
(文中の写真はPDFファイル文書にて紹介)
市川市・行徳の鳥獣保護区を訪ねて2025年10月5日
杉野実(市民科学研究室・「千葉県市民活動プロジェクト」世話人)
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市川市・行徳の鳥獣保護区、通称「野鳥の楽園」に、またやってまいりました(図1)。
以前からご縁のあるところで、「勝手知ったる」といいたいところですが、地元ゆえの油断もあったのでしょう、うっかり降車駅をまちがえて少しだけ遅刻し、今回「自然ほごくらぶ」の観察会に参加された、会員の松田美恵子さんと林浩二さんを心配させました。
図2では「すがた」は確認しにくいのですが、入口入ってすぐのところにいるのはトビハゼです。「泳げない魚」とばかにされることもありますが、実はアンモニアからアミノ酸を再合成する、動物としては稀有な能力をもったつわものです。
図3は、木もれ日など撮影しようとして失敗したものですが、埋め立て地の端を堤防状にして、淡水の小川を確保した地形はよく写っています。注目すべきは、植物はすべて人為的に植えたものではなく、鳥が落としていった種から自然に発芽したものだという点でしょう。
図4を写したヨシ原で声を聞いたのは、たしか羽根の「構造色」で有名な、そして最近は都会でもふえているというカワセミだったと思いますが、あるいは「仰々し」と鳴きなされている、オオヨシキリだったかもしれません。
図5には、ベンケイガニがすごく小さく写っていますね。「陸生」だが水からあまりはなれないという、生態にうまく合ったところでみつかありました。
図6のウラギクは、前回にも紹介しましたよね。別名ハマシオンともいう塩地性植物で、このあたりでも熱心に保護されている希少種です。
図7のきのこは傘の裏がスポンジ状なのでイグチ類ですね。ハナガサイグチでしょうか。このきのこも菌根菌ですが、このあたりの林地自体がまだ50歳ぐらいで若いので、極相林のマツなどと共生するたぐいのイグチは生えていない、とこれは林さんのご説明によります。
図8は、蔓の繁殖力が強いミツバアケビです。(一般の)アケビよりアクが弱いといわれますが、そういうことをよく知る人が今では少なくなりました。この辺で海の景色もちょっとみてみましょう。
図9にはまたしてもすがたが写っていませんが、地面にある玉みたいなものは、チゴガニが有機物をこし取ってはき出して作った「砂団子」です。巻貝のウミニナなどとまじって住むこのカニは、雄がシオマネキのような「ウェービング」をすることでも知られています。
図10は、上がフジツボで、下がカキです。フジツボの方がより乾燥に強そうだと、この位置関係からもわかりますね。ところでフジツボはカニと同じ甲殻類なのです。自由生活をするフジツボの最後の形態であるキプリス幼生を、ダーウィンは「動くさなぎ」とよびました。
おまたせしました、行徳名物のカワウ(図11)です…というには、一羽一羽のすがたが小さすぎますね。この鳥にとって日本は「通年繁殖域」にあたっており、ねぐらや繁殖用の巣をふくむコロニーを、ここのような水辺に形成するといわれています。こちらみたいに最近各地で急増している理由のひとつに、川の上流での(えさになる)魚の放流がさかんになったことがあげられています。「糞が木を枯らす」としてカワウはときに悪者あつかいされますが、むかしは森林そのものが今よりずっと多かったので、カワウのコロニーも焼き畑みたいに、「跡地を回復させつつ場所を巡回していた」というのですね。
図12「ため糞」の主は、カワウとならぶ人気者(?)のタヌキです。意外に器用で木登りも得意なので、さきほどのアケビの実など食っているかもしれません。
図13はここの淡水水源です。埋め立て地で湧き水は無理なので、こうして人工導水しているとのことでした。
2時間ほどの観察会が終わるころには、ハゼがいた干潟にもすっかり潮が満ちていました(図14)。
会を終えて外に出ると、こんな看板が目につきました(図15)。
今年はクマなど「危険な野生動物」が話題になりましたが、タヌキなどからみたら「かわいがってくれる」人間こそ脅威だろう、クマにしても彼らこそ人間をこわがっているのだ…などといろいろ考えさせられます。本来主役であるはずの(?)鳥についても、カワウにようにヒトとの「共存」に難儀している例もあるものの、埋め立て地に種を運んで植生の豊かさに貢献しているあたり、さすがは大激変を生きのびた「恐竜の末裔」だ…と、思うところがあります。林さん、そしてほごくらぶスタッフのみなさん、ありがとうございました!■
