【インタビュー】共同購入と暮らしの変え方

投稿者: | 2007年2月4日

連続講座・シンポジウム「科学技術は誰のために?」
事前インタビュー(その5)「共同購入と暮らしの変え方」
尾澤和美さん (23区南生活クラブ生協理事)
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Q)尾澤さんが生活クラブ生協と関わりを持たれたのは、どのあたりからなのでしょうか。
――私は、東京を4つに分けた、23区南というところの理事をしていまして、千葉や東京というレベルよりも、もう少し身近な活動をしています。生活クラブへは95年くらいに加入していますが、それ以前は夫の仕事の都合で海外に出ていました。そうすると、日本の新聞を日遅れで見る機会があって、その際に一番感じていたのが、ウインナー等の加工品の添加物が怖いと言われていたことと、東京ではごみの問題が目立ってきていて分別が非常に厳しくなっていると言われていたことでした。
たまたま先に帰国していた友人が何人か、生協が良いと言っていたので私も入ってみようと思ったのがきっかけです。それまでは、生協の仕組み自体も知らなかったのですが、たまたまその時に入っていたチラシが生活クラブ生協で、そのまま加入しました。けれども、最初にウインナーを食べてみた時は味がない?と感じました。
Q)生協のウインナーは無添加のものだったのですか?
――基本的には、合成の添加物に関しては、厳しくしていますので、人工的な味はつけていません。外の味で舌が慣れてしまっているので非常に物足りないと最初は感じていました。一緒に活動する人たちに美味しいといわれ、また取ってみるうちに徐々に慣れてくると、外のものがなんて作られた味なのだろうと感じるようになりました。本来の味がわかってきた気がします。
Q)物によっても違うとは思いますが、慣れるのにはどのくらいの時間がかかりましたか?
――私はあまり敏感な方ではないので、それほどでもないのですが、若い方にうかがうと、たとえば牛乳を飲んだ瞬間に美味しいという人もいます。私は、周りに美味しいわよ、と言われて、そうなのかなあ、とだんだんわかってくるという感じです。今では毎日、毎度の食事で「ああ、美味しい」と実感できることが本当に幸せです。
Q)購入することを通して、生活クラブの会員になられて関わりができたということですが、その後はどうでしょうか。より積極的な活動にかかわっていくということがあったと思いますが。
――私は子どもがおりませんので、地域とのつながりを作りにくいのですが、生協の中で様々な活動をチラシ等で知り、福祉関係の活動で高齢の方々と交流を持つような場を作りましょうという活動に参加させていただいたのが始めです。
Q)具体的にはどういったケアを・・・。
――ケアということでもないのですけれども、ご自宅を開放してくださる方や地区会館などを月に1度借りて、お昼を用意して地域の高齢の方や組合員と一緒に手遊びをしたり、簡単なクラフトを作ったりなど、美味しい物をいただきながら楽しい時間を過ごしましょう、というようなものをやっています。その中で、これまで活動をされてきた先輩の組合員の方々と接する機会が増え、だんだん活動に参加するようになったというところです。
Q)現在は理事をされているのですよね。生活クラブ生協でも様々な活動の場を持っていらっしゃって、私が知っている限りでも食・環境・福祉などがありますが。尾澤さんは、食物の問題から入られまして、今おっしゃられた福祉に・・・。
――大きく括って、「まちづくり」といっています。
Q)まちづくりといった点からは、高齢者に関する福祉以外のことも含まれているのですか。
――それは、いろいろな人がいろいろな活動をしていますので大変幅は広くて、人と会って話しをしている中から、新たなテーマも出てきますので、組合員と出会うこと自体が勉強の日々だな、と思っています。今あげた高齢の方との活動は、介護保険制度のできる前の、超高齢化社会になるという中で、自分たちにできることは何だろうというところから始まっていきました。お手伝いをしているようで、実はこちらが学ぶことなど多くあり、お世話する、されるの関係ではなく、集う人皆が楽しく、といった考え方をそこで教わりました。お互い様の関係で、という言い方をよくします。現在は、子育ての方で、私たちだからできることがあるということで、活動が広がってきています。
