エネルギー問題と環境・エネルギー対策について

投稿者: | 1999年3月31日

エネルギー問題と環境・エネルギー対策について

歌川 学

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第96回土曜講座では、通産省工業技術院資源環境総合研究所に務める研究者である歌川学さんと埼玉県東上尾高校で物理の教鞭をとる西尾信一さんに研究発表をしていただきました。お若いお二人に似つかわしくOHPを交えたフレッシュな発表でした。今回急なお願いだったにもかかわらず、お二人から読み応えのある原稿をお寄せいただきました。歌川さんの広い視野からの論考と西尾さんの自分自身の試みの報告は、両者あいまってエネルギー問題を考えるための大きな刺激を与えてくれていると思います。読者の方々にご感想をお寄せいただけると幸いです。

日本は世界の化石燃料の約5%を消費し、世界のCO2の5%を排出している。エネルギー消費は、エネルギーコストの削減という経済的要請の他に、資源枯渇、地球温暖化防止、大気汚染防止などの諸課題からその消費を抑えることが要請されている。以下に、その制約要因と、省エネや自然エネルギー利用などの各種対策、その先進事例などを紹介し、日本の今後の対策を考えたい。

★エネルギー制約について

●地球温暖化
世界の科学者を集めたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、来世紀末に2度という温度上昇を予測している。地球温暖化の原因は二酸化炭素(CO2)、メタン、亜酸化二窒素、フロン等の温室効果ガスで、最も効果の大きいCO2の大気中濃度は産業革命前の280ppmから、現在は370ppmに増加している。
1997年に行われた地球温暖化防止京都会議で、先進国は2010年までに1990年レベルから平均5.2%の温室効果ガス排出削減を義務づけられた(なお、旧ソ連・東欧の経済停滞で1995年までに1990年比で先進国の温室効果ガスは4.6%程度削減されているという)。但し、大気中のCO2濃度を気候系に危険を及ぼさないレベル(仮に450ppmとする。このレベルが安全と立証されたわけではないが、産業革命前の2倍に当たる550ppmでは危険だとのレポートがある)に安定化させるには、IPCCのシナリオでは2100年頃までに60%程度、2200年頃には80%程度の大幅削減が必要になるが、京都議定書の義務(先進国全体で5.2%、日本は6%)はこうした科学の要請には遥かに及ばず、科学からは継続的で根本的な削減策を迫られていると言える。

●エネルギー資源の枯渇
化石燃料やウランは資源枯渇の問題を抱えている。現在の消費量が今後も続くと仮定す
れば、石油、天然ガス、ウランは40年程度しかもたないと見られている。石炭だけは200年以上もつと見られているが、地球温暖化、大気汚染などの問題をかかえており、石炭への傾斜は問題が多いし、使用量を増加させればやがて枯渇してしまう。石油は中東諸国への依存度が高く、中東諸国のどこかで紛争が生ずると石油ショックの際のように日本経済の混乱の原因になるなど、経済的にも政治的にも問題を抱えている。
なお、石油、石炭はプラスティックなど各種材料の原料として今後も供給が期待されるが、現状では石油の中で材料用途のナフサは8?13%にすぎず、大部分をガソリンをはじめとする燃料用途として精製し、消費している。
エネルギー経済からも、化石燃料の継続的で根本的な削減策を迫られていると言える。

●大気汚染
化石燃料消費に伴い、硫黄酸化物、窒素酸化物などの大気汚染物質が排出される。日本では発電所や工場などの排煙が原因で、三重県四日市市や川崎市など、深刻な大気汚染をもたらし、多くの被害者を出してきた。現在、工場などの対策はそれなりに進んで二酸化硫黄の大気中濃度は低下してきているが、現在は自動車(特にディーゼルトラックなど)を主な排出源とする窒素酸化物やディーゼル微粒子の汚染が深刻で、環境基準の達成も絶望的である。これもエネルギー消費の負の面であり、早急な解決を迫られている。

