電話通信技術と環境

投稿者: | 2004年3月29日

電話通信技術と環境

アーサー・ファーステンバーグ
翻訳:薮玲子

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1 9 8 2 年、私は医学校の4年生だった。輝かしい前途が約束されているはずだった。しかし今の私はホームレス状態である。私の経済状態では避難することもできず、この健康状態では生きていけるかどうかも分からない。友人たちが私のためにできることは少ない。じわりじわりと死は忍び寄る。法律はこの窮地を救ってくれはしない。

私と同じような境遇の人たちのために、私は8 年間、弁護と支援のネットワークを運営している。北アメリカでこんなことをしているのは私くらいのものだ。われわれにはもう時間がないかもしれない。生命を脅かしつつある、知られざる危険から逃れるためには、今すぐ、早急な対策が必要なのだ。その対策については後ほど説明しよう。

私は電磁波に過敏である。それゆえ、北アメリカをはじめ世界中の電磁波過敏症の人たちを弁護し、彼らに情報を提供し、サポートしている。私たちがこの病気に襲われたのは、あっという間に地球上に広がった電磁波汚染、いわゆる電磁波スモッグのせいである。まず、いくつかの専門用語を説明しておく。「電磁波過敏症」とは、電気、電磁場、電磁波放射線に曝されることによって、それらに過敏に反応する病気である。現代の人間は誰でも電磁波に曝され、その影響を受けているが、ほとんど人は何の自覚症状もない。「電磁波に過敏である」とは、電磁波に反応して、自覚症状を感じるばかりか、さまざまな反応がただちに現れて、生活に支障をきたす人たちに使われる言葉である。その反応がはなはだ奇妙で不安定なため、たいていは善良な家族や友達や医者などにも取り合ってもらえない人たちが多く、そのため、その数は人口のたった2~3%ほどしかないと言われてきた。これを見ても、電磁波過敏症が単に医学的な問題にとどまらず、政策的な問題でもあることが分かるだろう。電磁波の暴露による被害は、間違った政策によってもたらされたと言える。しかし、その被害は公にされることはない。最新式通信技術業界の圧力がそれを許さないのだ。

1996 年の夏、私はニューヨークのブルックリンに住んでいた。しだいに電磁波過敏症であると自覚するようになり、できる限りの対策をとった。私は医者にはならなかった。原因不明の病気のせいで医学校を4 年で辞めたのだ。はじめは頭痛や集中力低下、記憶力減退などの症状が現れた。それから、外科の担当の時、臀部に激しい痛みを感じ、手術の助手が出来なくなった。心拍数は50を切った。ある日、私は卒倒し、起き上がることができなくなった。胸が痛み、呼吸が苦しくなった。心臓発作だと思った。その後2 週間のうちに、体重が15 ポンド(約7kg)も減少し、どんどん痩せていった。結局、心臓発作ではなかったが、息を切らさずに階段を上ることが出きるようになるまでに6 ヶ月もかかった。再び元気になってスキーができるようになったのは3 年後である。7年後に、私はテレビやパソコンなどの特定の電気器具に近づくと痛みを感じるという人に出会った。その時はじめて、「電磁波過敏症」という言葉を知った。減少した1 5 ポンドの体重が元に戻ったのは17 年後だった。

その間に、私は生体電磁波に関する世界中の文献を調べあげた。電磁波の生物学的影響を調べていくうち、その道の専門家となった。私は、現代の外科手術で組織を切ったり止血をする時に使われる電気器具によって外科医があびている電磁波が、産業労働者向けの電磁波曝露基準よりずっと高いことを知った。ロシアや東ヨーロッパの医学文献には、通信波症候群と呼ばれる病気について、かなり前から書かれていることを知った。西洋医学の権威は、そういう病気の存在さえ常に否定してきたのだった。その病気についての記述を読んだ時、私は、自分の体験した「原因不明の病気」、私の医学のキャリアを狂わせた病状を思い出した。脈拍の低下、または、心拍数の低下が顕著な徴候であると、それらの文献には書かれてあった。

現実の生活ではコンピューターのない職場などもはやないに等しく、1990 年から私は職に就いていない。「障害者社会保障」(S o c i a lSecurity Disability)で生活することを断念し、サポートグループのメンバーたちと一緒に、この障害を持ちながらうまく生きてゆける方法を模索した。といっても、その方法とは所詮、電磁波にさらされるのを避けるということだった。しかし、1996 年7 月、私は町に新たな波が押し寄せようとしていることを知り、愕然とした。もはや、電磁波曝露をさけることが不可能になるという怖れが私を打ちのめした。

