記念講演:市民科学の取り組みからみたSTSの10の課題

投稿者: | 2017年12月17日


科学技術社会論学会第16回年次研究大会
2017年度科学技術社会論・柿内賢信記念賞 特別賞受賞記念講演
市民科学の取り組みからみたSTSの10の課題

講演者:上田昌文(NPO法人市民科学研究室)

2017年11月25日(土)九州大学病院キャンパス コラボステーションⅠ 2F視聴覚ホール

▶本稿は、科学技術社会論学会編『科学技術社会論研究』第15号(玉川大学出版部、2018年刊行予定)に掲載される原稿から、科学技術社会論学会編集委員会の許可を得て転載したものです。なお、写真は柿内賢信記念賞の他の2名の受賞者の方々と、倶進会の勝見允行理事長、STS学会の柴田清会長、夏目賢一柿内賞選考委員長とご一緒に写したもので、大会実行委員会の小林俊哉氏(九州大学)にご提供いただきました。

はじめに

特別賞をお与えくださいまして本当にありがとうございます。「市民科学の取り組みからみた10の課題」と題しましたが、私たちが「市民による市民のための市民が創る科学」とは何だろうか、それはいかなる意味で必要か、あるいは本当にそういうことができるのだろうか、ということをいつも念頭に置きながら活動してきて―実際に手がけているのは多少幅広いといえども本当に数分野なのですが―その中で気付いたことを皆さんへの問題提起として、まとめてお話したいと思います。

1. 「志縁」の組織化と政治的課題の「カスタマイズ」

20年もやっていると私たちの所にいろいろな人が集まることになります。都会にいる人の大きな特徴として、地縁、血縁がどんどん薄れてきて、「職縁」(職業上のつながり)しかない、ということがありますが、そういう中で「職縁」を超えて、いわば志を同じくする人が集まり、その「志縁」で結ばれることの楽しさを共有することができる場があるかどうかが、問題になります。そうした場の一つに、私たちのNPOはなっていると言えます。これは非常に大きな意味のあることで、市民科学研究室(市民研)の力の源泉は多分そこにあると思います。市民研に関わる人は、「市民科学」というのは何となくの漠然とした言葉ではあるのだけれども、その「市民科学」のアプローチに興味を持って期待してくれている人たちの集合だと言えます。組織としてみると、お金は本当に微々たるもので、専従は私一人です。事務局にはお金を払っていますが、他のスタッフや研究会のメンバーにはボランティアで参加してもらっています(研究費と、あと自己申告すれば交通費は支給します)。

例えばどういう支援をいただいて成り立っているかというと、まずは会員が2種類あり、1万円のレイチェル会員と3000円のダーウィン会員です。レイチェル会員の比重が結構高いのが特徴です。それから、時々有志から高額のカンパが来ます。例えば1カ月前に事務所の引っ越しをしたので大変お金がかかって困ったのですが、何とか集まらないかと思ってお願いをしたら30万円のカンパが集まったということがあります。
活動と発信の場として持っているのが、誰でも参加できる「市民科学講座」、各種の調査をすすめるいくつかの「研究会」、そして隔月で発行する機関誌『市民研通信』、そして会員のほぼ全員が入っているメーリングリストなどです。市民科学講座は今まで大小含めて400回近く(年に10回程度)やってきたのですが、科学と一見関係のないようなテーマもいろいろ入れています(表1)。自前の発表(Cコース)が結構多いのが特徴です。

