トツキトオカは死語なのか? 市民研理事による読み切りリレーエッセイ 第1回

投稿者: | 2018年3月15日


市民研理事たちによる読み切りリレーエッセイ
第1回

トツキトオカは死語なのか

上田昌文(NPO法人市民科学研究室・代表理事)

 二十歳前後の女子学生30人ほどを前に、化学物質の曝露が胎児にどう影響するかを話しているとき、「ところで皆さんはお腹のなかに赤ちゃんがどれくらの期間いるのか知っていますよね」と尋ねたところ、大半の学生が知らないとわかって、驚いたことがある。「十月十日」はもう死語なのか。
 
 以前私はbabycomの連載で書いた「特集:こども環境問題」のなかで、「現代の環境とヒトのからだができるまで」をまとめるのに、受精から新生児までの発生の科学知識を、図解・動画を交え、環境や健康の観点をふまえて的確に提供しているウェブサイトはないものかと精査したが、日本の大学医学部などには皆無で、それに比して英語圏の大学や民間団体などに充実したものがいくつもあることを発見した。この差は何であろうか。

 私は長年の市民研での活動をとおして、今の「理科」を全面的に解体し、広義の「生態学的科学」に組み直して、小学生から大人までの誰もが学べるようにすることが必要だと思うに至った。それは、身近な問題―「胎児はどんな危険にさらされやすいのか」はその一例―を解いていくことから始める、環境科学・生活科学・人間生物学を統合した学びだ。

 つい先日、発生生物学の世界的な教科書の著者として名高いScott Gilbert氏が来日し、新しく出た共著(『Fear, Wonder,and Science in the New Age of Reproductive Biotechnology』2017)の紹介をかねて、受精や妊娠の最新の科学をふまえるなら現行の生殖補助医療にはイデオロギー的な面も含めていかに問題が多いか、を論じていた。まさに社会的問題意識に裏打ちされた専門知の展開であり、同様の志向は、例えば訳書が最近出た2人の生物学者(J.B.キャロル『セレンゲティ・ルール』紀伊国屋書店2107、A.ロバーツ『生命進化の偉大なる奇跡』学研2017)にも見出すことができる。

 どうだろう、こうした科学者たちの発信も受けて、日本の科学教育の大変革に乗り出してみたいと思う人はいないだろうか。■

▶紙媒体の『市民研通信』に全文掲載している、800字以内の短いエッセイです。市民研の理事たちが持ち回りで執筆します。

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