ノンアルコールビールあれこれ
森川浩司(お酒の文化と科学プロジェクト)
2025年10月4日
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「お酒の文化と科学プロジェクト」ですが、いやだからこそ、お酒の”周り”の話題も扱います。今回はノンアルコール飲料、特にノンアルコールビールについてのお話です。
ノンアルコールビールを飲む
2025年7月26日に市民科学研究室の事務所にて、ノンアルコールビールの試飲会を行いました。「お酒の文化と科学プロジェクト」メンバーが各自お薦めのノンアルコールビール(と、アルコールの入っていない飲み物は飲み物ではないというメンバーは低アルコールビール)を持ち寄って、試飲会参加者みんなで飲み比べしてみようという会でした。
当日は、ノンアルコールビールってこんなに種類があるのか!とびっくりするくらい、日本製・海外製のノンアルコールビールが揃いました。私が持参したうちのひとつはアサヒビール株式会社(以下アサヒ)の「アサヒゼロ」。これを最初に飲んだ時は衝撃的で、「これはビールじゃないか!」と思ったのを覚えています。20年以上前にもノンアルコールビールを飲んだことがありますが、当時は種類は少なく、また飲んでみても「これはビールの感じがまったくしないなぁ」と思った記憶がありますが、今回はあまりにもビールっぽかったからか、アルコール0.00%なのに軽く酔ったような感じがしました。運転するからノンアルコールビールを飲む、という場合があると思いますが、軽く酔ったような感じがするけどアルコール検査では反応なしとなるのかどうか気になったくらいです。
そんなノンアルコールビール試飲会については〇〇さんによるレポートがありますので、詳しくはぜひそちらを読んでいただければと思います。
ノンアルコールビール調査を読む
広がりと深まりを感じさせるノンアルコールビール。それに呼応してノンアルコール市場に関する調査も複数出てきています。ここではサントリー株式会社(以降、サントリー)と麒麟麦酒株式会社(以降、キリン)による2024年の調査を比較しながら見てみたいと思います。(参考文献の欄にリンクを載せています。)
- 調査の概要
サントリーの調査対象は、一都三県(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)に在住する20~60代の男女30,000人のうち、ノンアルコールビールテイスト飲料(以降、ノンアルコールビール)の月1日以上飲用者1,238人。
キリンの調査対象は全国の20-59歳男女960名(学生除く)。
どちらもインターネットでの調査です。 - 市場規模
サントリーの推定によると、ノンアルコールビールの市場はこのところ頭打ち傾向ですが、ビールテイスト以外(チューハイテイストやワインテイストなど)が伸びている影響で、ノンアルコール飲料全体としては市場規模は年々少しずつ拡大しています。
2021年にやや大きな拡大がみられていて、これについてのサントリーのコメントは特に見当たりませんが、インターネットで調べてみると、コロナ禍による家飲みが増えて健康に気を使ってノンアルコール飲料の消費が増えたのではないかという推測をみつけました。
スーパーマーケットのお酒コーナーに行くと、ノンアルコール飲料はノンアルコールビールの他にいろいろな種類のものがたくさんあって、売り場スペースもそれなりに大きく、市場の拡大を実感できます。 - ノンアルコール飲料の飲用経験
サントリーの調査でもキリンの調査でも、ノンアルコール飲料を飲んだことのある人は調査対象の半分弱で、飲んだことのある人の中の約8割くらいはノンアルコールビールを飲んだことがあるようです。
サントリーはここ何年か同じ内容のノンアルコール飲料の調査をやっているようで、2023年の調査との比較があり、1年以内に飲んだことのあるノンアルコール飲料の中でノンアルコールビールは約8割で変化はありませんが、ノンアルコールワインテイストやノンアルコールカクテルテイスト、そしてノンアルコール焼酎テイストの割合が増えています。
私もノンアルコールワインテイスト飲料を飲んでみました。ワインからはだいぶ遠い感じがしましたが、どうせノンアルコールならと葡萄ジュースを飲むよりもノンアルコールワインテイスト飲料の方がワインの代替にはなるのだろうなと思いました。 - ノンアルコール飲料の飲用シーン・飲用理由
サントリーの調査でもキリンの調査でも、どういうときにノンアルコール飲料を飲むか、その飲用シーンについての項目があり、どちらもアルコールが飲めない場面で代替品として飲まれていることがうかがえます。
サントリーの調査には世代別の回答も載っており、20代は「夕食後」「昼食時」「休日の昼間」「料理をしながら」という場面での飲用比率が他の世代よりも多くなっています。若い人はアルコールの代替品として以上にノンアルコール飲料に親しんでいる感じがしますね。
また飲用理由については、アルコールが飲めない状況の他に、健康面から(例えば休肝日の飲み物として)飲まれたりしているようです。加えて、リフレッシュ・気分転換という理由もそれなりに割合が高く、ノンアルコール飲料にはアルコールの代替品という以上の役割もありそうです。 - こんな場面でノンアルコール飲料はOK?NG?
