講演記録 「放射能」子どもにどう伝える?

投稿者: | 2013年9月18日

講演記録 「放射能」子どもにどう伝える?

上田昌文(市民研・代表)

pdfファイルはこちらから→csijnewsletter_020_201308_ueda.pdf

子どもに伝えるということ

子どもに伝えるには、伝える側の大人が当然その知識を身につけていることが必要だ。それだけではなく、どのように、どういう場で伝えるか、というコミュニケーションにも関わって、その技術や配慮が求められることになる。

放射能に関して、福島原発事故以降それぞれが自分の経験を持っている。その経験をベースにしながら、大人が子どもと知識を共有し、将来に向けて前向きに取り組めるように、というのが目標であり、ただ知識を与えるだけで終わってしまっては、おそらく何も身につかない。

私は、環境省関連事業での助言や講演などで福島を頻繁に訪れている。最近は保育士の方々との話し合いを何度も持っている。事故以来、外遊びを一日30分とか1時間に制限したりしてきたため、子どもの肥満や運動能力の低下という新しい問題も出ている。そんな保育士さんからたくさんの疑問が出た。

次のようなことを質問されたら皆さんはどう答えるだろうか。

質問1●線量の高い雨水などが川などに流れてくるのに、水道水はどうして低い数値なのか。

これは単純なようで難しい問題。水は放射能のキーワード。環境中で水がどのように巡っているかのイメージが必要。

・雨水…事故後3~4か月くらいまでは大気中に事故由来の放射性物質が含まれていたが、半年以降は大気中への拡散が非常に微量になったので、心配はいらなくなった。

・地下水…セシウムは土に吸着する性質があるので、そう簡単に地下に移行はしない。井戸は深ければ深いほど、ほとんど心配はいらない。例外はニュースでも度々報じられているように現在も漏れている汚染水。地下水が事故サイトに溜まり、汲み出してはいるものの追いつかず、汚染水となって溢れ出ている。

・河川の水…東京湾の河口土を測るとセシウムは高い数値で検出される。山間部から流れてくる土に付いている。しかし土と水を分けて考えると、河川の水の汚染はそれほど強くない。河川敷にたまる土や砂利のほうに付着しているので、改めて空間線量を測ってみて高ければ、子どもの遊び場としてはふさわしくない、ということになる。福島の阿武隈川の川魚からは高い数値が出るが、それ以外の地域では、水そのものが高い数値が出ることはまずない。

・飲料水…水道局の検査では全国どこをとってもほぼ100%不検出。理由は単純で、浄水場で濾過されるときに、ゴミや塵と一緒にセシウムも濾過される。つまり飲料水は安全であるということ。
福島では毎日空間線量を測って発表している。猛烈な数のモニタリングポストがあり、HPなどでリアルタイムで見ることができる。学校にも必ずある。公表されるのは市街の一番高い数値。しかし、モニタリングポストの数値がその地域を代表しているかというのは難しい問題。セシウムが局所的に溜まっている場所があるので。そういうものとして理解していかなければいけない。

質問2●外遊びでの注意事項は何か、土を口に入れたりするのはかなり危険なのではないか。

その場合は量的な問題が出てくる。かなりの量を食べてしまったなら、内部被曝量を計算することは可能。土や虫を触りたい子に「触っちゃダメ!」というのではなく、その程度なら問題ない、と状況ごとに判断することが必要。現状に即した判断が、保育士や保護者に求められる。

質問3●食品は何に注意をすればよいのか。

関東圏でも不安が多く、関心が強い人が多い。福島県に限らず、宮城県、岩手県、茨城県などで出荷制限がかけられるもの(特定の地域の特定の品目)は今でも出ている。

ただ、「ふくしま新発売。」というHPで今年の4月以降を調べてみると、高めの数値がでているものはかなり絞られている。原木シイタケ、原木なめこ、野生のきのこ類。施設の中で汚染されていない菌床を使って作ったきのこには、やはり汚染はない。きのこは全部ダメということではない。

野生の山菜は非常に高い値が続いている。関東圏でも山に入って山菜を取って食べる習慣がある田舎などは心配が残る。

ウメ、ユズ、キウイ、栗などは2年半経った今でも高めの数値が出る。なので、産地や実際の検査数値をチェックする必要がある。

川魚はかなり高い値が出続けていて、しばらく食べられそうにない感じがある。

海の魚も、近海を泳ぐもの、海の底に生息するものについては、今でもちょこちょこ、高い値が検出されている。なので、どのような魚から高い数値が出やすいのかはチェックする必要がある。今も汚染水が海に流れている状況があるので、海産物の汚染はしばらく続くと言える。少なくとも2~3年はまだ続くだろうから、消費者全体に大きな問題となっている。

食品については、私たちは、厚労省で発表された2011~2012年の全国の各県の膨大なデータをやっと分析し終わり、2年間の推移のグラフを作った。市民科学研究室のホームページで公表している。

