「文部科学省政策棚卸し」を傍聴して

投稿者: | 2008年9月2日

写図表あり
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「文部科学省政策棚卸し」を傍聴して
和田雄志(財団法人 未来工学研究所)
●初めての「国の事業仕分け」
 8月4日・5日の真夏の2日間、わが国の文教政策および科学技術政策をめぐる事業の仕分け作業が、自民党「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」と文部科学省職員の参加により、熱い攻防が展開された(事務局はシンクタンクの構想日本)。
 「事業仕分け」とはあまり耳慣れない言葉だが、カナダ、イギリスの財政再建で大きな威力を発揮した手法。日本では、これまで複数の自治体で何度か実施され、それなりの成果(1割の歳出削減)をあげてきた。
 今回は、国レベルの事業仕分けのトップバッターとして、文部科学省が登場。文部科学省の所掌事業は、文教と科学技術の2つの班にわかれ、それぞれの会場では、自民党の若手国会議員数名と自治体職員、大学関係者など総勢10名ほどが評価者としてテーブルにつき、文部科学省の職員(主に課長・課長補佐クラス)がそれぞれ担当の事業を説明、質疑応答を経て、評価者による判定が下されるというシステム(詳細は、文末の参考をご覧ください)。「判定」としては、「不要」「今のままなら不要」「民間で実施すべき」「自治体で実施すべき」「国が継続して実施」といった評価にわかれる。
 傍聴席から見ると、文部科学省の職員(役人)が交替で登場して担当の事業を簡単に説明(全体では28事業)、40分ほどの質疑応答を経たのちに、審判がくだされるというスタイルで、印象としては、攻める国会議員たちに対して、役所側は防戦一方、という印象が残った。これと似たようなシーンは、国会の予算委員会や財務省の予算査定などでもあるのだろうが、特定省庁の事業を、横断的な視点から公開の場で評価するという試みは、とても新鮮であった。
●見えてきた前例主義と縦割り主義
 2日間にわたる棚卸し作業のうち、筆者が傍聴したのは、「次世代スーパーコンピュータ(理化学研究所)」「日本科学未来館(JST)」「科学技術振興調整費」「科学技術研究費補助金」「キャリアパス多様化促進事業」「都市エリア産学官連携促進事業」「グローバルCOEプログラム」の7つの事業。
 このうち、以下の4つの事業について交わされた主な議論と私なりの感想を述べたい。
 まず、平成20年度に145億円の予算を計上している理化学研究所の「次世代スーパーコンピュータ事業」。世界最高水準のスパコンを開発することが自己目的化しており、そこからどのような成果を上げるのかという戦略が乏しいと指摘され、「今のままでは不要」という判断が大半をしめた。スパコンの技術的側面(処理速度)ばかりが強調され、具体的なアプリケーション分野との連携を明確に説明できなかったために、厳しい評価となった。これもある意味では、縦割り行政の結果といえよう。
 次はJSTが管轄する日本科学未来館、年間28億円の運営費。まず指摘されたのが、科学博物館、科学技術館との統合の可能性。私見としては、3つの施設はそれぞれ成り立ちも目的も異なると思うが、今後、連携プレイは必要かもしれない。驚いたのは、運営費の大半が別の科学技術系財団に独占的に流れているということ。実際はそこからさらに外部発注されているわけで、トンネル団体というしかなく、棚卸し作業では、民間に移すべきという意見が大半をしめた。
 科学技術振興調整費(平成20年度で338億円)は、私自身何度か受けたことがあり、高い関心をもって傍聴した。主な意見としては、毎年350億円前後の財布ありきで予算要求している、いろんな政策が思いつきのように並んでいる、大学へのバラマキのように見える、といった厳しい意見が続出した。また、科学技術関連政策のプライオリティに関する指針(いわゆるS・A・B・C評価)を出している総合科学技術会議のあり方についても疑義が出された。結果として、科学技術振興調整費は、「不要」あるいは「今のままでは不要」が大半を占めた。
 「グローバルCOEプログラム」340億円。「世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成」をめざすという高邁な目的に対し、150大学が拠点では乱発に近い、予算の使途がポスドクやリサーチアシスタントの雇用というのでは、弱者救済のバラマキ発想で大きなお世話である、とかなり過激な発言が飛び出した。ポスドクの雇用が深刻ではあるにせよ、国からの救済を待つという発想自体が、競争環境にさらされない若者を助長するという見方は、一面の真理をついている。むしろ、大学トップの意識改革をこそ進めるべき、という発言は、このような場でこそ出てきた意見であろう。狭い大学コミュニティの中での「もたれあい」「なれあい」には、もはや限界が見えている。
●後追いから、先取りへ
今回の政策棚卸し作業は、平成20年度の文部科学省の予算の査定といった形で進行し、これまでにない新鮮な意見や視点が提示されたことは意義深いことであった。参加した国会議員のメンバーも、若手事業家や会社員などの社会人としての経験をベースに自説を述べた人もおり、これまでの国会答弁のような政争の具としての議論は少なかったと思われる。
「無駄遣い撲滅」という名のもとに、即効性を求める傾向があったことも確かであるが、基礎研究など国の根幹にかかわる事業(科学研究費など)はそれなりに役割が評価されていたのは、健全なバランス感覚であると思う。(私見だが、「撲滅」という暴力的な言葉は、ちょっと体質的に受け入れがたい面もある。一歩まちがうと怖い方向へ行きそう。)
今回は、平成20年度の個別事業を具体的に棚卸ししていくというアプローチで、それなりに有意義であったが、今後は、中長期的な視点にたった国の政策(ビジョン)についても、同様の開かれた議論の場が展開されることを期待したい。
今後は、文部科学省に続いて環境省が第2弾のターゲットになるが、すべての省庁においてこのような場がもたれることを望みたい。また、今回は、国会議員は自民党の若手のみが参加したが、それ以外の政党の国会議員もぜひ参加して、超党派で場を盛り上げてほしい。
◆参考◆
・文部科学省政策棚卸しの概要(構想日本のHPより)
http://www.kosonippon.org/project/detail.php?m_category_cd=16&m_project_cd=688
・文部科学省の政策棚卸し結果速報(同上)
http://www.kosonippon.org/project/detail.php?m_project_cd=681&m_category_cd=16

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