Q)そうしますと、生活クラブ生協というのは、生活に関わる主だったものは、カバーしようとされているといいますか、子育てにはじまり、食べ物、教育に関してもタッチしているのかもしれないと思うのですが、広がりについて簡単に説明していただけますか。
――ここは、23区南といって東京の中を4つに区切ったひとつの生協です。生活クラブ自体は、東京にあり、千葉、神奈川にありというように北海道から愛知まで16都道県で26の生協の組織になっています。その全体を合わせて連合会となっています。全体で行っていく活動もありますし、それぞれの地域性でいろいろな活動があります。
Q)規模としてはどのくらいなのですか。
――全体では27万人にやっと達したかなというくらいです。ですので、もっともっと知っていただきたいし、味わっていただきたいし、活動もわかっていただきたいと思います。
Q)生活クラブといいますと、一般的にイメージとしては、共同購入をして安全な食べ物を取り寄せるところ、というようなものにとどまっていることが多いと思うのですが、基本はそこにあるとしても、各地域で様々な活動があるようですが、尾澤さんの活動されている23区南では、どういったことを活動の柱とされていますか。
――共同購入は当然、活動の柱となっています。共同購入とまちづくりと言っていますが、両者は相互につながっていてどちらから活動を進めていっても、その先には共通することが見えてきます。食のことは、環境とそのままつながっていることがほとんどですし、いったん安全・安心なものが手に入る仕組みができれば、それでいいということではなくて、そこに人と人との関わり合いが介在して、初めてそれが生きたものとなっていくということがあると思います。生産者との間に信頼関係をつくることに重きをおきますし、組合員どうしも力をあわせることで大きなことも実現できる、そういった意味で、福祉というのも、元は人と人とのつながりかなと考えています。 “たすけあい”ということをすすめていますが、それも非常に幅は広いもので、困った時に助けるというだけではなくて、人と人とのつながりがあって、何かの時に頼める人がいるという心強さなども含んでいるのではないかなと感じています。若い方と話をしていても、そういった関係性を大切にすることに共感する方が大勢います。
Q)実際に共同購入の仕組みを説明していただきたいのですが。単に安全な食べ物を畑で作って、それを届けてもらっているよ、というものではないと思うのですが・・・。
――そうですね。ちがいます。元々生協は、生活協同組合ということなのですが、企業との大きな違いというのは、出資・利用・運営がすべて組合員のもとにある、という点です。要するに、売ることで利益を得ようということではなく、私たち自身が欲しいものをどうやって手に入れていこうかというのが元々の考え方です。都道府県を越えてはできない等の生協法という規制もありますので、全体では連合という形になっていますが、組織のあり方はそれぞれで考え、その仕組みも少しずつ違うものになっていたりします。
 自分たちが出資をして、利用することではじめて全体が回っていくということもありますし、運営にも組合員自身が関わり、誰かにやってもらっているということではないので、生活クラブから買っているというよりも、生活クラブという仕組みを通して、私たち自身が生産者から買っているということになります。「生産する消費者」と表現したりします。
Q)そうしますと、生産者の方も生活クラブ生協の出資を受けて、会員として動いている人を生産者にしているということですか。それとも、たとえば元々農業をしている方の中で組合員にも提供してください、お金をこれくらい出しますよ、というふうに行っているのですか。その辺の生産者との関係はどのようになっていますか?
