「めぐる水・不思議な土を知る講座」を終えて

投稿者: | 2003年8月4日

プロジェクトリーダー 森 元之

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「しんどかった」
阪神の星野監督は甲子園球場で行われた優勝会見の第一声で「あ~、しんどかった」といったらしい。それは優勝を目前にしながら負けが続いたこともあるだろうし、半年間のペナントレース中の、選手や球団関係者への責任はもちろん、阪神ファンからのプレッシャーなどさまざまなことがあったからだろう。
私は特段、野球ファンではないが、テレビで見た星野監督の「しんどかった」という言葉はわがことのように感じられた。それは今年の1 月の藤野町での合宿で「水と土に関する連続講座」を立ち上げることを市民科学研究室の本年度の活動として了承してもらい、また3 月以来本格的に活動を続けてきたプロジェクトリーダーとしての本音と重なっていたからだ。
私の感じた「しんどかった」という思いの背後には、この半年間の活動の中で得られたさまざまな目に見えない収穫がある。その収穫のいくつかを示すことで2003 年度の市民科学研究室の大型企画である「めぐる水・不思議な土を知る講座」の終了報告としたい。

すばらしきスタッフたち
「水と土の連続講座」のスタッフ募集に応募してくれたのは、上田さんと私を含め合計8名だった。2 名の学生さん以外は社会人で、忙しい毎日を送っている方々ばかりだった。後藤さんと私以外は市民科学研究室とのかかわりもまだ日の浅い人が多く、これまでの活動のスタイルや最終的な発表のイメージがつかめない人もいただだろう。
また「スタッフ」という言葉を聞いて、コピーをとったり、手作業の補佐をイメージした人や、勉強会にはオブザーバー的に参加はするが、自分が人前で発表する立ち場になるとは考えていない人もいた。このように興味の方向も曖昧、各自の関心分野や能力も不明、講座に関わる熱意もばらばらという状態で、とにかく本を読んだり、水や土に関する番組のビデオを見るところから始めた。
スタッフの方々の個別の活躍は煩雑になるので避けるが、皆さん仕事や学業、それに個人的な事情を抱えつつもこのイベントに精力的に関わってくれた。テーマや課題を設定するところからはじめ、文献や資料の調査、プレゼンテーションの原稿作成と最終的な発表に至るまで、さらにそれらにまつわるこまごまとした事務作業などを経験することで、それぞれのメンバーの研究内容もずいぶんレベルアップしたのではないかと思う。それはスタッフ各自にとってもよい思い出となると同時に、そうしたスキルアップの場として市民科学研究室が役割を果たせたことも大いなる成果だと感じている。

プレ・イベントについて
今回の連続講座では、プレイベントを企画した。これは市民科学研究室としてほぼ初めての試みである。水については「軟水銭湯体験会」、土に関しては「泥だんごを作る会」だった。いずれも参加者はそれほど多くなかったものの、参加した人からは好評を得た。どちらかといえば頭でっかちになりがちな連続講座の内容を補足する意味でも体や五感を働かせるイベントは有効だと感じた。

講師の選定
今回の講座では自分たちが調査し発表する部分と外部から専門家をお招きしてより深い内容を提示する部分があったが、講師の選定に苦労した。水に関しては幸いにも西尾信一さんから情報を提供していただき、広島大学助手の天羽優子さんの講演会に足を運んだので、あたりをつけることができた。しかし土に関してはどのような話を誰にしていただくのがいいのか、ぎりぎりまで迷った。いくつかホームページなどを探す中で滋賀県立大学教授の川地武さんを見つけた。建設会社の大林組の研究部門で長年土の研究をしてきて、数年前から大学に来たという経歴の持ち主であることやホームページに書かれていた土へのこだわりに興味を持った。お二人とも今回の連続講座のテーマとして私たちが設定した「循環」を考える上で貴重なお話をしていただいた。

講座会場
さて、本番の4 回については、東京理科大の加納誠助教授のご尽力もあり、森戸記念館第2 フォーラムという最新鋭の施設で行うことができた。OHP やビデオ、パソコン、それに部屋の照明や窓のブラインドまでをすべて司会者のテーブルで一元操作できたのだった。
教室は70 人だったが、講座の定員を40 名と設定した。結果的には40 名を数名超える受講者数で、目標をクリアできた。

今後の課題
反省点もいくつかある。
一つは本番での発表の準備不足があげられるだろう。発表内容や原稿の充実に力点を置いたため、実際のプレゼンテーションやパフォーマンスという面では、原稿の棒読みがあったりぎこちない発表になったことは否めない。また調べたことの全部を伝えたいと欲張ったために、直前まで時間配分が確定できなかったこともあげられる。発表内容の充実とは別に発表スタイルの練習も幾度かすべきだろう。
もう一つは、東京理科大学の生涯学習センターの公開講座の中の一つとして位置づけられたことはよかったのだが、事務的に4 回連続での申し込みしか設定できなかったことだ。そのためテーマには興味があるのだが、1ヶ月間4 回連続で土曜日の午後の時間を割くことができる参加者が限られてしまったことも事実だろう。学生さんの受講生が少なかったことも残念だった。広報の方法など含めて今後の課題としたい。

おまけ
本番の4 回目の一番最後に、今回の講座のスタッフやご協力頂いた個人・団体の名前の一覧を映画のエンディングのように写す予定にしていたのですが、司会役の私が床の上にあったパソコンのアダプターにつまづいて画面が写らなくなってしまうというハプニングを起こしてしまいました。まさに画龍点睛を欠くハプニングで、それだけが心残りです。紙面をかりてその一部を記しておきます。

■ゲスト講師
第1回目―天羽優子助手(広島大学)
第4回目―川地 武教授(滋賀県立大学)

■共催(共同企画)
東京理科大学生涯学習センター
加納誠助教授-東京理科大学理学部物理学科
市民科学研究室
東京理科大学森戸記念館

■講師/スタッフとその発表題目

第1回目
大櫛崇:地球における水
桃原樟子:水と人体
天羽優子さん:日常で使う水の本当の話

第2回目 
宮崎浩之:世界の水紛争と日本
上田昌文:水から見える社会、社会の中の水

第3回目 
志村眞佐人:土の形成と微生物の役割
石橋夏江:土とはどんなものでしょか?

第4回目 
後藤高暁:日本の農業の土はどうなっている?
川地武さん:循環する土―現在の姿と課題
森元之:世界の土壌劣化の概観/リンを素材に循環の未来を考える

(どよう便り 68号 2003年8月)

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