急増するアトピー性皮膚炎 IT時代のストレスとハリー・ポッター

投稿者: | 2006年9月5日

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ここに掲載するのは市民科学研究室、ガウスネット、babycomが共同開催した講演の記録です。
 現在、アトピー性皮膚炎の患者は世界的に増加を続けており、今や10人に1人はそれにあたると言われています。小児アトピーにいたっては10人中3人。これは1990年と比較すると約3倍にもなります。
  「脂肪たっぷりの食事、長時間のパソコン労働といった新しいストレスが私たちの免疫機能を狂わせている」とアレルギーの専門家である木俣先生はいいます。そしてさらに治療を複雑化させているのがステロイドやプロトピックといった、強力な免疫抑制剤。皮膚科にいけば、必ずといってよいほど処方されるアトピー治療薬に、先生は強い警鐘を唱えています。ステロイドを使わずにアトピー性皮膚炎の根本的な治療を目指す木俣先生に「ステロイドフリー」という治療法と、アトピーの再発を防ぐためのライフスタイルをお話頂きました。
講師:木俣肇 先生 (きまた・はじめ)
 大阪府枚方市にある佐藤病院アレルギー科部長。京都大学医学部卒業後、米国のUCLAに留学し、アレルギーを研究。その後、京都市内の宇治武田病院アレルギー科部長を経て2004年12月に現職。ステロイドホルモンを使わない治療を行い、多くのアトピー性皮膚炎患者を完治に導いている。同時にアトピー性皮膚炎に関する数々の研究を海外の雑誌に発表、国内の各地で講演をするアレルギーの臨床研究者でもある。
● 大人の10人にひとり 子どもの5人にひとりがアトピーという時代
 アトピー性皮膚炎というのは、1970年代にはほとんど見られなかった病気でした。成人のうちほんの数%程度。子どもも同じくらいの割合で、ごくまれな病気だったと言えます。それが今や成人のうち10%、子どものうちの20%がアトピー性皮膚炎だと言われています。年々、急激に増加しているのです。2010年にはさらに増え、いずれは国民の半分はアトピーになると予想されています。
 しかも、増加してゆくにつれてアトピーの症状は複雑化しており、細菌感染症のヘルペスや接触性皮膚炎の併発などが見られるようになりました。ヨーロッパでは「アトピー性湿疹・皮膚炎症候群(Atopic eczema/dermatitis syndrome)」と呼ばれているとおり、その症状は一定でないために診断が難しいケースも多くあるのです。
 なぜこんなにも症状が複雑化するのかというと、アトピー発症の主原因のほか、個々のライフスタイルのなかに潜む悪化因子が複雑に絡んでいるからです。
●アレルギー反応を増強させる「ITストレス」
 アトピー発症の原因は「アレルギー」「細菌」「ストレス」と主に3つあげられます。
 「アレルギー」は口から入る特定の食べ物、呼吸で取り込むダニやカビ、皮膚に接触するダニやゴムなどがアレルゲンとなってアトピー発症に結び付けます。
 「細菌」は皮膚の赤みやかゆみ、じくじくとした浸出液の原因です。黄色ブドウ球菌、緑膿菌、MRSAなどの細菌が、アトピー患者の9割から検出されます。「ストレス」もアレルギー反応を増強させる原因のひとつ。睡眠不足や心労などがありますが、現代社会で最も問題視されるべきは「ITストレス」です。
 ITストレスとは、急激に普及したパソコン、携帯電話を使用することで受ける心身のストレスのことです。
 最近では、これらのIT機器から放出される電磁波が人体に悪影響を及ぼすことが世界的に注目されています。そこで、私はこれらのIT機器に対するアレルギー反応を調べることにしました。
 アトピー性皮膚炎の患者さん、アレルギー性鼻炎の患者さん、アレルギーのない人にそれぞれコンピュータで政治経済の用語を書いてもらいました。アレルギーの反応は、皮膚でのアレルギー反応を誘導する検査(プリックテスト)で調べました。この抗体の増加がアレルギー反応の増強を意味します。コンピュータを使い始めて2時間後、アトピー患者で、アレルギー反応が明らかに増強していることが確認できました。また、テレビゲーム、携帯電話でも同じ反応が見られました。この実験は論文にして海外の専門誌に掲載されましたが、大きな反響がありました。とくに海外からはたくさんのメールが届き、関心が高いことがわかりました。対照的に、日本国内の反応はほとんどありませんでした。
