川崎市多摩区 地域住民と協働で取り組んでいる健康づくり

投稿者: | 2017年2月18日


市民科学研究室 「健康まちづくり」ヒアリング報告02

川崎市多摩区 地域住民と協働で取り組んでいる健康づくり(体操・ウオーキング)

川崎市多摩区役所保健福祉センター 
地域支援担当 池上洋未さん

川崎市多摩区では身近な場所で、誰でも実施できる体操をしたいというニーズが高まり、平成18年に多摩区運動普及推進員を中心とするボランティアと行政の協働で、健康運動指導士の助言を受けながら体操を考え作られました。それが、公園でストレッチや筋力アップを目指した運動を行う、「多摩区みんなの公園体操」と、室内で立ったり座ったり寝転びながら全身をストレッチする「多摩区いきいき体操」です。昨年で開始から10年が経過し、無料で且つ歩いていける距離の公園や、老人いこいの家、町内会館、集会所などで行われています。また平成19年には体操に加え、有酸素運動であるウォーキングを取り入れ「多摩区健康ウオーク体験教室」を開始し、これら3つの柱で健康づくりが推進されています。

それぞれの運動はボランティアが中心となって日々の運営がされています。行政の役割はこれらの活動を住民に知っていただくこと、地域で活動を広めたい方を支援するためにボランティア養成講座を実施し、運動やボランティア論について学んでいただくこと、ラジカセなど立ち上げに必要な物品を貸与することの3点です。立ち上げの際は保健師が相談に乗ったり、近隣のボランティアが手伝いをしたり、軌道に乗るまで行政・ボランティアによる支援が得られ、新たに実施したいというニーズがあれば手軽に行えるようになっています。

公園体操・いきいき体操は区内58箇所で行われており、参加者数は最少2~3人、多いところでは50人とさまざまです。

体操終了後は、独自に踊りや歌などで交流されているようです。見学だけの方もいますが、言葉を交わし交流することで認知症予防や介護予防への効果を期待できます。また、参加者が欠席するとメンバーが心配になって家を訪ねるなど、地域住民による自発的な助け合い、支えあいにもつながっています。川崎市多摩区は人口が約20万人、そのうち高齢人口は約4万人。公園体操・いきいき体操にはのべ年間4万5千人が参加されています。参加人数は、高齢化によって参加できないなどで、減少している会場もありますが、新たな場所が増えているためほぼ並行推移しているようです。

「多摩区健康ウオーク体験教室」は当初1ヶ月に1度、保健師とボランティアである健康ウオーク推進委員が見所や歩きやすさなどを調べ設定したコースを歩くもので、行政が市政だよりで参加者を呼びかけていました。しかし、イベント的に行うのではなく、日常的に行える運動が大切であること、さらに平成28年4月からは地域包括ケアシステムの推進を図るにあたり、より身近な場所で自分自身の健康づくり(自助)とお互い支え合うこと(互助)で活動を継続できるよう、実施内容を見直しました。その結果、ボランティアが中心となって区内3地区で月5回、「地区ウオーク」として行われるようになり、運動する機会が増えています。また、地区ウオークは地域振興課等で行われるウォーキングイベントとは異なり、健康づくりと介護予防を目的として行われ、住民それぞれの目的に合わせて参加ができるようになっています。

地域の健康を支えるボランティアは60~70代のシニアを中心に、公園体操、いきいき体操、ウォーキングで延200名おり、それぞれの運動を日常的に行えるようになっています。これは多摩区でボランティアの育成に力を入れて取り組んだ成果でもありますが、もともと川崎市はボランティアや地域住民参加型の取り組みが盛んであったこと、さらに地域の健康を支える保健師が住民と一緒に子育てサロンや障害者の居場所づくりなどの地域保健活動に取り組み、根付かせる活動を行ってきた背景があり、住民それぞれができることを行う風土があったようです。

一方、多摩区では就業年齢が日中区外に働きに出てしまうことから、ボランティアだけでなく、生活習慣病予防等講座の参加者も高齢者中心となってしまうなど、若い世代の取り込みについて、悩まされているようです。その対策のひとつとして、年に1度行われる障害・高齢関係のボランティアが中心に行う健康フェスタを子育て祭りと同日開催し、子育て世代が健康フェスタにも顔を出して、興味を持っていただけるような工夫をしているそうです。

また、日中区内で生活しているシニア世代と子育て世代が、同じ自治会館を拠点としていてもそれぞれ異なる活動を行っているため、異世代が顔見知りになる機会が少ないことが地区診断等で判明しています。そこで、どの世代にも共通の関心である防災を糸口に世代を超えた近隣との関係作りを行うことを目的に取り組まれたのが、「防災ウォーキング」です。

防災ウォーキングは、子育てサロンを活用して企画されました。子育て世代には事前にサロンで講座を実施し、災害時の心得、地域とつながることの重要性について意識付け、当日は避難経路の確認、町会・自治会等の地域情報の紹介を行いました。シニア世代にはウオーキングボランティアを中心に、避難所までのウォーキングコースの下見等、当日の企画・準備を担ってもらいました。また、事前に子育て世代との顔の見える関係作りについて考えてもらう講演会を行ったうえで、実際に避難所までウォーキングをすることで、子どもたちと避難することの大変さを自然と気づいてもらえるきっかけとなっています。当日参加者は避難所エリアに住む母親18名、子ども20名、子育てボランティア3名、民選委員6名、ウオーキングボランティア3名、自治会長1名、自治会防災担当1名、こんにちは赤ちゃん訪問員1名と保健師で、一緒に歩き交流することで、顔がつながり、地域に愛着を抱ける機会となっています。

この取組を通して防災のみならず、母子で散歩している際に町会の方に声をかけてもらえるようになった等、子育てにおける孤独の解消や、シニア世代にいまどきの子育て事情について理解を深めてもらうことになりました。子育てサロンでの実施後、他の地域でも行いたいとの声があり、保育園の協力の下、違うエリアでも行われ、ニーズがあればこれからも他地域に波及させていくようです。

健康体操、防災ウォーキングなど多摩区の取り組みを通して、保健師が住民とともに目標とする地域の姿を確認し、人と団体をつなげる調整役となり、住民の主体的な活動へと展開していくことでお互いに支えあう地域づくりになっていくのではないかと思いました。

2017年1月19日ヒアリング実施
ヒアリングとまとめ:上田昌文+小林友依

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