「高圧線の電磁場で白血病リスク」疫学調査報告を亡きものにする文部科学省

投稿者: | 2003年4月19日

「高圧線の電磁場で白血病リスク」疫学調査報告を亡きものにする文部科学省
懸樋哲夫(ガウスネット)
doyou63_kakehi.pdf
国立環境研究所が中心となり進められてきた疫学調査の最終報告が1月28日「研究成果の概要」として発表された。
(http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chousei/f_hyoka030129.htm に、6ページのみが文部科学省のサイトの中、参考資料としてある。)
高圧送電線などから発生する超低周波の電磁場と小児白血病などとの関係を調べるため科学技術庁(現・文部科学省)が予算をつけ、99年から行われてきた調査ですでに2002年3月の時点でまとめられていたものだ。兜真徳・主任研究官が責任者となり、99年から3年間に11の機関が参加し、総額7億2125万円の費用が投じられた。国立環境研究所はWHOの研究に対しても協力しており、2月にルクセンブルクで開催される会議には日本のこの研究も組み込まれることになっている。
●結論は4ミリガウスで小児白血病リスク
4ミリガウス(0.4μT)でリスクが有意に上昇するということは、中間発表としての朝日新聞の報道などでも明らかにされていたが、文部科学省の評価部会の評価が引き延ばされ、ようやく「概要」として最終報告が出されたものである。 「研究報告概要」によると、「全国245の病院ネットで2002年3月までの2.3年間に、全国で発生した初発の小児白血病(急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)及びその他)約1440例の性別、診断時年齢及び担当病院の情報がリストされ、最終的に症例約310例、対照者約600例となった。」これまでの諸外国の疫学調査と比較した場合、「英国の全国調査、米国の国立がん研究所の調査に次いで3番目のサイズである」、といった調査の状況が説明されている。そして、子供部屋の平均磁界レベルが、0.4μT(4ミリガウス)以上のみでリスクが有意に上昇するパターンを示すこと、また、それ以下の磁界レベルではリスク上昇傾向は認められないことが示唆されている、として中間報告として朝日新聞(8月24日)に報じられているとおりが明らかになっている。
●事実隠しを意図した文部科学省の評価部会
しかし同時に、評価部会による「事後評価」というものが出され、これがこの研究そのものを否定し尽くす内容であった。ABCの3段階の分類で評価されるものがこの研究について11のすべての項目について不十分という意味の「C評価」だった。
評価では「症例数が少なすぎる上に、検討した交絡要因の影響の除去が適切であるか不明である・・・」「選択バイアスについての詳細な検討がなされておらず、方法論に対する疑問が残った」などとして手法について問題とし、「電磁界の強度が我々の健康にどのような影響を与えるか明確に出来る研究展開が望まれたにもかかわらず、電磁界の健康影響を推測するには非常にあいまいな調査結果に終わった」としめくくっている。
しかし「概要」の中に書かれている通りこの研究は、これまでの世界中の疫学調査で3番目の規模の症例数であり、「症例数が少ない」などという批判はどう見てもあたらない。また、「選択バイアス・・・」についても、昨年3月に兜氏本人が「土曜講座」主催の講演会で話された内容でその調整をきちんとしていることを話していて、配慮はされている。
こうした批判は疫学調査の結果についてこれまで繰り返されたいつものけちつけに近いものであり、疫学調査そのものを否定するものである。
そして「電磁界の発生源が特定されておらず、また高圧線との関係について検討されていないにもかかわらず、研究者がそれについて言及していたことは誠に遺憾である」とか「研究代表者の指導性、研究体制の連携・整合性についても不十分であった・・・」として兜氏とその研究グループの研究手法ばかりでなく姿勢そのものを問題にしている。
このようなこきおろしをする評価部会の意図は明白である。すなわちこれは「影響が見られなかった」との「明確な結論」のみを求めているものであり、リスクのことは可能性の指摘も許さず「あいまい」な結果とする気なのである。これによって第Ⅱ期の研究計画もストップさせ結局これ以上の研究ももちろん対策も必要ない、としたわけだ。そして先に「リスクあり」と朝日新聞の記事で報道されたことにはその意図を破られてしまったことに不平を述べて、「報道は事実誤認であり、大変遺憾」と批判のコメントをしている。このことは、研究内容が自分たちの意にそわなかったことから「報告」はなかったことにして、ただ事実を押し隠すとの考えにしか思われないのである。
同時に発表された評価委員の顔ぶれを見ると、電磁波問題に詳しい研究家は、総務省の調査などでその安全論を展開している多氣昌生東京都立大学教授ただ一人である。他には疫学に詳しいと思われる学者さえ見当たらない。また、一人だけ入っている消費者団体の名前も、消費者運動の中よりも政府関連の機関や会議の中でしか名前を見ることがない人であった。
また、研究報告書の全文は海外の研究誌に投稿されるとのことだが、掲載は早くとも半年は先になるだろうと見られている。つまりこの「評価」は報告書全体の公表より先に出ていることになる。
WHOの調査報告と同様、日本のこの調査は世界的に注目されている。マイクロウエーブニュースの編集長ルイス・スレシン氏もこの調査は世界で最も進んだ調査として昨年記事にも取り上げているほどである。
私たちは、評価やコメントより先に事実を知りたいのである。国際がん研究機関IARCが電磁場の発がん性をその可能性ありの2Bとランク付けした際も委員のメンバー一人一人がどのように評価したかも公開されている。つまり公開されるがゆえにでたらめは言えない状況になっているのだ。文部科学省があくまでもこのような「隠ぺい工作」を続ける以上、私たちはこの実態を世界に公開し、日本の役所の実態をさらけ出す作業をしていくしかない。■

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