報告・世田谷の小学校で防災ワークショップ

投稿者: | 2016年10月12日


9月14日(水)に世田谷区の代沢小学校の「単位PTA研修会」にて、市民科学研究室「市民と防災 研究会」のメンバーが講師を務めての防災ワークショップが開かれました。研究会メンバーの一人である阿部佐紀子さんが、ご自身の子どもさんが通うこの代沢小学校のPTA研修委員の方々と話し合いつつ、この企画の立案から実施まで、中心的役割を担ってくださいました。当日は保護者と教員の皆さんあわせて50名が参加し(PTAの会長さんや校長先生もご参加くださいました)、市民研・防災研究会のメンバーである石坂信之さんからの簡潔なレクチャー「首都圏直下型地震で注意したいこと」を受けた後、地区ごとのグループに分かれて、世田谷区のハザードマップを読み解きながら、いつどこをどう避難すべきなのか(できるのか/できないのか)、いつ何をどう備えればよいのか……といったことを、詳細に検討しました。
参加者からのアンケートの結果なども含めて、阿部佐紀子さんから報告していただきます。

(市民研・上田)
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大地震から命を守るシミュレーション 
ハザードマップと減災絵巻でイメージする防災ワークショップ

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1. 概要
 2016年9月14日(水)14:30~ 世田谷区立代沢小学校で「大地震から命を守るシミュレーション ~ハザードマップと減災絵巻でイメージする防災ワークショップ」を開催しました。私の子どもがこちらの学校に通っており、PTAの委員をしている保護者から研修の企画について相談を受けたことがきっかけで実現しました。今回の研修は、保護者と教職員がともに学ぶのが主旨のもので、熊本地震の直後だったこともあり、すでにPTA委員のメンバーからは「防災をテーマに何かできないか」という声が上がっていました。そこで、昨年葛飾区で行った防災ワークショップをもとに、首都圏直下型地震をテーマにしたワークショップを提案し、実施の運びとなりました。
 今回のワークショップのねらいは、「いざという時に命を守るために、今わからないこと、知らないことに気づくこと」。持ち出し品の中身などといった防災マニュアルを教えるようなものではなく、実際に避難する時の行動をイメージして、いろいろな問題点に気づく中で意識を高めてもらうことを目指し、PTA委員とも打ち合わせを重ねて内容を検討しました。
 参加者は50名(保護者35名、教職員15名)でした。平日の放課後の開催で、生徒数250名弱という規模を考えるとまずまずの参加率だったと言えると思います。
 当日の内容は以下の通り。全部で2時間ほどの枠だったので、レクチャーは15分程度にし、参加者同士のディスカッションの時間を多くとりました。
 1. レクチャー:首都直下型地震について世田谷区で警戒すべきこと 
 2. ハザードマップの読み解きと疑問点・不明点の洗い出し
 3. 目黒巻き(代沢A子さんの例)の読み合わせ
 4. グループディスカッション、意見共有と質疑応答

 1. レクチャーでは、石坂さんが過去に起きた大地震の年表をスライドで示しながら、地震の周期や現在地震の活動期が来ていること、首都圏でいつ大地震が起きてもおかしくない状況であることを解説。また、世田谷区のHPで公開されている資料をもとに、学区域周辺の建物の状況と留意点、消火活動の困難さと延焼の可能性、周辺の地形などを解説しました。
 2. 世田谷区発行のハザードマップ(PTAで参加者全員分を準備)について、種類や書かれている情報の読み方について上田さんが解説したのち、各個人で自宅周辺の道路や避難所の確認などのマップの読み解きをおこない、疑問点や気づいた点をふせんに書き出す作業を行いました。
 3. 次に、具体的な行動をイメージするため、目黒巻き(事前に作成しておいた代沢A子さんの例)を読み合わせました。目黒巻きは、地震発生から家族の安否を確認して再会し、安全な場所にたどり着くまでを時間軸に沿ってできるだけ具体的に想像して記入し、命を守る行動と必要な情報を考えるためのツールです。例を読み合わせることで、「自分だったらどう行動するだろう?」というイメージを膨らませてもらいました。時間の関係で、その場では記入は行わず、白紙を持ち帰ってもらい自宅で記入してもらうようにしました。
 4. ここまでの内容をふまえ、グループディスカッションを行いました。住所が近い人同士で話し合ってもらうため、学校が設定している「地域班」ごとに8名前後のグループに分かれました。教職員は、避難訓練の際に担当する地域班に混ざってもらいました。保護者と教職員で話し合って、気づいた点や疑問点などをさらにふせんに書き出してもらい、全体で共有しました。この時間は各グループとも活発な発言がなされて盛り上がりました。保護者から出た質問のうち学校に対するものは、その場で答えられるものに関しては校長・副校長に回答してもらうなど、質疑応答もあわせて行いました。

2. 当日出た主だった質問・疑問
 多かったのは、家族の安否確認に関するもの(確認方法や情報入手の方法、子どもの引き取りなど)、避難所に関するもの(避難所の開設時期、指定地域以外の人の受け入れの可否など)でした。家族がバラバラだった時どう連絡を取り合うか決めていない人がほとんどだったようです。また、多くの保護者が、避難所運営は小学校が行うと漠然と考えていたようで、校長先生が「避難所と小学校は別」と指摘したのを聞いて、はじめて「子どもの引き取り」と「避難所への避難」は分けて考える必要があることに気づいた人も多かったようでした。また、飲食店などが密集した繁華街が近いことから、避難所への延焼の可能性を不安視する声や、坂の多い地域では地形に関する質問も出ていました。

3. アンケートから
 終了後の感想としては、「普段災害について考えていなかったので考える時間、きっかけができてよかった」「参加型だったので集中できた」「同じ地域に住んでいる人と疑問を共有できてよかった」「自分の身は自分で守ることが基本であることも再確認した」「時間軸にするとわかりやすく感じた」「避難訓練はしていても臨機応変に対応するためにはいろいろな情報を知っておかなくてはならないと思った」などの声が寄せられ、とても高評価だったと思います。また、今後何をしておく必要があると思うかという質問に対しては、「いざというときの連絡方法や行動の仕方について家族で話し合う」「備えの見直し」「地域で仲良くする」「様々な状況を想像しておく」といった答えが寄せられ、今回のワークショップのねらいは十分達せられたと感じました。

4. こうしたワークショップの必要性
 避難訓練や引き取り訓練、避難所の運営訓練…ふだん学校や地域でもいろいろな防災訓練が行われています。ですが、いざという時の自分自身の状況(その時の居場所、子どもの年齢や人数、自宅の形態などなどの条件・状況)を想像して、自分や家族の命を守るためにどう行動したらよいかということは、そのような訓練で触れられることはありません。しかし、東京でも近い将来大地震が確実に起こると言われている今、日頃から考えておかなくてはいけないことはまさにそういうことではないでしょうか。
 ご報告のとおり、このワークショップでは、行政が公開していてすぐ手に入れられるマップで自分が住んでいる周辺を振り返ることからスタートし、目黒巻きによって自分自身の行動をロールプレイングゲームのように具体的にイメージしていきます。そのため、参加者も「わが事」として高い関心をもって意欲的に取り組む姿が多くみられ、アンケートからもその様子をうかがうことができます。今回のように学校で教職員と保護者が一緒に参加したり、または地域で行うような機会が増えていけば、従来の避難訓練などでは不足していた情報や新しい視点を共有することができ、より現実的な防災対策を考えるきっかけになるのではないかと思います。

阿部佐紀子(市民研「市民と防災研究会」)

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