家庭内での24時間電磁波計測調査から

投稿者: | 2006年5月27日

家庭内での24時間電磁波計測調査から
文:上田昌文(電磁波プロジェクト)
pdf版はこちら→emf_020.pdf
半年ほどをかけてすすめてきた「電磁調理器の総合的研究」がまとまった。この研究は、IHクッキングヒーターの使用に伴う電磁波被曝の定量的把握とそのリスク評価を眼目としているが、「オール電化」の普及という社会状況が背景にあることを考慮して、中心部分(第 2章)を次のような構成にした。
2-1.IH器機から出る電磁波の強度の計測
2-2.IH機器使用者ならびに非使用者の電磁波被曝量
2-3.オール電化住宅居住もしくは IH機器使用のエネルギー効率に関する検討
2-4.IH機器使用に関するアンケート(192名)の回答分析2-5.IH機器使用による電磁波被曝のリスク評価
『市民科学』誌上では、随時その結果をまとめて報告するつもりである。今回は、上記 2-2に含まれている計測の結果を紹介する。電磁調理器の使用者と非使用者との被曝量の違いをみることが目的ではあったが、24時間連続的に被曝量を記録できる器機(米国エナテック社製 EMDEX LITE)を用いて計測してみると、私たちがどのような電磁波環境に暮らしているかがリアルに見えてきて、大変興味深い。
なおこのたび使用した EMDEX LITE磁界測定器(計18台)は、国立環境研究所のご厚意でお借りすることができました。心から感謝いたします。
17人の男女が計測に参加
今回実施した「家庭内での 24時間電磁波計測」には、17人の男女の参加が得られた。
【計測方法】 EMDEX LITE磁界測定器を用いて、17人の男女を対象に計測を実施。計測者の一番都合のよい計測日を選択してもらい、その 24時間の詳細な行動記録と家庭内外の電磁波源(家電製品の種類、高圧線、電柱など)の位置を書き入れる図面の提出を依頼。24時間の被曝量の変化をみることで、生活環境中にあっていかなるものが曝露の主たる因子となっているかを探る。そこから IH使用者とそうでない者とを比較することで、IHによる被曝の度合いを推測する。計測器は腰の部分(ポケット、ポシェット、ウエストポーチなど)に装着。入浴時、就寝時にはできるだけ身の近くへ置くように依頼。24時間の計測が終わった時点で計測器を回収した。
【計測機器】EMDEX LITE磁界測定器 Standard Typeサイズ 16.8cm × 6.6cm ×3.8cm 重量 341gサンプルレート 30秒毎に 1サンプルを採取計測範囲 磁界強度 0.01 μT(マイクロテスラ)~ 70 μ T周波数範囲 1~800Hz(ヘルツ)分解能 0.01 μ T
※計測した数値は、磁界の強さを表す単位「μ T(マイクロテスラ)」で以下に紹介します。(同じく磁界の強さを表す単位に「mG(ミリガウス)」があり、1 μ T=10mGになります)
17人のトータルの被曝量を比較すると
17人のうち 2人は家庭内ではなく職場(保育園)での計測であり、ともに業務用 IHを使用する日を選んで計測してもらった。それ以外の 15人はできるだけ家の中にいる日を選んで計測してもらった。
その 15人のうち IHを使用しているのは 4人(KWさん、ICさん、 KBさん、ASさん)である。
この表から、家庭内での IH使用者(4人)では
・一日被曝量(μT・時)の分布は 1.26~ 7.93
・一日被曝量の平均は 3.86
IH非使用者(11名)の
・一日被曝量の分布は 0.98~ 5.96
・一日被曝量の平均は 2.65となる。
◆ケース 1◆ 最近 IHクッキングヒーターを購入した ICさん・50代女性
電磁波曝露量最大値 5.26 μ T       平均値 0.07 μ T     一日曝露量 1.56 μ T
一戸建ての自宅で計測。最近、IHクッキングヒーターを購入し、現在使用中とのこと。 グラフをみると、一日のうちに数回、瞬間的に電磁波曝露のピークがあることがわかる。そのうちの I~ IVの時期が IHを使用して調理をしているときである。ピークは 1~ 2 μ Tの間にほぼ収まっている。IHを使用する家庭で通常に被曝するケースはおそらくこのような被曝パターンを示すものと思われる。気になるのは、それを上回る④、⑤、⑦、⑧のピーク。ICさんはこのときに洗濯や掃除などの家事をしたり、パソコンで作業をしたりしていた。掃除機、洗濯機などの家電製品に身体を密着させたことが考えられる。未確認だが、瞬間的に高い数値となる傾向がみられるので、携帯電話である可能性もある。
◆ケース 2◆    電気ストーブが大好きな KWさん・40代女性

