巻頭言 知られざる研究問題・薬学部6年化とその影響

投稿者: | 2012年6月16日

巻頭言
知られざる研究問題・薬学部6年化とその影響

横山雅俊(市民研・理事)

pdfはここから→csij_newsletter_012_whole.pdf

今から6年前、日本の大学の薬学部で、薬剤師国家試験の受検資格を得られる課程が6年制になり、その第1期生が今年いよいよ世に出た。  薬学部6年化の動きは以前から存在し、日本薬剤師会や厚生労働省などの悲願であったが、文部科学省や国立大学の側では、反対論が根強かった。10年前、文部科学省「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」(以下、協力者会議)において、最終的に6年化が提言され、関連法規の改訂を経て正式決定した。  実は、その協力者会議での議論は、驚くほど貧相だった。6年化推進派の見解は、諸外国の薬剤師養成が5年ないし6年間「だから、学部教育の連続性が重要」なるほぼ一点に尽きる。「学部4年+大学院修士2年」を主張する国公立大側と、「学部6年」を主張する厚生労働省、日本薬剤師会、私立大学という綱引きにほぼ終始している。  その薬学部6年化において、最大の目玉は半年間の臨床実務実習である。実は、薬学部6年化が正式に決定してから、そのシステムの設計が始まった。残念ながら、協力者会議での議論でも、大学教育の中で何をどう組み込み、全体のバランスをどう取るかという問題意識は、臨床関係者の側には希薄だったようだ。

一方、薬剤師たちの当事者意識は概ね冷ややかで、薬学部を志願する高校生や浪人生は減少傾向にあり、6年制薬学部の学生たちは、非常に危機意識を持っているようだ。また、人材需給や生命科学の研究、社会貢献の多様性の観点からは、国公立大学の関係者からの批判が根強い。  さて、こうした問題は、実は市民社会においては殆ど知られていないのではないか。他方で、学部生、院生、大学教員、製薬企業の開発研究者、薬剤師など、各セクタ間での交流は盛んではない。  筆者は今秋開催予定の科学コミュニケーションの祭典「サイエンスアゴラ 2012」において、研究問題ワークショップ「本音で語る」シリーズでこの薬学部6年化問題を取り上げたいと考え、準備を進めている。薬学の持つ学際性や社会との接点の広さは、科学コミュニケーションの題材として重要なものだと筆者は考えている。■

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA