市民のための生きた科学館とは 科学館プロジェクト計画書より

投稿者: | 2001年4月16日

市民のための生きた科学館とは
科学館プロジェクト計画書より

古田ゆかり

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●遊び場・興味・不満 そして……
最初は、科学館に興味がある、というだけだった。小さい子どもがいて、雨でも遊べて、一日それなりに楽しめて安い遊び場。あわよくば、もの作りや原理みたいなものにふれられたらラッキーという気持ちもなかったわけではない。でも、本などの紙媒体とちがい、立体であったり動く・動かす、また紙媒体ではぜったいに実現できない大きさの「展示」ということに興味がわいてきた。そのうち、いろいろな科学館に行きたくなり、子どもに「つきあってもらって」科学館に出かけた。
でもなにか釈然としない。いつも、「えっ、これだけ?」という気持ちが残った。展示を見たあと、「これは、○○の原理ね」と、頭の中で過去の教科書を検索してしまう自分がいる。それがつまらなかった。もっと知らないことに出会いたかった。もっと、ハッとしたかった。

そんなとき、『ハンズ・オンは楽しい』(工作舎)という本に出会う。思いもよらないテーマ、展示の工夫、地域に受け入れられる存在としてのミュージアム。それを『どよう便り』の資料紹介に書き、その直後であった高橋真理子さんと「科学館というテーマでなにかやりたいね」と話しが合った。
そのころから頭の中では「科学館、科学館」と繰り返すようになる。科学館で何かやりたいね。科学館でなにかやりたいね。そんな言葉が頭の中に行き交う。
「なにかって?」。漠然としたまま、資料だけはたまっていくという時期がつづく。

それが、昨年、中島志円さんとであったことで、高橋さんと3人の科学館プロジェクトが立ち上がった。
それぞれの思いを語り合い、何回かの打ち合わせ、10月14日の科学館に関する研究発表、10月28~29日の山梨県立科学館を経て、現在助成金の申請を準備している。科学館・市民・社会にとって有益で意味のある科学館のあり方、現在の科学館の評価、そして、市民にとって必要なソフトの開発、提供にむけて活動をはじめている。市民と科学の関係にとっても、土曜講座の新しい活動の第1歩としても意義あるものに育てていきたいと思う。

以下、今年1月どようMLにもアップした科学館プロジェクトの計画書の一部である。これをもとにして、スタッフで議論を重ね方向性を固めていくことが必要だが、ここに示したことのほかにも、もっと多くのアイデア、方法論などがあるだろう。たくさんの方からの意見や感想がいただけたらと思う。

●以下、計画書より

【1.目的】
★1.科学と市民のあいだにある科学館
現在の私たちの日常は、多くの科学・技術の成果によって構成され支えられています。しかし、今日のように高度に発達した科学の背景の多くは一般の市民生活からはうかがい知ることがむずかしいものであり、しかもどこか遠くでその方向性や成果の利用が決定され、成果の末端のみが市場に、または情報として提供されるといった状態です。
生活の主体者で科学技術の成果を享受する主体者でありながら、現在のように極度に高度化・専門化した科学の理論・技術体系を理解し了承した上で利用するといったことがたいへんむずかしい状況でもあります。
しかし、この現状は決して望ましいものではありません。生活者が自らの生活に関して積極的に意志決定していくことが将来の社会や地球に対する責任だとすれば、科学もその例外ではありません。
「生活者」の側からも、そして、「高度な科学技術」の側からも互いに歩み寄り理解を深めた上でつきあっていく方法を確立する必要があります。

★2.科学館で扱う情報はだれのため?
それでは、私たちが科学技術についての理解を深めるための手段はどのようなものでしょうか。
学校の「理科」という教科教育の中では、すでに説明された理論を吸収するという作業にウェイトがおかれています。近年、生活科や現在段階的に導入されている総合学習の時間などにあらわれるように、徐々に理科学習のとらえ方に進歩が見られています。これには歓迎すべき要素が多いことは認めながらも、生活科・総合学習となるほどに、「理科的」な要素に対する配分が心配されるところです。
また、一度学校を卒業して大人になってしまうと、理科を専攻しない限りは理科に接したり理科を学ぶ手段は激減し、本人の積極的な興味と時間や経済的出費を伴いながら修得していかなければならない状況です。理科を専攻したとしても、専門外の理科一般に関する知識にふれる機会は必ずしも多くありません。
そのようなとき、科学を修得した職員がいて、しかも情報・資料・ノウハウ・施設を合わせ持つ科学館の存在はたいへん重要な位置づけができるでしょう。しかしながら、現在の科学館の状況は、教科書上で表現された原理・原則を展示にしたものを基本にしています。一部で理科に対する興味をひきだし楽しく理解を深めるための試みも活発に行われていますが、理科教育の手法のひとつという位置づけはできても、社会や生活とのかかわりの中で生じた興味や疑問、そして生活に根ざした生きた回答を得るところまで実現しているかどうかは疑問です。
地域の科学的知識、情報発信基地としての機能に大きな可能性のあるのが科学館です。
日常の疑問やニュースの中で発信される科学の言葉、概念などすでに説明されたものだけではなく、アップ トゥ デイトな生きた知識と人との交流を生みだしていくことが市民にほんとうに必要とされる科学館のあり方ではないでしょうか。子どもだけではなく大人にとっても有用で、教科書の理科だけではない、ひとりの生活者と現在の科学の交差点のような機能を科学館がもっていくことが必要であろうと思います。