●ライフスタイルのなかに隠れるアトピー性皮膚炎の悪化因子
 「アレルギー」「細菌」「ストレス」。これらのアトピー発症の3大原因に加え、さらに症状を悪化させる原因があります。それらの悪化要因が二重三重に重なってくることで、症状が複雑化したり重症化したりするのです。
 まずひとつあげられるのが「喫煙」です。私の研究によると、「受動喫煙」ではアトピーだけでなく、鼻炎などの患者さんにおいても、アレルギー反応を増悪させることわかりました。」で喘息においては、アメリカの報告で、親が屋外で喫煙したとしても、屋内で喫煙した場合の70%ほどの肺に対する害があることがわかっています。成分は呼気や衣服に残りますからね。親がタバコをのむ限り、子どもへの影響は避けられないということです。私が診た患者さんのなかに、まさしくそういった症例がありました。咳、呼吸困難で、受診した成人女性の方の、ご主人がヘビースモーカーだったのです。そこですぐに禁煙してもらったところ、薬も使わずに症状が改善しました。その方は私のところへくるまでなかなかよくならず、いろいろな病院を受診していましたが、そんなことはまったく言われなかったといいます。わたしは受動喫煙がアレルギー反応を増悪するというエビデンス(科学的な証拠)をもっていたので、正しく診断することができました。
 また、最近ではゴム(ラテックス)アレルギーのケースがよく見られます。ゴム手袋を使う人が飛躍的に増えたことも関係していると思います。わたしのところにきた女性の患者さんも、ラテックスアレルギーと知らずにずっとゴム手袋を使っていました。手はかぶれてぼろぼろの状態でした。調べてみると、彼女はゴムに強いアレルギーをもち、バナナやキウイに対しても同じくアレルギー反応がありました。ラテックスと果物の交差性はよく知られています。こうした果物との交差アレルギーも増加しています。これらを「ラテックス・フルーツ症候群」といいます(ある物へのアレルギーが起こってしまった場合、それに近い別の物にも感受性が生じてしまうことを交差性といい、ラテックス(ゴムの樹液)を原料にした手袋や歯の詰め物、風船などを頻繁に扱ううちに粉末を吸い込んで抗体ができてしまい、ラテックスに近い成分を持つ果物で症状が出てしまうのです)。症状の多くは接触じんましんや接触性皮膚炎ですが、重篤な場合は喘息やショックを起こすことも。最近不満なのは、プロ野球観戦のときに風船を撒き散らしていることです。あれはやめてほしい。実際風船を膨らませて急性の症状がでた例もありますから。
 タバコ、ラテックス、フルーツ……これらのケースを診ていると、アトピーの原因や症状は実に複雑で診断が難しいということがよくわかると思います。医師として正しい診断がくだせるように、これらの新しいアレルギーの実態をこれからは常識として知っておくべきことだと思います。
● アトピーの症状を複雑・重症化させる免疫抑制剤
 私はアトピーを一番悪化させる因子は「ステロイド」や「プロトピック」といった免疫抑制剤だと考えています。なぜなら先程お話したアトピーの3大原因「アレルギー」「細菌」「ストレス」のすべてを強力に増強させるからです。
 私の調べでは、ステロイドを使用してひと月でアレルギー反応を示すIgE値が増加することがわかりました。もともと皮膚の炎症を抑える働きをもつ「ステロイドホルモン」は自分の体内でつくり出されるもの。しかし、ステロイド軟膏を長期に使い続けた人は、自前のステロイドを分泌する身体の機能が衰えてしまう。そのため、使用をやめると症状が悪化するいわゆる『リバウンド』が起こるわけです。
 また、免疫抑制作用をもつステロイドは皮膚の抵抗力を弱めるので、細菌が繁殖しやすくなります。細菌が増えれば、アトピーの症状は悪化します。細菌のなかでも、特にやっかいなMRSAや緑膿菌が増えてしまうことがわかっています。
 ステロイドの長期使用はストレスに対する抵抗力も鈍くさせます。ストレスに対する反応を調べるのに、だ液中のステロイドホルモンの一種「コルチゾール」を測定しました。コルチゾールはストレスを感じるとそれに対応すべく、身体が分泌するホルモンです。ところが、ステロイド軟膏を使用している患者は、ストレスを感じてもこのホルモンの増加が鈍い。つまり、ストレスに対応できない体質になっている。先にも話した通り、ステロイドを塗布し続けていることから、自前のステロイドホルモンが増加しなくなっているというわけです。
