2026年2月11日「NPOごんべのお宿」講演会 報告
デジタル機器から子どもを守るには
講師:上田昌文 (市民科学研究室)
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この記事は、「就学時健診を考える府中市民の会」が編集し、「埼玉県障害者団体定期刊行物協会」が発行している定期刊行物(通巻5742号、2026年3月4日発行)として、前田弘子さんがお書きになったものを一部修正して転載しました。転載をご快諾くださった前田さんに感謝申し上げるとともに、上記2月11日の講演会を企画してくださった「NPOごんべのお宿」の皆様にもお礼申し上げます。
<はじめに>
子どもたちを取り巻く環境はかつてとは大きく様変わり。今や外遊び、友達との身体を使った遊びは影を潜め、現役の親世代も、ゲームなどでスマホを繰っている。しかしそういう親世代の子どもたちの健康面や精神面に与えるリスクについては、学ぶ機会が少ない。学校では…子どもたちの間の関係は…と、今の親も急激に進化しているデジタル環境がもたらす影響は、自分たちも経験していないことからくる不安を抱えているのではないか。現状はどうなのか、科学的にどこまでわかっているのか、どう対処すべきか。デジタル機器がもたらす電磁波などの影響を長い間調査してきた市民科学研究室の上田昌文さんに、2月11日、標記の主催で開催された学習会でお話を聞いたことの報告です。
お話を要約していますが、日本と世界の潮流の違いを考えさせられます。また、日本ではずっと一貫して、経済界の要請が子どもの育つ方向性を決めてきたことは、前号(※)で掲載した池田賢市先生のレジュメにも指摘されていましたが、GIGAスクールで一斉にタブレットが現場に押し付けられたことも、日本の教育の在り方を象徴しているように思いました。不登校や子どもたちの自殺が年々増加しているという、この異常事態を、異常としない、教育の在り方も変えないというのはあまりに無責任といえます。
変えるべきは教育そのものではないかと、就健の会は長年訴えてきたのですが、今回の学習会で、もしかしたら、不登校や自殺の原因の一端に、インターネットによる要因もあるのだと思いいたります。日本が一番出遅れていると上田さんが強調するこの問題も、地域で声を上げるところからしか、子どもたちの将来は開けないと思いました。
(まとめ 前田 弘子)
※冒頭に述べた定期刊行物のこと(通巻5741号)
スマホ依存の現状
いまの親世代は、次々に出てくるデジタルテクノロジーに関して、素早く身につけて使えるようになることは期待できず、技術に翻弄されているが、子どもはどんどん使えるようになる。特に思春期の小学校高学年から中学生というのは冒険をしたい、新しい世界に飛び込みたいという特有の感覚から、ネット空間がすさまじく無限大に思え、抑制、コントロールが効かない状況も抱えてしまう。しかし、ネット空間に没入すればするほど、他人とのやり取りが絶え間なく自分に返ってきて、自分の評価はどんどん下がる…という状況の悪化から、抑うつ状態になり、また別のスマホの世界に逃げ込む。この繰り返しがスマホ依存から抜け出せないことになってしまうと理解しておいてほしい。
まさにそこから抜け出せないように、アプリやコンテンツを提供している側は、アルゴリズム・プログラムを日々研究して、作っている。それに対し、子どもたちが精神的破滅につながるような依存性の高いアルゴリズムに平気でさらすことは良くないと、子どもたちが生きていくために必要なことを政策的に示そうと、ここ数年ヨーロッパのいくつかの国が先導して、SNS禁止の方針が出てきている。
日本の現状はどうか。スマホは小学生で7割、中学生で9割、高校生はほぼ全員自分専用のスマホを持っている。少数だが自分専用を2歳、3歳でも持っていたりする。利用は、ほとんどの子どもがまず動画、次がゲーム、次が宿題の調べものとなっている。
1日3時間以上インターネットに時間を費やす割合を1歳から17歳まで調べたデータでは、なんと1歳の子もいたりする。割合はだんだん増加して、高校2年くらいになると80%を超える割合で3時間以上となり、中には7時間という人が20数%もいる(「令和6年度 青少年のインターネット利用環境実態調査結界(速報)」令和7年2月 こども家庭庁)。寝る前にスマホを見るか、という統計もあって、10年も前のアンケートでもすでに、20代の女性の33%は見ていると答えていて、それが睡眠の妨げになっていると答えているが、やめられないのが現状だ(「社会実状データ図録」より「図録▽一生の間に大きく移り変わる女性の睡眠の阻害原因」:厚労省のアンケートは2015年実施)。