携帯電話は、それまでは特定の職場で働く人たちの贅沢なアイテムにすぎなかった。外出している時にまで電話がつながることに人々は慣れていなかったし、家庭用の電話は電線でつながっていて、アンテナもなかった。ほとんどの人は、脳の近くでマイクロ波が発生する機器を携帯することに抵抗があった。1996 年、電話通信業界はこういう人々の習慣を改革するためのキャンペーンをはじめた。その年のクリスマス商戦では、国中を挙げて、プレゼント用リストにデジタル携帯電話を入れる計画が進められた。携帯電話はより実用的に改良され、何千というアンテナが、クリスマス前に国中のタワーやビルディング、教会の塔、街灯柱などに設置された。その後、数年のうちに、アンテナの数は何十万にもなった。

この異常事態に反応して、私は何人かの友人とともに、「携帯電話対策部隊」(Cellular Phone TaskForce)を結成し、思いつく限りの公的機関や新聞社などにコンタクトを取り、携帯電話の危険性を訴えた。しかし、1996 年11 月14 日、ニューヨーク市で最初のデジタル携帯電話プロバイダー会社である「オムニポイント」が進出し、マンション群の屋上に設置された何千ものアンテナから発信を始めた。健康局によると、11 月1 5 日前後に、ニューヨークでインフルエンザが流行りはじめた。ボストンやフィラデルフィアではそんな兆しはなかった。インフルエンザは猛威を奮い、長期化し、通常2 週間で終るところが何ヶ月も長引いた人もいた。

クリスマスシーズンに入り、「携帯電話対策部隊」は無料のウィークリー紙に小さな広告を出した。

「96 年11 月15 日以降、次のような症状にかかった人はいませんか?目の痛み、不眠症、唇の乾燥、喉の腫れ、胸の圧迫感や痛み、頭痛、めまい、吐き気、震え、他の痛み、いつまでも治らない風邪。もしこんな症状にかかっている人がいたら、この町を覆った新しいマイクロ波システムのせいかもしれませんので、我々までお知らせください」こうして私たちは、知らせてくれた人たちからさまざまなことを聞くことができた。何千という電話がかかって来た。男性、女性、白人、黒人、アジア系、ラテン系、医者、弁護士、教師、株式仲買人、エアー・アテンダント、コンピューター・オペレーター。ほとんどの人たちが1 1 月中旬に突然発症していた。彼らは脳卒中や心臓発作、神経系統異常の前兆ではないかと怖れていたので、この症状が自分ひとりではないこと、頭がおかしくなったのではないことが分かって、安心した。

その後、私は死亡率の週間統計を分析した。それは全米122 都市の統計で疾病統計センターが出しているものである。それらの多くの都市のすべてで、1996 年か1997年にそれらの都市で最初にデジタル携帯電話ネットワークが操業を開始した日から、2 ~ 3ヶ月で、死亡率が1 0 - 2 5%増加していることが記録されていた。私はこの生データと完全な分析の両方をグラフ化して発表した。

私は、1996 年2 月に「環境的なことを理由に地方自治体が携帯電話アンテナの設置許可を却下してはいけない」という条例を米国議会が成立させたことを知った。それは連邦通信局(FCC)の条例に則った措置であった。FCC はちょうどマイクロ波の曝露制限を、環境防護協会が世界中で病気の発症報告があるレベル…私を家から追い出し、家族や友人達から離れさせたレベル、命からがら逃げ出し、再び我が家に戻れないようにさせた曝露レベル… それよりも、少なくても10000 倍高い規制にしようと動いていたことが分かった。FCC の不条理な基準制定と地方政治の統制に対して、「携帯電話対策部隊」は全米の50 以上もの草の根の独立団体とともに、法的に闘うことにした。これは最終的に米国最高裁での争いまで行った。多くの都市や町、何人かの両議会の国会議員、その他多くの公共団体がわれわれの裁判の傍聴を最高裁に申し入れた。しかし、2001 年1 月、最高裁は何の説明もなく彼らの申し入れを却下した。

