春の連続講座 「お金と楽しく付き合うために」
第4回 やっています! Happy Money / Happy Work
廃油再生プラント販売「ユーズ」(染谷商店) 染谷ゆみさん 講演記録
まとめ:森 元之
●高価だった廃油
染谷商店は墨田区の下町の工場地帯にあります。油のリサイクルをしている会社で、環境問題にかかわっているので新しい会社のように思われがちですが、染谷商店は創業が昭和24年で会社を祖父が作った。父親が二代目で私で3代目です。
テンプラ油のリサイクルは戦後資源のない日本では、廃油というよりはテンプラをあげたあとの天滓などを回収してそれを「搾油」と言って絞るんです。すると油が70%くらいとれる。現在でも回収するところは業務用ですけど「滓」というカテゴリーで回収してます。コロッケ屋さんなどから一斗缶でけっこう出るので、生ごみに出す人もいますが、廃油と滓と分けておいてくれる人もいますので、それを回収して油分を絞ります。
戦後の場合絞った滓を、せっけんの原料にしたり、近所に油の精製をする会社があって廃油を回収してまた食用にまわす加工をしている会社もあったそうです。父親が話してくれたところによると、廃油でさえお米と同じ価格だった時代がある。廃油の一斗缶とお米の一斗缶が同じ価値、ということですからすごい高価だったんですね。
●倒産の危機と回復
その後経済成長期に海外から安く買えたり、日本の経済状況がよくなると古い物を使うというよりはドンドン新しい物をやすく海外から買ってくるという事態になってくる。そしていまから15年ほど前(1985年)に油脂の関税制度が変わった。それまでは高かった税金が安くなった。廃油のリサイクルが成り立たなくなる。染谷商店も15、16年前に倒産の危機に見舞われた。近所のはらっぱを借りて一斗缶を山のように積んだ。私も当時高校生くらいでしたが、父親(以下先代社長と表記)も「これは困ったな」という感じで同業者の多くがつぶれていった。
しかし、その後少し回復する。というのもそれまではお米と同じくらい高価だった廃油ですから、レストランなどの業務用を引き取る時にはお金を払って買っていた。そしてそれを精製して転売していたが、売れなくなり余ってしまう事態になる。ところが業務用は量が多いので捨てづらい。そこで「お金を出すからもっていって」という状況になり資源回収という分野から廃棄物処理業に変化した。ですからその頃は油の回収のことを「買い出しに行く」と言っていた。私もこの仕事をして7、8年になるが名刺に「オイルバイヤー」と書いて「東京は大きい油田なんだ」と考えた。
そしていまは多少回収量が回復してきて、家畜の餌やせっけんの原料も一部ある。また大豆インクなども注目されていて、印刷物をする時のインクとして大豆油を使うという需要もあらたに出てきている。たとえばソニーやナショナルの欧米向け製品説明書などは大豆インクで印刷しないとダメな事態にもなっている。それらに新品の大豆油を使うと高いので廃油を使うということなどから廃油の用途としては多少の上向き状態にある。
●半年でVDFを開発
しかし染谷商店としては海外から安い油がはいってくるとまた廃油の需要が変わるが、リサイクルは出口・入り口のバランスが大事で、それがぴったりこないとだめ。
「買ってくれ買ってくれ」と言っても原料がなくてはいけないし、原料と言っても廃油つまり廃棄物ですから「出してくれ出してくれ」というわけにはいかない。そのバランスが大変なので新しい用途を開発したいと考えていた。
1992年、ミズーリ州で大豆油の廃油で車を走らせているという情報が入った。
そのころ廃油がだぶついていた時期だが先代社長が「じゃあ研究してみよう」ということになってやりはじめたら、結構とんとん拍子でできてしまった。1993年1月に研究をはじめ同じ年の6月頃にはVDF(Vegetable Diesel Fuel=植物油の軽油代替燃料)製品ができる。
できたので大学の研究機関にただで調べてもらった。
「これだったら走るだろう」と言われたがまだ不安だった。しかし先代社長が「先生がいいっていったんだから大丈夫だよ」と言って車に給油してしまった。とりあえずエンジンはかかった。千葉の方へ仕事に行くのにそのままいってしまった。そして2~3時間したら無事に帰ってきた。先代社長は「40年間免許書もっているけどこんなに興奮したのは久し振りだ」ということで喜んで帰ってきた。
近所の人達にも使ってもらっているうちにマスコミ報道でされ、さらに全国の人々から応援を受けて発展していった。時代の応援の風を受けて8年間続いている。
●リサイクルの輪の中にある仕事