――いろいろな形があるとは思うのですが、発端は牛乳の共同購入で、牛乳が一度に値上がりしたことがあって、それはどういうことだろうと、経済の流通の仕組みを勉強していって、自分たちの欲しいものを自分たちで手に入れるために共同購入を始めたと聞いています。そこから、地元にこういういいものがあって、こういうものが欲しいよね、といった信頼関係をベースに取り扱うものが広がっていきました。
 たくさん集まると安くなるという明確なものがありますので、そこから始まっていますが、値段のことだけではなくて、質のこと、たとえば、牛乳ひとつを見てみても、持ちやすさを考えたびんの形であるとか、自分たちでものを作り出していくことをしてきています。私たちの牛乳は、お年寄りや子どもたちも使いやすくと、軽量化のため薄いびんですが、外側をウレタンで加工して割れにくいものになっています。また、キャップをそのままごみにしないように回収をして、ごみ袋やカタログ等を配布する際の袋を作ったりしています。パッケージのデザインを組合員に公募したりもします。
Q)牛乳ひとつ飲むことを通しても、びんやキャップのデザイン、さまざまなものを含めてみんなの意見を吸収してより良い形を見つけていって、流通もさせていく、ということを常に考えていらっしゃるのですね。
――そうですね。お任せであったら、できないと言われてしまうとそれまでですが、自分たちでなぜできないのだろうと考え、さまざまな意見を吸い上げながら、自分にとっては良くても他の人にとったらそうでない場合もあるのだということも理解しつつやってきています。牛乳の中身も同様で、自前の牛乳工場を持っています。殺菌法は、72℃15秒殺菌のパスチャライズドという欧米では当然と言われている質・風味を損ねないものです。国内では、戦後の食料の乏しい時期、質のあまりよくない牛乳でもできるだけ流通させるために、超高温殺菌が普通になってしまい、それが現在も続いているということがあります。本来できるだけ生に近い状態がカルシウムなどの吸収もよく、その辺りも自分たちの求めるものに関して勉強が必要なのだなと思います。
Q)会員の意見をまとめていって、それが実際に生産できる方を見つけて、育てていったりするということになると思うのですが、たとえば、食べ物といいましても非常に多品種ですよね。それから中には加工技術が必要なものもあります。そういったものをすべてカバーするのは大変だと思いますが、その辺はいかに折り合いをつけていますか。生活クラブ生協で共同購入できる品目、そうでないものの線引きはどうされているのですか。
――世の中の状況を見ながらということはありますが、基本的には自主基準というものを持っています。たとえば合成の食品添加物で言えば、認められているものが、香料等、広く言うと1500種類、狭くいうと743種ほどあります。その中で必要のないもの、疑わしいものは使わないとい考えから、現在67 種使用していいとしています。状況の中で、どうしようかと考えるところは、やはりあります。今これを扱っていくにあり、どうしても使わなければならない、というものに関しては情報開示をして使用しています。ただ、改善しうる方向は常に考慮する姿勢は持っています。
Q)そのときに不可避なものとして起こってくる食品の汚染の問題、たとえばダイオキシンの問題などに見られるように、食品をいかに守ってゆくか。あるいは遺伝子組み換え食品のように新しいものが出てきたとき、その安全性が不確かであれば、それをどうしていくか。それを使うのかそうでないのか、食品全般に関わってくるような環境全般の問題については、どのように取り組んでいるのですか。
――連合会内に検査室がありまして、理化学検査の類は必要に応じて見ています。遺伝子組み換えは、全面的に反対の姿勢ですが、どうしても取り除けないものは確かにあります。国産では、今のところ遺伝子組み換えでは生産されていませんので、自給率のこともふくめ、国産使用は進めています。輸入は大きなものに関しては、大豆と菜種がありますが、分別されたものを輸入できるように確保はしています。ただ、その先で汚染は進んでいるため、厳しいところがありますし、今後どうしていくかは課題です。分別できないコーンスターチなどは、基本的に使用しないようになってはいますが、原材料の中の微量アルコールなど、どうしても食品に入ってくるものは、対策が完全ではありませんということをカタログ等で明記するようにしています。
Q)もう一方で、農薬の問題がありますよね。生産する際に使わざるを得ないということないとは思いますが、使うことが多い農薬に関してはどのように対処していらっしゃるのか、さらには化学肥料なども含めてどのように見ていらっしゃるのか、その点をお聞かせください。
