土曜講座・英国エコツアー報告 CAT(Centre for Alternative Technology)訪問記 (その1)

投稿者: | 2001年10月10日

重松真由美
pdf→doyou_ecology200110.pdf
●はじめに
武蔵野女子大の里深文彦さんの講演(湘南科学史懇話会にて)を聞いた薮さんたちから「エコツアーでぜひCATに行きたい」とCATについて説明を受けたことが、私が今回のイギリスエコツアーに参加することを決めたきっかけでした。CATがどんなところか説明を伺っているうちに、ツアーが授業期間と重なっていることや費用がかかることで悩んでいたことも吹っ切れ、CATのある種の魅力に引き込まれていたのです。
ちょうど70年代は、人々の間で環境問題に対する意識が高まっていた時期にあたります。そのまっただ中で、それまでの科学技術のあり方に疑問を持ち、とても高い理想を持った若者たちによって進められた「もう一つの技術」として提示されたAT運動が、イギリスではCATというセンターが創設され、そして25年以上も続いて存在していること、また、CATが今では環境NGOとして広く認知され、CATがイギリスの環境政策に非常に大きな影響を与えていることにとても興味を持ちました。CATがイギリスの環境運動にどのような影響を与えたのかとても関心を持ったのです。
ツアーに出かける前は、藪さん、瀬川さんの3人で里深さんの研究室で話を伺ったり、里深さんにいただいたCATのパンフレットやCATのHPを見てCATがどういうところなのか調べたり、CATについて書かれた論文を探していました。
私たちがコベントリーでお世話になった滝光子さん知則さんのお宅の2軒お隣に住んでいらっしゃるTedさんがツアーで運転手を引き受けてくださったこともあり、CATに訪れることができました。また、CATでガイドをお願いしたことで、実際のスタッフと話ができたことはとても貴重な体験となりました。本当にいろいろな人たちのおかげで充実したエコツアーに参加できたことをとても感謝しています。
CATの訪問について2回に分けて報告します。今回はCATがどういう場所なのか、施設や歴史について紹介します。次回はCATの設立のきっかけとなったAT運動やガイドをしてくださったPeterさんとの議論などについて述べたいと思います。
●CATとは?
Walesの中央部に位置するMachynlleth(マカンスレス)という街に、CAT(Centre for Alternative Technology)はあります。MachynllethはかつてのWalesの首都(1491年、数週間だけ)で、中世は商業都市として栄えた街だそうです。今回私たちが訪れたCATはこのMachynllethの駅から車で10分(距離にして3mile)ほどのところにありました。
Walesでは道路標識や案内板など例外なくWales語と英語が併記されています。CATの
入り口にあった看板にもどう読んだらよいのか分らないアルファベットが並んでいました。CATはWales語で「CANOLFAN Y DECHNOLEG AMGEN」と書くそうです。(CAT園内での展示や案内のほとんどは英語のみで書かれていました。)
前日宿泊していたFairborneのホテルから車で1時間半ほど走り、CATの駐車場に着くとLower Stationから大きな水しぶきの音が聞こえてきました。駐車場からCATに行く移動の実験として1991年に作られたCliff Railwayがおもりとして使った水を捨てるときの音です。Cliff Railwayは、14人乗りの2台のCliffが1本の太いロープでつながっていて、レールを伝って移動します。Upper Stationに到着したCliffに水を入れ、Lower Stationに到着したCliffの水を抜いて空にすれば、水の重さを動力源にして移動する事が出来るという仕組みです。もちろん電気や石油は使わないわけです。35°、200フィートの急斜面を1m/sの速さでかけ登るCliffの中から、Walesの山々を展望することが出来ます。
写真1:CATの入口 Lower Station
