなっちゃうんですが、議会のあり方を巡っていろいろ相談いただいているものですからいろいろ話をして帰られました。帰られる直前に9条の会の方とは、今度介護保険の集会をやろうというお話になりまして、その打ち合わせもして、その集会というのは今ご承知かもしれませんが、介護保険は制度改正の大きな議論が進んでいて、要介護の高齢者の1、2という、いわゆる軽度のところの福祉用具の貸与とか生活援助の家事援助といわれるサービスの給付外しを国は目論んでまして、これは困るということでその集会をやろうと。

 そんな打ち合わせも一緒にして帰られたんですけれども、そんな感じで私の場合には、この議員のところに行けば何か口聞いてくれてお金が取れるよ、というパターンの方はほとんどみえない。とにかく今の区政のここをどうしても変えたいと。なかなか自分たちの声が反映されない、あるいは地域で頑張るから一緒に力を貸してくれ、というような方がみえます。それは私たちのある種、原点なんです。政党に入っているわけでもないし、市民活動をベースにして小さなグループでやってきた議員ならではのやり方なんですけれども、ただそうやってみてみると、やっぱりこうやって区民の方がきちんと議会に来ていただけると議員も元気が出るし、宿題もいっぱいもらえていいなぁ、という。そんな感じで今日は一日を過ごしました。上田さんから宿題をいただいたこともあったので、その合間合間に、さて今日の夜の資料は何にしようか、と。

 今日は比較的そういう意味では議員の公務というか、議員としてやらなければいけない仕事が比較的たくさんあった日です。ところがそういう日ってじつは多くなくて、それ以外、たとえば練馬区議会でいいますと、4回定例会という本会議を開催する時期があるんですが、それを全部足してもせいぜい3ヶ月、残り9ヶ月。9ヶ月の間まったく何もないわけじゃないんですが、せいぜい月に1回、委員会が常任委員会、特別委員会とあるくらい。それが議会の議員の厳密な意味での公務です。この公務だけのために練馬の区議会でいうと月額60万ちょっとの報酬をいただいているという非常に高額の報酬をいただいているんですが、議員としてはこの3ヶ月ほどの本会議のときと、月1回か2回の委員会に出れば、基本的には仕事をしたことになります。選挙に通りさえすればそれでOKと。こういう、何もしなければ何もしなくても議員をやっていられるところがあるという、票さえ取れればね。票をとるっていうのは独特の才能でして、議員の仕事の能力とは全然違うので、ほんとに申し訳ないけど議会の中で何やっているかということとはまったく違う世界で票はとれちゃうから、票さえとれていれば議員の仕事としてはもうほんとにポツポツと議会に出ていれば済むという人もいるんです。議員の仕事って定型的な、練馬区には50人いるんですが、50人みんな同じような仕事をしてるなんてことは全然ない世界。一人ひとり全く違います。スタイルも関心も違うし、今お話したように自由な時間がいっぱいあるので、この自由な時間をどう使うか使わないかで、議員の活動のスタイルは全然違っちゃいます。

 基本的には私はほとんど毎日登庁してます。役所の中だけでは議員の仕事ではないのはわかっているんですがほとんど毎日登庁していて、しょっちゅう手を替え品を替え管理職を捕まえちゃあ議論をし、調査をし、あるいは相談をいただいて話をするということをずっと繰り返しています。地域に出るときは何か集会を企画したり、あるいは運動体と一緒に何か動いたり。そんな毎日をやってます。それは私の議員としてのこだわり、私が議員になったときに、自分は市民活動をベースにして一から政治を立て直したいと志だけは大きく持ったもんですから、そういう自分の志を形にした議員活動のスタイルとしてやってます。繰り返しになりますけれども、そんな議員ばっかりじゃないので、ほんとに千差万別。だから逆にいうと、ほんとに議員を評価する、議員の活動の質をきちんとチェックする目をどれだけ主権者とか有権者の方が持ってくださるかが議会の力を高め、政治を変えて行く上では決定的だなというのを感じています。