社会の中の科学技術と市民の役割

4月17日、私は内閣府&文部科学省主催の科学技術週間シンポジウム「科学技術の力による輝きのある日本の実現に向けて」にパネリストとして参加しました。

昨年末に、科学技術学術審議会・基本計画特別委員会は、第4次科学技術基本計画の策定に向け「我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて−ポスト第3期科学技術基本計画における重要政策 中間報告」(平成21年度12月25日)を発表し、それに対して一般市民からの意見募集(パブリックコメント)をこの科学技術週間にも行ないました。このシンポジウムはこのパブコメの意見も参考にし、日本の科学技術政策の今後のあり方をできるだけ幅広く俯瞰的に論じようとするもので、パネリストして研究行政にも科学技術論にも詳しい京大総長の松本紘氏や海外での教育経験の豊富な教授や准教授といったアカデミシャンに加えて、産官学を結んでのコンサルティング事業をすすめる方(株式会社「経営共創基盤」代表取締役CEOの冨山氏)や市民と科学技術の関わりをテーマとして活動する者(上田)が含まれているのが特徴だったと思います。扱うテーマがあまりに広いために、議論の焦点が定りにくかったのは残念でしたが、ピンポイント的にいくつかの有効だと思える手立てが見えてきたことは収穫だったと思います。

この原稿は当日の私の短いプレゼンテーション(5分ほど)を大幅に補筆したものです。

「社会の中の科学技術」という転回

科学と技術はその発生も成り立ちももともとは違ったものですが、その端緒から社会的な営みという側面を持っていたと考えられます。しかし、それが社会に巨大な影響を及ぼすようになり、"科学技術"という一体化したとらえ方がなされるようになり、国家の営みとしてしても不可欠の要素になったのは、産業革命以降でしょう。「知的探求の本流」に根ざしたいわば個人的な営みが、「人間の欲望の実現」に寄与するイノベーションの原動力として体制化される(国家事業になる)−−その変容が、産業革命以後250年ほどの間にすっかり定着したと言えると思います。

しかし20世紀の後半になって、戦争、環境破壊、貧困や格差といった問題が深刻化し、そうした問題発生の基底に、開発と成長を生み支える構造の一部として科学技術があることへの反省の意識が生まれました。それを契機とした科学技術の総体の見直し・とらえ直しを、ここでは"転回"と呼んでいます。「環境」「持続可能性」が新しいイノベーションの対象に位置づけられ、医療や健康の面のみならず多くの分野で規制科学(レギュラトリーサイエンス)が不可欠となっている現状は、その"転回"の端的な反映だと思われます。リテラシーの面からみても、私たち市民科学研究室が提唱していることではありますが、"知る・学ぶ""身につける"段階からさらに踏み込んだ"自身で編集する・活用する""自ら調査する・問題解決につなげる"ことへの展開が期待されるようになってきた、と言えるでしょう。

"転回"の時期に私たちがいることははっきりしてきたけれど、実際にそれがスムーズにかつ有効になされるには何が必要なのでしょうか。要は、環境・健康・安全......といった価値を優先しながら科学技術の研究開発や産業への応用を適切に方向付けることではあるのですが、ではそれをどう実現するかとなると、議論百出、まとめていくのは相当大変でしょう。

転回を成功させる要件とは

私がここで述べたいのは、市民の立場からするとどんな条件が満たされねばならないか、です。大まかに言うと、次の4つになるのではないでしょうか。

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講演記録 社会の中の科学技術と市民の役割

NPO法人市民科学研究室・代表
上田昌文