CATの歴史は、1973年に出版されたF・シューマッハの『スモール・イズ・ビューティフル』に影響を受けたGerard Morgan-Grenville(モーガングレンビル)氏が、1951年に閉山したスレートの採石場を借り受け、「もう一つの生活」を始めたことに始まります。この場所にはシューマッハの思想やPeter Herper氏が『ラジカルテクノロジー』で提唱したAT(Alternative Technology)に強い影響を受けた若者たちが集まり、ATを実践する生活を始めました。ある者は建築で、ある者は有機農業で、ある者は自然エネルギーで、…。当時の若者の理想は、成功または失敗をくり返しながらも徐々に定着していきます。現在では環境NGOとしても注目され、イギリス政府に政策提言も行なっているそうです。
現在のCATは設立当初の「熱狂的な理想主義者」にかわって「堅実な実用主義者」たちによって支えられています。CATに住み込んでいるスタッフだけでなくCAT周辺に住んで通っているスタッフもいます。
CATは創立当初から「再生可能なエネルギー」の開発、「環境教育」、ATを実践する「生活」の場、3つを柱にして活動しています。風力や水力、太陽光を利用したエネルギーの利用、有機農業、廃材を出さない建築法、コンポーネント技術などを開発しながら、実践しそして展示しています。CATに住むスタッフは、CATで得られたエネルギーや野菜などをもとに自給自足(に近い)の生活をしているそうです。
「環境教育」にも非常に熱心で、「エコキャビン」と呼ばれる研修コースがあり、実際にCATでの生活を体験することが出来ます。ほかにも、子ども向けのわかりやすい体験型の展示が多く、環境教育プログラムも充実しています。ガイドを頼むことも出来ます。実際、私たちが訪問した7月5日もバスに乗ってやってきた多くの子どもたちが、ワークシートを持って園内を見学していました。
●CATの7つのゾーン
Cliffに乗ってUpperStationに着くと、目の前に大きな池が見えます。Cliffの動力源となる水が蓄えられている池です。CATの園内は大きく7つのゾーンに分けて展示(及び実践)が行なわれています。広さは約16ヘクタール。時間にして1時間半から2時間ほどあれば十分に園内を回ることが出来ます(もちろんじっくり見ればもっと時間はかかりますが……)。
写真2:Upper Stationから見た池
簡単に、どのような施設(展示)があるのか紹介します。
(1)At Home(家で)
ここでは、わらや木を使った建築物の展示や郊外や都市の庭についての展示などがあります。れんがやセメントを使った建築物では、使用後にゴミが出て再利用できないと、木材やわらを利用した建物を提案しています。実際に、CATで開発された建設方法によって作られた建物もあります。展示では、童話「3匹のこぶた」は、こぶたたちはわら、木の枝、れんがを使った家を建てますが、わらと木の枝の家を作ったこぶたたちはオオカミに食べられてしまいますが、れんがの家を建てたこぶたはオオカミに家を壊されることなく無事暮らすことができたという話でしたが、このこぶたたちが建てた3つの家の内一番環境にやさしい理想的な家はわらの家であると説明しています。
実際に人が住んでいる(=実践している)ため、建物の中に入って見学することはできません。ここでも口蹄疫の影響なのか、わらを使った作りかけの建築物には「口蹄疫のために
完成できない」と書かれていました。
(2)Transport(輸送)
ここでは、廃棄処分となった輸送システム(トラックなど)の展示がされています。
(3)Behind the Scenes
ここでは、CATで作られ利用されているエネルギーと熱の流れが分かります。
Energy Control roomではどれだけの電気が発生しているのかが分かります。過剰に発生した電気は蓄電池に貯蔵されます。CATのコミュニティーでは、部屋の照明、テレビやラジオなどの消費電力の小さいものは自由に使えますが、消費電力の大きいものを使うときは連絡を取ってから使うようにしているそうです。CATで消費されるエネルギーの割合は、水力が4割、太陽光が0.5割、風力が2割で、残りがディーゼルになります。
木くずを燃やして得られたお湯や熱は、地下に埋め込まれたパイプを伝ってCATの建物に配給されるようになっています。