それを見たら皆さんは、たとえ福島産と言えども、全く検出されない品目がいくつもあることを確認できる。そういうデータをもとにしばらくは判断していかなければいけない、というのが現状だと知っておいていただきたい。

質問4●家庭菜園をやっていいのか。

福島でやっている人は多い。東京でもそういう人は結構いる。そこで取ってきたものはどうなのか。これは判断が難しい。土の汚染度と、何を育てるか、ということで、調べないとわからない。しかし私の判断では、土の汚染度がキロ当たり1000ベクレルを下回るものであれば、何を育てても、その作物で検出されるセシウムがキロ当たり1ベクレルを超えることはないと思っている。なので、関東圏のホットスポット以外の地域であれば、問題ないと考える。

もし数千ベクレル~数万ベクレルの土の汚染があるのであれば、やはり測って確認した方がいいし、除染なりなんなりの対策が必要になる場合もあるだろう。自分で測らなくてもおおまかに推測する方法はある。近隣の畑で同種のものを測ったデータを探せばいい。そうやって能動的に調べていくことも必要になってくる。

質問5●単位が難しい。簡単に子どもに伝えるには。

ここに放射性物質があり、そこから目に見えない、身体を通り抜ける細い細い針のようなものが飛び出してきている―といったイメージで理解してみてはどうか。

1秒間で何本、空間に対して針が出ているか、というのが、その放射性物質のベクレル数。それを何本、身体を通過するように受け止めたか、というのがグレイ。それが身体にどれくらいダメージを与えるかの目安になる数字がシーベルトという数字。

これ以上に踏み込んで理解しようとするとちゃんと勉強しなければならないので、子どもにどこまで伝えるかという、難しい問題を先生はかかえることになる。

質問6●除染はどうなるのか。

福島などでは大々的に除染が進められようとしているが、実際には遅々として進まない地域があったり、除染してもいったん減った線量が戻ってきてしまったり、山間部は手がつけられなかったり…と様々な問題が残っている。その中で、政府が進める帰還政策によって、空間線量が高めの故郷へ覚悟して戻って行く人も増えている。たくさんの人たちが故郷を捨てなければいけないのか、戻れるのか、そのために何をすればいいのか、何ができるのか…国の政策の是非も含めて、福島県以外の人々も一緒に考えていかなければいけないことはたくさんある。

事故から2年半を迎える時点で

根本に立ち返った話をすると、放射能の影響にどう対処するかについては、事故直後に打てる手をすべて打った上でしっかりした見通し(例えば「◯◯の時期までに避難はすべて終わらせる」といった類の)を立てるべきだったのだが、それがうまくなされなかったことがずっと尾を引いて、混乱や立遅れを招いているのが現状だ。

汚染が出た瞬間から被曝量を推定し、できるだけきめ細かく測って、人々の移住なりを決めていく。もし移住させるのであれば、せいぜい半年。二年半近くなんていうのはありえない。それはもう故郷を捨てろと言うこと。半年の間で国が対処すべきことは全部対処し、その後はそれぞれのコミュニティの意思決定に委ね、その決定に応じてすすめていくことをしっかり支援する、という具合でなくてはならない。
放射能の問題の根幹は、大気中に大量に広域にばらまかれるので、それが生態系のあらゆるところに顔を出すこと。子どもになにか伝える時にも、この生態系の流れを掴んでいないと、なかなかうまく話せない。
大気に出たら、あらゆるところに広がる。森林、農地、川、市街地全部に。それが水、食品に関わってくる。除染をしても、浄水場や焼却場に集まり、膨大な放射性物質を含んだ処理しきれないものが出てくる。これら全体を視野に入れておかないといけない。ある部分をきれいにしたらいいでしょ、という話にはならない。

さらに、社会的な事象として、とても複雑なことが起こっている。たとえ東京に住んでいても除染の問題や、福島からの避難者の受け入れ、事故収束に対する政府の求める金銭的な負担、原発をこれからどうしていくか、という問題…等々。

それら全体を見て、自治体の役割は何か、政府の役割は何か、被曝した人たちに対する健康のケアや調査…それら全部がからまって動いている中で、それを全部子どもたちに理解させるのは無理だろう。切り口は限られてくる。でもやはり大人がこうした全体像を理解して、それを念頭に置きつつ、事態を理解するためのエッセンスを子どもに伝え、子ども自身が将来そうした事態に徐々に向き合っていけるようにする、というのが教育だと思う。

極端なことを言うと、例えば原発が再稼働され、また日本に原発が、10基、20基、30基と動くようになったとする。そしてまたどこかで過酷な事故が起きたとする。また福島と同じことを繰り返すのか。そうならないようにするにはどうすればいいのか。大きくなった、大人になった子どもたちに、地域の大人としてきちんと発言し、きちんと放射線防護、ひいては原子力政策の諸問題に目を向けて発言していく…というようなことが自ずと生まれてこないと、放射線教育をやったとは言えない。そういう視点で教育を捉えていかなくてはいけない。

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