福島原発事故による放射能からの保養プログラム 2013年度の実施状況

投稿者: | 2015年1月9日

福島原発事故による放射能からの保養プログラム
-2013年度の実施状況-

鈴木一正(神戸大学)

pdfファイルはこちらから→csijnewsletter_028_suzuki_20141201.pdf

Ⅰ はじめに
福島第一原子力発電所の事故(以下、福島原発事故)の影響により、避難区域外にも深刻な放射能汚染が広がっている(鈴木、2014a;矢ヶ崎、2012)。例えば、沢野(2013)によると、日本の法律で放射線管理区域にあたる地域は、岩手県、宮城県、福島県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都の約100市町村に広がり、該当地域に住んでいるのは150万人を超えている。なお、放射線管理区域では、飲食や居住、18歳未満の作業などが法律により禁止されている(後藤、2013)。また、日本の法律における一般人の被ばく許容限度は年間1mSvとなっている(日本弁護士連合会、2011)。環境省の除染進捗マップによると、年間1mSvを超える地域は、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の約100市町村にわたっている(1)。なお、チェルノブイリ原発事故では、年間1mSv以上の地域の居住者に移住の権利が与えられ、避難基準は年間5mSvとなっている。一方、日本政府が定めている避難基準は年間20mSvである。ゆえに、避難区域内のみならず、避難区域外からも避難や移住をした人は多い。しかしながら、放射能で汚染された地域に残らざるを得ない人や避難先から放射能で汚染された地域に帰らざるを得ない人も多数存在する(鈴木、2014c)。

放射能で汚染された地域では、ごく普通の屋外活動や自然体験が制限されている(向井、2013;西村、2014)。例えば、屋外で遊ぶ時間や範囲が制限されていたり、土や草といった自然物に触れられない状況などが続いている(増田ら、2014;白石、2013)。筒井・高谷・富永・高原(2013)は、2013年1月に福島市と秋田県、福井県、兵庫県の幼稚園及び小学生の子どもがいる保護者に屋外活動の現状などについてアンケート調査を行った。その結果によると、「外遊びをさせる」と回答したのは福島市で22.4%、その他の3県で86.1%から88.1%、「ときどきさせる」と回答したのは福島市で49.5%、その他の3県で11.4%から13.7%、「させない」と回答したのは福島市で28.2%、その他の3県で0.0%から0.8%だった。この調査結果からも屋外活動が制限されている現状がわかる。

Ⅱ 保養と保養プログラムの定義と意義

1 定義
鈴木(2013)は、保養を「放射能の影響や不安がある地域に住んでいる人が、その影響がほとんどない地域に滞在すること」(p.50)とし、団体が主催する保養のことを「保養プログラム」としている。本稿では、この定義に従う。

2 意義
保養の意義を5点述べる。1点目は、保養では放射能を気にすることなく屋内外で過ごせるため、心身ともにリフレッシュできることである(鈴木、2013)。例えば、岡山で開催された保養プログラムの参加者から、ストレスがなくなった、体調がよくなったなどのリフレッシュできたという感想が寄せられている(子ども未来・愛ネットワーク、2013)。また、放射能に汚染された地域では、放射能の不安などについて話したり、被ばくを避けることがタブー視されている場合がある(河﨑・菅波・武田・福田、2012;矢ヶ崎、2012)。一方、保養プログラムでは、放射能に対する考えが似ている参加者が多い。ゆえに、参加者同士や主催者と放射能やその不安について話をすることが可能な場合があり、精神的なリフレッシュにつながりうる(藍原、2014;鈴木、2014a)。
2点目は、屋外活動や運動の機会を確保できることである。福島原発事故後に生まれた子どもの中には、保養プログラムに参加して初めて砂に触ったり、芝生に座ったりした子どもがいる(神戸新聞、2014;中島、2013)。また、屋外での活動や自然体験は、子どもの発達によい影響や教育的効果をもたらすことが期待される。
3点目は、一時的に放射線量が低い地域に滞在することにより、累積被ばく線量の低減を期待できることである(鈴木、2014a)。日本アイソトープ協会(2009)は、被ばく線量は可能な限り低くすべきであるとしている。また、チェルノブイリ原発事故後にロシアで行われた保養において、累積被ばく線量低下の効果が実証されている(尾松、2013)。
4点目は、体内にたまっている放射性物質の排出の効果が期待できることである(海南、2013)。チェルノブイリ原発事故後にベラルーシで行われた保養でその効果が実証されている(向井、2013)。放射性物質の排出は、内部被ばくを減らすことにつながる。
5点目は、保養プログラムの参加者同士や参加者と開催地の人との交流を通じて、新たな人間関係を構築することができることである。保養プログラム終了後に交流が続けば、参加者の居住地域での孤立感や不安を低減させることにつながりうる。

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