キリンの調査では、ノンアルコール飲料を飲むことに対する抵抗感の有無をシーン別に尋ねています。個人的にはこの結果がいちばん面白かったです。
就業時間中の飲食店での一人ランチ・同僚とのランチ、オフィス内でのランチ、オフィスの自席、仕事の会議中に、いくらアルコール0.00%だからとはいえノンアルコール飲料を飲むのは是か非か?あなたならどれはOKでどれはNGでしょうか?
どんな結果が出たか、興味ある方はぜひキリンの調査結果をご覧ください。
昔のノンアルコールビールは、ビールを飲みたいけれど今は飲めないからしかたなく代替品として飲む飲み物という位置づけだったと思いますが、今は健康志向もあって体にいい成分が入ったいわゆる機能性飲料の側面を持つものもあり、積極的にノンアルコール飲料を飲む・楽しむというように変わってきている印象です。
考えてみれば、食事にあわせるノンアルコール飲料の選択肢は実は今まであまりなかったのかもしれません。クラフトコーラがブームですが、そんな風に、ノンアルコールビールに限らず食事に合わせて楽しむノンアルコール飲料のクラフトものがどんどん出てくる可能性も考えられます。アルコールが飲みたいけど飲めないから、ではなく、気分やシーンに合わせてアルコールやノンアルコールを自在に切り替えて楽しむ、いろんなアルコール飲料があるようにいろんなノンアルコール飲料を飲み分ける、そんな時代が来ているのかもしれません。
私が「これはビールじゃないか!」と思ったアサヒの「アサヒゼロ」は、濃厚なビールを醸造してからアルコール分を完全に取り除くという製法で作られているそうです。これと同様にラガータイプのビールを醸造してからアルコール分を完全に取り除くという製法で作られた「ラガーゼロ」がキリンから発売になりました。飲んでみたところ、「アサヒゼロ」ほどの衝撃はありませんでしたがこれまた確かにかなりビールっぽく、そしてまたまた飲んだ後少し酔っている感じがしました。
ビール・発泡酒・第3のビール(新ジャンル)などビール系飲料の酒税が2026年10月から統一されますが、サントリーが第3のビールのヒット商品「金麦」をビール化することを2025年9月末に発表しました。そのサントリーはまだアサヒの「アサヒゼロ」やキリンの「ラガーゼロ」のような商品は発売していません。ビール系飲料の酒税統一でビールが盛り上がりそうですが、ノンアルコールビールも同様に盛り上がりそうで、季節はすっかり秋になりましたがビールもノンアルコールビールも(そしてその他のノンアルコール飲料も)これからますますアツくなりそうです。
参考文献
麒麟麦酒株式会社, 2024, ノンアルコール飲料意識調査2024【グリーンズフリージャーナル】
, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000148389.html
サントリー株式会社, 2024, ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査 サントリー ノンアルコール飲料レポート2024, https://www.suntory.co.jp/news/article/14622.html
サントリーが「ALL FREE」を出した頃は、ノンアルコールビールは3銘柄くらいしか無かったと思います。その当時から比べると凄い市場になってきていますね。ビールに限らず、今後もノンアルコール飲料の動向に注目してみます。