巻頭言 放射線健康リスク問題:市民研の取り組みから

投稿者: | 2012年10月26日

放射線健康リスク問題:市民研の取り組みから

上田昌文(市民科学研究室・代表)

福島第一原発事故から1年半を経た時点で、放射線健康リスクの問題に市民科学研究室はどう取り組んでいるか(あるいはいこうとしているか)を紹介したい。
まずは、比較的大きな規模での、民間団体主催のイベントに参加した報告を3本掲げている。少し前だが、6月23-24日の「放射線防護に関する市民科学者国際会議」、そして8月30-31日のシンポジウム「福島原発で何が起きたのか―安全神話の崩壊」だ。今後の大きな見通しを描くのに役立ててもらいたい。
9月23日放送のHNKのETV特集「シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える」では『ウクライナ政府報告書』が大きく取り上げられたが、じつは市民研はこの報告書の、健康影響に関わる部分である第3章と第4章を翻訳することなどでNHKへの取材協力を行った。最終的に確定した訳文を、現在ホームページで掲載している。専門的に高度な内容を含むが、第一級の重要度を持つ文書であろう。なお、11月5日にはこの番組制作にあたったNHKのスタッフの方を招き、チェルノブイリ事故26年後のウクライナやベラルーシの状況についてご報告いただく。

食品放射能に関する研究も進行中だ。「大地を守る会」と提携して、茨城県の霞ヶ浦周辺でレンコンを生産する農家の方々の協力のもと、今年の産品へのセシウムの移行をいかにして低減化するかを探っている。農産物や海産物での検出データを、品目・産地・時期(昨年と今年)などでの比較を詳細に行い、「セシウムが何に出て何に出ないか」を明らかにしようとしている。この研究の結果の一部は11月17日の科学技術社会論学会で発表し、その全体を今年度中に論文にまとめるつもりである。

放射線教育についても12月2日にイベントを設けている。雑誌『科学』10月号(岩波書店)でも特集が組まれたが、より具体的にふみこんで文科省副読本に代わるどんな中身を子どもたちに伝えるべきなのかを検討する。市民研の上田が関東圏で10数回実施し、そしてこの夏以降福島県でも数回(11月8日には伊達市富成小学校で各学年の生徒を対象に授業を行う)組まれている「親子放射能ワークショップ」も実践例として取り上げる。

さらに、東京大学政策ビジョン研究センターからの委託によりすすめることになった「原子力施設の地震・津波リスクおよび放射線の健康リスクに関する専門家と市民のための熟議の社会実験研究」がこの10月からスタートした。3年をかけて、放射線健康リスクでの専門家間や専門家・市民間に生まれてしまっている意見対立や齟齬をどう克服していけるか、適正な放射線防護のあり方を見据えて客観的に明らかにしていく。■

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