 ステロイド軟膏を使ったアトピー治療は症状を逆に難治化させ、全身の浮腫、浸出液の増大、生理が止まるなどのホルモン異常を引き起こします。できるだけ早くステロイドの使用を中止し、適切な治療をする医師を受診することが重要です。とはいえ、今の日本ではステロイドを使わないで治療をする医師は50人弱しかいない。これも大きな問題だと思います。
●検査結果、ライフスタイルに合わせた治療を考える
 次に私が行っている診察と治療の流れをお話します。
 治療の最初のステップとして、すべての患者さんにアレルギーテストを受けてもらいます。「プリックテスト」というもので、腕の内側にアレルゲンを落とし、そこを軽くひっかきます。一度に20~30種行います。痛みはほとんどなく、15分でできる簡単な検査です。しばらくするとアレルギーがあるものは赤く腫れ上がる「膨疹(ぼうしん)」が起こります。患者さん自身が目で見て確信し、納得することができるのも、この検査のメリットのひとつです。同時に患部の細菌検査も行います。
 アレルゲンがわかったら、それをただちに除去してもらいます。細菌が見つかったらイソジンによる皮膚の消毒と抗生物質の服用で身体の内外から徹底的に叩きます。抗生物質は飲み薬を2~3日、症状によっては点滴で投薬するケースも。なかにはイソジン消毒だけで症状がとてもよくなった患者さんもいます。
 同時にアレルギー反応を軽減させる「抗アレルギー剤」とかゆみをやわらげる「抗ヒスタミン剤」を処方します。これらはライフスタイルや年令など、患者さんに合わせて選ぶことが大切です。これらの薬を朝、昼、就寝前に服用してもらいます。夕食時ではなく、寝る前に飲むことで、睡眠中に無意識にかきむしったり、かゆくて眠れないといったことが防げます。いくつかの抗ヒスタミン剤がありますが、時には2剤を併用して、眠くなる副作用があるほうを就寝前に飲んでもらうことも。かゆみによる睡眠不足の患者さんはとても多いですから。それでも眠れないという場合は、睡眠薬を処方することもあります。
 イソジンで消毒をした皮膚には、抗炎症作用のある「モクタール」という松やにの成分を主成分とする軟膏と保湿剤を混ぜ合わせた軟膏を塗布します。モクタールは古くから使われてきた薬で、その安全性と効果は確認されているので安心して使える薬のひとつ。ただ、炭のにおいと色がつくことから使い方にはコツがいるのですが。症状が重篤の場合は、抗生物質を塗布したメッシュをはり、包帯をまいて患部を保護します。
●アレルギー反応をおさえる「笑い」
 さて、先程アトピーの治療には笑いと愛情と感情のある生活が効果的であるとお話しました。これにはきちんとした科学的裏づけがあります。私は実験でこれらにアレルギーの反応を抑える効果があることを確認しました。
 まず「笑い」の効果です。この実験にはチャップリンの『モダン・タイムス』を使いました。機械化文明が人間性を破壊する様子を、コミカルかつ情感豊かに描いたコメディ作品です。ダニアレルギーのある人にこのビデオを鑑賞してもらい、その後、プリックテストでダニに対するアレルギー反応を観察しました。膨疹も紅斑も確認されず、アレルギー反応は見事に下がっていました。このことを私は2001年のアメリカ医師会の雑誌『JAMA』に発表したら、『ワシントンポスト』にも掲載された。日本のマスコミからも取材の申し込みがどっときましたけれど、仕事に差し支えるので、大部分は断りました。
 もう一つ「笑い」についての実験をしました。お母さんが笑いながら授乳を行うことで、赤ちゃんにどんな反応があるかを調べたものです。授乳中、ある場合はお母さん方には漫才のテープを、もうひとつの場合は同じお母さん方には天気予報のテープを聞いてもらいました。すると、漫才を聞きながら笑顔のお母さんに授乳してもらった赤ちゃんは、ダニに対するアレルギー反応が授乳前よりも減弱することが確認されました。天気予報のほうはアレルギー反応に変わりはありませんでした。このことから、お母さんが笑うだけで、その楽しい気分は赤ちゃんに伝わっているということがわかりました。
● 「音楽」、「キス」は抗アレルギー剤となりうるか
