21世紀にふさわしい経済学を求めて 第5回

投稿者: | 2019年1月8日

連載
21世紀にふさわしい経済学を求めて
第5回

桑垣 豊
(NPO法人市民科学研究室・特任研究員)

PDFはこちら→csijnewsletter_048_201901_kuwagaki

今、話題の移民問題も取り上げます。移民は、労働力不足解消の手段にはならない、というのが結論です。国会での議論の前提が、与野党ともあやしいのです。

D.緊縮財政

日本は、国や自治体の借金が1000兆円にものぼり、財政危機であるという。経済学者も含めて、多くの人がそう思っているが、はたして本当か。実は、日本政府は借金も大きいが、年金基金など流動性のある資産も大きい。差引すると600兆円くらいが純債務である。これは、年間GDPを30%程度上回っているが、ヨーロッパ諸国の平均程度である。流動性のある資産とは、債権や処分できる土地など手放すことができる資産のことである。政府や自治体の建物などは含まない。

財務省はこれがわかっているが、消費税を上げたいので、あえてまちがいを放置している。だいぶ以前だが、外国の国債格付け機関がアフリカのルワンダなみに財政が危ないと、非常に低い格付けをした。財務省は、あわてて「日本には資産があるからそれはおかしい」と抗議した。二枚舌である。ところで、格付け機関がどうして日本政府の資産に気が付かなかったかというと、日本以外に100兆円単位の資産がある国がないから、資産を見積もる必要がないことになっていたからのようである。

以下、日本の財政危機はそれほどでもないということを踏まえて、説明する。


図3-5 緊縮財政

需要不足であっても、財政状況が悪ければ、財政出動による需給ギャップ埋め合わせの決断はむずかしい。しかし、需給ギャップが大きいということは国内の生産力があまっている(資金もあまる)ということなので、外債に頼る割合も低いはずである。もし、政府の調達先が外国であると国内の需給ギャップを埋めることができないだけでなく、外債が将来世代の負担になる。国内調達でも原料やエネルギーは外需となる部分があることは差し引く必要がある。

需給不足下では、投資が過剰で資金は余りぎみになる。貸し手が多く、借り手が少なければ低金利状態になる。需給ギャップの範囲内ならば、国内の増産は稼働率の上昇で可能であるので、設備のために追加投資しなくてすむ。財政出動による金利上昇は生じない。

「戦争がないと供給力過剰は解消しない」という言い方があるが、大規模財政出動の心理的抵抗をとりはらうのに、戦争以外になかったのが実情かも知れない。アメリカの大恐慌からの本格的な立ち直りは、結局第2次大戦の戦争需要を待たなければなかった。あるいは、ヒットラー政権やムッソリーニ政権の大規模財政出動は、独裁政権ゆえにできたことか。ちなみに、ヒットラーの財政出動は、軍需の前に民需ではじまっていて民需の段階で急速に景気を回復することに成功した。そこでやめておけば、平和国家としてドイツは復興できた。、この時点で、ヒットラーはノーベル平和賞候補となっていた。

独裁政権でなくても、経済学が大規模財政出動の必要性と可能性について、説得できる論理を打ち立てる必要がある。需給ギャップだけを考えると、その中身は何でもいいということになるが、当然、社会的に意味のある政府支出が望ましい。ピラミッド建設でも有効需要になるのは確かだが、有効活用と言う意味では失格である。

日本の現状では、財政出動の意義について合意がないだけではなく、「需給ギャップの過小評価」「政府資産を無視して負債だけを算出」など基礎データが曲げられてしまっている。

長期的な財政を考えると増税は必要であるが、それがもっとも景気に悪く貧困層を直撃する消費税である必要はない。筆者は、法人個人を問わず一律に低率の貯蓄税(残高に対して)を導入すべきと考えるが、後にあらためて論ずる。

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