最新のIHクッキングヒーターの電磁波を計測する

投稿者: | 2009年1月2日

写図表あり
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報告
最新のIHクッキングヒーターの電磁波を計測する
上田昌文(NPO法人市民科学研究室)

●普及がすすむオール電化住宅とIHクッキングヒーター
電磁波問題への関心が一般の人々の間に高まってくるにつれて、変電所や高圧送電線鉄塔、携帯基地局などの電力・電波設備を住宅の近隣にむやみに建ててほしくないとの声が各地で上がるようになってきました。第1回目のコラムで紹介したように、経済産業省が創設した「電磁界情報センター」がそうした声をどのように受けとめていくかが注目されるわけですが、電磁波曝露をできるだけ減らす、という点で決して見逃せないのが、各家庭でできる対策です。そもそも、太陽光発電や風力発電などの再生可能なエネルギーから作られている電気の割合はまだ非常に小さく、化石燃料への依存がかなり大きいことを考えるなら、電気を使いすぎないようにすること、そして使うのなら賢く使うことは、家庭に限らず、社会全体で追求していくべき事柄ですが、この点でも、そして電磁波曝露という点でも、危うい問題を投げかけているのが、オール電化住宅ならびにIHクッキングヒーターの普及です。
今年初めのニュースでは、オール電化住宅は「昨年(2007年)12月末までの導入戸数は前年比26%増の256万世帯に急増し、国内全世帯に占めるオール電化住宅比率が5%を超えた」と報じられました(日本工業新聞社提供のウェブサイト「フジサンケイ ビジネスアイ」2008年2月4日付)。とりわけ、近年の大都市部ならびにその周辺での伸びは著しく(東京電力の場合の伸びは図1)、東京電力と関西電力の昨年の新規導入戸数はそれぞれ10万戸、8万戸を超えています。一方、IHクッキングヒーター(電磁調理器)は、集合住宅での一括導入に比べて1戸建てで個別に購入する場合はどうしても割高になるせいで、オール電化ほどの伸びは示していませんが、それでも単年での出荷台数が100万台近くにまでいっていることは、「オール電化」という言葉もなく、少なくとも家庭用のビルドインタイプの電気コンロを長年にわたって使い続けている人が多いドイツやフランスのような国々では、ちょっと考えられないような数字ではないでしょうか(図2)。

図1 東京電力域内のオール電化住宅の累計戸数 [東京電力発表の資料より]

図2 IHクッキングヒーターの全国の出荷台数 [日本電気工業会の発表より]

●メーカーによって大きく違う電磁波の強さ
IHクッキングヒーターは家電製品の中では、発生する磁場の強さが格段に大きく(強い磁場を電気に変えて加熱するという原理のため)、料理する人が機器の前に立って作業することになるのである程度以上の曝露を避けるわけにはいかない、という点で独特です。おそらく、業務用の大型のものも含めて全国で累計500万台を超えていると推計できますので、「強さ×時間」でみたときの、全国民の低周波電磁界のトータルの曝露量を引き上げることに相当貢献しているのではないかと思われます。
では、最新の据え置き型のIHクッキングヒーターの電磁波の強さはどれくらいなのでしょうか?
2008年11月の時点でのP社、H社、M社のそれぞれの最新機器を計測してみました。その際の様子は写真をご覧下さい。位置は4箇所(IHプレートと同じ平面で、機器の端から30㎝、10㎝、端(人が接触して立つ位置)、そして平面より高さ6㎝のところでプレートの中心から15㎝の位置です。鍋は大型(直径約18㎝)、小型(直径約14㎝)のステンレス製です。両方を使った場合は、IHの手前の左右2つのプレートに大小それぞれの鍋を載せ、その中間の位置で計測しました。
結果は図3のグラフに示したとおりです。人の曝露を考える上で、目安になる位置として「端」が考えられますが、そのときの強さを表1にしてみました。2から10近い値まで(単位はマイクロテスラ)が計測できました(ミリガウスの単位で言うと、20~100mGです)。身体に密着させて使う電気毛布でこれに近い値を計測したことがありますが、数マイクロテスラというのは家電製品からの曝露としてはかなり大きい部類であると言えます。

図3 3社の最新型IHクッキングヒーターの電磁波計測結果
(各社の機器で火力はすべて最大にして、単位μT:計測器はNarda社ELT-400)

P社
鍋大 P社
鍋小 P社
鍋大+小 H社
鍋大 H社
鍋小 H社
鍋大+小 M社
鍋大 M社
鍋小 M社
鍋大+小
端(人が立つ接触面) 2.82 5.127 5.917 4.469 7.875 8.664 2.353 4.496 5.937
表1 調理台に最接近して立つ位置(「端」)での磁場の強さ [ピーク値]

小鍋を使った場合、曝露が大きくなることは以前から把握していましたが、今回気づかされたのは、メーカーによって値がかなりばらついているという点です。上記のデータでは、H社のものはM社の1.5倍~2倍近い値が出ています。そもそも他の家電に比べて磁界がずいぶん強いこと、そして毎日使う機器であることを考えると、その差は決して無視できるものではないでしょう。メーカーに改善を求めていきたいところです。■

端から30㎝ 鍋大

端から10㎝ 鍋大

端 鍋 大+小

中心から15㎝ 鍋小

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