STS Network Japan 2001 秋のシンポジウム 「科学技術ジャーナリズムへの期待」 科学技術ジャーナリズムと市民運動

投稿者: | 2002年4月18日

STS Network Japan 2001 秋のシンポジウム
「科学技術ジャーナリズムへの期待」
科学技術ジャーナリズムと市民運動
上田昌文
doyou52_ueda-2.pdf
2001年11月23日に東京大学先端研にて開催された「STS(科学技術社会)ネットワークジャパン」の秋のシンポジウムに招かれ、上記のテーマで話をしました。ここに掲げるのはその際に参加者に配布したメモ(一部修正加筆)です。文章化していなくて読みづらいでしょうが、おおよそのところをつかんでいただけるのではないかと思います。土曜講座でも科学技術ジャーナリズムを扱った新しい企画を考案中です。ご意見などお寄せいただけると幸いです。(上田)
★前提★
科学技術に対する市民の2つの「ポテンシャル」について
(1)「自己学習能力」のポテンシャル
問題解決を迫られた素人の市民が自前で”リテラシー”を獲得していくことは、不可能なことでもないし、まれなことでもない。
そこで、ジャーナリズムに求められるのは、
・社会問題として深刻化する前に問題を「予見」し、社会の対応を促すこと
・問題解決に必要な種々のサポートを行なうこと
(2)「好奇心・親近性」のポテンシャル
科学技術に”ロマン”を感じている層は決して小さくないし、大半の子どもはそれを潜在させている。(例:ブルーバックス、『ニュートン』、バイオホラー小説の人気)。
・問題は一般市民が自らの生活とその”ロマン”が切り離されてしまっていること
・「暮らし」から切り込んでいき、暮らしを(良くも悪くも)変えるポテンシャルとしての側面を深く掘り下げることがポイント
・いわば生活者の視点を持って、科学技術の「現場」と市民を媒介するのがジャーナリズム
★ジャーナリズムへの問題提起と提案★
1.問題の予見能力の発揮、その能力を高めるための方法の確立
例1:狂牛病;厚生労働省と農水省だけの問題ではない。欧州で大問題になった時点で、それを日本へ適用させた深い分析を欠いていたから。リスク対応や科学技術政策展開の体制的問題への認識が弱い。
例2:携帯電話問題;これも同様の経過をたどる恐れがある。2000年夏のザルツブルグ会議(土曜講座が翻訳した『議事録』がある)や英国のレポート(”Mobile Phones and Health”Independent Expert Group on Mobile Phones2000年4月)を代表として、その危険性を指摘する報告や会議が頻発。日本での報道はほとんど皆無。(これに関連した私たちの活動が『朝日』11月6日夕刊第1ページで取上げられた。)
・科学技術にかかわる意思決定・政策決定のしくみ、政策の戦略的な方向性について、世界的に把握しておく必要がある。(ジャーナリズムが科学技術政策システムもっと知ること。) ・先進的な政策展開や問題解決事例を深く分析し、日本での実現可能性に関して問題提起する。
2.科学的未決と判断対立の状況を浮き彫りにさせ、問題提起をはかること
例3:所沢ダイオキシン風評被害問題;テレビ朝日の基本的貢献は大きい。
例4:JCO臨界事故;”誰が被曝したのか”という点についてはメディアは口をつぐんでいる。それゆえに、政府の調査活動の不十分さをほとんど示し得ていない。
例5:『The Ecologist』誌のDebateページ;往復書簡による対立点の徹底的な洗い出しが見られるが、学ぶべきだろう。
・中立不偏の立場の維持が最優先されるのではなく、科学的に未決の状況にあることそのもの、あるいは科学的判断をめぐって対立が生まれていることそのものを、広く公開することで、前進をはかる。
3.情報アクセス、行動アクセスのためのサポートを最大限に行なうこと
例6:最近私のところに来たいくつかの相談;携帯電話基地建設、ワクチン国際支援、中学高校生の生殖障害、日本での炭疽菌……。こうした問題の”紹介窓口”機能をメディアはなしえるだろうか?
例7:『週刊金曜日』市民運動案内板や国際運動誌のキャンペーンや情報案内欄;利用価値が高い。 ・ジャーナリストが複数分野の”準専門家”になることはかなり大変。しかし、多くの分野にまたがる”情報と問題のエディター”になることはできるし、そうなることは必須であろう。その編集機能の一部に、市民からのリクエストをデータベース化しながら、必要なサポート機能を確立していくべき。
4.科学技術の活動の総体的把握、市民との多様な接点の継続的なモニタリング
1)双方向性とフォローアップの重視
例8:NHK「地球法廷」など;”取材”から”市民参加”へのシフトの価値
例9:TV番組のライブラリー化;批評の必要、それを資料として活用できる場の必要
2)理科教育・科学教育の”転回”とジャーナリズムの関与
例10:”教科書教育”からの脱皮と体験型授業;教員とジャーナリストの共同で、知の体験の演出を考案する
3)運動誌と科学誌をどうつなげるかを探ること
例11:既存の科学雑誌や科学番組、運動誌の国際比較による評価;『日経サイエンス』『技術と人間』『科学』『サイアス』『ニュートン』『Nature』『New Scientist』『TheEcologist』『New Internationalist』……を相互に比較して、科学技術分野で求められる報道の質と社会へのインパクトを検討する。
4)アジア、第三世界の視点の必要;収奪の構造と科学技術の関わりを問うこと
例12:アジア諸国のジャーナリストとの共同作業の展開;国際市民運動の先進的な動きに注目すべきだろう。■

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