市民研サーチライト 科学時事最新記事論文紹介 補遺(1) 2025年3,4,5月分 

投稿者: | 2025年4月30日

市民研サーチライト 科学時事最新記事論文紹介

補遺(1) 2025年3,4,5月分

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上田昌文(市民研・代表)

▶毎週開いている「土曜広場」で、「市民研サーチライト」のなかから取り上げた記事論文を扱っています。

▶写真をクリックすれば「土曜広場」での解説がポッドキャストで再生できます(市民研YouTubeチャンネルにも掲載中)。

▶論文や資料へのリンクはすべて、この記事を掲載した『市民研通信』の発行時点で確認したものです。

 

認知症との関係についての報告も ペットボトルや食品包装材のマイクロプラスチックの驚くべき摂取量と、懸念される健康影響 その対応策は?

人間の脳にスプーン1杯分のマイクロプラスチック、認知症と関連性が指摘される
Human microplastic removal: what does the evidence tell us?
Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains

「脳内には、マイクロプラスチックやナノプラスチックが大量に蓄積しており、腎臓や肝臓と比べると、最大で30倍にもおよぶ」という報告の続報(※1)。プラスチック粒子が認知症発症をどう引き起こすのかは未解明だが、「2016年から2024年のわずか8年間で、脳内のマイクロプラスチック濃度が劇的に増加している」ことからも、疫学調査とともに、曝露を減らす対策は急務だろう。個人でできるのは、ペットボトル飲料とプラスチック製ティーバックの使用を控えること。ペットボトル飲料の中のマイクロプラスチックの量については※2も参照。

※1:マイクロプラスチックは脳に蓄積する。他の臓器に比べ最大30倍の濃度

※2:ペットボトルの飲料 大量のマイクロプラスチックが入っている 脳卒中や心筋梗塞のリスク

 

パンツを土に埋めよう、市民による土壌調査 「シチズンサイエンス」

「そうだ、パンツを土に埋めよう」スイス全土に広がった、市民による土壌調査

元記事はScienceのこの論文(※3)。スイスのこの「市民科学」プロジェクトは「埋葬用に同一の下着1000枚を提供し、参加者には管理方法を記録し、約900点の土壌サンプルを採取した」というからすごい。下着の劣化状況と土壌サンプルの分析から、土壌の健康度合いを測る簡単な指標を得ようとするものだろう。この手のツール開発は、アイデアひとつで、いろいろな種類のものが作れそうな気がする。「パンツ」と同様のインパクトをもたせることができれば、1000人の協力者を得ることはできるのではないか。

※3:Assessing soil health with underpants

※4:このプロジェクトの団体のウェブサイトはBeweisstück Unterhose(ドイツ語で「証拠のパンツ」)

 

除草剤で使われる「グリホサート」論争

The glyphosate debate

EUはこれまでグリホサートについて3回評価を行ってきた。最新の評価は、EFSA(欧州食料安全機関)と欧州化学物質庁(ECHA)によって実施され、「現時点では使用禁止の科学的または法的根拠はない」と結論づけて、この農薬は2033年までEU内での使用が承認されることとなった。ただ、グリホサートの使用の禁止や厳しい使用制限を設けている国々もある(仏、独、墺、伊、スウェーデン、デンマークなど)。全面容認されている日本(※5)で今後どうすべきかを、こうした国々の判断事情を知った上で、このエッセイでも言及されている長期的・複合的な影響や生物多様性への影響も考慮しつつ、再考すべきだろう。

※5:日本では「「ラウンドアップ」への誹謗中傷に企業が損害賠償請求へ」という動きさえある。

※6:基本文献の一つに1000件の論文をレヴューしたIARC Monograph on Glyphosateがある。

 

山火事や水害で飛散する「真菌」による感染症

In the ashes
The Rise of Deadly Fungal Pathogens
Foiling the Growing Threat of Fungal Pathogens

「年間650万件の侵襲性真菌感染症が発生しており、症例数は毎年増加している」「侵襲性真菌病原体による死亡率が40%を超え、現在これらの感染症を治療できる薬剤がほとんど存在しない」のは、大きな脅威だと言える。病原性真菌の拡散と感染のルートをできるだけ明瞭に把握して、必要に応じて“水際対策”を可能にする手立てが求められている。医真菌の研究者の数が国内で少ないことも問題だが、かなり領域横断的な取り組みが必要な問題だけに、国際的に今どう動こうとしているのか、さらに調べてみたい。

※7:山火事の後に真菌感染症の患者の増加についてはこちらの論文を参照。

※8:One Environment-One Healthの考え方についてはこちらを参照。

※9:医真菌の基礎知識については「医真菌ノート」がある。

 

動物実験をやめていく欧米の動き 日本では?