どこかの専門家が、「携帯電話や基地局の安全性は数々の研究によって証明されている」とお決まりの説明をする。電話通信業界の差し金が、彼らにそう言わせているのだ。そんなことは真っ赤な嘘であるが、マスコミはこぞって書きたがる。実際のところ、マイクロ波の曝露は、X 線と同様に、安全なレベルなどないのである。有害であるという結果を出すのはごく簡単なことで、有害な結果を出さないためには、実験の設定に工夫が必要である。現在では有害な結果は1 0 年前よりももっと簡単に出る。というのは、実験における「コントロール群」が、そもそも曝露を受けているからである。つまり、地球全体が曝露されていて、どんなにうまく実験を設定したところで、ほとんどの実験でなんらかの影響が出てしまうのだ。その影響は心拍、脳波、脳血液関門、睡眠、目、生殖腺、皮膚、聴力、カルシウム、メラトニン、グルコース、代謝、健康全般に及ぶ。たいていの人に影響が出る。ゾラック・グレーサーは、1970 年代の米国海軍軍人に対して行った電磁波暴露に関する5 0 0 0 以上の研究をひとりで再検討した。私がこれまでに見た多くの文献の中で、印象に残っているものには次のようなものがある。:

■アラン・フレイのマイクロ波の調査結果。

■ミルトン・ザレットのマイクロ波による白内障の研究。

■カナディアンス・タナー、ロメロ・シエラ、ビグ・デル・ブランコの鳥に関する研究。( 鳥の場合は、羽がマイクロ波を受信する恰好のアンテナとなるため、特に電磁波に敏感である)

■睡眠に関するスイス政府の研究( 7 マイル離れていても睡眠障害を起こすため、短波の発信施設を閉じた)

■ラトビアのレーダー基地局からの超低レベルの電磁波による広範な環境影響を明らかにした国際研究(木々の年輪の形成低下、松葉の未成熟、牛の染色体異常、学齢期の子供の記憶力、注意力、学習能力、肺機能の減退、成人における白血球の増加、レーダー操業以降の出生性比の変化( 女児の増加))。

■ドイツの携帯電話基地局の農場の動物への影響に関するロスチャーとカズの共同研究。

■酸性雨よりもマイクロ波が原因と思える森の枯渇の調査をしたウォルフガング・ホルクロッドの研究。

■同じテーマのウルリッヒ・ハーテルの研究。

■フランスにおける携帯電話基地局からの距離の変化と健康影響に関するロジャー・サンティーニの研究。

■クラウディオ・ゴメズペリッタのスペインにおける同様の研究。どよう便り79 号(2004 年8 月)

■通常の人と過敏症の人への携帯電話基地局の電磁波による健康影響に関するオランダ政府の研究。

■サンフランシスコのステロ・タワーからの距離と小児癌発生率に関するニール・チェリーの研究。

■リーフ・サルフォードの血液脳関門に関する近年の研究。( これはアラン・フレイや他の研究者の初期の研究結果を裏づけると同時に、さらなる不吉の前兆でもあった):1)時として1000 分の1もの暴露量の減少が、脳への損傷を増加させることがある。( いわゆる窓効果)2)携帯電話の電磁波に1 回のみ2 時間暴露させた動物で、2ヵ月後に脳細胞の死が認められた。

ドイツでは、2000 人の医者がワイヤレス技術の制限を主張する嘆願書(フライブルグ宣言)にサインをした。患者たちに特定の病気や症状が著しく増加し、その原因が環境中のマイクロ波であると考えたからだ。それらの症状とは、頭痛、偏頭痛、慢性疲労、精神不安、睡眠障害、耳鳴り、神経・連結組織の原因不明の痛み、感染力の増加などである。嘆願書の主旨は、曝露制限を大幅に引き下げること、携帯電話技術をこれ以上拡大しないこと、携帯電話と基地局の禁止ゾーンの設置、子供の携帯電話の禁止、学校、病院、療養所、公共施設、および公共交通での携帯電話使用の禁止である。 カリフォルニア保健支援センターでは電話調査を行い、その結果、12 万人のカリフォルニア人が職場での電磁波汚染を理由に職を離れたことがわかった。同じ理由でも、家の中での暴露によって家に住めなくなり、逃げ出した人はこの数字に入っていない。

自ら電磁波過敏症であることを公表し、コードレス・フォンやコンピューターが使えず、また、携帯電話を使っている人の傍にいられないと語った人たちの中で、もっとも著名な人物といえば、医師であり、保健局長であり、元ノルウェー首相のゴロ・ハーレム・ブランズランド女史をおいて他にはいないだろう。彼女は2003 年までWHO の総務部長だった。これほど世界的な地位にある公人さえ、われわれの社会の窮状に対して、世界的関心を集めることができずにいるのが現実である。それでも少しは電話通信業界の勢いは下火になりつつあるし、少なくとも環境問題として認知されてきている。 いずれこんなことが起きるにちがいない。教養があり、職業的に有能な多くの人たちが、この国の不毛な砂漠をさまよい、ホームレスになり、追い出され、人権を奪われ、行き場所を失う。多くの人たちが希望を失って自殺したり、長患いをしたり、生活の場が定まらず、何度も避難せざるを得ない。