先代社長さん曰く、「廃油から燃料ができたがそれでおしまいではない」と言い出した。VDFは軽油と同じような性能はあるが、一方で二酸化炭素や窒素酸化物がでるのも軽油と同じ。(ただし硫黄酸化物や黒煙は軽油より少ない)。「VDFのあとにCO2が出る。それを処理しなければ本当のリサイクルとは言えない」と言い出した。会社の理念として「生態系のリサイクル屋になろう」という思いにいたる。それ以前からも森林保護や砂漠緑化事業に興味があった。そして先代社長は「農業をやらなきゃいけない」と言い出して57才(現在63才)の時に農産高校(定時制)に入学。そして農業をやって畑からできた大豆で油をしぼって、それでテンプラを食べて、そこからエネルギーを得る、そして緑で二酸化炭素を吸収するというリサイクルの輪の中に会社を位置付けている。
有機農法でつくったお米を社員に食べさせたり、昨年「油屋」という飲み屋(昼は食事)を開いてそこでお米を提供したりしている。河原で作った枝豆を「油屋」のメニューに出したりしている。
事業は拡大し現在は染谷商店から・ユーズを分社化した。染谷商店は家族的な町工場でありつづけたい、地域の仕事場という感じのままいきたいという思いがある。一方社会的な期待やバブル崩壊後に環境問題に関心をもった若い人が参加したいと集まってきたが染谷商店の方向性では対応できない部分もあり、分社化して事業を拡張している。
●廃油と本と森の交換
家庭用の油の回収ルートがあまりない。「固めるテンプル」で固めたり新聞紙に染み込ませて捨てる家庭が多い現状。しかし廃油は全国で40万トン年間に出るが家庭用の廃油はその内20万トン(つまり業務用から出るのとほぼ同量)出ている。ナクドナルドなどのファストフードや三越などのデパート、ホテル、町のお弁当やさんなどの業務用は一斗缶で出てくるが家庭用はロットが小さい形で出てくるので回収ルートにのりにくい。
一方でそれ以前から付き合いのあった福島県の<たもかく>という会社がある。ここは古本と森林を交換する事業を行っている。<たもかく>がある福島県の只見地方は人が住めるのは1%くらいの土地であとは山林。農業といってもこれといって特徴のある産物がなく、木を切って木工をするくらいしか産業がない。しかしそこで山の木を切って産業を興すという方向ではなく、山を子孫に残したいという思いから、イギリスのナチュラル・トラスト的発想で古本と山林を交換するという事業を始めた。その結果、全国から本が送られてきて今100万冊の蔵書がある。そしてこれといった観光地でもないところに本好きの人が本を探しに全国から人があつまり活性化している。
本を送ると定価の10%で評価している。1000円の本を送ると100円の交換券がもらえる。森は一坪1670円で、交換券が1670円分たまれば森一坪と交換でき、また100万冊ある蔵書の中から好きな本を買うこともできる。これがまさしく地域マネーです。
そこと出会って「染谷さんのところは油屋だから、油と森を交換すれば」と言われたような気がする。それが企画になりまして「10回油を送っていただければ森一坪あげますキャンペーン」というのやった。これがすごくうけて、家庭の廃油だけだとなかなか集まらない。そこで<たもかく>と提携しているので本を送ってください(本も油も同じ扱い)ということにした。それがまたうけて2年間おわらずにキャンペーン期間がずーっと続いている。今でも毎日宅配便でダンボール箱が5~6個ずつ届いている。本が届くのがなくなったらやめようと思っているが皆さん関心が高くて、応援を受けていまだに続いている。そして届いた本は会社の一角に古本を売るスペースを作って売っている。
●元気な地域になるために
環境問題はグローバルな話だが、地域地域が元気じゃなかったら環境問題は解決しない、ということに気がついた。地域にいる人達が自分の町を愛する気持ちがなければ地域が強くならない。染谷商店は廃油回収をし、またその廃油の回収・精製のプラントをコンパクト化したものも今後販売してゆくが、ハード面だけでそのようなものができても、テンプラ油を出す時に環境問題に興味がなかったり、ごみを分別するのが面倒臭いという気持ちでは解決はすすまない。そこでネットワークを使った電子商店街をつくった。電子ネットワークのブームに乗るというよりはそれを道具として使いながら地域が活性化するといいな、と思っている。
最近は不況で物が売れないが、昔ながらの相対商売を復活させる必要性を感じている。だから電子商店街はデジタルとアナログの融合というコンセプトで共同配送をしたりしている。
