連載
21世紀にふさわしい経済学を求めて
第3回
桑垣 豊
(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)
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2-3 供給不足の場合
人類の長い歴史は、生産力・供給力不足つまり貧困との戦いであった。その中では、個人の貧しさは国や地域全体の貧しさと連動していると考えて、それほど間違っていなかった。20世紀になって、先進国で需要不足が目立つようになるが、供給不足経済も依然として大きな課題である。
先進国以外の途上国は当然として、工業化のすすむ中進国でも全体としては供給不足です。先進国でも、東日本大震災のような大災害があれば供給不足の問題が表面化した。経済学を狭い状態に限定しないためには、需要不足・供給不足を共通の基盤から作り直さなければならないのではないでしょうか。
ケインズも、第2次大戦中は、戦時下で供給不足対策の経済計画も立てている。ケインズは一般理論で需要不足を論じたが、そのときどきの状況に対応した処方箋を用意していた。その処方箋の前提となる状況判断を整理することこそ、今の経済学に必要なことである。
図2-3では、需要不足と同様、供給不足の要因をまとめた。共通の基盤を考えて需要不足と対応するように要因をあげたが、固有の問題もある。なお、供給不足の要因も第4章では、もっと細かく検討する。この図は概要である。
需要に対して「生産投資不足」の場合には、資金を借り手が多く、利子が上がりがちになる。そこで、金融緩和で貨幣供給量を増し、利子が下がれば、借りやすくなり、投資を促進することになる。需要が供給力を上回れば、売上増加が見込まれ、設備投資に対応する需要が確保できるからである。
ここで注意すべきは、政府や家計が生産力に結び付かないことで借金をすれば、生産投資不足はより深刻化することである。政府の金融政策や銀行の貸し出し方針には、方向づけが必要である。
「過剰消費」は、今述べたように給料以上に借金してでも支出すれば、供給不足となる。給料が高くて、ほとんど使ってしまうなら、それも供給不足になる。高度成長期の日本は、給料は結構高かったが、貯蓄率も高くてバランスが取れていた。21世紀になって、給料が上がらず貯蓄率も低い状況であるが、GDPがゆっくり上昇している状況ではバランスは取れていない。給料が低すぎる。
過剰消費と供給不足は相対的に見れば同じことである。しかし、高度成長期はまだ生活が貧しい面もあり、供給不足であった。バブル崩壊後の1990年代以後は、過剰消費、つまり余計なもとのを買わされている側面が強くなった。必需品需要が一巡したからである。だからといって、この20年給料がほとんど上がらない状況は、肯定できない。先進国共通の問題である。
図2-3 生産力不足の要因
「生産性が低い」と当然生産量は確保できない。途上国最大の問題である。技術、教育、制度、インフラなど様々な要因がある。生産性は、いつの時代も生産力の上限を規定する最大の要因である。第2次世界大戦までは、資源確保のほうが上位であるという認識で、各国は植民地化、侵略を繰り返して来た。多くの犠牲の上で、戦争や支配はコストのほうが大きいことに気が付いた。まだ、自国が線上でなければいいという国も多いが。
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