社会が求める”市民科学者”とは

投稿者: | 2003年2月15日

ここに掲げる記録は、東京大学の学生さんからなる自主ゼミ「科学者との対話」に上田が招かれて行なった講演を、ゼミの学生の皆さんがまとめてくださったものです。このゼミは、様々な専攻の学部と大学院の学生からなるゼミで、講演当時は10数名の方々が集いました。

東京大学教養学部(駒場キャンパス)で鈴木達治郎客員助教授(当時)を講師に迎え、「科学技術と民主主義」ゼミとして1999年10月に開講。原子力発電、遺伝子組み換え食品、先端医療技術などを題材にして科学技術と社会の関係と、両者を結びつけるものとしての民主主義のあり方をめぐって活発な議論が行われ、これが現在の「科学者との対話」ゼミの前身となりました。2001年10月〜2002年1月の第1期「科学者との対話−リーディングサイエンティストの意識を学ぶ−」を経て、第2期の「科学者との対話−社会は科学に何ができるか−」では、「科学、科学の専門家、科学技術を扱う人達とそれ以外の人達との間の溝について様々な分野の人に意見を聞き、分析、議論する。そして溝を埋めるための方法を考え、ゼミとしての見解を社会へ発信する」ことを目標に

* 第02回 10/16 瀬名秀明先生 「パラサイトイブ」著者
* 第03回 10/25 菊地卓司先生 NHK青森放送局記者
* 第04回 10/30 石浦章一先生 東京大学大学院総合文化研究科教授
* 第05回 11/06 島薗進先生 東京大学大学院人文社会系研究科教授
* 第07回 11/20 丸幸弘先生 (有)リバネス代表取締役社長
* 第08回 11/27 本川達雄先生 東京工業大学大学院生命理工学研究科教授
* 第09回 12/04 松本三和夫先生 東京大学大学院人文社会系助教授
* 第11回 12/18 新藤宗幸先生 千葉大学法経学部教授
* 第12回 01/15 上田昌文さん 「市民科学研究室」代表
* 授業外 3月12日 中村桂子先生 JT生命誌研究館館長
といった人たちが講師として招かれました。
*第1、6、10、13回は学生のみによるサークル内ミーティング

ゼミのウェッブサイトでは、活動の趣旨を次のように述べています。

DWS(Dialogue with Scientists:科学者との対話)はその名前の通り対話形式のゼミです。さて、ここで考えていただきたいのですが、なぜ「対話」なのでしょうか。そもそも「対話」とはどのようなものなのでしょうか。
対話とは:我々の考えるところでは「対話」とは単なるおしゃべりや議論ではなく、相手の意見に耳を傾け、相手の立場・考えを理解した上で自らの意見を述べ、相互理解を深めていくことです。
さて、現代社会は科学技術に関する問題をはじめとしてさまざまな問題を抱えており、社会の至るところで文句や不満が聞こえてきます。しかしながら、これらの問題に対してお互いが文句や不満を言っているだけでは状況は一向に改善しないどころか、むしろ悪化してしまうことでしょう。
なぜ「対話」か これらの問題を解決するためには何よりも関係者間の相互理解が不可欠であると我々は考えています。これがなぜ「対話」なのかという問いに対する答えです。
そして、ゼミの目的は科学に関する諸問題をテーマに講師の方々と対話をすることで、参加者である学生の社会に対する問題意識を高めてもらうことにあります。

以下の講演録にみられるように、後半の「質疑」では活発な質問が出されました。有意義な”対話”となっていましたことを講演者として願うばかりです。この機会を提供してくださった鈴木達治郎先生や学生の皆さんに感謝いたします。また記録を起こす労をとってくださった、高橋哲也さんをはじめとするゼミの運営メンバーの方々に心からお礼申し上げます。(上田)

はじめに

皆さんはじめまして。今日の話はNPOとして科学技術社会に関する活動をここ10年続けてきて今の成長した姿を皆さんに簡単にご紹介する、それを通して皆さんがこれから科学の専門家として、あるいは他の仕事でもいいのですけれども、科学に関心を持った人間としてそれにどう関わるか、という時の参考にしていただけたらな、と思います。

私は皆さんとはだいぶ歳が離れているのですが、80年代の半ばぐらいに皆さんぐらいの年頃、学部学生でした。専攻は生物学です。生物学者になるつもりだったのですが、途中で方向転換して、今の活動の出発点になる研究会みたいなものを自分で組織して、友達に声をかけて始めた。それが10年経ってNPO として一応看板を掲げて、全国に支援してくださる方が200名ぐらい出てくる規模になってきました。組織の名前は「科学と社会を考える土曜講座」ということでこれまでずっときたのですが、去年の12月にこれからは私達の組織もシンクタンク的な機能を強めていこうじゃないか、ということで、看板を付け替えて新しく「市民科学研究室」という名前にしました。

