土のバーチャル博物館 その7 ドレークの式

投稿者: | 2005年8月4日

森 元之
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 前回は、太宰治の生家である斜陽館を訪れた話から、土と文学、サイエンスフィクションからソイルフィクションへと話がつながり、さらに人類以外の異文明との接触についてまで連想が広がりました。
 人類以外の異文明との接触というと、まさしく空想物語の世界と思われますが、しかし今現実に科学者たちが異星文明を探すためのプロジェクトを行っており、それは「SETI」(セチ:the Search for Extra-Terrestrial Intelligence、日本語では地球外知性体探査)と総称されています。
 このプロジェクトには膨大な観測データの解析が必要ですが、そのために公共機関の大きなコンピュータだけでなく、普通の市民から参加を募り、多数のパソコンの使用していない時間・機能を使って計算をするというプロジェクトとしても有名です。
 そのプロジェクトの説明に登場するのが、天文学者のフランク・ドレークによって提唱された「ドレークの式」といわれるものです。彼は宇宙に生命体がいる可能性を計算する方法を、
    N = R × fp × ne× fl × fi × fc × L
という式で表したのです。それぞれの要素の内容は以下になります。
 Nは銀河系内に存在する人類と交信が可能な宇宙文明の数。
 Rは一年間に銀河系全体で生まれる星の数。
 fpは生まれた星が惑星を伴う確率。
 neは星が惑星を持つ場合にその中で生命が生存できる条件を備えた惑星の数。
 flはそのような惑星上で生命が発生する確率。
 fiは発生した生命が知的な存在にまで進化する確率。
 fcは進化した知的生命体が他の星へ通信を送れるほどの技術文明を発展させる確率。
 Lはそのような宇宙文明が実際に通信を送る年数。
(以上の内容は『SFを科学する』講談社ブルーバックスより引用)
 これらの要素の数や確率を掛け合わせて知的生命体がいる可能性を数値として求めるわけですが、この公式が妥当だとしても、ne・fl・fiの三要素のところに土がかかわってくるでしょう。私が中学生か高校生の時に初めてこの式に接したときには特に何も感じませんでしたが、今、土のことを少しだけ深く学んだ人間としては、土があることの宇宙的視野での驚異を思うと、宇宙で知的生命体が誕生することの可能性の低さを感じてしまいます。
 しかし、一方で、宇宙には文字通り星の数ほど無限の数の恒星や惑星があることを考えると、そしてまた地球が特別な惑星ではない可能性も考え合わせると、案外、知的生命体の存在はあり得ないことではない、とも思えます。
■交易品は土?
 数年前、早稲田大学の大槻教授が火の玉の科学的解明を行ったり、心霊現象に異を唱えたりする番組がはやりました。時にはUFOや異星人の存在を信じる知識人や、霊能力を持つといわれている人と対論する特集番組もありました。そうした中で私が記憶しているのは、宇宙人がすでにいて地球にも来ていると主張する雑誌編集者の言葉です。大槻教授の「仮に宇宙人が地球に来ているとして、その目的は何か」という質問に対し、その編集者は「それは貿易が目的だ」という返事。そして「いったい宇宙人と地球は何を貿易しているのか」という大槻教授の追究に対しての返事が「土だ」という答えでした。
 宇宙人との交易品が地球の土というのは、仮に嘘だとしても非常によくできた嘘だと、番組を見ていた私は感じました。議論の中で、その瞬間口からのでまかせや思い付きでの返事ではなく、よく考えられた返事だと思いました。たしかに地球にまで飛来できる高度な宇宙間移動航法技術を持っているような知的生命体ならば、地球人が現在持っているような商品には魅力を感じないでしょう。それよりも生命の根源となる土、そして自分たちとは異なる生命を育んだ他の惑星の土はまことに魅力ある商品になることは間違いないでしょう。土の勉強をするようになって、ますますそれを感じました。
 ということで地球上の土のことを学んだり、その科学館を構想したりすることは、宇宙的な広がりを持っているテーマであると感じながら、斜陽館を後にしたのでした。
■ 参考文献
・ 石原藤夫・福江純『SFを科学する--どこまで真実? どこまで虚構?』講談社ブルーバックス
・ SETIのホームページ:http://www.planetary.or.jp/setiathome/
(市民科学第4号 2005年8月)

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