【翻訳者からのメッセージ】
脂肪酸ナトリウムのような炭化水素鎖のついた化合物は水や油の中で分子集合体を形成することはよく知られています。炭化水素鎖のかわりに炭化フッ素鎖にしますと、界面活性がさらに高まり、様々な集合体を形成して機能性に富んだ性質を示します。そのためコロイド界面化学の分野では大変注目を集めてきました。現在では、撥水剤、消火器、航空機関係にまで用途が広がっています。身近にはフライパンの表面にも焦げ付きを防ぐためにコーティング剤として汎用されています。ところがこのような自然界にない機能性に優れたフッ素化化合物が生活の中に入り込んできますと、深刻な健康被害の可能性が懸念されるようになります。本論文はペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその類縁化合物のハザードとリスクについて、国連環境計画や米国環境保護庁を中心とした取り組みを紹介しています。
ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、その塩およびPFOA類縁物質に関係するハザードとリスク
GreenFacts 掲載論文より
翻訳:五島廉輔、五島綾子、上田昌文
原題:Hazards and risk associated to Perfluorooctanoic acid (PFOA), its salts and PFOA-related substances
PFOAとは?
1)PFOA(ペンタデカフルオロオクタン酸)とその塩、およびPFOA類縁化合物はペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFASs)の族に含まれます。PFASsは水素原子がフッ素原子によって完全に(ペルフッ素化)または部分的に(ポリフッ素化)置換された種々の長さの炭素鎖からなっています。
2)炭素とフッ素の間は非常に安定した結合でつながっていますので、切断するには高エネルギーが必要です。そのため、PFOAのようなペルフッ素化酸は環境中では分解しないのです。ある種のポリフッ素化物質は環境下でPFOAのような残留性のあるペルフッ素化物質に分解されますので、PFOAの前駆体となります。これらのPFASsは環境中でPOFAに分解されますので、PFOA類縁物質に属するとされています。
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(2016)1のための国連環境計画(UNEP)レポートではリスク特性を明らかにする目的で、構造的要素の一つとして直鎖または分岐鎖のペルフルオロへプチル基をもつ物質(塩およびポリマーを含む)を含めて、PFOA類縁化合物はPFOAに分解する物質としています。
PFOAの使用の現在の状況とその動向は?
3)PFOAとPFOA類縁物質の利用は普及しており、これらの物質を含んだ消費者用製品や合成品は欧州連合加盟国や世界中で上市(市場に出されていること)されています。
4)フッ素化エラストマー(ゴム状弾性物質)3)やフッ素化ポリマーの製造において加工助剤として使用される重要なフッ素化ポリマーであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とともに、PFOAとその塩は最も広く使用されています。PFOA類縁物質は、界面活性剤として側鎖型フッ素化ポリマーの製造に用いられています。PFOAとその関連する非重合性界面活性剤はそれら界面活性の性質により、例えば、泡消火剤、湿潤剤および洗浄剤として使われています。側鎖型フッ素化ポリマーは耐久性のある防水性、撥油性、防汚性があり、織物と衣類、皮、紙と厚紙、塗料とラッカー、およびその他の用途(不織布性医療用衣服、床ワックス、石製/木製用シーラント、シールテープとシールペースト、接着剤、既製服)の表面仕上げ材として使用されています。
5)一部の生産者または利用者による以前の取り締まるための規制基準と任意の取り組みに関連して、これらの物質の利用が年を経て徐々に減少していることが観察されており、環境放出量の妥当な推定値は近年おおよそ年数トンのオーダーです。しかし、PFOA類縁物質は多量に使用されており、これはPFOAそれ自身の使用量より数桁多く、それ故に憂慮すべきことです。PFOAの環境全体への負荷に対するPOFA類縁物質の重要性についての評価には、環境中でPOFAに変換すると思われる親物質の比率(%またはモル%の収率)と、この変換がどのくらいの速度で起こっているかについての情報(例えば、数か月、数年または数十年を経て)の両者が必要です。
6)特に、ペルおよびポリフルオロアルキル物質の製造工業の主な8つの会社は2006年に米国環境保護庁(US-EPA)PFOA管理責任プログラム4)の2つの目標に直面しました。
・ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、PFOAに分解する前駆化学物質および関連する高度な類似化学物質のすべての生活環境への排出量と、これらの化学物質の製品含有量の両者において、2000年の基準から測定された値より95%の減少を2010年までに達成することを確約すること。
・2015年までに排出物と製品からこれらの化学物質の削除に向けて研究することを確約すること。
なぜPFOAと類縁製品を規制するのか?
