【翻訳】近視:環境的要因の証拠

投稿者: | 2014年2月26日

近視:環境的要因の証拠
Myopia: The Evidence for Environmental Factors
著者:Tim Lougheed
(翻訳:杉野実+上田昌文)
『環境健康展望』2014年1月 第122巻第1号
Environmental Health Perspective DOI:10.1289/ehp.122-A12

pdfはこちら→csijnewsletter_023_sugino_20140303.pdf

何世紀も前ならば、修道院の熱心な筆記者や部屋にこもった裁縫労働者は、彼らの眼が悪くなったことを、特定の種類の、眼の焦点を接近させる「近業」のせいにしたかもしれない。20世紀末までにはその責任は、長時間の勉強やテレビ視聴、さらに最近になると、ゲーム機から携帯電話におよぶ、あらゆる高解像度モニターの前にすわることをふくむ「近遊」にまで、帰せられるようになった。

しかし、そのような「近接」行動を近視にむすびつけようとする、継続した努力にもかかわらず、研究者らはまだ確信しうる結果を得るにはいたっていない。一方東アジアの人口のある層に関しては、室外光の被曝量の減少と近視の蔓延との間には比例といっていいほどの関係があることを強く示す、疫学的な研究が急速に増加している[文献1,2,3]。

「近視を水際で止めよう」と極彩色のスクリーンセーバーや壁紙を使って、シンガポール健康増進会議はやかましいほどに訴えている。子供たちを外に出させようとする、このパソコンのディスプレイ上に点滅する皮肉なメッセージは、当地で慢性の近視が増加していることを図表で示してきた研究者らにとっては、効果を失ってはいないようだ。

青少年の間での近視が急増していると、軍が強調したことを受けて、シンガポールの保健当局は啓発キャンペーンを開始した。兵役はシンガポールでは義務であり、新徴募兵に対して実施される視力検査が、効果的な全数調査となる。そのような検査の結果、近視率は1990年代末までには、80パーセントに迫っていたという[文献4]。同様の知見が台湾とか[文献5]、さらに最近では韓国など[文献6]、他のアジア諸国においても得られている。

東アジアの多数の地域は急速な経済発展をとげており、その成長を持続するために、勤勉で高品質な労働力をつくりだすべく、過去20年にわたり大量の勉強を強いる教育が実施されてきた。子供たちは日中のほとんどを教室で過ごすだけでなく、宿題をしたり遊んだりするために、画面から画面へと動きながら、家にこもり続けるようにもなっている[文献7,8,9]。

「世界についての子供の経験が、いかにゆがんでいるかを理解するのに、しばらくかかりました。」と、近視研究のため年に5カ月ほど広州に滞在する、オーストラリアのガン研究者イアン・モーガン氏はいう。「広州では気候は1年を通じて高温多湿であり、人々はなんでも外でします。でも学校に行く年齢の子供たちは家で宿題をしているから、外にはいないのです。」

こういう生活様式は、若い眼に税金をかけるようなものだ。広州、シンガポール、台湾における学童たちを対象にした調査から、これらの地域が、子供がより早く近視になり、また近視のひどい子供がより多い、ホットスポットであることが示されている[文献4,5,10,11]。この増加の正確な原因はまだ議論され調査されているものの、戸外で過ごす時間が眼の健康な発育に重要な要因であるという証拠が、急速に増えつつある。

近視は世界中で増えているが、その程度は地域差がある。たとえば米国や、とりわけオーストラリアにおける調査は、一般人口における近視の発症率が、東アジアや東南アジアでの比較可能な集団に比べて、一貫して低いことを示している[文献12,13]。

地域差は主として若い集団において顕著だ。成人の人口で比べると、国別の発症率の差は小さい(ただし将来の調査においては、成人においても、現在の青少年と同様の違いの大きさがみられるとみこまれている。)。1999-2004年に何度か行われた全国健康栄養試験調査(NHANES)から得られたデータによると、米国の全人口における近視の発症率は33.1パーセントであり、メキシコ系米国人のそれはより低い25.1パーセントと推定される[文献13]。比較のためにいうと、シンガポールの中国系、マレー系、インド系における近視発症率は、ある研究によればそれぞれ38.7、26.2、28.0パーセントである[文献12]。

近視はガンや心臓病ほど重大な健康問題ではないかもしれないが、眼鏡やコンタクトレンズを使用することによる、費用や不便の問題をひきおこす。他の眼病との関係はいまだ不明であるものの、近視が白内障[文献14]や緑内障など[文献15]、そしてより深刻な病気の危険要因になりうることを、様々な研究が示唆している(一方黄斑変成は、近視と負の相関関係を示している[文献16])。もっとも重度の近視に苦しむ若者が他の症状を示すことは少ないが、重度の近視を持つ中年の個人は、視力をもおびやかすいろいろな病状を併発していることがある[文献8]。

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