大槌町の復興について思うこと

投稿者: | 2011年7月6日

現地を見てきました。その結果、あらためていろいろなことを感じさせられました。
今回、大槌町では多くの方が亡くなり資産を失いました。またさらに働く場を失い、町は崩壊の危機を迎えているように思えます。

課題はたくさんあります。まずは具体的な生活の拠点となる「住まい」の復興です。
年金で暮らしているような高齢者は、避難所生活、あるいは仮設住宅でも生活が成り立ちます。
大槌町の場合は漁業と漁業関連の仕事が産業の中心であり、漁港が破壊された今、産業が復旧するまで若い人は待つことはできません。働く場の復興が伴わないと若い人々は町には戻らずに他の都市、町に移り住んでしまい、その地で生活が成り立てば、あらためて復興のために苦労が予想される大槌には戻ってこないかもしれません。

町に残るかどうかはひとえに経済的な選択によるものであることはしかたありません。しかしそれでは大槌町はすたれてしまいます。少なくとも、この地に残る、あるいは戻るための経済的メリットが必要です。

具体的にいえば、復興のプロセスをはっきり提示し、復興プロジェクトにたいして参加を募ることがまず一つ。最初は都市インフラ整備が中心となりますから、一時的に他所で暮らすとしても、インフラ整備が終わった場合は、戻る意思を確認することです。その期間は生活費補助を出すとなどいう優遇策が必要です。さらに戻る人数がはっきりしないと都市計画ができないからです。

PDFはこちらから→csijnewsletter_008_hiramatsu.pdf

●防災都市づくり

防災計画を立てるために、多くの人が亡くなった理由について、分析しなくてはなりません。一言でいえば、亡くなった人は逃げ遅れたわけですが、なぜ逃げ遅れたのでしょうか。いくつかの理由が考えられます。

・津波が想定したより大きかったため、丘の上などに逃げる途中で間に合わず津波に巻き込まれた。
・一人住まいの寝たきりの高齢者であり、避難に時間がかかった。
・認知症などで、警報がまったく理解できなかった。
・家族の安否確認など他の家族を捜していた。あるいは避難するように電話をしていた。
・車で避難中、道路が赤信号で渋滞して動けなかった。
・逃げたものの、重要なもの、お金などを取りに戻った。
・津波避難警報が最近、多く発令され、慣れてしまっていた。
・大きな堤防があるから大丈夫と過信してしまった。
・地震で倒れた家財道具の下敷きになり動けなかった。

つまり、様々の理由で避難できなかったように思います。地震が夜間であればさらに避難できなかったでしょう。
さらに今回の津波は単なる水だけではありませんでした。水だけであれば泳いだり、浮かんでいて救助される機会はあったかもしれませんが、船、家屋、看板ありとあらゆるものが津波でこわされる、また、車や機械など重くて危険なものが津波として流れてきたわけですから人間などひとたまりもありませんでした。さらに大槌町では一部の建物に火がついたまま流され、それが他の建物や車に延焼することがありました。
大槌町の浸水区域はどちらかというと他の町より狭いものです。他の町ではより遠方に避難せざるを得ませんでした。

●結論

以上のような状況から、そもそも今回「避難することは無理だったのではないか」と結論付けざるをません。
復興の選択肢をいくつか考えてみました。

1、 被災地域のすべての住宅を高台に移す。
大槌町の川の上流沿いの農村地はすぐにでも地権者の協力があれば家は作れそうだが、農地転用などをして畑をつぶす必要がある。その場合、その地で農業を営んでいた人は仕事がなくなる。また、新たな土地を地主から買うことになるため土地代がかかる。また、その土地にどのような建物を作るかが検討課題となる。集合住宅であれば敷地面積は少なくて済むが、集合住宅が建てられるように用途地域制の指定、規制は変更しなくてはならない。
一方、農地以外の山間部に人が住めるようにするためには、山を削り宅地造成しなくてはならない。道路インフラ、上下水道などあらためて作り直す必要があるので多大の費用がかかります。その地だけではなく、具体的には、市街地の中心までの道路拡幅や上下水道の整備となりますからなおさらである。
どうしても戸建住宅に住みたいという要望にこたえるためには、ますます開発面積は広くなる。いずれも人々の意向を聞く必要があるが、そうした敷地は個人財産権の問題となり、公的資金は出しにくくなる。一方、高齢者は新たな住宅ローンは借りられないから一般解にはならない。
そもそも被災地の土地を買い上げることを考えると、さらにこの地の買い上げ費用を無償で公費により負担することは、経済的に難しいと思われる。