★世界と日本のエネルギー消費

IEA(国際エネルギー機関)の推定によれば、1995年の世界のエネルギー消費のうち、アメリカだけで22%、OECD(経済協力開発機構、主に西側先進国)だけで50%、旧ソ連・東欧を入れた先進国全体で3分の2を消費している。人口の4分の3をかかえる開発途上国との間の格差は極めて大きい。日本は人口では世界の1%程度だが、エネルギーの5%を消費し、特に石油は世界の10%近くを消費している(IEA資料、エネルギー経済統計要覧に収録)。

日本の一次エネルギー消費のうち、発電所などエネルギー転換部門は3分の1を占める。こうしたエネルギー転換部門を除いた最終エネルギー消費で見ると、産業(主に製造業)が47%、運輸(大半がトラックや乗用車)が24%、業務(オフィスや商店、学校、病院など)が12%、家庭が14%となっている(通産省「総合エネルギー統計」平成8年版)。欧米諸国は産業・運輸・民生(家庭と業務の和)が概ね3分の1ずつを占める(IEA資料、エネルギー経済統計要覧に収録)ので、日本は産業のエネルギー消費の多さが特徴である。家庭はエネルギー効率の悪さが予想されるので対策の強化が求められるが、エネルギー消費量はマイカーを含めても2割程度で、残りは事務所や運輸業界を含めて産業界の消費ということになる。このことは産業界がさぼっていることを意味しないが、対策として大口消費者の産業部門により多くが求められることになる。産業界の中でエネルギー消費が多いのは、電力を除くと素材産業で、鉄鋼、化学、セメント、紙パルプの4業種が日本全体の最終エネルギー消費の3割を消費している。
なお、化石燃料や原子力利用では燃やして得られる熱の一部しか有効利用できない。1994年にはエネルギーの4割程度しか有効利用していない。しかもこの割合は近年の電力の割合増加に伴い、低下してきている(環境白書平成9年版)。

★エネルギー対策について

●省エネの可能性
省エネは、対策を行うことで燃料コストが削減できることから、コスト的に最も有利な温暖化・エネルギー対策と考えられている。
省エネの可能性は産業では難しく、二酸化炭素排出量にしてせいぜい2010年までに1990年比ゼロ%がせいぜいとする経団連や通産省の主張と、2010年に8%程度は可能とする環境庁国立環境研究所、通産省資料をもとに分析し、生産量が1995年レベルの場合、技術的対策だけで20%削減は十分可能とする環境NGO・CASA(地球環境と大気汚染を考える全国市民会議)の分析が対立している。CASAはエネルギーコストの試算も行い、2010年までに省エネ投資額20兆円の2倍以上の50兆円ものエネルギーコストの削減が期待できるとしている。また、自動車の過去の燃費対策、大気汚染対策で世界市場での競争力を大幅に向上させた例から、省エネ対策は今後の日本の経済発展にも不可欠と期待されている。
日本の過去の努力については諸説あるが、エネルギー消費量を見る限りでは、1985年以降、エネルギー消費量は第1次石油ショック(1973年)以前と同様の高い増加に戻ってしまっている。日本の省エネ対策は効率改善が主だが、省エネ法で機器の効率基準を細かく定めたり、工場にエネルギー管理員を配置させるなど、今後のきめ細かな対策の素地がある。以下に、政策的に省エネ、省電力を実施し総量削減に成功している例を取り上げ、日本の今後の可能性を探りたい。

*カリフォルニア州・サクラメント市電力供給公社SMUD 電力会社が省電力に補助金
アメリカには、電力会社が省電力に乗り出しているところがある。カリフォルニア州の州都・サクラメント市の電力供給公社は、住民投票で原発を閉鎖したことで有名。巨大な供給源がなくなったため、電力会社が先頭に立って、自然エネルギーの導入、省電力の徹底を推進してきた。
SMUDは企業や市民に省電力プログラムを提供し、省エネ診断を無料で行ってアドバイスをしたり、苗木を無料配布して冷房用電力を抑えてもらったり、省電力の電気製品に補助金を出したりしている。この電力会社は補助金を出しても電力消費を削減した方が、電力会社は発電所の建設費を節約できてコスト削減になり、企業や市民は省電力で負担が減り、しかも地球温暖化や大気汚染の防止など環境保全にもなり、皆が得をする選択だと説明している。

