土のバーチャル博物館 その5 みちのく北方漁船博物館

投稿者: | 2005年6月4日

森 元之
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 前回紹介した青森市森林博物館から、さらに歩いて10分ほどの場所に「みちのく北方漁船博物館」(注1)がありました。施設は片側は道路沿いに、もう片側は青森湾に面し、湾には本物のジャンク船(中国固有の木造帆船)が係留されていました。
■木造漁船200隻の迫力
 この博物館の魅力はなんといっても、かつて使われていた漁船の実物が体育館のような巨大な空間の中に所狭しと展示されていることです。資料によれば「青森県や北海道にかけての地域で、古くから使用されていた『ムダマハギ』型漁船。これは、船の発達や地域による特徴を知る上で大変貴重なものですが、急速に姿を消しつつ」あり、国の重要有形文化財に指定されたその木造漁船が67隻も展示されています。さらに日本のほかの地域や外国の木造船なども含め、実物が200隻展示されているというのはとにかく圧巻です。
 また、西洋と日本の船の構造や作り方の違い、古くからの漁船から最近のモーターエンジンにいたるまでの船の歴史も、実物を踏まえながら説明されていてとてもわかりやすい。しかも、美術館のようにガラスケースや距離を置いて配置してあるのでなく、そうした仕切りがなく展示されているので手で触れることも可能で、舟や漁具などの雰囲気をとてもリアルに体感できるのがいい。
 ただし残念だったのは、基本的に多くの船が平面的に展示されているのに対して、貴重なムダマハギ型漁船だけは立体に組まれた鉄骨の収納スペースに置かれ、まるでボート倉庫のようになっていて、一隻一隻を詳しく近くによって見ることができないことでした。収納場所の関係で、平面的に展示することができなかったのだと思うが、せめて狭いビルなどに併設されている自動車の立体駐車場のように、展示されている木造の川舟がスイッチ一つで詳しく見たいと思う目的の一つが目の前に提示されるような仕掛けがあってもいいのではないか、と思いました。
■現物とバーチャルの融合の可能性
 舟のほかにも漁で使われていた鉄製や木製の漁具も展示されていて、その形もとても興味深いものでした。ただし、こうした漁具の展示を見て思うのは、あるいはこれまでもいろいろな博物館で数十年前までに使っていた農具や生活用品の展示を見るときにいつも感じることなのですが、生活空間や使用状況を無視して美術品のように飾られていることにいつも違和感を感じるのです。「それはなぜなのだろう」と、この北方漁船博物館でも感じました。
 高価な芸術品は自分の生活とはかけ離れた意識で見ているし、古代文明や中世の生活用具などは歴史的な遺物として見ているから、静かで無味乾燥な展示空間におかれていてもあまり違和感を感じません。しかし数年 数十年前まで、つまり同時代的に使われていた農具・漁具・工具や生活用具などは、やはりその使われていた具体的な状況や使用方法、使っていた人の記憶や思い出、それを作った人のこと、さらにはどういう経緯を経て博物館の中に展示されるようになったのかなど、物に付随する情報はたくさんあるはずで、しかも時間的にも最近のことなのだから手間隙をかければ直接に取材できる情報も多いはずです。
 そうした情報を映像や音声などで、その展示されている物を触れると画面や空間に浮かび上がるという展示方法はICチップやユビキタス技術、バーチャルリアリティ関連技術などを組み合わせれば作れるような気がします。もちろん予算などは度外視した話ですが。土に関する展示をするときも、そうした有用な技術を組み合わせて使うことも必要なのかな、と感じました。
 時間の関係で、施設の前の湾に係留されている実物の船の内部に入れなかったこと、また手こぎ体験ができる池や、ボートに乗ってパナマ運河のシステムを体験できる場所もあったのですが、それも体感できなかったこと、さらに展望台から青森湾の風景を眺めることができなかったことが残念でした。
注1:ホームページアドレス http://www.mtwbm.com/
参考資料:「船の博物館」パンフレット(みちのく北方漁船博物館)
(市民科学第2号 2005年6月)

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