写真3:コントロールルーム
(4)Solar(太陽光)
ここでは、太陽光発電に関する展示が2つあります。太陽光パネルを使ってポンプの水を汲み上げる展示では、雲の形をした板をパネルの上に置いて太陽光を遮るとポンプが動かなくなることが体験できます。もう一つは屋根一面を太陽光パネルで覆われた建物です。1年間に9500キロワットアワーの電力を作り出すこの太陽光パネル群は、EUやイギリスの企業の支援によって実現できたものであり、イギリスでは最大級のものだそうです。この展示には太陽光パネルを屋根として利用する技術も用いられています。
写真4:ソーラーポンプ
(5)Gardens(庭)
ここでは、大きく3つの展示があります。いろいろな野菜を育てている温室、地下の様子が分かる展示、堆肥と土地の肥沃の関係の展示です。温室では、数多くの野菜とともに、”Taste me!”と書かれた札のある植物も植えられています。一口つまんで食べてみると……、確かにステーキの味が!?? CATではエコロジカルな害虫と雑草対策を考え、実践しているそうです。また、The Mole Holeのコーナーでは土の中の虫や動物の様子を知ることができます。土壌の展示では、堆肥された肥料を施した土とそうでない土で植物がどのように育つかの比較することが出来ます。堆肥を施した土の方が植物の育ちがよいことが一目で分かります。
写真5:The Mole Hole
(6)Waste & Recycling(ゴミとリサイクル)
紙やトイレットペーパー、新聞紙や木くずなどがどのようにコンポストされるのかを時間を追って比較することが出来ます。コンポストされた後は、CATのガーデンで肥料とし
て使われているそうです。また、最近開発されたという排泄物の90%を再利用するコンポストトイレも園内に数カ所ありました(体験しませんでしたが…)。
CATで飼育されている動物(豚、山羊、にわとりなど)の餌には、レストランなどで捨てられた生ゴミ(食べ残し)が使われています。子ども向けのリサイクルエリアでは、生活廃品をリサイクルしたりリユースして作られたおもちゃのコーナーがあり、さわって遊ぶことができます。
写真6:CAT記念写真
(7)Wind & Water Power(風力・水力)
このコーナーでは風力、水力をはじめ、波力、太陽熱が体験型出来るの展示があります。ふいごを使って波を起こし、波の上下運動からエネルギーを取り出す実験装置や黒や白のペンキでぬられたタイルがどれだけ太陽熱で暖められるかを体験できる装置があります。風力の展示では、CATのシンボルでもある多翼型の風車の振動を体験したり、実物大のはねやタービンを見ることが出来ます。水力タービンでは、実際に流れている水の勢いを透明な強化プラスチックの板を通じて知ることが出来ます。
写真7:模型として展示されている風力発電機
(8)Shop & Information Centre(ショップ、インフォメーションセンター)
CATのショップには、環境に関連した書籍や雑誌、グッヅが販売されています。CATで出版したリーフレットやガイドブック、本はもちろんのこと、廃品から製作された家電や子ども向けの風食発電キッドなども買うことが出来ます。ここで売られている出版物はすべてMail Orderで手に入れることが出来ます。さすがに「環境教育」に力を入れているだけあって子供向けの本や教材、学校の先生向けの指導書が充実していました。
インフォメーションセンターには、CATに関連したNGOや企業のパンフレットやWalesの観光名所のパンフレットが置かれているだけでなく、CATについてコンピュータを使って詳しく調べることが出来ます。
ほかにも、劇場やレストラン、レクチャールーム、廃材を使って作った遊具がたくさんある公園などの施設があります。レストランでは、有機農法で栽培された野菜を使ったオーガニック料理を食べることができます。CATのまわりは木が生い茂っている訳ではありませんが、たくさんの緑に囲まれていました。