*省エネラベル
家庭のエネルギー消費の大きな部分(日本では4割程度)は電力であり、その消費量は使用の仕方の工夫以上に、どのような製品を購入するかで決まる。日本の例では冷蔵庫、エアコン、テレビの3種類で家庭の電力の5?6割を消費している。これらでも店頭に並ぶ商品の効率は2?3倍も異なり(地球環境パートナーシップオフィスなどの調査)、いかに効率のよい機器を消費者が選択するか、行政や企業がそれをどう支援するかにかかっている。
ドイツではエネルギー消費量を表すラベルが製品に掲げられ、消費者や企業が電気製品を購入する際に、どの製品が省エネに優れており、どの商品はエネルギーを浪費するかが一目でわかるようになっている。消費者が省エネ機器を選択するため、家庭の省エネが進むだけでなく、製造業も省エネ商品の開発をさらに進めるというよい効果をもたらしている。
日本では家電製品にはラベルがないこともあって、効率は重視されていないと言われている。自動車の購入の際には重視されているが、最近は車体の軽量化にも関わらず、各種機器の追加により、ここ数年、新車の平均燃費はかえって悪化してきている。

*紙パルプ業界のパルプ廃液使用
かつて、日本の紙パルプ産業は、海のヘドロの原因となるパルプ廃液を流す公害企業として、また石油多消費産業として問題視されてきた。しかし、公害対策とエネルギー対策を兼ねてパルプ廃液(黒液)を燃料に利用することで、公害防止を図ると同時に、燃料コスト削減との同時達成を果たした。今日でも紙パルプ産業はエネルギー多消費だが、その4分の1程度をパルプ廃液の燃焼で賄っている。

*川崎市の共同輸送
日本では運輸部門はエネルギー、CO2排出の20%程度を占め、その90%が自動車である。トラック輸送はその約半分を占める。トラックの積載効率は短距離輸送ではよくなく、特に都市内短距離輸送の多い自家用トラックでは積載率が3割程度しかないとのデータもある。製造業ではカンバン方式(工場に在庫を持たずに時刻指定で下請け企業等に搬入させる方式で、トラック走行量は増加する)、流通ではコンビニエンスストア(倉庫があっても小さいため、1日に何度も搬入するため、トラック走行量は増加する)の増加により、小口輸送が増加し、積載効率は低下している。
大気汚染公害に悩む川崎市は、トラックの交通量を減らすため、個々のトラックが少ない積載量で別々に走るのではなく、共同輸送で効率化する実験を行い、トラックの走行量を3分の1に減らし、二酸化炭素排出量を半減、窒素酸化物排出量を7?8割カットすることに成功した。
このシステムは福岡市の中心部・天神地区では既に実施されて効果をあげている他、全国各地で検討され、運輸のうち貨物輸送の対策として注目されている。

●自然エネルギーの可能性
化石燃料や原子力にかわり、太陽光発電、風力発電などの自然エネルギーによる電力、太陽熱利用、バイオガス、温度差利用などの熱利用が注目されている。これらのエネルギー源は量的にはそれなりに確保され、また技術的にも確立しているものの、現状ではコスト高なので普及はなかなか進んでいない。普及のためにはそれを支援する制度が必要である。日本でも太陽光発電を中心に補助政策や技術開発がなされているが、自然エネルギーは現在一次エネルギー供給の1%未満しか供給できていない。以下に先進例として2つを取り上げ、日本の今後の可能性を探りたい。