 昨年は音楽を使った実験も行いました。ベートーベンの『エリーゼのために』、モーツァルトの『ピアノ協奏曲21番』を、同じようにアレルギー患者にそれぞれを鑑賞してもらったところ、ベートーベンでは数値は変わりませんでしたが、モーツァルトではアレルギー反応が有意に低下することがわかりました。
 もうひとつ、私が注目したのが「キス」の効用です。実験ではダニアレルギーがある恋人や夫婦などの3組の男女に参加してもらい、BGMを流したなかで30分間、キスをしてもらいました。BGMは「美女と野獣」、「タイタニック」など名画に使われている曲を使っています。結果、ダニによる膨疹の減弱が見られました。BGMのなかで抱擁をしてもらう実験も行いましたが、こちらは数値に変化はありませんでした。
 アトピーの患者さんたちはそのつらい症状から、笑顔や家族の愛情、音楽を聞くといった感情豊かな生活から遠ざかってしまうことがあります。しかし、これらは確実にアレルギーの症状を軽減させる副作用のない「抗アレルギー剤」としての力を持ちます。時にはそれを思い出して、生活のなかに積極的に取り入れて欲しいと思います。
●アトピーで心中事件
 2004年5月29日付の毎日新聞にこんな記事がありました。「4歳長女のアトピーに悩み、母が無理心中」。毎日の看病に疲れ果て、母親はノイローゼ状態でしたが、仕事に忙しい夫は気がつかなかったそうです。この親子は兵庫県在住でした。私は患者さんの住まいと改善率の関係もデータ化していますが、兵庫県在住の患者さんは全員完治しているのです。この記事を読んだ時、わたしのところに来ていてくれていれば、と悔しい思いでいっぱいでした。このように、家族みんなを苦しみに巻き込むのがアトピーなのです。
 今年の春、車で片道3時間かけて診察に訪れた4人家族がいました。1歳と4歳の姉妹が二人ともアトピーで、かゆみのために眠れず、笑顔も見られない様子でした。両親も看病で疲れ果てているのがよくわかりました。しかし幸いなことに、治療を始めて2週間後にはかなりの改善が見られたのです。そうすると、みんなの顔が明るく、元気を取り戻してくる。「よくなるかもしれない」という希望がそうさせるのです。二人の姉妹は往復6時間の道のりを「ピクニックみたいで楽しみ」と、うれしそうに病院を訪れるようになりました。家族みんなで、そういった前向きな気持ちで治療を受けたことがよかったのだと思います。
 アトピーは死とは結びつかない病です。とはいえ、その苦しみは大きく、時には家族全員の笑顔を奪う。それがアトピーの特徴なのです。学校に行けない子、うつ病になる人、ときには先程お話したような心中事件にも発展します。こうした悲しい事件を引き起こさないためにも、治療にあたる医師との信頼関係と、家族の協力は不可欠なのです。
●ステロイドを使わずにがんばった方々
 私のところへやってくる患者さんたちは、他の病院を転々として医療不振になりながら、最後にわたしのところへやってきた人が多いのです。そしてステロイド離脱というつらい時期を乗り越え、ほとんど全員が改善してきました。治療に対する理解と改善への希望をもつこと。それが大切なのです。不思議なことに、私との信頼関係が強い人程改善が早い。うそみたいですが本当なのです。そうした人たちの例をいくつか御紹介したいと思います。
 先ほどラテックスアレルギーの話が少し出ましたが、アトピー性口皮膚炎で受診した生後2ヵ月の赤ちゃんで、そういう方がいました。ゴム製の哺乳ビンの乳首が原因で喘息発作を起こしていたのです。幸い、使用を中止して治療をしたらすぐによくなりましたが、この子はゴム全般がだめなので、通常の予防接種も受けられないという問題が残りました。ワクチンの入れ物にはゴムが使われており、注射器の針を刺してワクチンを吸い上げる際、ゴムの成分が針に残留している恐れがあるからです。しかし、この子の住む地域にはラテックスアレルギー患者に対応できる病院がなかった。そのため、その子のお父さんが、市と交渉し、他府県の当院で無料の予防接種が受けられるようにしました。ちなみにこの子はリンゴのアレルギーも併発している「ラテックス・フルーツ症候群」でした。母親がリンゴを食べて授乳をすることでもアレルギー症状が出るので、母親も食べないように指導をしています。