――先ほどの自主基準は農業・漁業の全体をとおして作っているものです。生産者の方も自主基準に則って生産しますが、それがきちんと言えるところとまだ課題があってというところと、生産者の中でも状況がちがいますので、話し合いをしながらすすめています。農薬に関しては、無農薬のものもありますが、ある程度の量を生産する必要もありますので低農薬、弱いもの、量を減らすこと、成分を減らすことを考えています。たとえば、農薬を一回撒くという時にも、たくさんの成分を含んだものを撒くとか、50%減農薬といっても、もともとの回数が驚くほど多いなど、市販のものでは見えにくいことがあります。生産者側も大変で、農薬を使ってしまえば、らくなこともありますが、購入することを約束するので低農薬で生産してくださいとお願いしている形です。それでも、気候の関係で病気が発生し始めた時など、生産者からの情報開示があれば、使用を認めて、そのことを組合員にも知らせて取り組むことはあります。逆に情報を出さずに使用した場合には、取組停止もあります。
Q)そういう場合に必要になってくるのが、生産者側といつも話し合える体制があるということだと思います。しかも消費者側も合意しうる基準を作っていく、そういった合意・基準づくりは大筋どのように行っているのですか。
――その点は、連合レベルの話となってしまうので、担当でなく、わかりません。連合の職員も勉強しますし、当事者である生産者も勉強しながら折り合いをつけられるところはどこだろうと考えながらやっているとは思います。品目によっても状況がずいぶん異なると思いますし、ひとつひとつの基準作りに組合員が直接関わっているかどうかは、私は把握できていません。確かめておきます。でも、「今年はすごーく農薬の勉強をした」と言っていた理事も周りにはいます。
Q)勉強していくときのやり方ですが、組合員の方達が定期的に集まって勉強してみようという機会はあるのですか。
――基本的に(私たちは、品物のことを売りたい商品ではなくて、私たちが使いたい品物ということで消費材と呼んでいます)、消費材に関しては、新しい取組品目や、今までと内容に変更がある場合など、利用状況も含めて連合の消費委員会が最終的に決定します。東京なら東京の中にも消費材のことを扱う委員会がありますが、それぞれ組合員が参加しています。情報もできるだけ出していくということをしていますが、幅が広く細かいことですので、組合員全員がすべてを見ているとは言えませんが、求めれば、情報は出てくるという状況の中で必要なことは、きちんと討議にかけて改善していく努力をしています。組合員が知っておいた方がよいことについて、消費委員会主催での学習会などはよく行われます。
Q)生活クラブ生協で生産して、それを消費材として購入し、まわしていくということに関しては、今おっしゃった仕組みで時間はかかるとは思いますがやっていけるのだなと感じましたが、一方で非常に広域的な環境汚染や高度な技術が使われているものを使っていいのかどうか、と私たちも苦しむようなものやダイオキシンなどの環境汚染の問題などもありますよね。その辺りも尾澤さんも調査されたということですが、お聞かせください。
――99年度に東京全域で松葉を使ったダイオキシンの調査を行っています。環境総合研究所にお願いして、松葉が長期的に吸着したダイオキシンの量をカナダの検査機関に送って分析してもらいました。当時はダイオキシンのことがとても大きな問題になっていて、それがきっかけでダイオキシン類対策特別措置法というものもできて、東京23区の清掃工場の排ガス値も抑えられてきたことはデータからもわかるところです。ところが、2008年から東京23区はこれまで不燃ごみだったプラスチックを可燃ごみに変えますと姿勢を変えました。これまでの環境の活動から、その影響は非常に大きなものがあるだろうと感じています。確かに、今の清掃工場の排ガス調査からは、そんなに大きな値は出ていないかもしれませんが、常時観測しているわけでもありませんし、この先プラスチックがたくさん入っていくことになれば、たとえば大田区の第二清掃工場はすでにプラスチックを燃やしていますが、明らかに他よりも排出量が多いです。環境基準とはいいますが、なかなか分解されるものではなく、この先も胎児や子どもたちへの影響を考えると減らしていくことを考えこそすれ、増やしていいとはとても思えません。東京23区内では、私たち組合員の生活向上を考えていく中で、食の汚染というより、環境汚染と健康への影響を考えて、このような活動は必要かなと思います。
Q)たとえば、環境の問題に関して、今まで行政・バラバラの住民・学者たち・企業というような捉えられ方をされてきましたが、生活クラブ生協のように生活者がひとつの共同体をなしていて、環境を守るためにみんなが一緒に動けるという形は、とても重要だなと思うのですが、ダイオキシンの問題以外にも環境の問題として、どういうことを目標において、また実際の取り組みの対象として行っているのかを聞かせてください。