依存症に踏み込んだ統計でみると、スマホのない環境では不安を感じるという人が8割(Job総研「2024年スマホ依存の実態調査」)。こういう、長時間スマホを触ることからくる子どもへの影響については、小児保健の関係者からすでに指摘されている。学業成績の低下はほぼいえること。他人と比べることからくる自尊心の低下が、小児期からネットにずっと触れることで続いていく。成人してからの生活習慣病の発症との関連があることもわかっている。それから、ネットいじめ、思考力の低下など。文科省の統計ではインターネット依存が、中高生では全国で93万人、高校生の12%~16%ではないかとみているほどだ。

眼、精神面への影響
眼への影響も大きい。刺激の多い画面を長時間見ることで、確実に網膜の損傷はおこり、将来怖い状態につながっている。スマホの凝視で緊張した眼の筋肉の状態が続くことから内斜視が起こる、ものが2重に見えることが起きて、強制的にスマホを控えたら内斜視が緩和することで、はっきり原因がわかることもある。眼への影響を重大と受け止め、台湾では1日2時間は外で活動する時間を作ることを学校が導入しているし、中国では学校でのタブレットの使用を抑えようとしている。タブレットを教室で使うことでは電磁波曝露の問題もあるが、照明の光を反射して、座席によっては画面が見にくくなることも、眼への負担を大きくしている。
日本ではGIGAスクール構想のもとにタブレット導入したのだが、そういうことまでを考えた施策とはいえない。電磁波も、私が測定した小金井市の小学校が唯一の例となっている。学校は、測定し数値化することを嫌がるようで、過敏症の子に、席を移すなどの配慮をしているかどうか。あまり行なわれていないと考えている。
2020年から3年間のコロナの時期のアメリカの調査では、子どもがSNSに触れる平均時間が7分から73分に増加した。それと子どものうつ症状の増加が35%との相関があるのではといわれている。運動不足による肥満、情緒障がい、認知機能の低下などもデータがある。スクリーンをずーっと見続けている頻度が高いと、不安になる、抑うつ的になる、攻撃的になることとの相関がどうもありそうだと、米国で実施されているABCD(The Adolescent Brain Cognitive Development Study青年期脳認知発達研究)という大規模な広範囲の調査でわかってきている。大阪大学でも、頻繁な外遊びでスクリーンタイムを減らすことでいい影響があるという調査がある(「『外遊びが幼児期のデジタル視聴による神経発達への影響を弱める』可能性を世界で初めて明らかに」)。身体を動かすことは私たちが思っている以上に深い意味がありそうだ。
政策転換したスウェーデンなどや、SNS禁止の法律制定の各国の動き
IT先進国、デジタル機器導入では先進国だったスウェーデンはなんと2023年に、学校でそれまでに推進してきたタブレットを使っての教育をやめて、改めて国家予算を組んで紙を使うやリ方に戻している。6歳未満についてはデジタルでものを教えるのをやめることを推奨している。日本のGIGAスクールと全く逆転している話だ。文科省の役人に、GIGAスクールはスウエーデンと比べてこのままでいいのかと聞いてみてほしい。
SNSの法的規制で最初に動き始めたのはフランスだ。スマホの禁止ということで、15歳未満には授業中に使ってはならないということを徹底した。今年はもっと厳しく全国的な法律で規制しようとしている。
オーストラリアは16歳未満のSNS禁止を法律で世界に先んじて施行した国だ。スナップチャット、フェイスブック、ティックトック、インスタグラム、Xを含み、ユーチューブも議論の末ダメということになった。これが決まったからといってうまくいくとは限らないだろうし、子どもが自分の写真を親の写真と置き換えて認証を作るという抜け穴的なことはできるし、いろんな問題を抱えている。しかし社会全体がこういうことをやっていくのだという決心があることが大事だと思う。個人情報がそこから漏れていくリスクもあるので、技術的にうまくやれるかは難問だが、世界全体が注目している。
スペインも動いている。サンチェスという首相が結構過激で、「コードの陰に隠れて、技術は中立だと主張することはもはや許されない」と。要するに、グーグルとかの巨大企業に挑戦を突き付けている。
だいたい15歳、16歳まではSNSは基本的に禁止にしよう、見る時間を思いきり制限しようというのが世界的な潮流になっている。本格的に考える時期に来たのだということだ。
| 国/地域 | 最低利用年齢 or 禁止年齢 | 規制内容(概要) | 法律名・制度 | 施行・予定 |
| オーストラリア | 16歳未満禁止 | 16歳未満のSNS利用・アカウント保有を禁止。運営側の年齢確認義務&違反罰則 ※Social Media Minimum Age Act とも言う | Online Safety Amendment Act※ | 施行済(2025年12月10日) |
