図書館総合展2024に参加して

投稿者: | 2025年1月6日

図書館総合展2024に参加して

林 浩二 (千葉県立中央博物館 共同研究員)

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  1. 図書館総合展

図書館総合展(公式サイト https://www.libraryfair.jp/)は、図書館に関する総合的な展示会です。歴史的経過等については、今井福司(2019)が詳しく紹介しています。それによると、1999年から2003年は東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内)で、2004年からはパシフィコ横浜(横浜市西区みなとみらい)で開催されてきました。

わたし自身は2018年から参加していますが、パシフィコ横浜のホールの展示場の複数区画を使って大規模に開催したのを見ているのは2018年と2019年だけです。Covid-19のパンデミックの影響で2020年から2022年はオンラインが中心の開催となりました。2023年には4年ぶりにパシフィコ横浜での開催でしたがホールCの1区画だけで、2018・2019年に比べるとぐっとコンパクトな開催でした。2024年も展示はホールCでコンパクトでしたが、フォーラムなどは別棟等で開催するほか、オンラインも充実していました。ここでは、オンラインについては省き、図書館総合展2024の主に会場での3日間についてわたしが見聞きしたことを中心に記すことにします。本文中、敬称は省略することをお断りしておきます。

 

  1. 図書館総合展2024

このイベントの組織と運営については、開催に先立って、「図書館員・研究者・出展団体代表等」で構成されている主催者の図書館総合展運営委員会(2024)から発表されており、2023年の入り込みなどの統計値についても出ています。

開催目的として、

・館種と立場を越えた図書館界全体の交流・情報交換の場を提供する

・図書館または隣接周辺分野に関するトピック・技術・製品サービス情報について<1年分のまとめ>の役割を担う

・図書館界にくる新しい方々・団体にとってのガイダンスとなる

・もって図書館界全体の振興と発展に寄与する

が記されています。また運営経費は、「出展者からの出展費用によって賄」い、「参加者から参加料は徴取しない」のも特徴の一つです。運営事務局は株式会社カルチャージャパン(https://j-c-c.co.jp/)が担い、運営方針や実施企画は運営委員会で決定しているとのことです。

「出展要項・出展申込表・開催概要(第26回図書館総合展2024)のご案内」(注1) で概要をみていきます。会期は、対面では11月4日(火)~6日(木)にパシフィコ横浜ホールCの他、サテライト会場もあります。オンラインイベントは6月29日(土)~7月7日(日)および11月16日(土)~24日(日)と2期に分かれて行われました。展示への出展は有料、参加はすべて無料です。

図書館総合展2024の会場案内図

 

ブース(https://www.libraryfair.jp/booth)には図書館関係の企業など事業者、行政組織、図書館組織、その他が出展しています。それぞれのブース内でトークセッション等を自由に企画・運営していました。他にポスター(https://www.libraryfair.jp/poster)のスペースがあり、個別の図書館、大学の研究室、学内サークル等々きわめて多様な主体が出展していました。前述の開催概要によれば、 非営利団体・個人向けのアカデミックプランなら、会場3日間とオンラインの両方でのポスター展示が2万円で行えます。

イベント(https://www.libraryfair.jp/forum)のうち、フォーラムはパシフィコ横浜の別棟アネックスホール等で行われ、主催者企画および団体企画が午前1枠・午後2枠あり、多くは事前申込制で参加を募っており、賑わっていました。ほかにスピーカーズコーナーや、ブース内でのイベントなどもありました。

 

  1. 越境・Openのための逗留地

今回のわたしの主目的は、この「越境・Openのための逗留地(注2)」に参加することでした。サイトによれば、「博物館をはじめとする様々な文化施設や地域社会への越境」、「2024年の状況にあわせたデータのOpen化を論じられる場」、「図書館総合展の会場内で一息ついて逗留できる場」とのことです。発表セッションのために大型モニター(40インチほど)と20ほどの椅子が用意され、1時間きざみで発表が行われ、一部はオンライン併用で行われました。スペースの一部には畳6畳が敷かれ、持ち寄られた各地の菓子などもあり、くつろぐ方もおられました。3日めの午前中にはアネックスホールで90分間のフォーラムを開催しました。

「越境・Openのための逗留地」説明ポスター

この企画は、次世代型文化施設フォーラム(注3)とOpenGLAM JAPAN(注4)のメンバー6名、大向一輝(東京大学)・呉屋美奈子(恩納村文化情報センター)・佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)・佐々木秀彦(アーツカウンシル東京)・花田一郎(大日本印刷株式会社)・福島幸宏(慶應義塾大学)によるものです。

