電磁波プロジェクト 東京タワー電磁波計測からみえるもの

投稿者: | 2001年4月20日

電磁波プロジェクト
東京タワー電磁波計測からみえるもの

上田昌文

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携帯電話端末ならびに基地局からの電磁波はいかなる健康影響をもたらすのか? 携帯電話が爆発的に普及し始めてまだ数年しか経っていない時点で、これを疫学的に明らかにすることは難しい。脳腫瘍や小児白血病などは被曝後ただちに発病するものではなく、特定の原因を絞り込むことも容易ではないからだ。そこで改めて注目されるのは、既存の放送タワー(VHFやUHFのテレビ局、FMラジオ局など)である。携帯電話は800MHzから1.9GHzの帯域の高周波を用いているが、それに近接した帯域の高周波が放送タワーからは発せられていて、しかも周辺住民は長期間にわたって恒常的に被曝しているからだ。海外では近年、1986年のヘンダーソン博士(ホノルルの放送タワー周辺でのガンの調査)以来、1995年のホッキング博士(シドニー郊外の放送タワー周辺での小児白血病の調査)、1997年のドルク博士(英国サットン・コーフィールドの放送タワー周辺2キロ以内での15歳以上の白血病の調査)など、タワーの電波が健康影響をもたらすことを示唆する疫学調査報告が相次いでいる。しかし日本ではこれに類した調査はまったくなされてこなかった。放送タワーからの電波が微弱であることを理由に、全然問題視されなかったわけだが、はたしてそれは本当に微弱なのか?

国会議事堂からタワーへ南東に下る方向の5地点での計測データ(3月29日、雨)。最高値はタワーに最接近した300メートル地点であった。
JR五反田駅よりタワーへ北東に上る方向の16地点(グラフでは距離を正の値で表記)とタワーを越えてさらに北上した3地点(グラフでは距離を負の値で表記)の合計19地点での計測データ(4月15日、晴れ)。

電磁波は計測器さえあれば誰でも測ることができる。そこで、「電磁波プロジェクト」という名のチームが、今年の3月から東京タワーからの電磁波の計測を開始した。これは「科学と社会を考える土曜講座」というNPOの呼びかけで昨年の8月に結成されたグループだ。電磁波問題で全国的な運動をしている「ガウスネット」(高圧線問題全国ネットワーク)の協力も得ながら、「電磁波ってそもそも何だろう? 携帯電話はほんとうに安全なの?」といった素朴な疑問を抱く市民たち(高校生や大学生らを含む)10名ほどが、カンパで寄せられた研究費を使いながら調査・研究をすすめている。図に示したのは、3月と4月の合計24地点での計測結果だ(計測器はドイツ・ワンデルゴルターマン社製EMR-20を使用)。この6月には3回目の計測を行い、港区での1956年からの男女出生数、小児ガン、小児白血病の発病者数データも入手することができた(現在データを整理中)。港区芝公園の中に東京タワーができたのは1958年。以来40年以上、全テレビ局、FMなどの各種放送、通信や気象観測、交通管制の電波をこの一点から関東一円に送り出してきた。さらに今後デジタル放送用のアンテナも加わる予定だ。周辺地域はほんとうに大丈夫なのだろうか?

一般公衆への高周波被曝基準値は、携帯電話基地局からの電波で言うと、日本では900MHzで600μW/cm2、1.5GMHzで1000μW/cm2であるから、私たちが計測したデータの最高値15.8μW/cm2でも非常に微弱な部類だと思われるかもしれない。ところがそうではない。そもそも日本の基準値が大変甘い(たとえばイタリアでは同様の周波数帯では10μW/cm2、スイスでは4~10μW/cm2)。しかも上記の研究で計測されている各国各地の放送タワーのどれと比べても、東京タワーの電波強度はかなり高いと言わざるを得ない。

電磁波プロジェクトが最近翻訳した『ザルツブルク国際会議 議事録 携帯電話基地局の健康影響に関する研究』(主催:ザルツブルク州、2000年6月7日、8日/監修:荻野晃也、発行:ガウスネット/定価2000円)の中で引用されている1992年のセルビン博士の報告を見てみよう。サンフランシスコにあるストラ・タワーの周辺半径約5キロの地域で1973年から1988年の間にみられた21歳未満のすべてのガン発病123件について、タワーの電波強度との相関関係を探った研究である。タワーから放射される電波の強度パターンは東京タワーと類似した”波打つ形”をとる。

驚いたことに、ガンの発症数も、発病者の居住地とタワーの間の距離との関係でみると、その波形とほぼ重なるような同様の変動を示すことがわかった。タワーからの高周波被曝量にほぼ比例する形でガン発生数が増える--ストラ・タワーの電波の強さは最高値で約11μW/cm2であり、東京タワーはもっと強い電波を出していることを忘れるわけにはいかない。

なお、この「ザルツブルク国際会議」は、携帯電話の電磁波問題では世界で初めての大規模な国際会議であり、この翻訳論文集には、WHOやICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の規制政策の欠陥をつく論考、実験動物での電磁波被曝影響の総説、予防原則の考察など、今後、携帯電話の電磁波問題を考える上で重要な手がかりになる論文がいくつも収められている。「電磁波プロジェクト」のこの先の調査とともに、ご注目いただければと思う。

 

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