プロジェクト報告◆科学技術評価プロジェクト⑤ 構築的テクノロジーアセスメント(CTA)について

投稿者: | 2002年4月18日

プロジェクト報告◆科学技術評価プロジェクト⑤
構築的テクノロジーアセスメント(CTA)について
プロジェクトメンバー 吉澤 剛
doyou58_yosizawa.pdf
この春よりメンバーに加入させていただいた吉澤と申します。まだ2回しか勉強会に参加していませんが、少数ながら活発な議論が闘わされており、メンバーの皆さんから多くの刺激を受けつつ楽しく勉強させてもらっています。前回の勉強会は8月17日(土)に開かれました。「量子化機能素子」などの研究開発プロジェクトを立ち上げる際の合意形成システムについて理解し、「評価書」がどのように作られていくのか内実を探ることが課題でしたが、前者については通産省の組織図などから省内各部署の機能、位置づけ、情報の流れなどを大まかに把握することができました。経済産業省への再編などにより様々な変化が見られ始めていますが、まだまだ不透明なところが多いというのが正直な感想です。後者については、当メンバーが量子化機能素子研究開発プロジェクトの評価に関わった人物に実際にインタビューをすることを想定し、インタビュイー候補や質問項目をある程度考えておく、ということが宿題でした。しかし、これは思った以上に難しい作業であることが勉強会を通して明らかになってきました。
問題となったのは、どのようにインタビュイーにアプローチするかということでした。土曜講座のプロジェクトの1つとして調査をするということは、評価の内容、進め方について市民から見て問題と思われるところを取り上げて検討しようということなのですが、これは評価委員や事務方に必要以上に「市民の目」に対する警戒を抱かせることになります。そうなると評価報告書に表れない政治的思惑、委員間の駆け引きなどの内実を窺い知ることができません。こちらは評価書の問題点を取り上げ、なぜこのようになっているのかを純粋に知りたいだけのですが、相手にしてみればいちいち難癖をつけている印象になり、よほどうまく進めないと肝腎のことが訊けなくなりそうです。直球の質問を考えるだけでなく、ある程度質問群を作っておき、そこに至るまでのインタビューの流れなども重視していくことが必要であるとの結論に至りました。もちろん、こちらの組織や立場、調査の意図を事前にはっきりインタビュイーに伝えておくことも欠かせません。今後、インタビューの下準備を早めに進めていきたいと考えています。
◆ 構築的テクノロジーアセスメント(CTA)
6月の勉強会でCTAを簡単に紹介したところ、もっと具体的な例を挙げて説明してもらいたいと皆さんから要望があったので、自分の勉強も兼ねてCTAについてまとめた文章を前回発表しました。しかし、CTAを実践した報告書がほとんど訳されておらず、まだまだ概念的な議論しか取り上げられませんでした。CTAという概念自体、新しい評価に向けた実践を通じ変容し続けているものなので、今後の理論と実践の発展、深化によってもっとなじみやすいものになると思われます。
テクノロジーアセスメントを世に知らしめた米国技術評価局(OTA)が社会的使命を全うし1995年に閉じられましたが、ヨーロッパではOTAに触発される形で新しい技術評価のあり方が模索され始めました。とりわけオランダでは技術評価への「構築的」なアプローチが活発化しました。OTAが専門家に頼りすぎ、問題への技術的解決という評価目標そのものが疑問視されたことを踏まえ、脱中心化、問題分析の強調、可能な解決群の提示などを評価の新基軸として打ち出しました。CTAにおける重要な概念は、期待、反射性、社会的学習の三つです。期待とは、技術を市場における外生変数と見るのではなく、技術の歴史的発展を精査して市場の成長との相互作用を考える進化経済学に由来しています。技術的発展の不確実性は、ある技術革新、技術の導入への多くの道筋があることを意味します。技術評価者は将来の望ましい市場の姿を「期待」することで技術開発や評価の初期段階から潜在的な社会的問題を予測し、それを技術の発展行程や評価システムに反映することができるのです。特に「量子化機能素子」のような長期プロジェクトにおいて、評価の初期段階で半導体の将来の市場動向などの社会経済的分析がもっと重視されていれば、プロジェクトの方向性がより明瞭になり、評価のあり方も変わっていたことでしょう。
反射性とは、評価というものが知識と行動のダイナミクスに依拠しなければならないことを示唆しています。すなわち、評価に関わる各アクターが自らの知識によって認識される問題の解決のために技術を発展させそれを評価していくという行動が、アクター自身の能力・社会的立場そのものの問題を俎上に載せ、自らが前提としていた知識をも変化させることです。これはコンセンサス会議における専門家パネル・市民パネルという一義的なアクター化の妥当性にも踏みこんだ議論といえるでしょう。
社会的学習は、近年の評価システムで喧しく言われていることです。市民やユーザーなど当該技術に必ずしも明るくないアクターを評価に巻き込むことで、技術についての知識を深めさせること。逆に技術者などは彼らに平易な言葉で正しい知識を伝えるという説明責任を負うために、説明手法や技術の社会的背景を理解することになります。そればかりではなく、反射性により他のアクターの価値規範などを知り、彼らとの新しい関係を構築する方法を学ぶことも含まれます。