*デンマークの例:エネルギー政策に温暖化防止・自然エネルギー普及を取り込んだ例
北欧のデンマークは人口500万人、EU内では酪農国として知られる。この国は風力発電を1970年代から政策的に普及し、今や国内電力供給の8%を占めるだけでなく、今後も急成長が期待される風力発電機の国際市場を席巻し、大輸出産業にする発展をとげている。
この国のエネルギー政策は、地球温暖化防止を中心に据えていることで知られている。原子力発電のないこの国は、2010年までに1990年比で温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減するEU内の割当を達成するため、省エネと共に、風力をはじめとする自然エネルギーの大規模な導入に取り組んでいる。2030年までにバイオマス、風力など、自然エネルギーの割合を3分の1にすることを掲げる大胆な目標を出している。
なお、デンマークはノルウェー、スウェーデンと電力の相互協定を行っており、ここ数年ノルウェーとスウェーデンの降雨が少ないため水力発電の発電量が少ないため、デンマークの火力発電所を稼働して電力供給をしている・このためにデンマークのCO2排出量は90年比で10%も増え、他の分野の努力にも関わらず成績はあまりよくない。

*ドイツのアーヘン市の例:太陽光電力を電気料金の10倍で買い取り
ドイツは連邦政府も太陽光や風力への支援を行っているが、自治体の中に独自に普及策を実施しているところがある。支援には大きく分けて設置の時の補助制度、設置後に発電した電力を高く買い取る制度の2つがある。このうち、日本にない電力買い取り制度に取り組む自治体を紹介する。
ケルンから西へ60km、ルール地方をかかえるノルトライン・ウェストファーレン州の中でもベルギー・オランダ国境に近い工業都市アーヘン市は、太陽光発電からの電力を通常の電力料金の10倍で、風力は1.2倍で買い取ることを条例化し、太陽光や風力発電を導入した企業や市民が確実にもとがとれるようにした。この分のコストは電気料金を値上げし、
広く負担することにしている。この制度は「アーヘンモデル」として普及のためのモデルとなっている。
アーヘン市の例は決して特殊な例ではなく、ドイツでは他にも自治体が独自に自然エネルギー普及策を行っている。その一つ、スイスのバーゼルから北へ60km、ドイツ南西部に位置するバーデン・ビュルテンベルク州の中でもフランス・スイス国境に近い大学都市フライブルク市は、電力需要の多い昼間と、夜間との電力買い取り価格に差を付け、昼間に発電量の多い太陽光発電を支援している。

★まとめ――日本国内のエネルギー対策

日本は、地球温暖化防止のため、京都議定書で2010年までに温室効果ガス排出量を1990年レベルより6%削減することを義務づけられている。しかし、1996年の排出量は1990年比で9.8%も増えてしまい、1990年以降「地球温暖化防止行動計画」に取り組んでいるはずが、成果はまだ出ていない(環境NGOは、「地球温暖化防止行動計画関連施策」の8割は道路建設で、効果のある施策は少なく新しい施策もないので削減できていないのは当たり前だと批判(市民フォーラム2001地球温暖化研究会)している)。
地球温暖化防止や資源制約等の科学の要請から、化石燃料消費は今後も大幅に削減されなければならない。国際条約で決まってから、EUなど欧米諸国で厳しい基準が決まってから、あるいは中東等の新しい政治危機で石油の値段か上がってからばたばたと対応するのでなく、将来を先取りした各種対応が期待される。その際には企業や市民が個々に良心に従って対応するというよりは、政策的に、そうした選択が得になるように、あるいはどういう選択が地球温暖化防止・大気汚染防止・資源節約になるかがわかるように、支援していくことが必要であろうし、そうした政策手法は先進事例として経験が積まれているのも心強い。

地球温暖化は「良性の危機」と言われ、軍事的対応などと全く異なり、やりすぎても環境保全とエネルギーコストの削減が図られて「後悔」しなくてすむ。その意味でも今後の効果的な対策が期待される。

 

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