浦安介護予防アカデミア・うらやす市民大学

投稿者: | 2017年2月20日


市民科学研究室 「健康まちづくり」ヒアリング報告06

浦安介護予防アカデミア・うらやす市民大学

浦安市 健康福祉部 猫実地域包括支援センター 所長 小川弘和さん
浦安市 健康福祉部 猫実地域包括支援センター 森林友佳子さん

千葉県浦安市は、現在人口160,000人のうち高齢者人口は27,000人。東京都心のベッドタウンとして、地方からの移住により人口が増え、第二のふるさととなるように分譲主体の住宅開発がされてきました。地方からの移住者が多いため、地域ごとに仲間づくりができる環境づくりを市が中心的に整備をしてきたのが特徴と言えます。老人クラブや自治会などの整備は市が支援し、現在クラブ団体は総数47のうち34か所で会館が整備され、自治会は総数で80を超えています。

昭和40年初期に行われた第一期埋立地区の高齢化率は高くなっており、それ以外の埋立地区も高齢化率が伸びつつあります。しかし、同じ時期に転入し、同じ時代に生きてきた人たちが多く、子育てや自治会活動を通して横のつながりが強く、地域の結束力が高いためか、介護予防の二次予防事業対象者に当てはまる方は少なく、健康寿命が延びています。そのことが、浦安市の、埋め立てではない古くからの地縁関係のある土地以外の地区で起こっています。介護予防や地域包括ケアの充実が結果として生きがいとつながり、人と人がつながるコミュニティが健康寿命の延伸に役立っているのです。高齢者が多いほど地域住民が元気である、という、他の地域とは異なった、興味深い地域特性を持った市です。

今回私たちが注目している、浦安市が市民協働ですすめている介護予防は、
①住民が介護予防の担い手としてかかわり、自らの介護予防、生きがい作りにつながる
②リーダー養成や協働事業を通して、市民による自発的な活動を後押しし、市民と市が二人三脚で介護予防事業を展開する
③市民も参加した定期的なネットワーク会議で、地域の情報や課題を共有し、具体的な解決策を検討している
の3点が特徴として挙げられるといえます。

このように浦安市が市民との協働を積極的にすすめてきた背景には、市政運営の基本的な指針となる平成20年「第二期基本計画」策定にあたり、市民と行政が意見を交わし、浦安市のこれからを検討する第二期基本計画策定浦安市民会議が浦安市市長の発案により平成18年度に設置されたことに遡ります。この計画はこれまでの行政計画だけでなく、市民と行政が協働してまちづくりに取り組む「自治体経営計画」を目指して策定されました。市民206名の参加を得て行われた市民会議では提言書がまとめられ、そこでポイントとなったのが「協働」でした。行政に任せるばかりでなく「自分たちができることは自分たちが役割を担いたい」という姿勢が提言書に見られますが、そこには、「この浦安市に住むことで心の張りや豊かさを感じる住みがいを得たい」という、この地に転入してきた人々の思いが反映されていると言えるのではないでしょうか。

また提言書に基づき、平成21年度に市役所に協働推進課が新設されました。市民と行政の協働のガイドラインを策定すると共に、協働の担い手を育成するために「うらやす市民大学」が開校されています。

第二期基本計画策定浦安市民会議が設置された頃、地域包括ケアの構築に向けて動きがあり、市直営の地域包括支援センターが開設され、最期まで安心して過ごせる地域作りや介護予防など保健師の働きに期待が寄せられていました。しかし介護予防の取り組みを地域に展開したいが市職員だけで担うには限界がありました。そこで、地域包括ケアの構築のために何が課題で何から取り組めばよいのかという点について、関係者間の認識共有を行うことから始めました。

アドバイザーの意見や市民の意見を聞くなかで、高齢者が継続的な介護予防の活動ができるシステムが必要であり、介護予防を担う市民を養成し、市と市民とのつながりを強め、介護予防のネットワークを広げていくことが大切だ、ということがわかってきました。そこで、平成21年度から介護予防を担う市民を育てる「介護予防リーダー養成」が始まりました。現在介護予防リーダー養成講座は、うらやす市民大学の講座に位置付けられ、その中で開催されています。さらにリーダー養成講座を受講した受講生によって「浦安市介護予防アカデミア」が立ち上がり、介護予防活動がすすめてられていますが、アカデミア以外でも介護予防推進の担い手となる団体も立ち上がるようになっています。
                
活動発表の場として浦安市介護予防アカデミアが主催団体となり、「介護予防・認知症予防体験フェア」が平成23年度から実施されています。団体同士のつながりを強め、市民の介護予防についての認知度の向上させる機会となっていて、多数の市民が訪れるようになりました。

介護予防活動のシステム作りをしてきた保健師の現在の役割は、アカデミアや各団体を様々な側面から支援を行うことです。月に一度の定例会や講習会などに参加し、行政からの伝達事項を伝え、課題解決に向けたアドバイスなどを行うと同時に、行政側からも市民とコミュニケーションをとるようにしています。さらに活動継続のためには予算の確保が必要ですが、保健師が、市が実施している補助金制度へのつなぎも行いました。これは市民が提案した事業内容に対して市が予算をつける「協働事業提案制度」を活用しています。そのほか、計画の進捗状況の確認、中間ヒアリング、振り返りの中で来年度の展開についても意見交換などをし、物と心の両面でバックアップをしています。

介護予防リーダー養成第1期生は後期高齢者になり、後継者対策が必要となっています。その対策として「アカデミア塾」(H28年度開講)が設置されました。アカデミアを立ち上げた思いや活動のノウハウを継承し、継続的に市と協働関係をつくり、市民が自主的に活動が行えるようになっています。

また、コミュニケーション作りのため、地域包括ケアの実現を目指す市民、関係機関、行政がそれぞれの立場で日頃感じている考えや情報を持ちより、設定されたテーマについて同じ立ち位置で話し合い、役割を確認しつつ補完し合う場を目指して、「地域包括ケア評価会議」を設置しています。これにより、双方の考えを擦り合わせ、情報交換など、密に話し合える場が持てるようになっています。

うらやす市民大学では、協働事業の担い手の養成を行っています。自主グループが立ち上がっていますが、そのことは担い手自身の介護予防、生き甲斐作りにもなると同時に、行政では考えつかないようなアイディアや、行政からはなかなか見えない地域の情報の吸い上げができるようになっています。

うらやす市民大学の講座の内容は、介護予防リーダー養成講座のほかにも、防災、環境、高齢社会等をテーマとしています。事務局には市の職員もいますが、学生会の住民の意見にもとづいて、講座の講師を選んだりしています。授業は、受講生と講師の対話型授業が中心で、知識・技術の取得だけでなく、一緒に考え学びあい、教えあうようにしているのが特徴です。授業科目は「出会い」「気づき」「担い」の科目群で構成され、「担い」の講座が、住民が学んだことを伝えていく講座となっています。

これら浦安市の事例から、市民と協働を成功に導くには、
①市民に対して地域の現状や行政の考えを伝え、率直な意見交換を行う機会を設ける
②市民と行政の間にアドバイザーを置くなど、話し合いや連携が進みやすくなる方法を探る
③人材を育てっぱなしにしないため、養成の狙いと活動のイメージをあらかじめ想定する
④協働提案事業や助成金制度など、介護に限らずまちづくり全体にかかわる仕組みを活用する
の4点が大切であることが見えてきました。

2017年2月2日ヒアリング実施
ヒアリングとまとめ:上田昌文+小林友依

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