 アトピーの症状が重く、学校へ行くけども、すぐ保健室で休んでしまう、小学校生の男の子もいました。最初に診察室に入ってきた時、とても表情が暗かった。アトピーの特徴です。運動不足による「脂肪肝」にもなっていました。この子のように肥満でもないけど、脂肪肝になっている子どもは多いのです。私の調べでは、アトピー患者の3人にひとりは脂肪肝がみられます。これもアトピーの悪化因子のひとつになっているのです。コレステロール自体がアレルギー反応を強くすると同時に、皮膚組織を攻撃する物質を出す『マスト細胞』の働きを活性化させることがわかっています。この子は運動をすること、脂肪のすくない食事に切り替えることも治療のひとつとなりました。この男の子は症状がよくなると、学校にも行けるようになり、バスケットボールを始めて笑顔も見られるようになり、すっかり元気になりました。脂肪肝も改善中です。
● 根本的治療を目指して
 ステロイドやプロトピックを長年使用しているアトピー患者さんは多い。10年、20年はざらにいます。つまり、それだけの年月、免疫抑制剤を使ってもよくなっていないということです。何年もかけてきたその治療はまったく無駄だった。それどころか完治を難しくしている。長年、外からステロイドホルモンが供給されることで身体が依存し、自前のホルモン分泌がつくれなくなって使用を中止すると症状が悪化するという「リバウンド」を起こす。それで軟膏を使うのを止めることができないのです。しかしそれでは治療といえない。私はアトピー性皮膚炎の根本的な治療をし、完治を目指します。最終的には薬を使わずにすむ皮膚にする。保湿剤も含めてです。使用したステロイドの量によって、リバウンドは数カ月から1年はかかります。その間はつらい症状がありますが、私が診察してきた患者さんのなかで改善しなかった例はありません。できるだけ早くステロイドの使用を中止し、正しい治療を始めることが大切です。
 アトピーの完治のためには、医師が行う正しい治療に加えて、患者さん自身がライフスタイルを改善することも重要です。快眠、快食、快便ができる生活習慣、ストレス発散のための感動、愛情、笑いがある生活をおくること。そして叛乱するアトピー治療の商法にふりまわされないこと。科学的なデータの裏づけが確実にあるかどうか、しっかりと見極めて欲しいと思います。
● 「リバウンド」を乗り越えるための”something”
 そして、心のなかに何かしら夢中になれる”something”を持つこと。これも大切です。
 2002年の冬、私が当時努めていた病院の売却が決まり、職員はみなストレスで毎日暗い表情をしていました。でも私は暗くならずに前向きに仕事を続けていられた。なぜなら私はその頃、夢中になって『ハリー・ポッター』の英文原書を、読みふけっていたからです。楽しくワクワクできる材料があったから、つらい局面でも前向きの気持ちを持ち続けることができたわけです。
 主人公の魔法使い、ハリー・ポッターはどんなに辛くてもあきらめない強い心を持っています。それは、いつも近くで力づけてくれる仲間がいるから。希望があることを忘れずにいられるのです。
 それはアトピーの治療でも同じこと。患者さんと家族、治療にあたるチームがお互いに信頼して協力をすれば、前向きな気持ちで治療にあたることができる。つらいリバウンドの時期も乗り越えることができるのです。ひとりきりで辛い気持ちを抱えていては考えも悲観的になりがち。気持ちが明るくなれる音楽、本、愛情……何らかの”Something”があればきっと頑張れる。そんな気持ちでアトピーの治療をがんばって欲しいと思います。
■質問
 ステロイドフリーの治療をする病院は全国でも少ないというお話がありましたが、都内でそういった病院があるなら教えて下さい。
 『ステロイドを使わない治療の会』というものがありまして私も所属しております。現在、そのメーリングリストにのっている医師は約50人。そのうち、都内で私とよく連絡するのは次のお二人です。藤澤重樹先生(藤澤皮膚科 練馬区大泉1-37-14 電話 03-3925-8947)と涌井史典先生(皮フ科わくいクリニック 新宿区高田馬場4-28-19パストラル動坂201 電話03-5348-1151)。先程お話した私の治療法とは細かい部分で違うことあると思いますが、ステロイドを使わない治療方針というのは同じです。
 
木俣肇先生とつながりのある関東の医師たち
●栃木県
 谷口雄一、洋子(谷口医院)
  塩谷郡高根沢町宝積寺1038
  電話:028-75-0005
