バイオマーカーを用いた 電磁過敏症・化学物質過敏症の診断の可能性 【上】

投稿者: | 2017年9月1日

バイオマーカーを用いた
電磁過敏症・化学物質過敏症の診断の可能性
【上】

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上田昌文(NPO法人市民科学研究室)

この論考では、2015 年 5 月 18 日にベルギーのブリュッセルで開かれた「第5 回パリ・アピール会議」という国際会議を手がかりに、主として欧州で進展する電磁波・化学物質過敏症の科学研究とそれに基づく新しい取り組みを紹介し、論じます。とりわけ、この会議の座長を務めたフランスの Dominique Belpomme 博士(及び彼が主宰する研究グループメンバー)が公開した論文は、バイオマーカーを用いて過敏症が診断できることをかなり高い確証度で示している点で画期的なものであると考えられますので、その論文をじっくりと解題しつつ、後半では筆者が行った取材結果への考察なども交えながら、過敏症研究の今後の方向性を検討してみたいと思います。

●ブリュッセルでの「パリ・アピール会議」はなぜ画期的か

この会議については、「ブリュッセルで過敏症の「歴史的」国際会議」と題して、電磁波問題市民研究会の会報(95 号から97 号に分載)ならびにホームページに、この会議に参加したあるジャーナリストの報告「電磁波過敏症の会議が「ノセボ効果」理論の正体を曝露 ( Electrohypersensitivity conference debunks ‘nocebo effect’ theory) 」が翻訳・紹介されています。

私はこの記事を読み、ここ数年で欧州では電磁過敏症に対してこれまでにない科学的に強固な研究が進んできたのではないか、と感じました。そこで、この会議(テーマは「環境的突発性不耐症:電磁波や複数の化学物質はそれにどう絡んでいるのか?)」)の発表者のプレゼン資料とプレゼン動画を掲げているホームページ を調べてみました。

なんとそこには、2004 年、2006 年、2011 年、2014年と同じくパリで国際会議を重ね、その都度議論を重ねたうえでアピールを取りまとめてきた科学者たちの取り組 みがしっかりと記録されていました。

「環境と健康と化学物質」に関する主要なテーマをその時々で決め、予防原則的対応を重んじる世界中の先進的な研究者から数名から10数名ほど発表を募り、ワークショップを行うというものです。2015年に初めて、電磁過敏症に踏み込んだのには、やはり理由があったと思われます。それは、全体の座長を務めたフランスのDominique Belpomme博士(ARTAC:L’Association pour la Recherche Thérapeutique Anti-Cancéreuse抗癌治療研究協会、ならびにECERI:European Cancer and Environment Research Institute欧州癌及び環境機関 の両者に所属)たちの研究グループが、おそらくここ数年ですすめてきた研究と実践が大きく寄与しているのではないでしょうか。というのも、彼は、「EHS & MCS Research and Treatment European Group(電磁過敏症と化学物質過敏症 研究と治療ための欧州グループ)」という組織の中心にいて、おそらく電磁過敏症・化学物質過敏症の診断の決め手となるだろうバイオマーカーの検出(熱ショックタンパク質やS100Bタンパク質を含む、種々の物質の定量)や超音波での脳血流計測という新手法を用いて、かつてない精度で過敏症の実体に迫ろうとしているようだからです。

●電磁波過敏症に系統的向き合う本格的研究グループ

私がEHS & MCS Research and Treatment European Groupが注目に値すると考えるのは、この団体が科学研究をベースにしながら、「診断」「予防」「治療」「情報」「研究」を相互に関連させた系統だった取り組みを実現していることです。ホームページ上ではまだ予告されているコンテンツが掲示されていない部分もありますが、診療に訪れる人を被験者にしてのかなり多くのデータの蓄積がなされているようであり、曝露や発症に関するデータの量と質を確保して科学的精度を高めていこうとしているように思われます。

このグループに関わる研究者たちが出した最初の論文(※1)が、ホームページでも無料でダウンロードできます。
※1: Dominique Belpomme, Christine Campagnac and Philippe Irigaray, Reliable disease biomarkers characterizing and identifying electrohypersensitivity and multiple chemical sensitivity as two etiopathogenic aspects of a unique pathological disorder “Rev Environ Health” 2015; 30(4): 251–271

このグループのメンバーをはじめ、上述のパリ会議に集った科学者たちには、電磁過敏症・化学物質過敏症を深刻な公衆衛生上の問題として位置づけて、社会がその解決に向けて本気で動き出すべきだという思いが共通しています。

彼らのその思いをまずはしっかり見ておき、そして個別の研究内容に言及する、という具合にこの連載をすすめていきたいと思いますが、パリ会議で取りまとめられた次の文書(※2)の後半―前半は電磁過敏症に対する各国のあるいは国際的な取り組みとして主だった会議や報告書類を年表的に挙げています―がそれを知るには好適ですので、それをここに訳出しておきます。
※2:2015 Brussels International Scientific Declaration on Electromagnetic Hypersensitivity and Multiple Chemical Sensitivity (電磁過敏症と化学物質過敏症に関するブリュッセル国際科学宣言)

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