表1 市民科学講座の開催例(2011年、東日本大震災の年でみると)
1月8日 D「環境の仕事とは?~コンサルティングの仕事からみえるもの~」
2月20日 C「味噌づくり講座」
3月19日 C「『笹本文庫』の設立を祝う会」
4月29日 B「震災後の世界で何をするか ~科学コミュニケーションの役割を問う」
5月8日 B「三陸と東京湾の漁師町 大震災以前の姿から」
5月10日C「放射線リスクのとらえ方・減らし方~汚染の長期化をみすえ、妊婦と子どもへの対策を考える~」
5月29日B「震災発生時、コミュニティFMは情報を発信していた」
7月1日 A「大震災と水インフラ ~今後の防災・危機管理をみすえて~」
7月29日 C「とことん知ろう!セシウムのふるまい ~被曝の最小化、今後の汚染対策のために~」
9月20日 D「鉄ちゃん介護士の都市計画論 ―バリアフリーの意外な敵?」
10月22日D「薬に食べ物が悪さする?~高血圧の薬とグレープフルーツの相互作用~」
10月29日C「温泉地学と地震学 ~第1部:温泉および地震の話+第2部:大震災後の防災とエネルギー問題」
11月11日A「技術者からみたエネルギー有効利用の鍵 ~新しいエネルギーシステムを学ぼう!~」
12月11日C「子ども料理科学教室:土鍋で美味しくご飯を炊く秘訣」

形態はだんだん整理されてきて、外部の専門家を呼んでじっくり話を聞くいわゆる講演会(Aコース)、親しい研究者やライターや事業者らを呼んで私と対論する形で行う講座(Bコース)、自分たちの自前の発表(Cコース)、そして、事務所を使って飲み食いしながら本当にざっくばらんにわいわい騒ぐ談話の場(Dコース)に分けています(表2)。本当にいろいろな人を呼び込んで組んでいて、聴衆の皆さんの中にもお呼びした方がいらっしゃいます。開催後は全て記録に起こして、無償で皆さんに提供するという形を取っています。

表2 市民科学講座の形態
Aコース 外部講師(主として自然科学系の研究者)を招いて、特定のテーマで行う学術的な講演会
Bコース “科学と社会”をめぐって幅広いテーマをとりあげての、あるいはゲストの活動や言説に焦点をあてての、参加者と自由に語り合う講座
Cコース 市民科学研究室の各研究会が担う、研究発表もしくは様々な形でのイベント
Dコース 市民科学研究室事務室を使って軽食をとりながら、ゲストと少数の参加者との間で交わす気さくな談話の場

市民研には、環境電磁界、ナノテクと社会、食の総合科学、科学コミュニケーションツール、低線量被曝、生命操作・未来身体、住環境、科学のねじ曲げ(Bending Science)と、現在九つの研究会があります。ただ、一つ悩みとして、やはり東京中心というのが否めないのです。遠方の方にどうやって疎外感を持たずに参加してもらうかというのが大きな課題です。それを乗り越える手段としてメーリングリストもあるのですけれども、やり始めたばかりの制度として、会員にはいろいろな能力や蓄積を持った方がいるので、そういう方は地方に行って交流してもらう、お話をしてもらう、そのときの交通費は出しますということをやっています。それから、このような学会があると、集まってくる人の中に地元の人がいたりすることもあるので、そういうときに交流するというのもやっています。

私たちはジャンルや専門分野にとらわれずに相互にいろいろ意見交換をする中で、次のテーマを探し、議論しながら決めていくわけです。それと同時に専門家に頻繁にインタビューをします。このときに研究会のメンバー全部でやることもあるし、場合によってはインターンシップで来ている大学生を引き連れて行くこともあります。そういう中で自分たちなりの課題設定をして、小さくていいから、必ず何らかの解決を見出せるような研究の仕方をしていくこと―市民科学的に取り組める政治的課題のカスタマイズとでも言えるでしょうか―が特徴だと思います。

こういうことを繰り返していると分かってくるのが、じつはこの日本には市民科学的な活動に取り組める潜在的な能力を持った方が多いということです。ですから、そういう人たちが集まる魅力的な場を作れば、かなりいろいろなことが市民の力でできるのではないかと思うのです。

「志縁」で結ばれた素人中心の集団が―その中には専門性を離れた専門家も含むし、ボランティアとしてその専門性を発揮してもらう専門家も含みますが―STSの政治的課題を、自身で取り組み可能な形にカスタマイズし、実際に調査能力を鍛えつつ、一定の成果を出すようにすることは、そうした場をうまくしつらえさえすれば、もっと当たり前の活動になるのではないでしょうか。その可能性に注目してほしいのです。

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