電磁波曝露量最大値 3.69 μ T       平均値 0.34 μ T     一日曝露量 7.93 μ T
自宅に IHクッキングヒーターがある。朝 9時すぎや夕方 6時前後の調理時の電磁波は 0.3 μ T以下ということから、IHを使用しなかったのではないかと推測される。しかし?と
?からわかるように、KWさんの電磁波曝露のピークは 1~ 2 μ T前後と、IHと負けず劣らず大きい。しかも曝露が長時間に及んでいる。この時間、ご本人は温風器を抱えるようにして過ごしていた。さらに?と?のなかでみられる 3 μ T以上のピークは、ご本人の報告から近くに置いていた携帯電話が原因であろうと思われる。?については「入浴中」であることから、計測器を何らかの電磁波源の近くに置いたと考えられるが、それが何であるかは不明。ウォシュレットなどの近くに置いたのかもしれないし、この中のピークは携帯電話の着信を示すものかもしれない。KWさんの一日曝露量は 7.93 μT。対して、IHを使用したケース 1の ICさんは 1.56 μT。瞬間的に浴びる電磁波の大きさは弱くても、それが長時間に及ぶと曝露量が大きくなることがわかる。
◆ケース 3◆   ホットカーペット愛用者の TSさん・40代女性

電磁波曝露量最大値 2.72 μ T      平均値 0.05 μ T    一日曝露量 2.25 μ T
家電製品からの種々の電磁波を被曝した場合の値が比較的明瞭に出ている。食器洗い乾燥機と冷蔵庫(①と⑥)、ドライヤー(②と⑦)、電子レンジ(③)、オーブントースター(③)、ホットカーペット(④と⑤)といった具合に、それぞれの被曝の様子がよく読み取れる。ただし③と④に含まれている、瞬間的に立ち上がってすぐ収まるピークは携帯電話のせいで生じた可能性もある。家電製品のなかでも比較的被曝量の大きいものの一つにホットカーペットがあることが確認できる。身体に直接触れ、長時間接触が続くからである。それに対して、使用時間は数分でも瞬間的に大きな電磁波を浴びてしまうのがドライヤー。使用するのは頭部周辺でありながらも、腰に装着した計測器がこれだけ反応していることに注目すべきだろう。
◆ケース 4◆  業務用 IHを使用している M保育園の調理師さん・30代女性

電磁波曝露量最大値 64.14 μ T      平均値 0.57 μ T    一日曝露量 13.62 μ T
M保育園で調理師として働いているこの方は、毎日業務用の IHクッキングヒーターを使用している。このケースでは、自宅ではなく職場で計測器をつけてもらった。業務用 IHクッキングヒーターを使って作業をしていたのは、グラフに現れたピークの?と?と?と?。そして、最も高い数値を示した 3は IHのフライヤーを使ったとき。いずれもピーク値で
2.41(①)、5.28(②)、64.14(③)、2.26(⑤)、2.27(⑥)という高い値を示している(グラフの縦軸の目盛りが 10倍になっていることに注意)。一日被曝量でみても、13.62 μ T時とかなり大きく、一般家庭での IH使用者ケース 1の ICさんと比べても 12倍以上。同じ IHといっても、家庭用と業務用では電磁波の強さが桁違いであることがわかる。④については「ホールで昼食」時に何らかの電磁波源に近寄ったためか携帯電話のためかのいずれかと推測される。⑦は 3分間使用したドライヤーでの被曝。
◆ケース 5◆   家電製品ほぼゼロ生活の UAさん・40代男性