Landmark bill to phase out animal testing introduced in parliament
Landmark YouGov poll says 70% of Britons support law to end animal experiments in medical research by 2035

この問題については随分前だが、上田は2篇のエッセイを書いたことがある(※10)。今でもそこで表明した考えは変わっていない。

また最近(2025年4月15日)に衆議院第一議員会館大会議室にて「実験動物と畜産動物の保護・ウェルフェアのためにすべきことを考える院内集会」が開かれ、そこでも発言した(※11)。日本での代表的な運動団体(※12)や、ほんの一例だが、海外での動物実験廃止に関わる著名な団体(※13)も挙げておいたので、参考にしてほしい。

※10:連載「生命へのまなざしと科学」あなたは動物を苦しめていませんか (1) (2)

※11:院内集会の動画

※12:PEACE 命の搾取ではなく尊厳を    NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)

アニマルライツセンター

※13:Animal Free Research UK Animal-Free Safety Assessment (AFSA)

 

「体外受精」の全自動化、遠隔操作が可能に 普及の問題点


AIが命をつなぐ時代に。世界初、遠隔操作の全自動体外受精で赤ちゃんが誕生

2022年の体外受精での出生児数が約7.7万となり(2022年の総出生数77万)、初めて10%を超えた。一方、受精治療件数は49万8140件で、こちらも増加傾向にあるものの、妊娠に成功した人は、20代でも精々50%未満であり、35歳を過ぎるあたりからその率は急激に下ることがわかっている。体外受精を全自動化がこの成功率を上げることにどう寄与するかは不明だが、もしそうなれば、「遠隔でも受けることのできる安定した技術」として普及して行く可能性が高いと思われる。しかしこれは治療のハードルが下がるだけに、非倫理的な利用に道を開く恐れもあるわけで、前もっての審査なり、合意なりの手順をどう整えておくかが問われるだろう。

※14:この全自動化システムを作ったのは Conceivable Life Sciences

※15:New Hope Fertility Center というクリニックは精子注入ロボットを使った体外受精(IVF)を成功させている。

 

 

じつは化学物質だらけ 家の中の「ホコリ」を掃除するには?


実はPFASだらけの家のほこり、白血病とも関連、米研究

ハウスダストや日常的に使用し接する消費財などから、主に吸引をとおして、人の平均的な行動パタンに照らして、どのような化学物質をどれくらい曝露することになるのかは、おそらくもっと詳細に研究されなければならない問題であろう。掃除をこまめに丁寧に行うこと以外にも、日常の行動で励行すれば曝露リスクをかなり低減できるだろうことはいろいろとありそうだ(例えば布団を天日干しすることを効果など)。ほこりの吸引については室内換気も関わってくるだろうから、いろいろな条件のもとで吸引量がどう変化してくるのか、もっと知りたいところだ。

※16:ほこりに含まれる有害化学物質についてはこの論文

※17:PFAS曝露のかなりの割合がハウスダストである可能性があることについてはこの論文

※18:ほこりに含まれる化学物質への曝露が子どもに及ぼす影響についてはこの論文

※19:難燃剤への曝露を減らすための家の掃除と手洗いの習慣の有効性についてはこの論文

 

世界のおよそ15%の農地に「重金属汚染」が広がっている理由 スマホとの関係


About 15% of world’s cropland polluted with toxic metals, say researchers
Can mining save the world?

これは『Science』に掲載された論文(※20)にある「1,493件の地域研究から採取した796,084地点におけるヒ素、カドミウム、コバルト、クロム、銅、ニッケル、鉛による土壌汚染に関する世界的データベースを分析し、機械学習技術を用いて農業および人間の健康の閾値を超える地域をマッピングした」調査からみえてきたことだ。また、鉱物をはじめとする資源開発がどれほどすさまじい、環境汚染と人権侵害がなされてきたかは、数多くの報告や出版物があって、とてもここでは語りきれない(※21)。希少性が高くて開発競争が激しいものほど、環境や人権への配慮は無視される傾向がある。各国の開発を第一線で担っている省庁や研究機関や総合商社などの動向を詳細に監視しておく必要があるわけだが、誰がどこまでやるれるのか、が問われることになる。

※20:元論文はGlobal soil pollution by toxic metals threatens agriculture and human health

中国清華大学の研究チームが報告で、日本も水田耕作地が汚染懸念地であることも示されている。※21:最近上田が知った事実で最も驚愕させられたのは、石油や天然ガスを採取するため掘削され、そ