それと同時に、本郷の東京大学正門のすぐそば、正門から歩いて20秒ぐらいのところに事務所を構えることができました。スタッフが入れ替わり立ち替わり昼の時間に来て仕事をしています。皆さんもよかったら立ち寄ってください。

市民科学研究室の活動の概要

まず私達はどんな活動をしているかというと、出発点は月一回の研究発表です。これが土曜日に行われていて誰でも参加していいということで、今後はこの研究発表会そのものに「土曜講座」という名前をあてることにしています。現在まで10年間で150回近く続いています。どんなテーマでやってきたかはあとで詳しくお教えします。これが私達の活動大きな柱の一つです。いろんな人を呼んだり、知り合ったり、自分たちで勉強したり、ということがこの機会を通じて繰り返されていくわけです。

もう一つの大きな柱は「プロジェクト」です。プロジェクトごとの勉強会とか調査研究を進めます。シンクタンク機能を強める、というのはこのプロジェクトをもっと専門的にレベルを上げる、という意味です。これについてもあとで詳しく紹介します。

自前のメディアとしては『どよう便り』という通信(16〜20頁)を毎月発行しています。さっき言った研究発表でやっている講座のまとめだとか連載記事だとか書評だとかいろいろ雑多なものを、毎月会員の方にお届けしています。今のところ、メール版で購読するだけの会員や研究発表レジュメをもあわせて購読する会員などいろいろな類別があるのですが、全部あわせて約200名。会費は一番安いので2000円一番高いので、NPOとしてはちょっと破格ですが、2万円を設定しています。全体として会費の収入だけで、年間200万弱というところです。それ以外にもろもろの収入があって、全体として300万円くらいの規模で動いています。でも、あとで言いますように、私達のプロジェクトをきちんとしたかたちでやるには年間500万円は絶対に必要です。事務所も構えその経費もかかることですし、とにかく500万円とれるようがんばろう、というのが私達スタッフで申し合わせていることです。

会員の人だけが入れるメーリングリストを作っています。現在参加者は30数人。毎日5通とか6通いろんな意見や情報や広報とかが寄せられていまして、多彩な人が関わっているから話題が豊富でついて行くのが大変、そんなメーリングリストになっています。

プロジェクトとも関係するのですが、科学技術と社会に関するいくつかの問題を私達なりに調べて一つの参加型パッケージにしているものがあります。数人から10数人の人を対象に、実際に体を動かしてもらったり、討論してもらったり、グループを作って図を描いてもらったりとか、そういうことを通して科学技術の社会問題に対する意識を深めるワークショップを、私達は3種類ぐらい用意しています。これまで芝浦工大、慶応大、東工大の授業やサークル、そしてある環境問題NPOに招かれて実施しました。それなりに好評だったので今後もワークショップを拡張していく予定です。

“講師の派遣”も行っていますが、これは簡単に言うと私とかスタッフの誰かが呼ばれて講演をしたりするということです。

それからもう一つは書籍とビデオ、ですね。じつは科学技術と社会に関わる書籍はかなりでてきているわけですけれども、それだけを集めていつでも見られる状態、いつでも貸し出せる状態にしているという所はほとんどない。皆さんご存知のように大学の図書館はすごく立派ですけれども、外の人たちつまり一般市民が大学の図書館を利用できるかというとなかなかそうはいかなくて、いろいろ制約があります。東工大なんかは一般に開放していて非常に立派だと思うのですが。”科学技術社会”に特化した書籍や文献を私達が集められた限りで誰にでも貸し出せるようにしています。

もう一つはビデオですが、これは日本全国探してもやっているところはないと思うのですけれども、ほぼ10年前からテレビで放映されたドキュメンタリーで私達の活動に関係しそうなものを全部録画して保管しています。これはもちろん、貸出して料金をとるとなると著作権に反します。しかし資料としては非常に有用で、例えばある一つのテーマについて最近の知見を勉強するときに関連のビデオを5、6本まとめてみると、新しいことがいっぺんに追えるというメリットがあるわけです。自分たちの勉強や研究、それに準じる他の方々の活動に生かしてもらうことをねらいにしています。もう10年もやるとビデオの数が 500本を超えてしまい保管場所に困っているということもあるのですが。

それから、一昨年から始まったのですが、「エコツアー」があります。これは海外のNPOですとか、私達に関心を持ってくれている人、それから私達の仲間や友人……などに会うために海外に出かけていって10日間ぐらい滞在し、見聞を広めてくるわけです。2001年にはイギリスに行きました。主に大英博物館を含めいくつかの博物館を巡り、電磁波関係のNPOとかを訪問しました。去年はアメリカに行きました。9.11の現場ですとか、たまたま向こうに環境保護庁の役人をしている方の知り合いがいたので、その方のコーディネートでシカゴのいろいろ知られざる面を見ることもできました。今年は中国語の初歩を日本で学んで、中国に行きます。エコツアーはお金と時間の都合つけられる方々が10人前後参加するという規模になっています。

だいたいこういうことをやっています。

続きはこちら(PDF)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA