研究会

市民科学研究室の活動の中心は各種の「研究会」です。どの研究会も原則として月1回の定例会を開きながら、調査研究を継続しています。現在活動している、あるいはこれまでに活動してきた研究会の概要を以下に記します。

現在活動している研究会の会合の今後の開催予定やその際の検討課題についてはこちらをご覧ください。どの研究会も新しい参加者を歓迎しています。参加の方法についてもこちらで説明しています。

各研究会の参加メンバーはこちら


Environmental EMF(electromagnetic field)
環境電磁界研究会

「電磁波ってそもそも何? 携帯電話がこんなに普及してしまって大丈夫?」といった素朴な疑問から出発して、大学生らを含む数名のチームが、財団から獲得した助成金や支援者の皆さんからのカンパを使いながら、ここ数年活発に調査・研究をすすめてきました。主だったものは、
1)電磁波計測データ等およびその解析
(東京タワー、図書館盗難防止ゲート、携帯電話基地局、電磁調理器など)
2)翻訳&出版
3)babycom と連携したecology コーナーでの連載
4)全国各地でのシンポジウムやフォーラムでの講演
などです。現在は携帯電話の電磁波のリスクを中心に、身のまわりの電磁波を実際に計測しながら、世界中でなされている人体影響研究を広くレビューし、政策提言を行なうことを目指しています。

<これまでに受けた助成>
2002年4月~2003年3月
(財)消費生活研究所からの2002年度「持続可能な社会と地球環境のための研究助成」による調査研究「携帯電話ならびに基地局がもたらしている電磁波リスクへの政策的対応に関する研究」

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Exposure to Low Level of Radiation
低線量被曝研究会

現在、ICRP(国際放射線防護委員会)が定めた放射線リスクに関する防護基準が世界中で採用されています。この防護基準を根拠にして、チェルノブイリや セラフィールド再処理工場周辺や原発労働者にみられる健康被害を「線量が低すぎる」との理由で、関係諸政府は放射線との因果関係を否定してきました。では、現実に生じている被害を、「科学」はいったいどう説明するのでしょうか。放射線被曝の人体影響という問題は、科学上の問題として客観的な真理が確定しうるとみなされていますが、核・原子力開発は国家が担う高度に政治的な営みである以上、誰が何を意図してどのようにデータを集めどう評価したかということ自体から洗いなおさなくては、”科学的・客観的”言説によってかえって現実を見る目が曇らされてしまうことになりかねないのです。この研究会では、低線量放射線被曝のリスクを明らかにする上で、科学的知見がいかに用いられてきたかをこれまでの論争をふまえつつ専門的なレベルで把握し、現実の問題の真の解決に向けた規制や政策的な対応をなしていくのに、リスクに関する研究や議論はどう生かされるべきかを探ります。これまでに、放射線被曝のリスクモデルを根底から見直した画期的な報告書『ECRR報告書』を1年をかけて読み解き、その結果を市民科学講座や『市民科学』誌上で発表したり、BEIR委員会(米国科学アカデミー(NAS)/米国研究評議会(NRC)の下に置かれている放射線影響研究評議会(BRER)内の1つの委員会で、「電離放射線の生物学的影響」に関する委員会)の報告書の要約版を翻訳して公開したりしてきました。現在は、ICRPの新勧告(2007年)の読み解きや、「ヒロシマ・ナガサキの原爆被爆とヒトゲノム計画のつながり」を歴史的に検証するといった作業を続けています。

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Comprehensive Food Science
食の総合科学研究会

食は生命活動に必須というだけでなく、暮らしと環境の改善の基本となるものです。この研究会は、食べ物と身体と料理の関係を(従来の栄養学に偏らず総合的に)科学の視点を持ち込んで解き明かすことを目指しています。この研究会ではこれまで、砂糖、油・油脂、大豆、米、雑穀など代表的な食材を順次取り上げ、その由来と歴史的変遷、生産と流通と消費の構造、環境負荷、身体への影響などを多角的に調査を進めてきました。また、ゆでる、煮る、焼く、揚げる……といった料理のプロセスや調理法に着目し、それがなぜ必要で、おいしさや栄養と結びつくのかを調べてきました。これらの成果をさまざまな雑誌などで情報発信してきましたし、食育雑誌やテレビ番組などの取材や企画・制作の相談も多数受けてきました。さらに、科学実験と料理の技の学びを結合した新しい食育活動である「子ども料理科学教室」にも取り組んでいます。「土鍋で美味しくお米を炊く秘訣」「野菜の甘さを生かしたクッキー作り」「発酵という魔法」など10種類のテーマでプログラムを開発し、学校や地域の活動に提供をしてきました。実験しながら料理を”作る”ことで、五感の体験に結びつけて、「なぜそうのか?」を自ら問う探求の姿勢を養うことになります。参加した方々(親と子ども)から好評をいただいている、斬新な教育プログラムです(出前・出張の授業も受け付けています)。今後は大人向けの料理科学講座も開発していくことにしています。

<これまでに受けた助成>
2008年4月~2009年3月
平成20年度子どもゆ め基金「子ども向け教材開発・普及活動助成」による「子ども料理科学教室・実験プログラム開発」

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Archive
アーカイブ研究会

市民科学研究室アーカイブ研究会は、近年の「アーカイブ」を技術の政治的な問題として捉えて、映像・音声の制作と研究調査から「市民科学」の活動を進めようとしています。その一つとして、日本の科学の成り行きに「ひと」がどのように関わっているかという側面を引き出し、誰でもアクセスできるように残していく方法を考えています。これまで一世紀以上にわたって、音声・映像の技術は「独占」や「民主化」のツールとして考えられてきましたが、科学の分野では、その制作者と利用者の技術的な方法は、公文書、データの集積、デジタルアーカイブなどの政治的・社会的問題とどのように関わるか。これまでの「資料」の存在と中身を知るとともに、その作られ方、これからの「市民科学」のための制作と活用のあり方を探っています。


Tools for Science Communication
科学コミュニケーションツール研究会

科学コミュニケーションという言葉はじつにいろいろな活動を指すのに使われますが、その中でも、専門家と素人、専門知と生活の間を必要に応じてうまく媒介することは、中心的な課題だと言えます。市民科学研究室はこれまで、”科学と社会”の問題への気づきを深めていけるように、環境や技術に関わる話題を取り上げるいくつかのワークショップを開発し、実施してきました(「百年の愚行」「二十一世紀の預言」「携帯電話政策論争!」「科学技術の地平線」)。また、新しいタイプの教育プログラム「子ども料理科学教室」や、ウェブを用いた対話型の「ナノテク未来地図」なども、各研究会の活動の中で生み出してきました。この研究会では、近年さまざまな研究や製品開発がなされるようになってきた “シリアスゲーム”の考え方に着目し、環境や健康の改善に向けて、一般の市民や子どもたちが、楽しみながら(遊びながら)、科学知をうまく取り込み活用していけるような手法を創り出したいと考えています。これまでに製品化されたさまざまなゲームをメンバーで試し、縦横に分析しながら、独自のアイデアを形にしていきます。

<これまでに受けた助成>
2009年8月~2009年12月
2009年「地域発:がん対策市民協働プログラム」「ゆりかごプロジェクト」助成(日本医療政策機構 市民医療協議会)。テーマは「”がん予防クーポン”導入に向けた参加型ワークショップの実施」
2010年2月~2011年1月(進行中)
(財)科学技術融合財団(FOST)より平成21年度の調査研究助成。テーマは「生活習慣改善ゲームによる健康リスクコミュニケーション手法の開発実践」

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Bending Science
Bending Science研究会