の後、使われなくなった廃坑井(はいこうせい)から有毒ガスが漏出している問題だ。

それを扱ったドキュメンタリー「ゴースト オブ オイル 廃坑井が危ない」は必見だ。

 

「加工食品」との付き合い方 コーヒーは?パンは? 味覚、時間、栄養、健康


Against Corporate Food

「自然(未加工、非加工)」と対比させつつ、加工食品の加工の種類と度合いに応じて、食生活のなかでの取り込まれ方がどう違っているか、そこに影響するものとして、食材の購入方法、働き方、食費のかけ方、食事形態、そして味覚の形成のされ方……などがどうかかわってくるか、といったことを総合的にとらえてみたいとずっと思っている。市民科学研究室のライブラリに収めている翻訳書などのいくつかはこの「食システム」の歪みをテーマにしたもので、非常に読み応えがある(※22)。このエッセイが掲載されている『Current Affairs』にも痛烈な問題提起をしている別のエッセイがある(※23)。

※22:「自分で調べる図書館 検索」のなかで「食」を選択。487冊の中には、『加工食品には秘密があ

る』『フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠』『ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト』

などがある。

※23:Lifecycle of a Leaf(2019年8月23日号)

 

いま「生物兵器」はどうなっているか 生物兵器禁止条約発効から50年


Built-in safeguards might stop AI from designing bioweapons
50-year-old bioweapons treaty is dangerously flawed, researchers say

この50周年(3月26日)にあたって、米国は「生物兵器禁止条約50周年を記念して」と題するプレス声明を出している(※24)。また、国連のアジア太平洋平和軍縮地域センターは記念日に先立って、2024年3月に「生物兵器禁止条約の普及達成に関する地域ワークショップ」を開催するなどして備えてきたことを報告している(※25)。その中では、「バイオテクノロジー、特に医薬品と生物兵器の両方を製造できるいわゆる「デュアルユース」システムの急速な進歩により、国家および非国家主体の潜在的な生物兵器能力は劇的に増大しています」と述べている。日本政府は公式には何も発表していないが、国連軍縮担当上級代表である中満泉氏から「世界は50年前、生物兵器を禁止するために団結したが、今日の不安定な地政学的状況において、この道徳的保障が損なわれることは許されない」と述べたと、『国連ニュース』は伝えている(※26)。

※24:Commemorating the 50th Anniversary of the Biological Weapons Convention

※25:50 Years of the BWC: Strengthening Biological Security in the Asia-Pacific

※26:Biological weapons ‘must not only be unthinkable but also impossible’

 

都市の「生物多様性」を増進する 欧州の「ネイチャーポジティブ」政策


制度で守り、暮らしに組み込む。欧州のネイチャーポジティブ都市政策【欧州通信#39】

ドイツの「動物支援設計(Animal-Aided Design)」については、開発者であるミュンヘン工科大学が詳しい解説を載せている(※27)。プロジェクト専用のページもある(※28)。自然を都市や経済の構造に取り込むオランダの新たな国土ビジョン「NL2120」は、政府の専用ページがある(※29)。パリ市のごく最近採択された(2025年4月)生物多様性を保護・強化するための新たな「バイオダイバーシティ計画」も専用ページがある(※30)。英国の「生物多様性ネットゲイン」制度にも専用ページあり(※31)、その制度の内容を解説した日本語の論文もいくつもある(※32)。これらを参考にしながら、日本でも実効力のある政策が展開されることを望むが、環境省の「ネイチャーポジティブ宣言」(「2030生物多様性枠組実現日本会議」(J-GBF、会長:経団連十倉雅和会長))(※33)の旗振りのもとどうなっていきそうなのか、改めて検討してみたいと思う。

※27:Animal-Aided Design

※28:THE WORLD’S FIRST PROJECT WITH AAD METHOD COMPLETED IN MUNICH

※29:Elevating Nature-based Solutions

※30:Découvrez le nouveau Plan Biodiversité en 10 mesures phares

※31:Biodiversity Net Gain – UK Government

※32:英国イングランドにおける生物多様性ネットゲイン 政策の現状とその影響について

イギリスの生物多様性ネットゲイン①~ネイチャーポジティブ実現と自然市場拡大に高まる期待~

イギリスの生物多様性ネットゲイン②~改善の余地は大だが、ビジネス機会も広がる~

イングランドにおける生物多様性ネットゲイン(BNG)政策とその影響について

イングランドの生物多様性ネットゲインについて

※33:『環境白書』令和6年版 第1部第2章第2節 自然再興(ネイチャーポジティブ)

ネイチャーポジティブ宣言

 

 

 

 

 

 

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