STAP細胞事件は解決したのか─その検証を検証する(その2)

投稿者: | 2015年8月4日

STAP細胞事件は解決したのか─その検証を検証する(その2)

林 衛(科学ジャーナリスト、富山大学人間発達科学部)
榎木英介(病理診断医、 任意団体サイエンス・サポート・アソシエーション代表)

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理研CDB(RIKEN Center for Developmental Biology)は、発生・再生科学総合研究センターから多細胞システム研究センターへと2014年11月に日本語名と組織を改めて再出発をすることとなった。2000年4月に政府によるミレニアムプロジェクトの一環として理研CDBが神戸ポートアイランドに開設されてから15年目の変革になる。

阪神・淡路大震災とバブル経済崩壊の二つ接点が、国債発行による公共投資の効果に期待する経済立て直し政府策の期待をこめて、神戸の新しい埋め立て地にCDB設立をもたらした。国債発行、すなわち借金による科学技術政策投資拡大の条件として語れたのが、ばらまきではない、トップダウンの集中投資と研究競争であった。20世紀末から拡大を始めた科学技術予算の受け皿となった理研は、期限付き雇用の研究者を増やすだけでなく、期限付き研究者ばかりの研究センターを和光本所、神戸、横浜の研究所に続々と設立し、ネオリベ的な専門職の期限付き雇用の先行モデルとなっていった。

そして、もう一つの科学技術政策投資拡大の条件として、日本経済再生の切り札となることへの期待が語られるようになった。政権が自民党から民主党に交代しても、その流れは続き、山中伸弥氏へのノーベル生理学・医学賞授賞、東日本大震災によってさらに拡大したといえよう。2012年7月に野田政権が発表した「日本再生戦略」では、再生医療による日本再生がまことしやかに語られるまでになった。

再生医療によって難病治療が実現してほしいと筆者も願う。そのための地道な努力は応援したい。だが、一つ一つの再生医療の実現にもそれぞれ個別の困難が立ちはだかる現実を前に、再生医療による日本再生という浮ついたフレーズに驚きは隠せなかった。
しかし、研究者コミュニティーは研究費を受け取ることには熱心だったが科学技術政策の是非には注意を払おうとはせず、メディアは科学技術政策の矛盾を掘り下げるよりも過熱する研究競争を煽る競争に身を任せるようになっていった。

STAP細胞事件は、科学技術政策、研究者コミュニティー、メディアの合作による研究煽り競争の帰結だというのが、筆者らの見解である。STAP細胞事件を経ても、研究煽り競争は反省されず、変化するようすもほとんどみえない。理研CDBの組織改編は、偏りの大きな日本の科学技術政策を象徴するかのような事態であるようだ。
そこで今回は、科学技術政策を批判的にとりあげず、研究煽り競争を続けているメディアの現状の分析を続けたい。

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