Bending science とは、企業が利益追求のために、あるいは政府が体制維持のために、あるいは特定のイデオロギーを持った諸団体が自身の主張を通すために行うことがある、恣意的な科学の利用(ねじ曲げ)のことです。多くの事例を分析して、このねじ曲げの手法を明確にさせることがこの研究会の第一の目的です。そして、学んだ知識を活用すべく、現実になされているねじ曲げの具体例に光をあて、新たな批判のメスを入れていくことを目指しています。2014年4月から、『Bending Science: How Special Interests Corrupt Public Health Research』(Thomas O. McGarity and Wendy E. Wagner.著, Harvard University Press, 2008)の輪読を開始しています。

 

〈生命/生物/人間〉研究会
20世紀後半、生物学から生命科学が枝分かれして、研究の対象は、個々の生物から離れ、核酸とタンパク質の分子に向かった。そこで明らかにされていく生体分子のふるまいの背後に、「生命」という普遍的な何かがあるといっていいだろうか? 「生命」という実体はあるのだろうか。実体としてあるのは、個々の生物だけではないのか? 生命とは何か。この問いはあまりにもとらえどころがない。そこで少し間口を狭めて、科学者が対象にしている生命とは何か、という問いであれば、いくらか議論しやすいだろう。科学者が扱おうとしている生命とは、どんなものか。科学が生命を扱うとはどういうことなのか。それは、芸術や文学や宗教がすることと、どう違うのか。私たちは科学が生命を扱うことに対して、どのように関わるべきなのか。こうした問いを議論するための足がかりとして、この研究会では、生命と生物は違うのではないかという観点から、たとえば次のような問いを立てて、科学としてできることとできないこと・すべきこととすべきでないことを考えてみたい:合成生物学がつくっているのは、生命? 生物? 倫理的に尊重し保護しなければならないのは、生命? 生物? 実験動物の慰霊はするが、実験でつくった細胞の慰霊もする? ゲノムの慰霊は誰もしないが、それと保護の対象となる生命であるということとは違うのか? 知能があれば生命はあるといえるか? また、研究会では、生命と生物の違いという軸に加えて、生物のなかで人間が占める位置について、科学でどこまで究めることができるのかも考えてみたい。それが、〈生命/生物/人間〉研究会と銘打った趣旨である。まずは関心を持っていただける少人数の方々と議論を始め、そこで出てきた成果を、一般向けに公開する市民集会(サロン)で提示して、さらに論議の裾野を広めていければと考えている。ふるってご参加いただければ幸いである。


Citizen & Disaster Prevention
市民と防災研究会

東日本大震災以後、全国的に防災意識が高まっています。地域の人々のつながりを生かし、やまちづくりや住まい方の特性に目を向けて、”共助”の具体的な形を確立しようとする「コミュニティ防災」の大切さが次第に認識されるようになってきました。大都市圏に住まう者として、近いうちにやってくることが予想される大地震や大水害への防災・減災・救急対策として、何を知り、どのように備えればよいのでしょうか。災害に強い”わが町”を作るために専門家や行政、そして住民どうしでどのような協働体制を築いていくべきなのでしょうか。具体的な地域に即して、具体的なデータに基づいて、コミュニティ防災の有効なあり方を考えていきます。


Housing Conditions
住環境研究会

住まいは、あらゆる技術(システム)の中で、誰にとっても最も身近で、最も総合的で、最も基本的なものと言えるでしょうが、困ったことに、一般市民は”知らなずくし”の状態に置かれています。自分の住まいの寿命、耐震性、資産価値、都市計画の中での位置づけ……についてきちんと語れる人はどれくらいいるのでしょうか。ローンの重圧にあえいできたのに、それを払い終わる頃には老朽して住めなくなってしまうような、改装も間取りの変更もままならない住宅――何かが根本的におかしい、と誰もが思っているはずです。「建築、住宅は個人が建てたり売ったりする消費財」という考え方がそもそも間違ってはいないでしょうか。この研究会では、多くのステークホルダー(居住者(サービス受託者)と建築・設計、施行、販売、融資に関わる専門家・事業者(サービス提供者)、住宅政策や都市計画に関わる省庁や地方公共団体など)が関係し、複雑に錯綜した問題を、一般の市民がそのエッセンスを理解できるように整理し直し、「住まうことの転換」に向けて何をどう実現すべきかを、専門家・事業者と市民が協議していけるようにします。鍵となる情報を取りまとめながら、各所との議論を重ね、イベントを実施し、ネットワークを広げていきます。