私たちは、CATのガイドを依頼したPeter Harperさんとの待ち合わせの時間までの間、CATの施設を回りながら食事をとることにしました。半分ほど見学したあたりでレストラン前のベンチに座ってみんなで食事をとることになりました。コーヒーがまずいという噂のレストランでしたが、野菜ばかりのオーガニック料理は、美味しかったのです。食べている時にハエがたくさん飛んでいて、「はえとりがみ」なんていう懐かしい話も飛び交っていました。
ピーターさんは私たちと30分ほど議論を交わした後に、CATの施設を説明しながら案内してくださいました。実はピーターさん、日本に2度訪問したことがあったそうです。(議論の内容については次回に)
●CATの展示の特長
私が、CATの施設を見ての感じた感想は3つあります。1つは、CATは子どもも大人も手で触れることができる体験型のテーマパークであったことです。たとえば、太陽光ポンプや波力エネルギーの実験装置で結果を体験し理論抜きでもどのような技術であるのかを理解することができます(ロンドンで科学博物館や自然史博物館を見学したときも感じたことですが、展示の大胆さや見せ方のうまさに感動しました)。ただ実践している様子を訪問者に見せるだけでなく、その技術がどのように使われているのかを理解するための展示もあったことには驚きました。さらに、関心をもって詳しく知りたいと思ったら、Information Centerで調べたり、shopでCATが発行したGuideBookやTipsheet、関連図書にアクセスすることができます。このような展示の仕方は日本の博物館ではなかなか見られないものだと思います。2つ目は、CATで実践されている技術には、昔の日本生活の中に当たり前のようにあったものも多かったことです。特に、コンポスト、太陽熱の利用は一昔前の
日本では当たり前のように存在していたものであり、目新しいものではありませんでした。化学肥料が普及する前は肥を使った農業もごく普通に行なわれていたと思います。イギリスと日本の歴史や文化の違いがあり、実はイギリスでは代替として提示できるものなのかも知れませんが。3つ目はCATの展示が非常に生活と一体化していたことです。もちろん、CATのスタッフの中には実際に住んでいる方もいらっしゃるので当然のことかも知れませんが、説得力がありました。
以上は率直な感想で、要は、CATでの展示のすごさに圧倒してしまったということなのですが、このCATの展示を通じてどんなメッセージが読みとれるのかが重要だと思います。CATの展示はただの代替案だったのでしょうか。CATは1975年に創設されて以降、常にこれまでの日常生活とは異なる生活のあり方(Alternative)を提示し続けてきています。ATの実験は、CATのほか米国のNAI(ニュー・アルケミー・インスティチュート、85年に閉鎖)をはじめ世界中で行なわれてきていたのですが、現在残っているのはCATだけなのです。70年代に盛り上がったAT運動は80年代に入ると批判が相次ぎ、次第に衰えていきます。しかし、90年代に入って、風力や太陽光といった自然エネルギーが注目されたことで、環境問題の視点から捉えなおされています。また、CAT内部でもあり方をめぐってたくさんの議論が交わされているそうです。
次回は、ピーターさんと交わした議論やAT運動やCATのあり方をめぐる議論、環境運動との接点について書いていきたいと思います。■
●CATの住所、連絡先、入会方法など
CAT(Center for Alternative Technology)
住所:Machynlleth,Powys,SY20 9AZ,UK
Tel:01654-702400 Fax:01654-702782
HP:http://www.cat.org.uk
e-mail:info@cat.org.uk
CATをサポートする団体ATA(Altenative Technology Association)があり、会員になると会報CleanSlateが送られてくるほか、ATA会議への出席、CAT出版物の割引などの特典が得られる。(年会費、個人:£14.00、家族£16.00、団体£40.00など。海外会員は+£5)
また、CATのHPはとても充実しており、学校向けプログラムや施設の紹介(バーチャルツアー)、出版物の紹介など豊富なコンテンツがある。■

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