報告
今年もサイエンスアゴラに出展
横山雅俊(市民研・理事)
今や毎年恒例の科学コミュニケーションの祭典「サイエンスアゴラ」。今年も日本科学未来館とその周辺を会場に、11/10~11 の2日間に渡り開催されました。科学にまつわるあらゆる話題や問題に、専門家と市民が垣根を超えて共に向きあう舞台、それがサイエンスアゴラです。
市民科学研究室からは、2つの企画を出展しました。1つは生活習慣病予防をテーマにしたゲーム「ネゴシエートキラー」の体験会、もう1つは筆者が毎年出展している、研究問題(科学研究、高等教育に関する影の部分、負の側面にある問題群)に関するワークショップ「本音で語る」。いずれも会期初日(11/10)の午後に、事実上連続して実施しました。
「ネゴシエートキラー」体験会は、来場者があるごとに数人ずつのグループを作り、ゲームを開始して随時進行するという形式をとりました。和気あいあいとした雰囲気の中でも、ゲームを通じて生活習慣病のリスクと罹患の過程を理解しようという主意は、概ね伝わったと思います。最近では、科学的なテーマのゲームが小さなブームですが、我々のゲームはそのプレイ体験を通じた理解増進のプロセスそのものを研究対象にもしているという点で、一工夫を凝らしています。今回の出展を契機に、今後の新たな展開をいま模索しています。
研究問題ワークショップ「本音で語る」は、今年が7年連続7回目(市民研のクレジットでは2回目)。今回は、3年前に実施した大学問題の続きということで、知と人を育てる大学の理想像を考える場にしました。その理想像を考える具体例として、薬学部6年化問題をテーマに掲げ、『本音で語る”専門職学位”~薬学6年化は成功するか~』と題して、例年通り前半はトークセッション、後半はワークセッションという体裁で実施しました。ゲストには東京大学薬学系研究科教授の松木則夫さん、集中出版社記者の鈴木義男さんをお招きし、会の前半で薬学部の教育研究の現状と背景に関して話題提供を頂きました。それを踏まえ、後半では薬学部のあるべき姿に関して考える、気付きやひらめきを重視するワークを実施しました。2時間の限られた時間に盛り沢山の内容を詰め込みましたが、大きな成果を挙げることが出来ました(詳しくは、下記 URL の報告ページを御覧下さい)。
なお、この出展企画に際して、薬学6年化の目玉である臨床実務実習を経験した薬学生の本音に関する調査を、日本薬学生連盟の方と共同で実施しました。その中間発表も、会の途中で行っています。その成果は、横浜で来春開催の第 133 回日本薬学会年会で発表します。その意味で、この出展企画は「まだ続いています」。
こうした一連の取り組みは、日々の小さな活動の積み重ねから成り立っており、その意味で継続性も持っています。科学コミュニケーションというと、理解増進と市民参加の2つの文脈で語られることが多いものですが、本来はその双方向性の両側にある主体の組み合わせに応じて、多様な形態が成り立ちます。その中で、特に専門知を持つ人材としての専門家の社会進出は、理解増進や市民参加の軸では記述出来ない、独立した、比較的新しいテーマです。筆者は、この専門家の社会進出をキーワードに、科学コミュニケーション活動の小さな実績を折り重ねてきました。それは、市民科学研究室の基本理念とも両立する活動だと信じています。
これからも、市民科学研究室は、そして筆者は、専門知そのものやその学術的及び社会的な意義、人間としての専門家の抱える問題や悩みを、社会と共有する取り組みを続けていきたいと願っています。
参考:
生活習慣病予防の対面交渉ゲーム「ネゴシエート・キラー」を体験しよう
本音で語る『専門職学位』~薬学6年化は成功するか?~
科学と社会ワーキンググループ
開催報告:本音で語る『専門職学位』~薬学6年化は成功するか~