| スペイン | 16歳未満禁止 | 16歳未満のSNS利用禁止を法制化・実施。強い年齢確認措置も要求 | デジタル保護関連法案 | 議会審議中/可決手続き待ち |
| フランス | 15歳未満 (検討) | 保護者の同意義務 → 更に15歳未満禁止へ強化 | 検討中の法案 | 可決(下院)/上院審議中(2026年9月頃予定) |
| デンマーク | 15歳未満禁止(例外あり) | 15歳未満禁止。ただし13歳以上は保護者同意で例外可 | 立法検討 | 2026年中に施行目標 |
| マレーシア | 16歳未満禁止 | 施行年齢制限あり、年齢確認制度導入 | 政府方針発表 | 2026年から |
| ドイツ | 13〜16 (親同意) | 13〜16歳は親同意必要、禁⽌策の検討も進む | 親同意制度 | 検討中(報告〜2026年) |
| イタリア | 14歳未満 (親同意) | 14歳未満は親の同意必須 | 現行制度 | 施行済 |
| ノルウェー | 13→15引き上げ提案 | 親同意併存の上で最低年齢を15に引き上げ | 提案段階 | 提案中 |
| EU (欧州議会) | 16(案) | 16歳未満禁止案(13歳〜16歳は親同意可) | 非拘束の提案 | 採択済(方向性) |
| アメリカ | 13未満・州ごと | 13歳未満は保護者同意、州規制は差し止め例あり | COPPAほか | 州ごとの対応で混在 |
| 中国 | 18歳未満時間制限 | SNS含むスマホ利用時間制限(例:1日2時間) | 行政規制 | 施行済 (過去から) |
比べて日本はどうか。SNSの最低年齢には一切明文化はない。国によるSNS使用禁止にも言及していない。親の同意義務もあくまでSNSを運営している企業の自主対応で、強制力はない。いかに緩やかな環境にあるかがわかる。
しかし日本でも各国が進んでいるからなのか、2026年の今年、子ども家庭庁で作業部会が設けられ、SNS自体をどうするか、ネットのトラブルをどう回避するかということで、新しい法制化がどこまでできるかの議論が進行中だ。この動きで、プラットフォーム提供側の企業によって非常にあいまい、緩やかなものになりそうなら突き上げていかなくてはいけない。どこまで今年いけるのか、審議に注目したい。
人間と技術、環境、民主主義…
今IT技術、デジタルテクノロジーは、人間社会を大きく変えようとしている。私たちは今までの機械や技術との付き合い方とは違う、新たな認識を持たなくてはいけないところに来ているといえる。
まず、人間はテクノロジーにハッキングされる生き物なのだということ。あたかも自分が使っているように見えて、使われている、飲み込まれているということだ。
それから、SNSは欲望、不安、憎悪というネガティブな感情、行動をあおり、とめどなく膨らませるリスクがある。これを提供している企業は、それは「ユーザーの自己責任だ」と言うが、あまりにも無責任だ。企業は儲けるためだったら何でもやるという姿勢を裏に持っていて、日々そこにのめりこませるテクノロジーを開発し続けている。こういうものを動かしている企業の責任を問うていかなくてはいけない。そして表現の自由の名のもとに、選挙のときでもそうだけれど、非常に偏狭で差別的な表現がSNSにポンポンのっかる。AIだったらカムフラージュしてフェイクを作っての乗っけるなどというプラットフォームが維持されているということが、民主主義だから当たり前だという発想があるかもしれないが、大間違いだ。 それこそ民主主義を汚すもの、壊していくものだ。世界で、本当に巨大な世界の資産の大部分といっていいくらいを握っている巨大IT企業の人たちはデータセンターを動かし、電力はくう、環境の水はくう、私たちの脳もハッキングしかねない。そういうことをもっと認識しなくてはいけない。
たとえばアテンションエコノミーという、「いいね!」が欲しい、ほかの人から見てもらっていることで成り立つ商売がある。動画を作ってユーチューブにのっけて、何十万何百万人に見てもらえば、それだけで月何十万ものお金が入るような商売なんて、昔はなかった。それを若い人がなんてすばらしい、楽ないい生き方だと考えている。しかし世界はそういうものではないということを、もっと大人が伝えていけるかどうかだろう。20億人を超える人たちが、そういう技術に飲み込まれているのだ。
GIGAスクールの効果は非常に疑わしい。学校の先生にも無用な負担を押し付けている。我が家ではタブレットなんかいりません、うちの子はなくても大丈夫と自信を持ってほしい。
私は環境を過度に人工化してはいけないと思っている。子どもだったら自由にどろんこになって遊び、大声で叫べる空間が必要だ。これを失わせてしまった大人は罪が非常に重い。デジタルの話はその一部。皆さんがその思いを持って地域で声をどこまで上げられるか。声を上げることで社会を変えていっていただきたいと思っている。■
