「核不拡散問題の新たな潮流」 ~カーネギー平和財団報告案と2 0 0 4 年国際核不拡散会議から~

投稿者: | 2004年3月30日

ピースプレッジ・ジャパン(PPJ) 共同発起人・代表 鈴木達治郎
「核不拡散問題の新たな潮流」
~カーネギー平和財団報告案と2 0 0 4 年国際核不拡散会議から~
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 2 0 0 4 年6 月2 1 – 2 2 日の2 日間にわたり、今年もカーネギー平和財団主催の「国際核不拡散会議」が開催された。カーネギー平和財団の「国際核不拡散会議」は回を追うごとに拡大してきたが、今年は世界2 3 カ国から7 4 5 名もの参加者があった。特に、今回はカーネギー平和財団が自ら「普遍的な核不拡散遵守:核安全保障の戦略」(案)と題する政策提案書を発表し、それに基づく議論が大きなテーマであった。(http://www.ceip.org/files/projects/npp/resources/2004conference/report.htm)参照
カーネギー平和財団の提言案:新政権にむけて包括的戦略を
 カーネギー平和財団では、2 0 0 5 年に就任する新たな政権に向けての提案として、核安全保障に関する包括的な政策提案書(案)をまとめた。現時点ではまだドラフトであり、今回の会議や各分野からのフィードバックを反映して、1 1 月までに最終案をまとめる予定という。
 タイトルである「普遍的遵守(U n i v e r s a lC o m p l i a n c e )」には、重要な意味がある。米国を含む核保有国、原子力先進非核保有国、核開発能力を持ち供給国にもなりうる国など、すべての国に共通するあらたな「国際規範(global norm)」を目指すものとして、このタイトルを選んだ。目標は核拡散防止と核兵器の使用確率をゼロにすることである。5 項目にわたる提案をおこなっている。
(1) 新たな核保有国を作らせないこと(5 核保有国と、イスラエル、インド、パキスタンの8 カ国。これらは核保有国としての責任を負う国)。
(2) すべての核物質を厳重に管理すること(国際的な共通基準が必要、高濃縮ウランやプルトニウムの平和利用を最小限にすることなど)
(3) 非合法移転を防止すること(輸出管理の法制化、N S G ( 原子力供給国グループ) の拡大など)
(4) 核兵器の軍事的価値を減少させること(新核兵器開発の禁止、C T B T ( 包括的核実験防止条約) の遵守、誠実で確実な核軍縮の実施など)。
(5) 地域紛争・対立の解決にとりくむこと(中東、南アジア、北東アジアの地域対立を平和的に解決するよう外交手段をつくすこと)
 ブッシュ政権の新型小型核兵器開発には反対している一方、米国の核戦略として、「抑止に必要な最小限の核戦力の維持」を明確にしている点に対し、質問や批判が相次いだ。これに対し「現実的な核の安全保障政策として、これが妥当」との回答であった。また、イスラエル・インド・パキスタンを核保有国として認めるかのような提案に対しても質問がでた。これに対しては、「この3 カ国に対しても核を持つことの責任を負わせることのほうが、世界の核安全保障にとってはプラスであると判断した」。「特に、核物質の厳重な管理、技術移転規制などの面で、これら3 カ国に厳しい基準を守ってもらわなければならない。これは米国をはじめとする5 大国でも同じである。これが、『普遍的な遵守』の意味である」という回答であった。核兵器の需要側対策、すなわち安全保障の強化については、各地域ごとに取り組むことの必要性を強調していたが、北朝鮮やイラン問題で新たな提案はない。
基調講演などから:強調された「危機感」
 基調講演では、エルバラダイI A E A ( 国際原子力機関)事務総長、ブルックス米D O E ( エネルギー省) 核国家安全保障局長、ハンス・ブリックス元U N M O V I C ( 国連監視検証査察委員会事務局長) などが、イラク・イラン・北朝鮮問題を中心に、世界の核不拡散体制が危機に瀕していることを共通して強調した。