2、 完全な堤防を作る。
堤防を1000年に一度のものに耐える高さ、強度のものとして、中の建物は今  までのような津波対策を考慮しない通常の住宅とする。
特徴:住宅は個人の資力で作る。市街は今まで通りの復旧となる。
欠点:地域によって異なるが、多くの場合、町は地域の川を中心に古くから農作物がつくられ海岸には漁港しとしての港が造られている。川の流域も堤防の対象にしなくては意味がなくなる。さらに漁港の部分に巨大な堤防の設計は困難である。さらにそれは観光地としての景観も阻害することになりかねない。1000年に一度という津波頻度とリスクをどう考えるかである。

3、 堤防高さを現在の若干の割増とし、内部の地域の津波防災を考える。
都市計画的に防火地域と同様の、全国的に津波危険地域を作らなければならないのではないか。津波は、コンクリート造以外の低層建築物を破壊しながら進み、そのため破壊された建材や物、車などが「津波」となって人を襲った。つまり木造などの低層建築物は津波において壊れただけではなく非常に危険なものに変わる。
従って新たな津波危険地域においては、建築物はすべてコンクリート(RC造、もしくはSRC造)としなくてはならないだろう。さらに1階はピロティーとして駐車場とすることが望ましい。(車が流されることはいたしかたないとする。)それ以外の敷地は基本的に公園とする。(漁港関係の施設、商業施設についてもコンクリート造としてなるべく1階はピロティー化する。倉庫や商店は2階以上とする。)

4、 避難しやすいような避難経路、道路をつくる。
もちろん今までもそのような避難経路はあったが、あまり役に立たなかったのではないか。高台に上がる坂道は限られていた。また、津波の規模が大きすぎて避難場所すら津波にのまれてしまつた。今回のような津波に対しての避難場所は遠くになりすぎ、体の不自由な高齢者はとうてい避難できるとは思えない。
また、いざという時は、津波危険地域から5分以内で車でも避難できるようにする。高台に広い駐車場をつくり、駐車場待ちしているうちに津波に飲まれないようにする。それは学校の校庭として使い緊急時に駐車場とする。
他の道路と交差せず直線的に避難できるようにする。あるいはいざという時は避難路優先の青信号システムとする。
高台に直接避難できるように道路を作ることは望ましいが、現実的には難しいように思われる。
基本の幹線道路としては海岸沿いの津波危険地域とさらに津波を避けたバイパス的な高台に必要だろう。
その場合、単純に買い取るだけで終わるのか。被災した人々の生活を保障する形をとるのか。つまり新たな住宅を建てて、かつての地域の権利と等価交換するかである。この場合、住民は選択できるようにすべきだろう。

5、 ピロティー中高層建築
そもそも、避難しなくてもよいような住宅をつくる。これらの地域が中高層住宅だったらどうか。今回、大槌町では浸水深さが12.6メートルという記録がある。海抜などがよくわからないが、海抜15メートルくらいまで津波にあったということであれば、(例えばであるが)津波危険地域においては、その集合住宅の建物は海抜6メートル以上の立地としてさらに一階をピロティーとして4メートルとすると2階床は、海抜10メートルである。堤防の高さがほぼいままでと同様の10メートルとして、1000年に一回という地震に堤防が対応できなくても、堤防が決壊した後でも階段ですぐ上階に上がれば命は救われよう。
漁村の多くは低層建物しかないが、中高層住宅を認めることにする。ただし本来は低層住宅との混在は望ましくない。次項6の公園都市化と併設が望ましい。