Nano-tech & Society
ナノテクと社会研究会

日米欧を中心に近年猛烈な勢いで研究開発および実用化が進められているナノテクノロジーを対象に、その規制政策に向けた調査研究を行います。ここでナノテクノロジーとは、ナノ・メートル(10のマイナス9乗メートル)レベルでの物質の微細加工技術・操作技術を幅広く意味する言葉です。この分野の研究開発予算はとても大きく、日本では1000億円前後の政府予算が投じられています。ナノテクノロジーの発達によって新たな産業革命が起こるとも言われます。しかし一方で、海外ではこの技術の実用化に伴う様ざまなリスクが予測・議論されています。それにも関わらず、規制政策は現在のところ全くない状態です。特にカーボンナノチューブを初めとするいくつかのナノ粒子は量産段階に入りつつありますが、他方で有害性を示す科学データも出つつあるのです。一般的にも、ナノ粒子はそのサイズの特異性ゆえに予測のつかないリスクをもたらす可能性が否定できません。予防原則に基づいて、なんらかの規制政策が必要なのではないでしょうか(安全管理が確立されない限り研究開発実用を一時停止させる等)。既存の文献に見られる議論を整理した上で私たち独自の調査を進め、広く市民に伝えてゆきます。2006年にはナノテク化粧品について、企業アンケートをはじめとする調査を行い、その結果を市民科学講座や『市民科学』誌上などで発表しました。現在は、フードナノテクノロジーを対象にテクノロジーアセスメントを実施し、その成果を生かした情報発信・意見交換のための場を設置・運営することを目指しています。

<これまでに受けた助成>
2007年11月~2011年3月
JST社会技術開発センター・研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」平成19年度採択課題「先進技術の社会影響評価手法の開発と社会への定着」(研究代表:鈴木達治郎・東京大学公共政策大学院客員教授)での共同研究


Life Manipulation & Enhancement
生命操作・未来身体研究会

生命科学の爆発的な進展によって、人の誕生から死にいたる一連のプロセスの中で、生殖、生と死の境界、老いや病の概念などを大きく変えてしまう可能性を持つ、さまざまな技術が生まれるようになりました。出生前診断、体外受精、卵子提供、代理出産、臓器移植、サイボーグ技術や脳科学を応用した心身の機能の増強(エンハンスメント)……私たちが漠然と共通の認識にしていたこれまでの生命観(命のとらえ方)が揺らぎ始めています。この趨勢の中で、何よりも心がけなければならないのは、「技術にふりまわされる社会」ではなくて「技術を皆で議論し適正に選んでいく社会」にするためには何が必要かを、個別の問題を扱いながらも考え抜いていくことです。この研究会では、主として不妊治療・生殖補助医療およびエンハンスメント技術を対象に、これらをめぐる市民や専門家のさまざまな声や意見を収集して整理しながら、議論の機会を設けます。問題点を明確にして、どのような対応策が有効なのかを提起していきます。

Other Projects
その他のプロジェクト

「研究会」は以前は「プロジェクト」という名で呼んでいました。例えば、「環境電磁界研究会」は以前の名称は「電磁波プロジェクト」でした。メンバーが解散し、終了したプロジェクトには「科学館プロジェクト」「科学技術評価プロジェクト」「ワークショップ”科学技術と社会”」「藤野に集うプロジェクト」「宇宙開発再考プロジェクト」がありました。これらの中には、何らかの形で現在の研究会に活動の一部が引き継がれているものもあります。