わたしも参加している小規模ミュージアムネットワーク(愛称;小さいとこネット、注5)でもパネル1枚と机スペースを使わせてもらいました。

「小さいとこネット」ポスター

  1. 越境・Openのための逗留地のブースでの発表から

こちらのブースでの発表題目・発表者はウェブサイト(注2)に出ています。ここでは、わたしが現地で参加したいくつかを取り上げます。

・ デジタルアーカイブをIIIF〈トリプルアイエフ〉で拓いてみよう

デジタルアーカイブの基幹的な技術・仕様であるIIIFについて、オープンアクセスの書籍、『IIIFで拓くデジタルアーカイブ』(注6)を元に紹介していました。PC/MacにPython(パイソン)をインストールしてもらえば、あとは単純な操作で可能とのこと。IIIFを使っていても、サイトのURLや階層構造の変更に起因する画像へのリンクが切れてしまう事案もあり、注意が必要だと思いました。

・ デジタルな社会の博物館、国際動向をにらみながら

2024年9月に沖縄で開催された自然史系博物館の資料管理の国際会議;国際自然史標本保存学会(SPNHC)と生物多様性情報標準化委員会(TDWG) 沖縄大会(注7)とそこで話題になったこと等が紹介されました。

「デジタルな社会の博物館、国際動向をにらみながら」セッションの様子

・ 博物館のOpen化、進めるには何が足りない? CivicTechにできることは?

話題提供者はいずれも自然系・自然史博物館系の学芸員だったため、自然史系に絞って博物館資料の公開について話されました。GBIF; Global Biodiversity Information Facility)(注8)、JBIF; 日本生物多様性情報イニシアチブ(注9)、S-net; サイエンスミュージアムネット(注10)などが紹介されました。市民が使う/使える技術で課題解決に取り組むCivicTechの例1; 生物分布情報を集めるスマホアプリ「iNaturalist(注11)」 のデータは専門家等による確認を経て上記のGBIFに接続しているとのこと。例2;市民参加の生物写真で生物の分布を確認する「BioBlitz」(注12)はアメリカの国立公園で1990年代に始まった、24時間というように時間を決めて探す生物調査イベント。BioBlitzはスマホ時代の最近でも、駒場地区とか、白神山地などでも行われているようです。

・ 小さいとこ図書館総合展に集まろうジャン

小規模ミュージアムネットワーク(小さいとこネット)とは何かの説明と、わたしも加わった図書館総合展で2018年、2019年に小さいとこネットが行ったポスター展示についての説明から始まりました。話題としては、小規模館では職員が少なく手が回らないため、標本づくりや標本資料の公開などについては、大きな館とつながる必要が指摘されました。資料の保存に関して、中性紙箱は高価なので別の手段を工夫する必要という指摘があり、資料を中性紙の畳紙(たとう)で包むのは有用かもしれません。他に、小規模ミュージアムでも退職職員の記録・技術や暗黙知、さらにはネットワークの継承も必要と指摘がありました。

・ 速報! ColBaseの利用目的アンケート集計結果(2024年度上半期)

独立行政法人国立文化財機構(https://www.nich.go.jp/)が公開しているデータベースのうち、

ColBase; 国立博物館所蔵品統合検索システム(注13)の利用について、2024年4月から9月の利用者アンケート集計(半数程度が回答)の超速報でした。そのうち、利用1件という資料がたくさんあり、一部の資料だけが利用されているわけではないというのは驚きで、この結果からは、著名な資料の画像だけ公開すればよいわけではないことになりそうです。

・ AIによる絵本推薦システムの活用

同じ物語でも異なる挿絵で刊行されている絵本について、タッチパネル式に選んでいくことで、自分好みの絵本が選べるシステムを構築・検証中という話でした。沖縄県恩納村の子どもの言語発達に図書館ができることを模索しているという話題もありました。

・ DH権利問題ガイドのご紹介

『デジタル・ヒューマニティーズ(DH)研究に関する権利問題ガイド』(2024年4月、注14)についての紹介でした。たとえば個人情報の取扱に関して、ガイド9ページに掲載されている各種のガイドラインなどを詳細に参照する必要があることがわかります。

・ 図書館・博物館の動きを国際的視点から眺めてみる

ヨーロッパあるいは米国の図書館が社会の分断にどう対応しようとしているのかが紹介されました。加えて国際博物館会議ICOMの規約における博物館の定義の改定についても併せて議論されました。

 

  1. 越境・Openのための逗留地のフォーラム(11月7日午前、第3会場)

今回の企画者らが登壇して、文化施設の越境と資料情報の公開について多岐にわたって議論され、会場とのやりとりも行われました。エピソードの一つとして、資料情報の公開の初期から、公開することへの抵抗勢力による公開しない理由のリストが収集・公開(注15)されているという話題が出ました。

 

