カウンセリングってどのような仕事なのでしょうか?

市民科学講座Bコース 第5回
最相葉月さん、カウンセリングってどのような仕事なのでしょうか?

講師:最相葉月さん

◆この講座のねらい◆
「心の専門家」「心のケア」なるものに、うさんくささを感じる人は多いのではないだろうか。しかし一方で、「鬱病100万人の時代」との言葉が嘘と言い切れないほどに、心の病を抱えている人は少なくないようにもみえる。症状や生活上の支障の出方はいろいろだが、原因がわからず、本人も(場合によっては周りも)深く悩んでいる。セラピスト(精神科医や臨床心理士)だから"治せる"とも限らない。おそらく鍵は、「"治る"とは何か」ということへの洞察もあわせて、本人が自身の心へ向き合うことを一緒にどう支えていけるか―ということにありそうなのだが、ではそうしたことを仕事として引受けるセラピストたちは、自分の律し方を含めて、どう回復への道のりを辿れるようにしているのか。最相さんの『セラピスト』はカウンセリングの歴史をふりかえりつつ、セラピストの仕事の奥深さ、難しさに光をあてたノンフィクションだ。この講座では、「カウンセリングって何?」という問いを中心に、科学・社会・人間の、通例の科学技術論ではあまり探りが入れられなかったあたりにも目を配って、最相さんとじっくり語り合ってみたい。 
進行役の上田(市民研・代表)より

◆最相 葉月(さいしょう はづき)プロフィール◆
ノンフィクションライター。東京都で生れ、兵庫県神戸市で育つ。関西学院大学法学部法律学科卒。会社勤務を経てフリー編集者兼ライターとして独立。科学技術と人間の関係性、スポーツ、教育などをテーマに執筆。著書に『絶対音感』(1998年小学館刊、小学館ノンフィクション大賞)、『いのち 生命科学に言葉はあるか』(2005年文春新書)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』(2007年新潮社刊、講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞など)『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』(2015年岩波書店刊)など多数。

上田:最相さんの著書『セラピスト』を取り上げながら、じっくりお話を伺いたいと思います。
 
 私が最相さんと知り合ったのは今から8年前、市民科学研究室が法人としてスタートして間もないころでしたね。科学技術振興機構の助成を受け「生活者の視点に立った各地の研修と実践的活用」というテーマで、シンポジウムを3年間の研究の中で一回行い、お呼びしたなかの一人に最相さんがいらっしゃったのですね。お書きになった本たくさんあるのですけども、敢えて、この6冊を選んだのは、どれも科学ということが入っており、最相さん自身はサイエンスライターとは名乗られないけれども、こういう風にいろんなテーマで、しかもいろんな切り口で、科学の側面を見せてくれているっていうことで、サイエンスライターとも呼べる人だと私は思っています。
 
 その中で最初の『絶対音感』だけは、実は私、読むのがずいぶん遅れまして、理由はですね、ご本人をまえにちょっと失礼なのですけれども、絶対音感っていうテーマを取り上げて、なんか奇抜なことを書いているに違いないだろうということで、なんかちょっと胡散臭いなっていうイメージがあって、手に取らなかったのですね。ところが(笑)、後から読んでみると、実はその絶対音感を巡って、人々がどういう受け止め方とか悩みをもっているのかっていうことまで踏み込んで書かれ、面白いと後から気づきました。
 
 その後、『いのち』を読んでですね、あの最相さんが、まぁこれを読む前からね、実はライフサイエンスインフォメーションを立ち上げていらっしゃって、生殖医療とか、出生前診断とか、そういうことの情報を提供すると同時に、専門家の方をうまくネットワークを作って、解説をしていただいたり、それから議論をする場を提供したりっていうことで、ネットを使って活動されていたのですね。で、それを私見まして、自分がやっている市民研の活動とかなり近いものを感じて、これは本当に一度話を聞いてみたいっていうことで、で本が出たっていうこともありまして、それでお呼びしたのですね。なかなか人が、関心はもっているけれど、なかなか踏み込んで取材しないところを、うまく目をつけて書かれているなっていうのがひとつと、この『セラピスト』とつながるのですけれども、人とか想いとか、それから何を生きがいにしているかなど、どういうことが問題になっているかみたいなことを、見ていく視線みたいなものが、共通していると感じていまして、今日の話につながってくると思うのですね。
 