6、 公園都市計画
建物の1階部分は基本的にピロティー、駐車場となり、敷地は公園化しそれを取り巻く比較的広い道路網となる。その場合、今までの権利が細分化した街づくりでは対応できない。つまり、被災地は全部国などが買い取る必要がある。
大槌町の場合、地震による建物の被害はあまり見られなかった。このような場合、さらに人工地盤(空中歩廊)化させて、日常の通行は2階レベルとして道路との交差もなくすことが考えられる。そのまま車道とぶつからないで高台の避難所にそのまま逃げることは考えられる。
しかし地震の被害が大きいと、そうした人工地盤の損傷がおこる。さらに津波で人工地盤が損傷すると逆効果になりかねない。また、仙台市若林区などのように津波危険地域が広大であると人工地盤が巨大すぎ、コストがかかり、地域により当てはまらないことがある。適宜コストを勘案しながら設計することになる。
小学校の児童の避難にあっては道路信号を渡るということは難しいので、やはり建物の中層化が望ましい。

7、 地域道路計画 (図はPDFファイルを参照のこと)
インフラの検討

・エネルギー問題について
福島原発が地震に端を発した水素爆発を起こしコントロールできなくなった。日本のエネルギー供給の仕組みが問われている。
エネルギー危機は原発論者が作り出したものではないか。個人的な意見だが、石油は簡単には枯渇しないと考える。石油は古代の堆積有機物により造られるというのが通説であり、一億年前に爆発的に増えた生物の死骸だというのであるが、それは間違いだ。おそらくそれは石油の価値を高めようというものたちが作り出した話にすぎない。メタンハイドレートと呼ばれる深層天然ガスがある。これはやはり石油と同じ理由で生まれたとされているが、そうではなく、地下マントルから二酸化炭素が上昇する過程でメタンガスとなるという説がある。であれぱ、メタンガスはほとんど無尽蔵にあることになる。さらに日本近海に存在し、メタンガスは水素と炭素の化合物で燃焼による炭酸ガスの発生は石油よりも少ない。であれば、エネルギー供給の問題は基本的にはなくなっており、パイプラインをどうするかという問題だけである。
太陽熱発電は、機器の耐久性が課題だ。アラブなどという灼熱の地ではよいが日本ではどうか。建物の屋根の上に機器を載せると、ルーフィングから雨が染み込み屋根材が腐る。おそらく、十年で屋根がダメになる。機器そのものも20年程度しか持たないといわれているから、建物がだめになる分収支上赤字となる。ごみになれば資源の無駄だ。新築の家で最初からルーフィングを傷めないような設計をすれば別だが、そうした設計はまだ知らない。
風力発電も地域差が大きく、実際の発電効率は不明だ。
結論はすでにでている。一番は小規模分散型電力とガスの併用だ。ガスタービンで発電するとともに、排熱を利用し温水と冷水を作り出す。それらを地域冷暖房の熱源とする。住宅へ温水を流し、各家庭ではそれらを加熱したりして利用する。ニューヨークのマンハッタンでは地域温水のインフラを1930年代に実現している。日本では地域型コジェネレーションとして築地の地域冷暖房センターの例がある。
そうしたガスに、地域から出るゴミ、特に剪定した木質廃棄物などをハイブリッドさせることも考えられる。電力だけでなくガスもインフラを皆で共用するようにすることが理想だ。
さらに最近では、家庭用としてのコジェネがある。エネファームと呼ばれるが燃料電池で電気とお湯が作れ、熱効率は80%である。戸建住宅、集合住宅ですでに商品化されている。地震の時もガス管が対応できれば発電ができることになる。
ところで大槌の場合はどうか。天然ガスのガス田は、秋田、北海道、千葉にある。パイプラインを作ってもいいが、液化したガスをタンカーで運ぶことが効率的なのではないか。一方、隣の釜石市では、日本製鉄所がある。鉄を作るにあたり相当の排熱があるはずで、そうした排熱の活用は可能と思われる。しかしいずれも戸建地区ではなく集合住宅化したほうが、利用効率が良いことはいうまでもない。
しかし省エネしなくてもいいなどといっているわけではない。むしろ省エネが先である。
エネルギー供給は需要と一緒に考えなければならないが、問題は電力需要のピークである夏季の冷房負荷であるといわれている。つまりすべての建物が遮熱、断熱されていればよいのである。10年ほど前に、外断熱マンションの住民に話を聞いたことがあるが、冷房したのは1年間で1日だったという。つまり断熱基準が厳しければ冷房もほとんどいらないということになる。もちろんこの時、窓を開けていたわけではない。2重窓で、ガラスはLOW-Eガラスとする。これはガラスの表面に特殊な金属を塗布したもので、断熱性、遮熱性を向上させる。

