忘れかけた頃に 〜『あの日』からの千の夜を見つめ直して~ ≪或る春の日から≫

忘れかけた頃に
〜『あの日』からの千の夜を見つめ直して~
≪或る春の日から≫

橋本正明(市民科学者)

 『あの日』から丸6年が過ぎた。私たちは『あの日』それぞれ『自分が体験した東日本大震災の記憶』を持っているはずであるが、その忌まわしくも何物にも替え難い記憶は、時の経過と共に薄れつつある。
 私はこの未曽有の大災害である東日本大震災についての自分の体験、自分の想いを発生から千日後を契機に書き溜めた備忘録の中から紐解いて、少しだけシェーラザードの真似事をしてみよう。
まずは…

(その1:その刻)

『!?…、揺れてる!!』、
私は所属事務所の異動に伴う引っ越しの真っ最中であった。
妙に長い揺れ…
突然大きな横揺れに変わり、まともに立っていることが困難となった。
辛うじて近くにあったカウンターにしがみつき揺れが収まるのを待つ…

おかしい。。
収まるどころかどんどん強くなる!
いや、少し弱くなったと思うとまた揺れが大きくなる。その繰り返しだ。
ここは2Fの大きな事務フロアだが足元の感覚で床が大きく波を打っているのが判る。
ロッカーの扉がバタン、バタンと大きな音を立てながら開閉する。棚に保管してあった書類が散乱し、周囲の同僚たちの悲鳴が時折上がる。
信じたくはないが『床が抜ける!』と感じた瞬間が2回ほどあった。
床が抜けたら一体どうなるだろう。誰か私を見つけてくれるだろうか…

怖い。。。
目の前で起こっている出来事が現実の出来事ではないような、まるで他人事のように感じる。
だが、足がすくむ…

やっと揺れが収まった。数十分もそうしていたような疲弊感。
『ついに関東大震災が来てしまったか…』
諦めの気持ちで携帯を開きウェザーニューズ社のサイトへとアクセス、そして私はざわめく周囲に叫んだ。
『関東地方震度5強、震源地…!?』

息を呑んだ。
信じられない!

『震源地宮城!マグニチュード8!』

だがこれはまだ始まりでしかなかった。
私はまだ事の重大さ、これから失われゆく多くの命に想いを馳せることも、またその余裕すらなかった。