 で、この本を出されたのですけれども、阪神淡路大震災以来、心のケアということに取り組んでいらっしゃった精神科医の加藤寛さんに、最相さんは、被災地に入って、こういうケアに当たっている人たちと、被災者の間でどういうことがなされているのかっていうことを取材しながら仕事をされ、この本はこの先生に主に語っていただくっていうスタイルで書かれている本なのですね。この本を私の目から見たら、この『セラピスト』という本に、深いつながりを持っている本だなっていう風に見えました。で、少しこの中で書かれている言葉を紹介していきたいと思います。これだけ見たらですね、どういうことなのだろうと思う方もきっといると思います。
 
 例えば「救急医療隊も通常二泊三泊で交代する。被災地に害を与えず迷惑をかけず、任務を果たし、健康も損なわずに帰還する。そうでなければ次の支援が続かない。」あるいは「支援者はたいそうなことをする必要はない。テーブルが汚れていたらそっと拭き取るようなあたりまえの気遣いがあればいいんです。…そっと見守る。なにもしないでいるということは、結構勇気がいることなのですよ。」「精神科医や心理士で構成される心のケアチームが被災直後に行うのは、被災者に被災体験を聞いてカウンセリングすることではない。」じゃあ何をする人たちなのだろう、どんなことを実際にしているのだろうっていうことで、やっぱり疑問を思い浮かべる方もいるのではないかと思います。
 
 実は今回の講座をお願いするまで私は読んでいなかったのですけれども、最相さんからメールをいただいて、最近こういう本を出して、実はこの中でも『セラピスト』と関係のあることを扱っていますよって言われたので、すぐ読んでみたのですね。そしたら、皆さんの中にも読まれた方いるとおもいますけれども、この『れるられる』っていう変わったタイトルなのですが、実はここに書いている1.2.3.4.5・6つですね(生む・生まれる、支える・支えられる、狂う・狂わされる、絶つ・絶たれる、聞く・聞かされる、愛する・愛される)、この6つの「れるられる」を、表題にしながら扱っていらっしゃるのは、今私が話をしたいくつかのテーマに直結するテーマなのですね。ADIおよび出生前診断や惨事ストレスのメディカルケアやそれからごく身近な人にその精神病を患った人がいるときの話ですね、それから実は来月、この講座で私エノキさんっていう方をお呼びしますが、彼も盛んに書いている、そのポスドク、ポスドクの人が進む先が見えないっていうことで自分の人生の希望が持てず、自殺する方も少なくないっていう状況があるのですね。で、そのことに触れた話、それから聴覚障害っていうことで、例えばあのダイアログインザダークっていう面白いイベントがありまして、真っ暗闇のなかに入って、数人のグループで、一人の人に導かれながら、いろんな体験をするわけですけど。人間の聴覚とか視覚が奪われたときに、どういうことが起こり、コミュニケーションがどうなり、本人の自分の認識がどうなるか、みたいなことに触れたエッセイなります。そういったことなどが書いていらっしゃるわけです。非常に読みやすくて、一編一編が心に残る話がありまして、是非ですね、みなさんにも読んでいただきたいのですけども。
 
 幸いなことに、先ほどメンタルヘルスケアのことと重ねてですね、最相さんが岩波書店の本の宣伝のためですかね?これ。

最相:そうですね(笑)

上田:ネットに動画が公開されていまして、それを最初、イントロとして見るのがいいかなと思って持ってきましたので、見ていただきたいと思います。