●埼玉県
 土屋恭子 (土屋小児科医院、小児科ですが、土屋先生は皮 膚科医ですので、成人もOK、 おそらく小児科医は別にい るのでは、が不明です)
  久喜市中央1-6-7
  電話:0480-21-0766
●東京都
 藤澤重樹 (藤澤皮膚科)
  練馬区東大泉1-37-14
  電話:03-3925-8947
 涌井史典 (皮フ科わくいクリニック)
  新宿区高田馬場4-28-19 パストラ動坂201
  電話:03-5348-1151
●神奈川県
 吉沢潤 (吉沢皮膚科)
  横浜市中区石川町1-1 カーサ元町4F
  電話:045-662-5005
■質問
 アトピーの改善に効くと聞いて「キトシン酸」を飲んでいます。そういった機能性食品をとることは効果があるのでしょうか?
 キトシン酸がアトピーを改善するというデータはないと思います。先ほども少しお話しましたが、アトピービジネスに振り回されないためにも、エビデンス(科学的な証拠)があるかどうかはとても大切です。 
 DHAやEPAもアレルギーの改善によいと言われ、サプリメントでとる人が多いようですが、私は栄養を錠剤に頼ることはよいことではないと考えています。どうしても食事がおろそかになるからです。アトピーの改善には食事内容も非常に大切。悪化因子となる脂肪が少ない、魚、海藻、野菜を組み合わせた昔ながらの和食をしっかりと食べて欲しい。皮膚の破壊と再生を繰り返すアトピー患者は、ミネラルビタミン、たんぱく質を多く消費するからです。これらの栄養素はそれぞれが働きあうことで、各器官に吸収され、うまく身体に作用する。バランスがあるのです。だから、ひとつの栄養素だけをむやみやたらにとっても、アトピーを改善することにはつながりません。栄養補給は食品から、が基本です。
 また、栄養素を錠剤に加工するには、多くの科学的な添加物が使われていることも忘れないでください。科学物質はすべてのアレルギーの悪化因子である可能性があります。何があるかわからないものはとらないほうがベター。これは食べ物だけではなく、生活全般に言えることです。整髪料や化粧品、排ガスなどに科学物質は含まれています。これらからなるべく遠ざかる、接触を減らす努力をして欲しいと思います。
■質問
携帯電話やパソコンを使うことでアトピーが悪化するということでしたが、これは電磁波が影響しているのでしょうか?
 電磁波で悪化するのはアトピーというよりも、アレルギー反応です。実験では、アトピーの方のダニに対するアレルギー反応が増強したことが確認されましたから。
 どうしてアレルギー反応があがるのか、ということについてはまだはっきりとわかりませんが、ひとつ推測できるのはアトピーの方は健常者とくらべると様々な刺激に対して非常に敏感であるから、ということです。電磁波に対しても科学物質に対しても、敏感に反応する傾向が強い。すべてのストレスに対して
弱いのです。
■質問
 アトピーの症状に加えて、唇のヘルペスが頻繁にできます。これも何か関係があるのでしょうか。
 ヘルペスを併発しているアトピー患者さんは多い。患者の約9割から細菌が検出されますから、細菌感染しやすいのです。とくに、ステロイドを使っていると皮膚の免疫力が落ちてヘルペスができる皮膚環境となりやすい。ヘルペスができたらステロイドは禁忌です。抗生物質などで治療をする必要があります。
■質問
 どうしてこんなにアトピーの患者は増えたのでしょうか。世界的に見られる傾向なのでしょうか。
 
 アトピー患者が急増しはじめたのは1970年代からです。このころから夜型の不規則なライフスタイルが広がり、食事も脂肪が多い洋食が定着しはじめてきました。コンピュータやテレビゲームなどのITストレスも登場した。そして、もっとも大きな原因となったステロイド。これも70年代以降から使われはじめた薬品です。これらの相乗効果で、患者数は急激に増加しました。
 患者は世界的にみても増加しています。特に都会に患者が多い傾向があります。海外の大都会では日本よりも患者数が多いところがある。これは排気ガスなどの化学物質やストレスが関連しているのではないかと考えられます。
■質問
 先生のお話の中で、ステロイドやプロトピックがいかによくないかというのがわかりましたが、どうして他の多くの医師はこの薬に固執するのでしょうか。こんなに広く使われているのはどうしてですか?