7)PFOA、その塩およびPFOA類縁化合物はすでに多くの国の規制と北東大西洋の海洋環境保護のためのオスロ/パリ条約(OSPAR)の支配下にあります. 特にEUでは、PFOAはすでに分類、表示および包装(CLP)に関する規制(Regulation (EC) No 1272/2008)に含まれていました。
8)PFOAは以下の理由で非常に高い懸念物質として同定されています。
1.PFOAは“生殖毒性”としてE.U.規則のArticle 57©の基準を満たしている(category 1B);
2. PFOAは難分解性、生物蓄積性、有毒性(“PBT”)物質として、E.U. REACH規則5)の基準と規定を満たしている。
9)E.U.加盟国専門委員会のリスクアセスメント専門委員会(RAC)3はPFOAについて以下のように結論づけました。すべての分解結果はPFOAが実際に難分解性であり、適切な環境条件下ではいかなる非生物的または生物的分解を受けない。このレポートにしたがって、PFOAはまた水性動物種(すなわち水中呼吸)において蓄積する可能性のある程度の証拠がある一方で、PFOAとその塩は空気呼吸をする陸生生物や海洋性哺乳類で集積し、生物濃縮する証拠があります(BMFs, TMFs > 1) 。
10)PFOAは一般人の血中に約4年の半減期で存在することが見出されています。その上、PFOAはPBT物質ですから、曝露の安全レベルを確立することは不可能です。そのためにPFOAの排出は最小限にすべきなのです。
11)PFOAは環境中を長距離移動する潜在能力をもち、環境および人の中に偏在する高難溶性の物質であるという事実によってPFOAとその類縁物質の排出は超越境的な汚染問題となるのです。PFOAとその類縁物質はよく汎用され、これらの物質を含んでいる消費者用製品や合成品が上市されていますので、事実、広く分散しています。汚染された場所が示す証拠は一度生じた汚染のレベルを下げることが非常に困難であることを示しています。
12)国連環境計画(UNEP)レポートはPFOA、その塩およびPFOAに分解する類縁化合物が環境中を長距離移動する結果として、グローバルな活動が正当な根拠を与えているように人の健康および/または環境への重大で有害な影響に導くようであると結論づけたのです。
13)PFOA類縁物質の短期及び長期の両方において環境と人のPFOA濃度を下げるのに役立つ、追加的な規制はたった一つしかありません。
14)提案された規定の目的はまだ使用中(および代用品が技術的に実現できないために使用中)の製品のみならず、提案書中のしきい値以下のPFOAとその類縁の不純物の存在による残存源とともに、PFOAとその類縁物質のすべての国際的使用を停止することです。
15)EUリスクアセスメント委員会(RAC)はEU外でどの程度のPFOAとその類縁物質の使用がEU内での汚染に寄与しているか算定できませんが、ヨーロッパへの長距離輸送を減らすことを要求されるかもしれないと認識していました。それ故に、いかなる国の規制活動も単独で、適切にPFOAおよびその類縁物質の排出を最小にはできません。結果として、リスク管理活動がEUの広い地域で要望されています。
16)すべての排出源を包含する規定は、PFOAとその類縁物質の排出を効果的に減らすことができる最も適切なEUの広幅な基準であると考えられます。