旧来の技術評価が「正しい解を問うこと」を目的としていたのに対し、CTAは「正しい問題を問うこと」に尽きます。何が問題となっているのかを見極めるために、評価の目的と手段は現在進行形で具体化していくのです。ただし、これは諸刃の剣であることを忘れてはなりません。目的も、評価の責任も曖昧なまま画餅に終わる可能性は十分に考えられます。最近、企業のコンプライアンスが日本的経営の弊害として取り沙汰されていますが、CTAでも評価の透明性と明確な責任体制は絶対に必要です。
まずこの国の評価システムの功罪を明らかにすることが、《構築的な》評価への第一歩になるでしょう。
◆吉澤剛プロフィールなど
プロジェクトリーダーの藤田さんの後輩でしたが、しばらく会社勤めをしていました。今秋よりホッケーと科学技術政策論を学びにイギリス留学をする予定ですが、語学力と物価の高さ、食生活がネックとなりそうです。毎日スパゲッティ作ってそうな予感……。
あとCTAの文献ですが、ここで主に参照したのは、
●Rip, A., T.J.Misa and J.Schot(eds). 1995. Managing Technology in Society: The Approach of Constructive Technology. London: Pinter Publisher.
です。CTAの理論と概念の歴史的発展についてはRipとSchotに詳しいです。
●Schot, J. and A. Rip. 1996. ‘The past and future of constructive technology assessment,’ Technology Forecasting and Social Change, 54:251-68.
●Schot, J. 1998. ‘Constructive technology assessment comes of age: The birth of a new politics of technology,’ in http://www.ifz.tu-graz.ac.at/sumacad/schot.pdf
●Schot, J. 2001. ‘Towards new forms of participatory technology development,’ Technology Analysis and Strategic Management, 13:39-52.
進化経済学はNelsonとWinter、それを発展させたDosiが知られています。
●Nelson, R.R. and S. Winter. 1982. An Evolutionary Theory of Economic Change. Cambridge, Mass.: Harvard University Press.
●Dosi, G. 1982. ‘Technology paradigms and technology trajectories: A suggested interpretation of the determinants and directions of technical change,’ Research Policy, 11:147-62.
社会的学習などについて。
●Grin, J. and H.van der Graaf. 1996. ‘Technology assessment as learning,’ Science, Technology and Human Values, 21:72-99.
●Schwarz, N. and M. Thompson. 1990. Divided We Stand: Redefining Politics. Technology and Social Choice. Hassocks: Harvester Wheatsheaf.
9月15日に渡英します。とりあえず一年間は帰国する予定はないので、今度プロジェクトの皆さんにお会いするのは来年の今ごろになるかと思います。途中入会ながらも暖かく迎え入れてくださった皆さんに感謝します。向こうでも最新の動向などを皆さんにお伝えして交流を続けていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。■
●第22回「湘南科学史懇話会」●科学技術論再考-科学史家の堕落か?●佐々木 力 氏(東京大学・科学史) 12
●日時:9月22日(日)午後1:30~5:00●神奈川県立「かながわ女性センター」2階、第一会議室小田急線片瀬江の島駅下車(終点)、徒歩15分(「江の島」の中)神奈川県藤沢市江の島1-11-1 電話046(627)2111(代表)●1000円●連絡先:猪野修治:電話046(269)8210 FAX 046(269)8213■

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