 まず、大学病院での教育がアトピーといえばステロイド、というものなのです。99%はそうでしょう。教育を受けた若い医師にしてみれば、指導にあたった医師へ反発するような治療をすることはとても勇気がいります。だからステロイドフリーの治療をする医師が増えません。また、ステロイドやプロトピックの販売メーカーと医師が癒着していることも問題です。プロトピックはアメリカでは悪性リンパ腫の発症を促すという報告があるのです。が、メーカーは因果関係がないと、否定しています。しかも、使用している医師も、そのことを黙殺している。巨大市場、巨大企業の圧力があるからです。私自身、ステロイドフリーの治療を始めて以降、医療関係者からたくさんの攻撃を受けてきました。エビデンスのあるデータを説明しても、認めようとしません。残念ながら、それが今の医療現場の現状なのです。
 だからこそ、患者サイドから情報を発信できるように、今日のような講演会をしてゆく必要性を感じています。
■質問
多くの皮膚科では、最初に数回強いステロイドを使用して症状をおさえ、そこから徐々に弱い薬に切り替える、という治療をとっています。それでもリバウンドは起こりますか?
 ステロイドは濃度によって強弱のランクがついていますが、たとえ3分の1でも4分の1でも副作用は変わりません。徐々に使用を止めることは非常に難しいでしょう。おそらく、ランクは下がるのではなく、徐々に強いタイプへと上がってゆく可能性が高いと思います。完全に使わないか、他の薬に切り替えたほうがいいと思います。また、数回の使用でもリバウンドが起こることがあります。とくに乳児の場合は3週間の短期使用でもリバウンドが起こった例がありましたから。
 ただし、長年ステロイドを使用してきて重篤になってから来院してきた患者さんのケースでは、いきなり使用中止をしないこともあります。強いリバウンドが起こるのはつらいでしょうから。こういった、どうしても必要である患者さんの場合は、塗る回数を減らしてもらっています。
■質問
低刺激のシャンプーや石けん、保湿剤を使っていますが、それでもしみたりするので困っています。何か解決法はありますか?
 シャンプーや石けん、保湿剤自体を使わないほうがいいと思います。洗浄剤をどうしても使いたいなら、界面活性剤が少ない固形の石けんで身体も髪も洗うといい。それでも使用回数は少なめに。入浴自体が自分の皮膚の保湿機能を奪いますから、症状がひどいときの入浴は避けた方がいいです。どうしても入るなら、なるべく短時間でぬるま湯にすること。自分の皮膚が持つ油を守ることを考えて下さい。今は、落とすことばかり考えがちですが。一週間くらいお風呂に入らなくても大丈夫ですよ。チベットの人は、お風呂はひと月に1度くらい。アトピーはゼロです。
 また、保湿剤を頻繁に塗る人が多いのですが、これもよくない。塗らずにいられないのはステロイドと同じく、依存状態になっている証拠です。外から保湿剤が与えられることで、皮膚本来の保湿機能が失われている。なるべく塗る回数を減らし、水やお湯に触れる回数を減らして、本来皮膚が持つ保湿機能を回復させることが大切です。なかには保湿剤自体にかぶれてかゆみを増長しているケースも。乾燥によるかゆみが辛いなら、ガーゼや包帯でカバーしたほうがずっと効果的です。
■質問
イソジンで皮膚を消毒するとのことですが、私はこれで皮膚がかぶれたことがあります。他の消毒方法はありますか?