・上下水道の見直し
下水道も今回問題であることが分かった。地下の配管のダメージだけでなく終末施設の被災がおおきく2年間使えないという。われわれは大規模な浄水工場設備に頼りすぎたのではないか。
個別の排水処理を考えるべきだが、そのための敷地の広さが必要である。

・コストについて
上記提案の場合、今回被災した土地を津波危険地域としてまず国が買い取る。その地域の防災地域計画をつくり、インフラ整備をする。
そしてそのインフラの一つが住宅である。
そもそも住宅とはどのように作られるのか。通常、個人が土地を買い、建物を建てるわけだが、それだけの現金を持っている人はいない。資金を貯めてから家を建てるより、借金して建てることは、その期間、新たな家に住むことができるから合理的である。
だから金融機関から借金をすることになる。しかしそれは金融機関にとってもリスクの高い行為であるから、金融機関は担保を設定する。借金した人が返済できなければ、その建物は金融機関のものとなる。しかし金融機関もそのローンは日銀からの融資にまた貸しによる。そのため、ローンは何らかの保全が必要となり、住宅信用保証協会が代位弁済して、14%の金利をつけて銀行の代わりに一括返済を求めるという仕組みであるが、そもそも返済できるわけがない。住宅金融とは実はこのような理解できない仕組みの上に成り立っているのである。
かつてのように地価が上がっていたり、建物の資産価値が下落していなければ、住宅を売って返済することは可能だが、地価は下落し、建物も古くなるだけではなく、この不景気の時代に供給過剰であることと、さらに元利均等返済ローンの仕組みで、金利部分が先に返済され、元金の返済は後に繰り延べさせられている。だからますます住宅ローン破産がおきる。
では賃貸が良いのか。賃貸は、残念ながら安かろう悪かろうという物件が多い。単なる一時的な住まいとして考えられているからだ。家賃が安いものを借りて、分譲の頭金にしたいという人々の思惑もある。一方公営住宅は経済的弱者のためのものだから尚更、豊かなものは造られない。
結局、戦後、日本においてごく一部を除き、人間の生活空間は貧しいままである。
借金で買うという仕組みがそもそも間違いではないか。所有権を放棄した利用権の住宅をつくればよいのである。
そのマンションの共用部分、躯体部分などをスケルトンとして、それを利用する利用権である。これは区分所有法でいうマンションの「敷地利用権」の概念と近い。
そもそも「共用部」は法律上、区分所有者の全員の共有ということになるが、そもそも共有の所有権とは本質的に矛盾がある。所有権とは処分する権限であるが、マンションの共有に処分権はない。本来の共有とは、せいぜい夫婦二人で戸建住宅を共有名義で買うことくらいである。
共有部分は敷地と同じく利用権にすぎないのである。つまり敷地と共有部分は同じ専有面積の持ち分比率に応じた利用権であり、スケルトンと新たに呼ぶこととする。この利用権は、利用することができるだけであり、売買は利用権ということになる。
ハワイの集合住宅(コンドミニアム)では定期借地権が珍しくない。借地代(借スケルトン代)はかかるが、それと同様に考えたらどうか。スケルトンの管理は、その所有者が行う。つまり町ということだ。
今回被災した土地に中高層住宅スケルトンを建てて、それにより生まれた利用権をかつての土地と交換することを提案したい。土地が住宅に変わる。インフィルは所有を認め、被災地の人々が所有する。費用については、政府補助とともに全国から支援金を募る。あるいは赤十字の義援金を投入する。■

【平松朝彦 (サステイナブルマンション研究会・代表/市民研・住環境研究会メンバー)】

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