――2008年の事に関連して、この三月にあらためてこのエリアでダイオキシンの調査を行っています。そういう意味では、ダイオキシンに関しては、今はエリア限定的な活動になっています。遺伝子組み換えに関しては、連合全体と、また、私たちと非常に近い考えを持っている生協もありますので、そちらとも力を合わせながらこれだけはどうにかしなければ、という感じで、全体で動いています。国内では、遺伝子組み換えの大豆の実験栽培や稲の開発を行っているところなどがあります。話を聞いていてもどうして、そう簡単にはじめてしまうのか驚くばかりです。この近くでも東大の農場で遺伝子組み換えのじゃがいもを実験栽培するという話があり、生産者も一緒に説明会に参加しました。その当時は、密閉された中での実験や開発等の研究をすることまで否定するものではないという立場でしたが、非常にミクロなことを行っているにもかかわらず、その時には、私たちからみれば、あまりにずさんと思えてしまうような状況で驚きました。おそらくルールに違反していないから許されるというようなことだと思うのですが、金網があって、砂利があって、真ん中にちいさな畑があります。周りが砂利なので、実際にはちょこちょこと雑草は生えているのですけれど、そこに草は生えにくい状態ということでした。おそらくそういう場所であったら実験をしていいですよ、というルールなのだと思います。その日は、たまたま風の強い日で周辺の木々の葉っぱが飛び込んできたりしていました。となると当然、花粉が外に流れていくということも容易に考えられるとは思うのですが……。なぜそれで、だいじょうぶと考えられるのか???もともと危険なものとは思っていらっしゃらないようですが。私たちからすると、一度、環境の中に広がってしまうと、元に戻すことはできないわけで、身体の中に入れてしまったものがどう影響していくかということや、私たちの体内に入ったものはゼロに戻すことはできないということがありますので。本当に慎重になっていただきたいと思うのですが、なかなか市民の声は、そこでは届きませんでした。
 生産者の方が、風評被害が出たときにその保障はどうしてくれるのですか、という話が出てはじめて、お金のことが絡んでくると(こちらの話も)聞いてくれたのでしょうね。実験が延期されました。あちらこちらで実験の話が出た際には、組合員の人たちが時間の都合がつくかぎり、生産者とともに行って、そんなに簡単な話ではないです、ということを私たちなりに伝えてきました。
Q)今の話が、けっこう象徴していると思うのですが、開発側、専門家や専門のメーカーであったりするのですよね。こちら側は、それをいってみれば素人集団が行って、これはどうなのですか、と問うていくという形になっていますが。
 実際のところ、行政に対して方針を変えさせることや、私たちが納得する規制の仕方を導入させるには、こちら側もやはり専門的に正確な分析や批判したり、あるいは代替案を求められたりというケースがありますよね。そうした場合、生活クラブ生協では、専門的につめていくことや詳細な分析が求められるときは、どのように対処されているのですか。
――遺伝子組み換えに関しては、専門家、特に警鐘を鳴らしている方々にお会いして、お話を伺った中から組合員に情報を出しながら、その声を大きくしていく、というのが、私たちの活動の仕方かと思います。カナダやロシアなど、実情や研究結果を話してくださる方をお招きした集会などへの参加も呼びかけます。同時に、行政や研究に関わる人たちに対して、私たちはこう考えていますので慎重になってくださいということを、署名活動などを通して訴えていっています。
Q)遺伝子組み換えの問題に限らず、たとえばBSEの問題があったり、新しい添加物が出てきたりと、常にそういったことに晒されていて、それらを的確に判断するためには、どの専門家に聞いてゆけばいいのかとか、あるいは誰を信頼すればいいのかということで、振り回されている状態が続いている気がしますが……。
――連合レベルでは、私たちよりも情報が多いですから、そういった意味で、しっかりした方向性を持てているというのはあると思います。私のような個人レベルでさまざまな情報を見ていると、科学知識も弱いので考え方が揺れ動くことはあります。ただ、反対のための反対運動をするつもりはないのですが、私のような素人から見てみても「大丈夫ですか?」というような形で進んでいってしまうと、納得できない状態で進めてもいいとは、やはり思えないのですね。進めたい専門家の方にすれば、「新しい機能が増えただけで、たいした違いはないですよ」ということかもしれませんが、他の遺伝子を組み込んだことで、全体としての変化がないのか、他の機能にどのような影響が起こり得るのか誰もわかりません。たとえば、植物と動物との種の壁を越えるというのは、とても信じられないことです。