電磁波曝露量最大値 3.88 μ T       平均値 0.1 μ T     一日曝露量 2.4 μ T
電子レンジやテレビや冷蔵庫を使わず、暖房には湯たんぽを使用しているというUAさん。在宅中は、ほぼ電磁波に曝露していない状態であることがわかる。それと比較して際立って目立つのが①~④のピーク。これはいずれも地下鉄で電車にのっているときに現れたもの。一日 2回電車に乗り、昼乗車時のピークは 4 μT、夜乗車時のピークはその約半分にあたる 2 μT。これは電車内での被曝が、座席の位置によって強弱を生じたもの。その値が 1~ 4 μ Tほどの強さになることは注目すべきだろう。?はオフィスでオイルヒーターを ONにして身体のそばにおいていたことが原因。机に向かっていることと立って別の場所に動いたことなどの電磁波源との距離の変化がこれらの値の変動に表れている。
結 果 か ら 見 え る こ と
(1)業務用 IHでは大きな電磁波曝露
今回の計測で、際立って大きな被曝量を示したのが、業務用の IHクッキングヒーターであった。M保育園の調理師さん(ケース4)の場合、IHによる調理時間は午前で 3時間 20分、午後で 2時間 5分、合計で 5時間25分。特に午前中の調理で IHのフライヤーを使用した際のピーク値は、今回の実験で最高値である 64.14 μ Tを記録している。一日平均でも 0.57 μ Tとなっており、これは高圧線のもとで常時 0.4 μ Tを被曝する環境とトータルな被曝量では変わらないか、それを上回るという状態になっていると思われる。 このことが浮き彫りになったとき、いちばん最初に頭をよぎったのは、妊婦や胎児への健康影響のことだ。アメリカの研究機関がサンフランシスコの妊婦を対象に行なった研究では、最大で16mG(ミリガウス)以上の電磁波を日常的に浴びていた 10週目未満の妊婦さんは、流産のリスクが約 6倍にもなるという結果がある(16mG=1.6 μT)(注1)。今回、業務用 IHから瞬間的に被曝するのが 64.14 μ Tなので、その健康影響を懸念しないわけにはいかない。 確かに、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインでは、50Hz(ヘルツ)~ 800Hzの範囲の周波数においては、「磁場の強さは 100 μT(50Hz )~ 6.25 μT(800Hz)([磁場の強さ ] × [周波数の大きさ ]=5000に収まるような磁場の強さ)以下でなければならない」と定めている。その点からすると、今回計測器で拾えたのは主に 50Hz の周波数の磁場(電源からの電磁波)なので、その基準値は 100 μ Tとなり、64.14 μ Tはそれ以下ということになる。しかし、 0.4 μ Tの磁場で小児白血病のリスクが増加するという報告や、1.6 μ Tで流産のリスクが増加する報告がなされていることを思うと、この基準はあまりにも甘いと考えるべきだろう。
しかも IHには、今回の計測器では拾えていないが、その特殊な加熱のしくみために、これまでの家電製品からは出なかった25kHz(キロヘルツ)周辺やその整数倍の周波数の磁場が出ていて、私たちの別の計測でも、業務用のものはその周波数での磁場の強さがガイドラインを超える場合のあることがわかっている(なお、家庭用の IHも機種によって出ている電磁波の大きさに違いがあること、IH上の調理プレートの大きさに対して小さい鍋を使うほど曝露する電磁波が大きくなることなどが、今回新たにわかった)。
IH以外で電磁波被曝の大きくなる恐れのあるものに、電車、電気カーペット、ドライヤーなどがあることも示された。電気ストーブ(温風器)をかかえるようにしていたケース 3の KWさんや、家電製品に身体を密着させるクセをもつケース 1の ICさんのように、電化製品の使い方や身体の位置によって、曝露量を増やしてしまっている例も観察できた。
(2)携帯電話端末からの低周波磁場を確認
携帯電話は電波をキャッチした受信のときと発信したときに、瞬間的に大きな電磁波を放出する。もちろんそれはマイクロ波を使っているので、それ自体は今回の計測器では計れない。ところが、電波には情報を乗せるために変調という操作が加えられていて、そのときに低周波(50Hzを主とする周波数の電磁波)を使っている。この値も、受信と送信の瞬間には大きくなる。今回の計測ではこれが拾われた。計測器との距離がどれほど離れているかで大きく値は変わるが、おそらく腰の部分に装着してその近辺で携帯電話で送受信したと思われる。その場合に 2から 3 μ Tの値を記録していることから、もし送受信時に端末を頭部に密着させるようなことがあると、頭部への曝露はさらに大きくなっている可能性がある。ちなみに、携帯電話を所持していない UAさんのケースでは、この特徴的なピークは見られなかった。
(3)気がかりな業務用 IHによる職業被曝のリスク
今回の計測から思うのは、被曝の強さや被曝時間のいずれの面からみても、IHだけが必ずしも主要な被曝源となるとは限らないということだ。使用時間や使い方、機種によって大きく差が出ることがわかった。そしてそれは、IHだけに限らず、家電製品全般に言えることだろう。家電製品も携帯電話も「使うときには身体からなるべく離す」。これが曝露量を減らす一番のポイントになると思われる。
電磁波被曝のリスクが高い時期(感受性がとりわけ高くなると考えられる、妊娠中や胎児期、そして神経系の発達が完成にむかう子どもの時期)にハイリスクの電化製品をできるだけ使わないという配慮が必要であろうが、そうであるなら、業務用電磁調理器からの被曝量はあまりにも大きいというべきだろう。レストランや給食調理室で IHを使って調理をする人たちにとっては職業被曝であり、自分の意思でそれを避けたり軽減させたりすることは大変難しい。器機の製造メーカや行政の適切な対応を求めていかねばならないことは明白だと思われる。■
注1:De-Kun Liほか「妊娠中の磁界への個人曝露と流産に関する前向きのコホート研究」(A Population-Based Prospective Cohort Study of Personal Exposure to Magnetic Fields during Pregnancy and the Risk of Miscarriage),13:9-20,EPIDEMIOLOGY 2002

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