目標を持てない国、日本

投稿者: | 2008年1月1日

巻頭言
目標を持てない国、日本
 2008年はどんな1年になるのだろうか。年頭にあたって、多くの人が感じていることではあるが、環境、安全保障、危機管理という面で日本がきわどい状況にあることにふれてみる。
●日本に環境政策はあるのか
 温暖化対策の国の指針が見えない。COP13において日本は削減数値目標の提示に反対した。京都議定書での6%削減目標の達成も危ぶまれていて、日本は今や「環境後進国」とみなされつつあるのではないか(レジ袋一つとってもいまだに有料化に踏み切れないでいる)。長い目で見たとき(10年や20年でなく50年や100年先を考えるなら)、エネルギー源の大半を再生可能エネルギーに転換しない限り「自立」も「持続」もあり得ないことは、明々白々であろう。化石燃料やウラン燃料への依存からいかに脱却していくか(原子力発電は、将来にツケを回す核廃棄物、地震災害の危険、電力総需要のこの先の減少などを考えると、まともな選択とは言えない)、その急激な転換が激しい”痛み”を伴うからこそ、必ずやって来る”ピークオイル”のパニックを回避しつつ、いかに上手にソフトランディングさせていくかが、知恵の出しどころであるはずだ。つまり長期を展望した合理的で実効性のある政策が必要なのだ。
食料や石油の高騰にある程度翻弄されるのは、今の自給率を考えればやむ得ないわけだが、その混乱を最小限に抑えつつ、「自立」と「持続」に向けた、国民の間にやる気を奮起させる(「この日本も捨てたものではない」と思わせる)大胆な転換のためのビジョンが示されなければならない。
●日本にはまともな安全保障策はあるのか
 米国追従の安全保障政策からどう脱却できるか、少なくとも主要政党からは何も示されていない。示されないどころか、現実には、2008年度の防衛予算(総額4兆8636億円)で、米国との軍事一体化が不可避のシステムであるMD(ミサイル防衛計画)関連に2190億円が計上され(2012年度までに8000~1兆円を注ぎ込む予定)、毎年2173億円の「思いやり予算」(在日米軍駐留経費の日本側負担のことで、この額は世界中の米軍駐留経費の約半分に相当する)を2010年度まで維持することをすでに決めている。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設(辺野古沖に予定されている新基地建設)に向けた作業で、市民の反対行動に備えるために海上自衛隊の掃海母艦が派遣されたことは、記憶に新しい(2007年5月18日、19日)。
米国の軍事的庇護は米国による経済支配と表裏をなしている(遺伝子組み換え作物の最大の輸入国は日本である現実を見よ)。憲法第九条を守り抜くという意思を示した護憲・平和運動は各地で生まれつつあるものの、「武器を完全に捨て去ることが一番の安全保障」「外からの侵略に対する防衛は中立の国際軍に委ねる」という考え方は非現実的だとしてほとんど一顧だにされない(それにしても、「相手を殲滅し得る武力を持つ者が生き延びる」という発想のなんと幼稚で、狂気じみていることよ)。
ヒロシマ・ナガサキの願いに逆行して核拡散の不穏な動きが進行する世界で、本物の「正気」を示したいのなら、まず、米国追従を止め、”兵器に頼らない安全保障”のあり方を世界に示す努力を率先して始めるべきであろう。
●日本に危機管理はできるのか
 欧州の主要な都市をいくつかまわっての圧倒的な印象は、街並みに”歴史”を残そうとする強い意思を感じることである。その意思は地域の個性を守ることにも通じる。東京という大都市の醜く無秩序な姿(電柱や24時間のコンビニエンスや自販機があふれかえっているのはその象徴的な例だろう)、地方の都市のどれも似たり寄ったりののっぺりとした無機的な姿、田舎の荒廃――いったい日本のどこに都市計画があり、コミュニティの意思が生かされた景観作りがあるのだろうか。”歴史”を度外視した刹那的な経済発展一辺倒が生んだこの寒々しい光景は、”人が街に住まうこと”に対するまともな政策のなかったことの結果であろう。加えて危機管理のなさ。日本はどう考えても世界一の地震大国である。地震の発生抑止は不可能だが、震災は危機管理でその被害を相当程度抑えることができるものだろう。政府・自治体の対策とコミュニティの結束力が相まってはじめて防災が成り立つ。阪神淡路大震災級の地震が今の日本各地の都市部に起こった場合の被害状況をつぶさに想像するなら、慄然としない人はいないだろう。しかし、行政の防災マニュアルが本当に機能するかどうかを検討した市民はおそらく極めて少数だろう。私たちはいつから自らの生存(とその生存と不可分の歴史的な住まい方)を守る気概を、これほどまでに失ってしまったのだろうか。
 環境、安全保障、危機管理の面で、先を見据えた、国民を深く頷かせる、転換ための政策ビジョンを示せるかどうかで、日本の将来が決まるだろう。科学技術の発展はそうした転換に奉仕するものでなくてはならないと思う。
http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kouhou/guidebook/guidsepa-10.htm より
http://research.goo.ne.jp/database/data/000628/ より

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