 専門家が大丈夫と言えば、大丈夫だろうと、多くの人が思いがちですが、大丈夫という意見と、危ないという意見の間で、自分はどうするのかということは、かなり厳しいことです。自分を突き詰めてみなければなりませんし、わからないからと黙っていることは危ない状況に向かうことに賛成していることにもなりますから。でもいろいろな周辺の状況も聞きながら、悩んだ中で、それでも納得いかないところは、立ち止まって考えてほしいと、私たちなりの意見を表明していくことになるのかなと思っていますけれど。
Q)国としては、この時点で専門のラインを決めて、この時点で商品化を決めてというようなデザインで動いているのだと思います。けれども、私たち食べる側からすると、不安を抱えつつとか、迷いながらというのは、どうしてもこだわってしまいますよね。そこを納得できる形にするには、時間もかかり、いろいろな人の意見も聞かなければならないというプロセスは避けられないと思います。ゆっくりじっくり考えて、やっていきたいのに、開発側はどんどん進んでゆくという問題の性格があるのではないかという気がします。もうひとつは、以前たとえば、生活クラブ生協では、せっけんを使うことを推奨していくというので、調査や科学的な技術のリスクに関して、生活者の立場から、自分たちはこういうものを選択してゆくんだとか、この商品を選んで、環境に配慮してごみを出さないようなものを使う等、そういった方針や約束事がいくつもあるように見受けられますが、それに関して説明していただけますか。
――せっけんに関しては、こだわっています。他の生協では組合員の要望があればと、合成洗剤も扱っているところもありますが、生活クラブでは、合成界面活性剤に問題を感じていますので、基本的にせっけんしか扱わないという立場にたっています。確かに利用数を見ると、利用していない組合員も多くいるという状況ではありますが。
 せっけんと合成界面活性剤は違うもので、環境や健康への影響ははっきりとあるのだという発信は、常に行っています。最近では、お酢や重曹を使って、ナチュラルな洗浄というのが若い方にも増えてきていますので、うれしいなと思います。
Q)そういった意味で昔の知恵というか生活に立ち返ることが、ひとつの正解なのかなと感じます。たとえば今、界面活性剤のことが出ましたが、お化粧品などでも、生協のものと一般の市販のものと比べて…ということがあるとは思うのですが、そういった点はどうでしょうか。
――だいぶ前ですが、化粧品に関するプロジェクトがありまして、どのようなことを考えて化粧品を扱っていくかということを決めたことがあります。その時には、全成分を情報開示していることと、リーズナブルな価格設定という基準を作って、化粧品の取り扱いを始めた経緯があります。今現在、化粧品には合成界面活性剤が入っているものもありまして、それに関して不安に思っている組合員もいますので、今ちょうど化粧品に関するプロジェクトを行っているところです。一方では、組合員の要望があり、ある意味化粧品は嗜好品のようで、その人その人の価値観のようなものがあるので、その辺りをどこまで考えて行くのかというのは難しいところです。基本的に扱うものは、比較的安全だというものを固守していくというものです。
Q)私たちのところでは、ナノテクノロジーの化粧品について、どのくらい普及していて、メーカー側が、どの程度の情報開示をするつもりなのかということを調べています。そういうことを通して、消費者が何の気なしに使っているものを、今は明らかになっていないけれども将来的にリスクをもたらすかもしれないものというのは考えるところが多々あるなと実感しています。このようなことをいかに社会全体に伝えてゆくことが可能なのかと考えています。その際、一番大事だなと思うのは、ある程度の問題意識に目覚めた人たちが集まる「場」があるということだと思うのですね。個々の生活者・消費者は、たとえば新聞やインターネットあるいは講演会などで情報を仕入れるかもしれませんが、いったん行動を起こすということになると、自分ひとりでというのは非常に大変だし、やりきれないということがあります。ですので、生活共同体というのは、本来は日本でももっと普及していってしかるべきと思うのですが……。尾澤さんの中で、生活クラブ生協に入って生活する以前と、それから今と、今の組合員の方たちを見ていて、現在の組織の価値はどんどんみんなに共有されて良い形になってゆくのか、それとも何か危機的なものになっていくのかというというようなことを語っていただけたらと思います。