電機屋さんが電球1個でもとどける。とどけるとそれを古いのと交換する作業もしてあげる、さらにそこで出た古い電球を回収してくるという前向きな商売のスタイルにしようとしている。価格の面では大手のスーパーにはかなわないけども、本来あった「御用聞き」的な側面がもう一度大事、そして町に密着しようという思いになっている。
共同配送というと大袈裟ですけど、墨田区という下町のネットワークを生かして、「(自社の用事で)行くついでだから(近隣の会社・お客の用事も)よっていってあげる」というその程度のこと。
たとえば、酒屋さんがお酒を届にいく。花屋も花を届ける必要がある。しかし酒を届けるお宅と花を届けるところが近所なら、酒屋さんが酒と花を一緒にもっていく。そして花屋さんは配達の手間が省ける。
油屋という飲み屋をしているが昼間は人手が足りない。一方近所にお鮨屋があるが、そこのおかみさんは昼が暇。「だから手伝いに行くよ。」という感じ。お鮨屋の刺身で期限がきてもう今日までしかたべられないという状態のものを安く油屋にもってきてもらってそれを使っている。(笑い)お互いにコストダウンになっている。そういう地域ネットワークを生かしながら盛り上がっている。
●地域マネーは面白い
地域マネーの話もでて、ユーズという地域通貨を作った。そして1ユーズ=10円という評価をしている。
このユーズを発行するのは、油の場合は10回送ってきたら1670円、本の場合は定価の10%で評価してユーズを発行している。このユーズで染谷商店のVDFを買えるか、本を買える、あるいは油屋で飲めるという交換条件にしている。最近油屋で飲むのが人気が出て少し困っている状態。これを土台に墨田(区)マネーを作りたいと構想している。ユーズは提携先でも使えるようになっている。
提携先と話をして発行の形態を悩んでいるが、10回利用してもらったら100円や200円のサービス券を発行するようにそれぞれのお店で出し、提携先同志のお店の中で使える様にする。そのメリットはお金が区外に出ないというのがいい。区内で経済循環が起こる。加盟店の中でお客さんが動き、これまで区外のお店を利用していた人達が墨田区で飲んだり買い物するようになる。
地域マネーはそのように使えれば面白いだろう。
◆◆ 質疑応答 ◆◆
Q.VDFには税金がかからないのですか?
A.VDFには税金はかかりません。税務署とも話しましたが、まず軽油税というのは課税の前提として道路を走る物すべてにかけるということになっている。だから自電車も対象になる。そこで自伝車を外すために炭化水素油つまり石油の燃料に対して課税するという条文がある。VDFは植物油ですから、法案の網をくぐった。しかし今後は課税の対象になるかもしれない。
VDF100%の物に限っては無税だが、いま軽油との混合の製品も作っている。軽油と混ぜても性能に問題はないが、税金面ではブレンドしたものに関しては税金をはらっている。
Q.匂いの問題はどうですか?
A.匂いはします。今日はエビ天の匂いかな、アジフライとかテンプラの匂いがします。軽油のトラックの匂いよりはいいかな、と思います。匂いは個人の感覚の問題ですから、排気筒から換気扇から出るような匂いがして違和感を感じる人もいる。
Q.油を送る時はどうすればいいのですか?
A.ペットボトルにいれて蓋をして送ってください。本当はもともとはいっていたサラダ油の容器がいい。漏れないように確認していただければOK.
Q.普通の油とラードを混ぜたり、植物油の種類をまぜてもいいのですか?
A.油脂(ラード)は固まる恐れがあるので燃料の方にはしない。植物油であれば種類(低カロリー油、オリーブ油など)が混ざっても問題ありません。
Q.廃油回収プラントを購入して採算は合うのか。
A.たとえばおでん種屋さんが自社で製品を作るときに出た廃油を回収業者に回すよりは、このプラントを使った方がいいでしょう。
染谷商店では、回収のコストは廃油を出す側に負担してもらっている。採算の合わせ方はいろいろあって難しい面もある。そこはマネジメント次第。
Q.ひどく汚れた廃油でもいいんでしょうか。
A.染谷商店は工場をもっているので、そのような物にも対応できる。むしろ真っ黒いもののほうがいい、という面もある。業務用の黒い廃油は畜産の飼料用油として利用している。また海外にも輸出しているが、その部門は価格が安いのでだぶついている。
家庭用に関しては出す人がその場で回収する方向がいいでしょう。
Q.固めるテンプルなどで固めた物を染谷さんのところに送ってもいいんですか?
A.いや、それはあまりよくないです。廃油を固める商品の原料は油脂で融点が高い。それはゴミとして出す油を新品の油で固めているようなものなので、もったいない。また固めてしまうと用途が限られるので液体のまま出してもらったほうがいい。