 ゲスト講演では、サム・ナン元上院議員(現核脅威イニシアティブ理事長)、エドワード・ケネディ上院議員などの講演が注目された。ともに、ブッシュ政権の核政策を厳しく批判した。
 各パラレルセッションでは、パキスタンの核闇市場ネットワーク、核不拡散体制の遵守・強化、イラン・北朝鮮問題等、専門家と政策官僚との間で活発な議論が行われた。特に興味深かったのは闇貿易の実態である。リビアの濃縮機器は、4 - 5 年以内に本格的な濃縮施設が完成できるのに十分な規模の機器であった。衝撃的であったのは、輸入の仕方が「ターンキー」ベースで施設完成できるようなものであったことだ。また、パキスタンから流れたとされる核兵器設計図は、非常に高度なもので、イランや北朝鮮のミサイルに搭載可能なサイズ(~ 5 0 0 k g )の小型核兵器のものであった。
 一方、パキスタンの政府や首脳レベルが関与していたという証拠はない。逆に言えば、どの政府になろうと、またこのようなネットワークが生まれる可能性があるということでもある。濃縮デザインで初期のもの(P 1 )は9 0 年代半ばにオランダから盗難されたとされる。改良型(P 2 )の機器の実証サンプルがパキスタンに残されていた。それがリビア、イラン、北朝鮮に流れた疑いがある。このネットワークがいかに高度なものか、ということを示す証拠として、マニュアルが含まれていること、部品製作の現場を復活できるような情報がふくまれていることであった。したがって、この情報を得た国は、比較的短期に核兵器の製造が可能となる。
 このようなネットワークが復活される可能性は消えていない。今後輸出管理の規制を強化することが必要だろう。具体的には、国際条約(t r e a t y o rc o n v e n t i o n )のようなものが必要で、そのなかで監査(monitoring)、検証(verification)が含まれていることが必要だ。
 パキスタン政府の調査の現状からすると、インドの核実験後から、何世代にもわたって作られてきたネットワークであると見られる。当時、パキスタンが核開発を行おうとすれば、密貿易に頼らざるを得なかった。それが、このようなネットワークを作成する契機となった。カーン・ネットワークがなければ、イランの核開発プログラムは実現していない。設計図やマニュアルなどが、すでに多くの国やテロリストに渡っている可能性も否定できない。そうであれば、これまで核兵器開発までに5 ~ 1 0 年かかると思われていたが、もっと早期に開発できるようになったと仮定しなければいけない。
平和利用への影響:兵器用核物質と機微技術への規制強化
 民生用原子力への影響として注目された提言は、兵器用核物質(W U M 、すなわち高濃縮ウランとプルトニウム)への国際規制強化である。カーネギー平和財団の報告書では、W U M を一次生産停止する、という提案が含まれていたが、「非現実的ではないか」との批判が会場で相次いだ。しかしながら、W U M への規制を強化するべきだ、という合意はできつつあり、将来の「利用撤退(フェーズアウト)」につながる可能性は否定できない。その場合、エルバラダイI A E A 事務総長も言及した「核拡散抵抗性を強めた燃料サイクル」をどう扱うかが議論の分かれ目になりそうだ。
 もう一点注目されたのが、「使用済み燃料・高レベル廃棄物国際貯蔵・処分構想」の動きである。「W U M の国際管理強化」という視点で議論されたが、エルバラダイI A E A 事務局長自らが「国際貯蔵・処分」構想を強く支持し、会議においても「燃料供給保証より、バックエンドのサービスを保証するほうが、産業界にとってはインセンティブになるのではないか」といった意見が相次いだ。この点で注目されるのが、エルバラダイ事務総長が6 月3 0 日にモスクワを訪れ、プーチン大統領、ロシア原子力省高官と「国際貯蔵・処分構想」で会談を持ったという報道である。会談の詳細はわからないが、エルバラダイ事務総長はブッシュ政権との会談でも、この構想を話題にしたことが報じられており、I A E A が積極的に動いている様子が見える。