 それはおそらく洗い流していなかったのではないでしょうか?(質問者うなずく)。イソジンは使ったら2、3分で洗い流すのが原則です。でないとイソジンの刺激で肌が荒れてしまいますから。また、原液ではなく、生理食塩水でしみない程度に薄めて使います。2倍から3倍、ときには10倍に薄めます。あと、時々うがい薬用のイソジンを使っている人がいますが、それは成分が違うのでやめてください。必ず、皮膚消毒用のイソジンを使うようにしてください。また、目の周りは皮膚が薄いので使用しません。
■講演会参加者から
●徳宮 峻さん
 たとえ医療であってもその根底には信仰との交差点がある。医師がどれほど強い確信のもとに治療を行おうと、それが「確信」である以上「絶対」はない。人知は限られたものであり、人はどこかで、何かを信じるほかない場面にぶつかる。医師でさえそうなのだから、患者はなおさらであろう。
 「私を信頼している患者のほうが、信頼していない患者より治りが早いです」。木俣医師は会場の人々に向かってそう言う。ステロイドの悪弊を知った患者がそれを断ち、リバウンドの悪夢を乗り越え木俣医師との二人三脚を始める。会場のスクリーンにはその症例と全治の姿が次々と写し出され、藁をもつかまんとする聴衆を魅了し、質疑応答の時間はいやが上にも白熱せざるを得なかった。あるいはその時すでに、信じることは始まっていると言えるだろうか。
 熱心に研究発表(=実証)と講演を繰り返す木俣医師は巨大メディアに載ることを拒むが、察するに、医療と企業の癒着に否を唱える彼にとって、メディアの威力とは、素朴な二人三脚による小さな場を蹂躙し、ビッグ・マネーがねじ上げる癒着へと彼らを絡み取り、医療界の様々な桎梏へと縛り付けるものなのだろう。しかし、である。どれほど実証性を高めたところでぬぐい去ることのできない「信じる」というメンタリティーが医療の現場にある以上、小さな場が小さな場であればあるほど、医療技術が信仰の満ち潮に足下を浸されてゆくおそれがありはしまいか。というのも、現代社会において、実証性はそのエヴィデンスのみにて自立するのではなく、良くも悪くも情報として流通・共有されて初めて成立するはずだから。
 信じる患者だけを特殊な医師が救うのではなく、あらゆる患者が医師と相互に人知の限界を共有しながら治癒へと挑む。そのためには、まず医師が既存の桎梏を克服し、医療技術を社会という俎上にのせ、広範かつ一般的な批判を経て真の実証の基礎にすべきである。そのとき、メディアは巨大な凶器から格好の道具へと変貌するはずだ。そうして初めて、会場の白熱は開かれた希望としてのエネルギーに転化するのではあるまいか。
●永瀬博美さん
 この講演で、木俣先生のアトピー性皮膚炎の治療法は、副作用がなく、健康な肌になれることが示されていました。
 「なんて嬉しいことでしょう。私もきれいなお肌になれるかもしれない」、そう思いました。この講演会の三週間程前に顔と首の肌状態が悪くなり、近所の皮膚科へ行ってきました。プロトピック軟膏・ロコイド軟膏・ヒルドイドソフト軟膏・錠剤を処方して頂きました。少しずつ肌状態は良くなっているようでもありますが、プロトピック軟膏を睡眠前に塗ると、塗った部分がピリピリとして、睡眠が浅くなっているようでした。五年程前に、千葉市立病院小児科で「ブドウ球菌消毒スキンケア法」を知り、指示通りのことを行いましたら、肌状態は格段に改善されました。ただし,千葉市立病院では,この治療法を取り入れている病院の名簿から各自通院しやすい病院を控えていくよう指示されたのですが、気が急いていたためにきちんと情報を得られませんでした。
 木俣先生の講演は、イソジン液使用のこと・モーツァルトの音楽・入浴・食事・テレビの視聴時間・笑いの効果などについて、これらの取り入れ方によってアレルギー反応が低くなっているグラフが示されていました。木俣先生の治療は、ステロイドフリーです。そうであれば、アトピー性皮膚炎が完治することもあり得ます。まず、私は入浴時間を短くすることから始めています。それから、お菓子は少なめに、ヨーグルトは多めに、匂いが苦手だった納豆も少し食すようになりました。
 お忙しい中、京都府からお越し頂いた木俣先生と、この特別講演を企画して下さった市民科学研究室の方に感謝致します。
(どよう便り 第82号 2004年12月)

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