巻頭言2
福島のコメ農家を訪ねて
林衛(市民研・監事)
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福島県大玉村は、中通りのなかでも、原発震災発生直後に汚染プルームの最 も濃厚な部分が通過した阿武隈川よりはやや西側にあり、安達太良水系を用いた水田地帯が広がる。
その地で農業生産法人を経営し、高品質に期待するお客様の信頼に応え、コ メ生産を拡大してきた鈴木博之さんのもとを春以降、2度訪問した。先祖代々培ってきた「土性を損壊した」と東京電力を訴えるべく準備を進めている鈴木さんたちの支援をしたいと考えたからだ。政府指示による公的避難を強いられている自治体・地域とは異なり、中通りでは、あらゆる被害を自ら訴え、加害 者に認めさせないと、償いはいっさい得られない。
農業資材を提供する営業マンによると、2011年度県内では自家保有米と縁故 米が落ち込み、その分、農協買上米が増えたという。農協買上米は、ブレンド 産地の第3位以下は表示不要のルールによって、宮城や山形産米に隠れ全国へ流通。県内消費の不足分は、お隣の新潟産米がよく売れて補った。県北の汚染 が深刻だとの情報はよく知られていて、福島飯坂インターそばのスーパー直販コーナでは、地元産小松菜が1パック100円と格安なのにかかわらず、山積みのまましなびているのが痛々しかった。
チェルノブイリ原発周辺に近い土壌汚染がみられるのに対し、内部被曝の計測値に低めのものが多いのは、土壌中でセシウムを吸着する粘土質が多いことに加え、除染や測定の努力、食品流通の発達によるところが大きいらしい。
こんな状況からも予想されるとおり、農協を通さず県内外のお客様に直販してきた鈴木さんの売上は壊滅的だった。5Bg/kgでもそれ以下でも売れないのだが、鈴木さんは決してお客様のせいにはしない。
東京電力は、鈴木さんの生産した高品質米を食べる喜びをお客様から奪った。生産者も消費者も被害者だ。手を携え加害責任を追及したい
(連携・支援の不足ゆえ、「子どもは放射能に強い」とか「米ソ核実験時代よりも被曝量が少ないから」といった安全論が混乱に拍車をかけている問題は別途論じたい)。■