 核燃料サイクル(濃縮・再処理)への規制強化については、現実的な問題が数多く存在するものの、バックエンドサービスの国際化については、より広い国際合意が得られる可能性が出てきたともいえる。原子力平和利用にとっても、核拡散防止の観点からも、メリットが多いとされる使用済み燃料国際貯蔵構想が、意外に早く実現するかもしれない。核テロリズムの脅威:現実のリスクとして対応を モントレー国際研究所が「核テロリズム:4つの側面」と題する報告書を公表。核テロリズムの具体的内容として次の4つを指摘した。
● 核兵器そのものの盗難・取得
● テロリストによる粗製核爆弾の製造
● 原子力施設への攻撃
● 放射性物質をもちいた爆弾(Radiological dispersal device:RDD)(いわゆる「汚い爆弾」)
 スタンフォード大学のM . M a y 教授によると、「いわゆる汚い爆弾は放射性物質を扱うことになるので、この爆弾でもある程度の高度な技術が必要である。被害としては、死傷者が多く出るわけではないが、経済的・心理的影響は大きい。」とのべ、汚染除去や避難の必要性が問題点と指摘した。放射性物質は世界に1千万キュリーも存在しており、毎年何千キュリーもの物質が紛失しているという統計がある。そのうち、3 -4 0 0 キュリーは米国内で紛失している。また5 0 0 キュリーほどが廃棄物として検出されている。こういった放射性物質の管理が重要であると強調された。
 元N R C ( 米国原子力規制委員会)委員長のM e s e r v e 博士は原子力施設への攻撃について検証した。重要なのは、「設計基礎脅威(design base threat: DBT)」とよばれる、想定脅威の条件である。9 ・1 1 以前はこのような条件を真剣に再検討することがなかった。現在、D B T の強化とともに、国際基準化が必要と考えている。最後にハーバード大学のGraham Allison 教授が「核テロリズムの脅威は現実であるが、予防することはできる」として、以下の提言を行った。
● 新たな核兵器国をつくらないーブッシュ政権の政策は米国外交政策最大の失敗。核軍縮の実現と外交努力で回避可能。
● あらたな兵器用核物質をなくすこと。N P T ( 核兵器不拡散条約) の抜け道となっている兵器用核物質の平和利用をフェーズアウトしていくこと。H E U( 高濃縮ウラン) はすぐに実現できるはず。H E U とP u ( プルトニウム) の生産禁止。そのかわり、燃料サービスの供給保証が必要。使用済み燃料の安全な貯蔵・管理、追加議定書も必要。
● 核兵器の価値を減少させていくこと。核拡散を非合法化すること。C T B T など、新たな核開発を非合法化する。
さいごに:科学者の役割を考える
 核不拡散問題は、イラン、北朝鮮などといった国家レベルの問題に加え、闇貿易ネットワークや核テロリズムという、非国家機関や個人レベルの問題までに広がってきているというのが、今回の会議から得られた最大の教訓である。国際機関や国家レベルの対応だけでは規制が困難になりつつある。闇貿易ネットワークでは、とくに科学者・技術者が個人として果たした役割が大きい。 私たちP P J は、核の脅威削減にむけて、まず科学者・技術者が自らの問題として、この問題を意識し、かつ積極的に取り組んでいくことを目指している。誓約への署名はその第一歩である。誓約活動を始めた1 9 9 9 年の時よりさらに、その重要性は増していると実感しているが、残念ながら署名者の数は増えていない。もう一度原点に戻って、科学者・技術者の一人一人に、話しかけていく努力を続けていきたい。 皆さんのご協力・ご支援をお願いします。        (PPJ HP: www.peacepledge.gr.jp)__

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