――遺伝子組み換えに関しては、組織があって、それが集まることでこれだけの力が示せるのだということをあからさまに実感しました。たぶん世の中に対しても大きな発信にはなっていたと思います。ただ、にもかかわらず、なぜこんなに先へ先へ進んでしまうのだろうというジレンマも一方ではあります。問題になっていることが、そのひとつひとつの事象では止めることはできても、全体としての方向性がなかなか転換されないというのは、非常に厳しいものを感じています。遺伝子組み換えの食品は、世論としても9割方の人が食べたくはないと言われていたけれども、安全だ、知らないだけだといって進めてしまう。食べたくないという私たちの気持ちは、そういった形で踏みにじられてしまっていいのか、という気もしますし、納得いかない気もします。その意味では、もっと多くの力が集まらないと、物事の転換は難しいのかなと感じるところではあります。それでも、この組織があるという心強さはありますし、可能性も感じています。
Q)組合員としての出資といいますか、共同購入でも、自分の買いたいものだけにお金を払うのか、それとも組合員として積み立てていくのかなど、出資の方法、割合、個人の負担の程度などを補足していただけたらと思います。
――出資は、積み立てていったものを脱退する際にはお返しするというものです。一律のもので、安定して固定資産なども整えることができています。生活クラブの場合はこの出資がしっかりしているので基盤もしっかりしたものになっているというのはあります。利用していく中で剰余が生まれ、遺伝子組み換えなどに関しては直にかかわるということで、活動が必要となりますので、活動経費はそこからとなります。後は、より小さい単位で、「まち・ちいき」という仕組みをつくっています。大田区なら大田区で、1つの「まち」をかたちづくり、その「まち」の活動費は年間いくらというように決めて集め、それが活動の基盤になっているという形です。
 ですので、組織の小さいところの独自の活動も、大きいところの全体の活動も組合員が会計をふくめて確認しながら進めています。
Q)お金を出す側にも、使い道、使われ方が見える形になっているわけですね。
――はい。そうです。
Q)それが、大事ですよね。税金に関しても、私たちは払っているのに追いきれませんよね。ただ単にお金を出して、やってもらうという意識ではなくて、自分たちで参画しているという意識につながっているという気がします。
――直接活動に携わっている組合員が多くなればなるほど、より活動が充実していくということもありますが、直接ではなくても活動に参加し支えになっているということもありますので、いろいろな関わり方があると思います。情報は、皆さんに同じように伝えていくというようにしています。
Q)情報を伝えていく手段というのは、どういったものですか。
――機関紙や、もう少し小さいニュースというようなものもあります。実際に活動している組合員が、必要だと思うことを記事にして出している部分もあります。HPなども利用します。当然どの場合も、質問・意見等は常に受け付けています。
Q)その意見等は、どのように対処・処理してゆくのですか。
――内容によってですが、最近ではトランス脂肪酸のことが言われてきていますが、そういった場合には、やはり質問も多くなってきます。このような質問や意見が来ているということと、今どういう扱いで、どういった見解であるかということを明確に広報するようにしています。個別の問題であれば、本人への返信のみの場合もあります。
Q)トランス脂肪酸に関していまのところ考える客観的データに基づいてきちんと把握していくこと自体は、大変だと思うのですが、その辺は専門家に話を聞く体制等はあるのですか。
――それも連合レベルなので、把握していません。確認しておきます。
Q)実は、私たちもWEBを使って進めているプロジェクトがあって、今のようなトランス脂肪酸はどうなのかという質問を専門家にぶつけて、どの専門家に話を聞けばよいかとか、その見解をさらに消費者の間に投げて意見交換をしていくという形がスムーズにできるようなものを作ろうとしています。ですので、生活クラブ生協の活動がひとつの手本になるかもしれないと思っています。
――活動を通して(現在の)形になってきていると思います。一方的なものではなく、常に意見を聞きながらというのが、私たちの形です。
Q)端的に言いまして、会員の方は増えているのですか。
――一時期、減った時がありましたが、今は順調に増えています。
Q)みなさん周りの方の声をきいてというのが多いのですか。
――そうですね。生活クラブを評価していただいているということだと思います・・・と、言いましても、生活クラブ自体が組合員主体ですから、いいつながりが広がってきているのかなと思います。
コメント)生活の中から出てくる疑問や、一緒に考えて、たとえば生産段階にまでさかのぼって、一緒に企画をするということはなかなかできないですよね。一緒に活動する場があり、その活動を継続してゆくことができるというものが日本にもっと必要だと思いますので、生活クラブ生協のような共同体のやり方というのは、現在の社会の中で先駆的なモデルとなっているのではないかと思います。それを多くの人に感じてもらえたらと思います。■

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