  1. 博物館と図書館の越境を模索する2つのフォーラム

博物館と図書館を結びつけるテーマのフォーラムがいくつかあり、わたしが参加した2つについて触れておきます。

・ フォーラム「図書館総合展で博物館を語る」 (11月7日午後、第3会場)

https://www.libraryfair.jp/forum/2024/1315

半田昌之(日本博物館協会 専務理事)と神代浩(図書館海援隊長元文部科学省社会教育課長)の対談。

神代浩の紹介文に「東京国立近代美術館長在任中の2018年、美術館に関わる全ての人々のための総合展、アート・ミュージアム・アンヌアーレ(AMA)を開始」とあり、2019年にもAMAが開催されました。前述の小規模ミュージアムネットワーク(小さいとこネット)の図書館総合展におけるポスター展示は、このAMAの一部として行ったものです。

対談の最後に、次回の図書館総合展2025では、AMAを”All Museum Annuale”として開催することが発表されました。

フォーラム「図書館総合展で博物館を語る」の様子

 

・ フォーラム「博物館学芸員vs図書館司書~本気の越境を目指して」 (11月7日午後、第3会場)

https://www.libraryfair.jp/forum/2024/1316

河瀬裕子(大阪府泉大津市立図書館シープラ館長)と持田誠(北海道十勝郡浦幌町立博物館学芸員)の対談で、コーディネーターは神代浩でした。

 

  1. まとめに代えて

2019以前よりはコンパクトになったとはいえ広い会場のすべてを見ることはできません。注目したいくつかのことを挙げておきます。

昨今の災害が頻発する情勢を反映して、「災害と図書館2024」(注16)が大きなスペースで開催されていたのはとてもよいことだと感じました。

図書館というと、どうしても公共図書館や大学図書館のように全ての分野の出版物を扱うと考えがちですが、その対極として専門分野を限って所蔵する専門図書館もあります。博物館の図書室も専門図書館的な傾向が高いです。あなたも使える専門図書館2024(注17)でさまざまな分野ごとに専門図書館があることはもっと知られて良いし、特定のテーマについて探す時には重要な探索先になるように思いました。

上記「逗留地」にいる時に、20人くらいのグループで会場内を歩いているのを何度も見かけました。これは「学生さん&初任者さん・異動者さんのための展示ブースツアー」で、会場で7回とオンラインでも開催されていました。これは、冒頭の開催目的の3項目「図書館界にくる新しい方々・団体にとってのガイダンスとなる」に即したものであり、素晴らしいことだと思います。

次回、図書館総合展2025は、対面では2025年10月22日(水)~24日(金)にパシフィコ横浜のホールC他で開催されることがアナウンスされています。大勢の図書館や博物館の専門家に自分たちの活動についてアピールして、コミュニケーションし、連携を結ぶとてもよい機会となると思われます。この記事をご覧のみなさまがいろいろな形で「参加」を検討されるよう期待します。

saveMLAK(注18)によるポスターの例。会場3日間でこのスペースと、オンラインでの公開でアカデミック枠なら2万円で出展できる。


注 ※リンクはいずれも、2025年2月にアクセスしたものです。

注1 出展要項・出展申込表・開催概要(第26回図書館総合展2024)のご案内

https://www.libraryfair.jp/news/2024-02-21

注2 https://openglam.github.io/LF2024.html

注3 次世代型文化施設フォーラムについては以下のサイトを参照。

https://sites.google.com/view/jisedaiforum/home

https://www.facebook.com/groups/315435901976434

注4 OpenGLAM JAPANサイト(https://openglam.github.io/) のうち、「図書館総合展2024」は上記注2へのリンクであり、「図書館総合展2019」は2019年の「〈Open〉のための逗留地」の記録である。なお、GLAMとは、Galleries, Libraries, Archives, and Museumsの略。

注5 https://chiisaitokonet.jimdo.com/

注6 文学通信のブログサイトでPDFが無償公開されている。書籍版の販売もある。

https://bungaku-report.com/iiif.html

注7 https://www.tdwg.org/conferences/2024/

注8 https://www.gbif.org/ja/

注9 https://gbif.jp/

注10 https://science-net.kahaku.go.jp/

注11 https://www.inaturalist.org/

注12 全般としてhttps://en.wikipedia.org/wiki/BioBlitz 検索すれば白神山地や駒場の例が出てくる。

注13 https://colbase.nich.go.jp/

注14 https://drive.google.com/file/d/1G2rfNSCWTEp-mWPD7wfAJkV9_IQD_unT/view

注15 Reasons (Not) to Release Data

https://sunlightfoundation.com/2013/09/05/reasons-not-to-release-data/

注16 https://www.libraryfair.jp/booth/2024/373

注17 https://www.libraryfair.jp/booth/2024/378

注18 https://savemlak.jp/

 

文献

今井福司. 2019. 図書館総合展の20年. カレントアウェアネスCA1944 (2019年3月20日)

https://current.ndl.go.jp/ca1944

図書館総合展運営委員会. 2024年3月. 図書館総合展の組織と運営につきまして.

https://www.libraryfair.jp/sites/default/files/2024-02/LF_about_240229.pdf

 

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