電話通信業界は、多くの機器の検査官たちが、組み込み作業員たちが、修理員たちが通信波による病気にかかっているにもかかわらず、公表を恐れ、あるいは彼らの病気の実態を認識さえしていない。

多くのレーダー、アンテナ、通信機器は、先進国、開発途上国のいずれの国々で、国や、軍隊や、緊急用、商業用、個人的な使用に使われてきた。地球上、もはやこれから逃れることはできない。通信天文学者たちでさえ、星の観察ができる通信可聴電波内で唯一静かな場所として残されているのは遠い月の表面だけだと真剣に話しているのだ。

次のことが早急に望まれる。電磁波避難地区、非曝露ゾーン、基地局設置・携帯電話操業・テレビケーブルのない場所(ケーブルは時として重要な暴露源となる)・・・生命を守るために、これらの地区をただちに設ける必要がある。環境や人権専門の弁護士が、これらの問題にあたるべきである。土地の所得と法的費用のための基金。電話対応、手紙書き、交付手続きなどのボランティア。

安全な世界を構築するために、次の2つの原則を守ろう。1.距離の測定。電力は距離の2乗に比例して減少する。アンテナはなるべく減らし、住民や環境保護地区からできるだけ離すこと。2.デジタルは危険。デジタル(パルス)技術は、アナログより低い電力レベルでより危険である。すべてのアナログテレビ、ラジオ、通信移動システムが数年間のうちにデジタルに移行するようにというFCC の命令は、非常に危険である。次のことは各自でできる対策である。

■携帯電話を持っている人は、解約せよ。基地局やアンテナは、周辺の環境を劣化させている。携帯電話によって緊急時に救助される人の数よりも、携帯電話のせいで死んだり病気になる人の数のほうが多い。携帯電話を使うと、1 0 0ヤードにわたって環境を汚染する。携帯電話を使用していない時でも、電源を入れていて受信できる状態であれば、携帯電話からは電磁波が出ている。

■家庭用コードレスフォンを持っている人は、電話線付きの電話に交換せよ。便利さを理由にしてあなたは自分の脳にマイクロ波をあびせ、近隣を汚染していることになる。ワイヤレスのベビー監視装置を使うことによって、あなたの赤ちゃんに電磁波をあびせてはいけない。

■学校委員会へ:成長期の子供たちをワイヤレスのコンピューターやキーボードやマウスからの電磁波に曝してはいけない。

■コミュニティー通信局へ:送信電力の増加、受信不良地域への中継基地の増加を安易にするな。聴取者へのより明瞭な受信のためにアンテナを設置することは、多くの汚染をもたらすだけである。受信不良の地域が、住むには最も健康的な場所といえる。

■低電力FM 愛好家へ:低電力FMはよいアイディアであるが、たとえ低電力であっても、住宅地にアンテナは設置すべきではない。

■コンサートやイベントを開く人へ:イベントでは携帯電話を禁止し、安全を保て。警護のために2方向通信機器は使用するな。

■健康温泉のオーナーへ:コードレスフォンや2 方向通信機器を使って、地面を汚染しないように。

■動物科学者へ:電磁波首輪は動物を汚染し、飼っている動物に被害をもたらす。それらを使うな。

■公園管理者へ:公園や原っぱは電磁波禁止地区にし、基地局を締め出せ。

■地方公務員へ:市民の健康がまず第1 である。地域内に携帯タワーやアンテナを設置するという計画には反対票を投じよう。

■国会議員へ:パトリック・レーヒー議員とジェームス・ジェフォーズ議員、またバーニー・サンダース代議士を支援せよ。彼らは、有権者の健康を守ることを否定して作られた地方行政法の電話通信条例の第704 条を廃止することに尽力した。

………………………………………………………………………………………………………………………….アーサー・ファーステンバーグは「携帯電話対策部隊」の創設者であり、代表である。また、通信「No Place To Hide」の編集長である。著書に「Microwaving Our Planet」( ワイヤレス革命の環境影響) がある。彼はE メールをせず、ウェブサイトもない。連絡先は次のとおりである。P.O.Box 1337,Mendocino,CA 95460,もしくは、( 7 0 7 ) 9 6 4 – 5 1 9 6 か(718)434-4499 に伝言をすることもできる。

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