★3.専門家と非専門家の架け橋として
一般に「科学者」というと、遠くへだたった知識空間にいる人という印象があることは否定できません。また、「科学的」という言葉が使われるときには、寸分の狂いも感情的力学も作用せず、公正で常に客観的な判断が下されるという場合が多いようです。
しかしながら、実際の科学は政策的な思惑や予算配分、研究の現場においては研究者の悩みや逡巡、人間的な対立など、決して一般社会と隔離された整然とした空間ではないはずです。
こうした科学者の志や逡巡、問題点などを非科学者と共有することにより、科学者にとっては新たな発見や発想、社会や将来に対する洞察、非科学者にとっては科学の道筋や理解、意志決定への参加や責任、そして、科学に対する興味を引き出していくことができるのではないでしょうか。
その拠点として科学館の機能を充実されることができるものと考えています。

★4.科学館を担う人が生き生きと働くことができ、地域住民の「社会」に対する窓口となること
現状の科学館にも、問題意識や志をもった職員が多くいるはずです。もしもその人たちが、内部機構や予算の関係などでもっている企画を実現することができなかったり、社会活動に結びつけることができないでいるとすれば、公共機関としての科学館としても、人材の有効活用としても大きな損失であると言えるでしょう。
このようなとき、その内部ポテンシャルを引き出し、企画を検討した上、外部組織との緩やかなネットワークによって、多くの表現、成果を得ることができるのではないでしょうか。それにより、地域住民のニーズをすくい上げ、科学館と地域住民の相互作用によって科学館が活性化されていき、社会の多様性を内包しつつ永続的な活動ができることが必要であると思います。

【2.科学館に関するプロジェクトの骨子】
★1.市民は科学館になにを求めているのか
来館者数、リピーター、子どもと大人の比率、科学館に来る目的(子ども・大人)、大人の満足度(なにによって、満足することができるか)
各地の科学館との連携により調査する。これをもとにしながら、「現段階で気づいていないけれども、市民にとって有益な科学館の使い方」の提案にもつなげる。

★2.科学館職員がもっている現状の問題 2
科学館で働く職員が感じている問題を明らかにする。運営体制、人事、企画・展示など。個人の志と現状とのずれなどを引き出し問題を共有しながら、内部にいてはなかなか実現しにくいことであってもネットワークや連携によって可能な部分を明らかにし、具体案を提示する。

★3.科学館の現状
人事、理念、展示、企画、予算、扱っているテーマ、情報の深さ、情報提供の方法など科学館の現状を調査する。この中から、評価できる部分、改善したい部分、発展させたい部分などを分類し、土曜講座としての科学館の評価を行う。その基準は、市民参加、発展性、ネットワーク、情報の今日性、プログラムの独創性や市民や社会の需要、プログラムの蓄積などに依拠する。

★4.(21世紀の?)科学館のあり方に輪郭をつける
科学の成果を享受する主体である市民を中心に考え、それに則した情報提供を行うにはどうしたらいいのか、専門家と市民を結ぶ拠点となりうる科学館、個々の判断で科学技術の成果を取捨選択したり政策決定に市民が参加できるようになるために、科学館が果たせる役割とはなにかというビジョンを示す。
理念、設立主体者、設立のプロセス、人事、運営、設計、展示、プログラム等のあり方をまとめる。→発表(出版・シンポジウム・報告書 etc.)

★5.蓄積した科学館とのネットワークをもとに、個々の活動を展開
各館の調査、評価、地域事情、館の特色にあわせ、職員とのネットワークを密にしながらプログラムの実施、企画などを提案する。

 

 

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